国際経済学をつかむ 第2版 (テキストブックス[つかむ])

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国際貿易論を新しく学ぶ

この本は、国際経済学の国際貿易論に関する入門テキストです。国際経済学のエッセンスについて、誰でも理解できるように、図や具体例を用いて、数式をできる限り用いずに解説しています。データやトピックスをアップデートし,新しい章も追加しているため、新しい情報のキャッチアップもできます。

石川 城太 (著), 椋 寛 (著), 菊地 徹 (著)
出版社 : 有斐閣 (2013/9/4)、出典:出版社HP

第2版 はしがき

光陰矢のごとしで,初版を出版してからすでに6年近くがたとうとしている。「比較優位」といった国際貿易論の原理や基礎理論は不変だが,最新かつホットなトピックについては,時の流れとともに当然改訂が必要になる。また,データの更新も必要になってきた。さらに,本書を利用していただいた先生や学生からのフィードバックも少なからずあった。
今回第2版を出版するにあたっては,いただいたフィードバックに可能な限り対応するとともに,アップデートが必要なものについてはできるだけ最新の情報を盛り込むようにした。また,こうしたアップデート以外にも,新たな章として「貿易政策の政治経済学」(第7章)を加え,さらに重要ポイントの入れ替えや図の追加や修正もいくつか行った。
第7章を加えた大きな理由の1つは,以下のとおりである。2010年10月に菅直人首相(当時)が環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉への参加検討を表明し,交渉参加の是非をめぐって議論が巻き起こった。その後,2011年11月に野田佳彦首相(当時)がTPP交渉参加に向けて関係国との協議に入ると表明するも正式な交渉参加は結局表明できず,自民党政権に代わって,2013年3月15日にやっと安倍晋三首相が交渉参加を正式表明した。世論調査によると,菅首相(当時)の所信表明以降ずっと,TPP交渉参加に「賛成」の有権者数が「反対」の有権者数を上回っていた。しかし,国会議員のなかでは必ずしもそうではなかったために,参加表明が大幅に遅れたのである。このような世論と国会議員間のギャップを理解するためには「貿易政策の政治経済学」の知識が役に立つ。そこで,初版では第6章の重要ポイントとして簡潔に解説していた「貿易政策の政治経済学」に大幅に加筆して,新たに章として独立させることにした。
ところで,原理や基礎理論は不変であっても,時間がたてば新たな理論やモデルが生み出される。実は,ファッションのように,研究にも特定の理論やモデルが多用されるといった流行がある。最近の「流行」は,何といっても「メリッツ・モデル」である。このモデルは,ハーバード大学のM.メリッツが2003年にエコノメトリカ(Econometirica)という学術専門雑誌に発表したものである。最近の研究成果の実に多くがこのモデルを基礎にしていてル・スカラー(Google Scholar)によると,現在までに何と5000を超える文献がこの論文を引用している。メリッツ・モデルの厳密な展開は難しいが,そのエッセンスは明快なので,unit6の重要ポイントとして解説することにした。最先端の研究の雰囲気を少しでも感じていただければ幸いである。
今回の改訂において,データの収集や産業内貿易指数の計算等において笹原彰氏に手助けをしていただいた。また,有斐閣の渡部一樹氏には初版に引き続きすばらしいサポートをしていただいた。2氏にはこの場を借りて感謝したい。

2013年6月
著者一同

はしがき

著者の1人が学部生時代に読んだ国際経済学の教科書のはしがきに「国際経済関係が経済問題の中で大きな比重を占めている」(小宮隆太郎・天野明弘著『国際経済学』岩波書店,1972年)とある。経済問題の具体的な中身は変容しているとしても,その教科書が書かれてから30年以上たった現在でもこの言葉はそのまま成り立つといってよいだろう。新聞の経済面を広げれば,国境を越えた企業の提携・買収,自由貿易交渉,貿易をめぐる摩擦,海外への企業進出など,国際経済に関するさまざまな話題や問題が常に紙面をにぎわしている。このような話題や問題を目の当たりにして,どのような背景があるのか,どのような影響があるのかなど,これらをより深く理解してさらなる考察を行おうとすれば,そのための理論的枠組みが必要不可欠である。本書はそのための手助けとなるべく執筆された。
国際経済学は,大きく分けて,モノ・サービスの国境を越えた取引を扱う「国際貿易論」とカネの国境を越えた取引を扱う「国際金融論」に分かれる。本書は,国際貿易論に焦点を当てて,その理論的枠組みを平易に解説している(国際金融論については,本シリーズの『国際金融論をつかむ』で詳しく論じられるので,そちらを読んでいただきたい)。とくに,本書は,「比較優位」といった国際貿易論の基礎理論から「サービス貿易とIT」や「貿易と環境」といった最新かつホットなトピックまで,広範に,かつなるべくわかりやすく解説することを心がけている。ITや環境の問題が国際貿易とどのように関係しているのかについて教科書レベルで解説されているのは,本書の大きな特長といえよう。また,多くの国際経済学の教科書が基礎理論の解説やモデルの数式の説明にかなりの紙幅を割いているのと対照的に,本書は,基礎理論をさまざまなトピックにどのように応用するのかということに主眼を置いて執筆された。さらに,国際貿易の制度についても比較的詳しい解説を行っている。これによって,本書を一読すれば,国際経済学の初学者でも,モノ・サービスの国境を越えた取引に関するさまざまな話題や問題を経済学的見地から幅広く理解できるようになるであろう。
本書は,1つのunitで1つのトピックを解説する構成になっている。unitのタイトルをみれば何を学ぶのか,一目瞭然である。それぞれのunitには重要ポイントや確認問題も含まれているので,unitごとにそれぞれのトピックを勉強できるように工夫されている。もちろん,unit1から順に最後まで読んでいけば,国際貿易論の基礎から最新のトピックまで,すべてカバーできる。すでに国際貿易論を勉強した人であれば,興味あるunitを読むのでもかまわない。
本書は,3人の著者による共同執筆である。内容は,著者たちが学部生時代から今日までに学習・研究してきたことに基づいている。国際経済学の初歩から著者たちを根気よく指導してくださった恩師,池間誠,故池本清,伊藤元重,小島清,佐竹正夫,若杉隆平,J.R.マークセン,J.R.メルヴィンの諸教授に感謝したい。執筆の際には,互いに原稿をチェックし合いながら,何度も修正を重ねた。また,草稿段階では,市田敏啓,黒田知宏,神事直人の諸先生,荒知宏,石原誠太郎,小野有以,河村圭一郎,小森谷徳純,高田智恵子,中平早紀,平尾晋吾,札元絢子,山崎晃志の諸氏に,草稿の一部あるいは全体についてコメントをいただいた。記して感謝したい。
さらに,有斐閣の秋山講二郎,長谷川絵里,渡部一樹の3氏には,本書の企画の段階から完成まで,多大なサポートをしていただいた。とくに,原稿が遅々として進まない状況のなかでも,辛抱強く見守っていただいた。本書がこのような形でついに完成したことを大変うれしく思うと同時に,3氏に心から感謝したい。

2007年8月
著者一同

著者紹介

石川 城太(いしかわ・じょうた)
unit0,第5,12章,第3章共同執筆
1960年,千葉県に生まれる。1983年,一橋大学経済学部卒業。1990年,ウェスタン・オンタリオ大学大学院経済学研究科博士課程修了。
現在,一橋大学大学院経済学研究科教授,Ph.D.(経済学博士)。
主な著作に,“Rent-shifting Export Subsidies with an Intermediate Product” (with B. J. Spencer, Journal of International Economics, 1999), “Trade Liberalization and Strategic Outsourcing” (with Y. Chen and Z. Yu, Journal of International Economics, 2004), “Greenhouse-gas Emission Controls in an Open Economy” (with K. Kiyono, International Economic Review, 2006), “Environmental Management Policy under International Carbon Leakage” (with K. Kiyono, International Economic Review, 2013)などがある。

椋 寛(むくのき・ひろし)
第1,6~8,10,11章,第2~4,9章共同執筆
1974年,東京都に生まれる。1997年,横浜国立大学経済学部卒業。2002年,東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。
現在,学習院大学経済学部教授,東京大学博士(経済学)。
主な著作に,「日本の地域別輸出入関数の推定」(松本和幸編『経済成長と国際収支』,日本評論社,2003年,所収), “Multilateralism and Hub-and-Spoke Bilateralism” (with K. Tachi, Review of International Economics, 2006), “Economic Integration and Rules of Origin under International Oligopoly” (with J. Ishikawa and Y. Mizoguchi, International Economic Review, 2007), “FDI in Post-Production Services and Product Market Competition” (with J. Ishikawa and H. Morita, Journal of International Economics, 2010)などがある。

菊地 徹(きくち・とおる)
第2~4,9章共同執筆
1968年,北海道に生まれる。1991年,小樽商科大学商学部卒業。1993年,神戸大学大学院経済学研究科博士課程前期課程修了。
元神戸大学大学院経済学研究科教授(2011年逝去),神戸大学博士(経済学)。
主な著作に,“Interconnected Communications Networks and Home Market Effects” (Canadian Journal of Economics, 2005), “A New Dynamic Trade Model of Monopolistic Competition and Increasing Returns” (with K. Shimomura, Review of Development Economics, 2007), 『コミュニケーションネットワークと国際貿易』(有斐閣,2007年), “Time Zones as a Source of Comparative Advantage” (Review of International Economics, 2009), などがある。

石川 城太 (著), 椋 寛 (著), 菊地 徹 (著)
出版社 : 有斐閣 (2013/9/4)、出典:出版社HP

目次

unit0 序 国際経済学とは
国際経済学とは何か
国際貿易は特別な経済活動か
特長と読み方
本書の概要

第1章 比較優位
Introduction1
unit1 比較優位と分業の利益
交換の利益
特化の利益
絶対優位と比較優位
比較優位と特化の利益
unit2 比較優位と国際貿易
リカード・モデルと比較優位
閉鎖経済と不完全特化
自由貿易と完全特化
相対価格でみる比較優位
商品が多数ある場合の比較優位
KeyWords1

第2章 部分均衡分析
Introduction2
unit3 貿易利益
消費者余剰
生産者余剰
閉鎖経済均衡価格と貿易パターンの決定
貿易利益
輸入需要曲線と輸出供給曲線
2国モデルによる分析
unit4 比較優位の決定要因
天然資源の存在量
資本蓄積
生産要素の賦存量
生産技術
規模の経済
KeyWords2

第3章 産業内貿易と規模の経済
Introduction3
unit5 産業間貿易と産業内貿易
貿易の成長と産業内貿易
水平的産業内貿易と垂直的産業内
unit6 規模の経済,製品差別化とフラグメンテーション
産業レベルにおける規模の経済
企業レベルにおける規模の経済と水平的産業内貿易
フラグメンテーションと垂直的産業内貿易
KeyWords3

第4章 貿易政策 基礎
Introduction4
unit7 関税・輸入割当の効果
輸入関税の効果
輸入割当の効果
輸入関税と生産補助金の比較
unit8 保護貿易を擁護する主張
最適関税
市場の失敗
雇用の確保
KeyWords4

第5章 貿易政策 応用Ⅰ
Introduction5
unit9 戦略的貿易政策
戦略的貿易政策とは
関税政策の戦略的活用
輸出補助金政策の戦略的活用
一方的措置
戦略的貿易政策の限界
unit10 動学的規模の経済のもとでの貿易政策
動学的規模の経済
比較優位の創出
幼稚産業保護論
輸出促進政策としての輸入制限政策
KeyWords5

第6章 貿易政策 応用Ⅱ
Introduction6
unit11 アンチダンピングとセーフガード
増加するアンチダンピングとセーフガードの発動
日本の状況
ダンピングとアンチダンピング
セーフガード
unit12 アンチダンピングとセーフガードの経済学
なぜダンピングを行うのか
アンチダンピングの経済的効果
セーフガードの経済的効果
KeyWords6

第7章 貿易政策の政治経済学
Introduction7
unit13 保護貿易はなぜ支持されやすいのか
政府の目的は何か
貿易自由化への支持と不支持
貿易のデメリットに関する認識不足
保護貿易のコスト試算
集合行為論
unit14 政治活動と貿易政策の決定
利益団体の政治活動
利益団体による献金競争
選挙における投票
利益追求行動による資源の浪費
KeyWords7

第8章 国際貿易のルールと貿易交——GATTとWTO
Introduction8
unit15 GATTとWTOの歴史と現状
世界恐慌と国際貿易の急速な縮小
GATTの発足と日本の加入
GATTにおける関税交渉の歴史
WTOへの改組
近年の多国間貿易交渉の動向
unit16 GATTとWTOの制度
最恵国待遇の原則
内国民待遇の原則
数量制限禁止の原則
補助金・相殺措置
紛争解決手続き
KeyWords8

第9章 サービス貿易とIT
Introduction9
unit17 サービス貿易の定義と現状
サービス貿易の定義
GATS
サービス化とサービス貿易の現状
unit18 ITと貿易
インターネットの普及と電子商取引
インターネットを用いた新たな貿易
ビジネス・サービス貿易と生産の集中化
KeyWords9

第10章 地域貿易協定——FTAとCU
Introduction10
unit19 地域貿易協定の現状と制度
増加する地域貿易協定
地域貿易協定の種類
地域貿易協定締結に関するルール
サービス部門の地域貿易協定
FTAと原産地規則
unit20 地域貿易協定の経済学
締結国の厚生変化――貿易創出効果と貿易転換効果
非締結国の厚生変化――地域貿易協定の交易条件効果
地域貿易協定は多国間の貿易自由化を促進するか
KeyWords10

第11章 国際要素移動
Introduction11
unit21 多国籍企業と直接投資
国境を越える企業
増加する直接投資
増加するM&Aと企業連携
直接投資の目的
直接投資が貿易に与える影響
企業内貿易の発生とトランスファー・プライシング
受入国に与える影響
投資国に与える影響
プロダクト・サイクル説と雁行形態論
直接投資に関する政策
unit22 労働の国際移動と外国人の受け入れ問題
国際的な労働移動の現状
なぜ労働移動は起こるのか
移民と経済集積
KeyWords11

第12章 貿易と環境
Introduction12
unit23 貿易政策から環境への影響
貿易は環境にとって良いのか,悪いのか
貿易や直接投資の自由化が環境に及ぼす影響
国際排出権取引
環境ラベル
unit24 環境政策から貿易への影響
環境政策が貿易に与えうる影響
環境税
多国間環境協定とGATT/WTOとの整合性
KeyWords12

文献案内
確認問題解答
事項索引
人名索引

イラスト:与儀勝美

重要ポイント一覧
スポーツで考える比較優位
日本の開国と比較優位
ヘクシャー=オリーン定理は本当に成り立つのか
イタリアのタイル産業の集積
メリッツ・モデル
日本車の対米輸出自主規制
保護の大きさをどのように測るか――有効保護率について
不完全競争
囚人のジレンマ
アンチダンピングと(一般)セーフガードの違い
セーフガード措置はアメリカのバイクメーカーを救ったか
輸入自由化を支持しているのは誰か
二大政党制における選挙公約の決定
農産品に対する日本の関税率
内国民待遇と焼酎問題
原産地規則による原産地認定
関税の優遇度の計測
児童労働と企業の社会的責任
日本における外国人看護師・介護士の受け入れ問題
クリーン開発メカニズム
EUによるホルモン牛肉の禁輸問題

石川 城太 (著), 椋 寛 (著), 菊地 徹 (著)
出版社 : 有斐閣 (2013/9/4)、出典:出版社HP