クルーグマン国際経済学 理論と政策 〔原書第10版〕上:貿易編

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国際経済学の最先端まで学ぶ

本書は、国際経済学の基礎から最先端の内容までを解説しているテキストです。丁寧な説明に加えて、視覚的に理解できるようにグラフを多く掲載しているため、だれでも理解できるようになっています。内容も充実しているため、世界中の経済学部で最も使用されているとされています。

Paul R. Krugman (著), Maurice Obstfeld (著), Marc J. Melitz (著), 山形 浩生 (翻訳), 守岡 桜 (翻訳)
出版社 : 丸善出版 (2017/1/19)、出典:出版社HP

訳者まえがき

本書はPaul R. Krugman, Maurice Obstfeld, Marc J. Melitz, Intermational Economics, 10th Edition (Pearson, 2015)の全訳となる.翻訳にあたっては,原者出版社からのpdfファイルとInternational版ペーパーバックを参照している.ただしInternational版は,いくつかのコラムが違っている.その場合にはオリジナル版の方を優先している.また,原文に見られた明らかなミスは修正している.
本書は30年近くも前の1988年に初版が刊行されてからすでに第10版,今や国際経済学の標準的な教科書といっていい.貿易理論に加え国際金融の話を大きな柱として設け,その両者の関連性にも十分に注意を払った本書は,画期的なものだった.
そしてまた,本書の初版が登場した1980年代から,世界経済と国際金融制度は急激なグローバル化を見せ,そしてそれにともない,幾多の世界経済危機,通貨危機が世界を襲うようになった.この教科書は,各種の事件を理論面から説明するとともに,そうしたグローバル経済のできごとがまさに次の理論的展開を生み出し,それがすかさず次の版に反映されるという,真の意味でのリアルタイムなガイドとなっている.本書に影響され,貿易理論と国際金融理論を二本柱とした入門教科書はいくつか登場してきた.でも,これだけの時事性とリアルタイム性を保ち続けてきた教科書は,ほぼ類がない.本書自体が常に変わり続け,現実の世界と格闘をつづけるダイナミックなものとなっている.その躍動感が,この教科書の大きな魅力だ.
しかもその執筆者たちが,まさに現実面でも理論面でもこの国際経済学分野の最先端と格闘し続けている第一人者たちだ.教科書執筆なんて第一線を退いた大御所による小遣い稼ぎといった見方もあるけれど,本書はまさに現役バリバリのトップ学者が,その最先端の成果を惜しみなくぶちこんだものとなっている.
ポール・クルーグマンは,この教科書初版時点では,規模の経済と多様性に基づいた,新貿易理論(本書貿易編の第7章)の創始者として名声をとどろかせていた気鋭の学者だ.また同時に為替の投機攻撃分析をめぐる国際金融理論でも名をあげていた.経済地理などの分野でも新機軸を切り拓き,2008年にはノーベル経済学賞を受賞し,大経済学者としての名声を不動のものとした後でも,日本のデフレ研究をはじめ新しい分野で大きな成果をあげ続けている.これらは本書の後半で頻出する大きなトピックだ.
モーリス・オブストフェルドもまた,初版の時点から一貫して国際貿易理論と国際金融の分野で最先端を走る気鋭の学者だ.2014年にはオバマ大統領の経済諮問チームに加わり,2015年の本書刊行直後には,国際通貨基金(IMF)の主任エコノミストとなった.まさに本書の内容と実務政策とをつなぐ存在となっている.その能力は本書の金融編で大きく活かされている.
そして3人目のマーク・メリッツは,一つ前の第9版から参加している.かれはルーグマンの新貿易理論に続き,企業の異質性(貿易する企業は限られており性の高い企業しか輸出しない)に注目した新々貿易理論の若手旗手の一人だ(本書貿易編の第8章).これはそれまで国レベルで議論されていた貿易を,やっと現実に近い,企業レベルにまで下ろした大きな理論的ブレークスルーとして,今まさに急速な発展を遂げている分野だ.かれの参加で,この教科書の理論的な先端性が担保されるとともに,執筆陣も大きく若返りがはかられている.
翻訳にあたっては,理論的な最先端とリアルタイムな時事性をあわせもった,本書の躍動感をできる限り伝えようとした.そのため,経済学の教科書的な用語を重視しつつも,一般に新聞や時事媒体で使われる表現を優先したところもある.用語の統一もある程度は配慮したものの,不自然になるほど徹底はしていない.
例えばtradeという用語は,英語では国内でも外国とのやりとりでも使う.ところが日本語だと前者は取引だし,後者は貿易だ.それをあえて統一はしていない.また円やドルの為替レートが上がったり下がったりするのを,増価/減価と表現するのが教科書的なお約束ではある.でも一般の経済メディアでは,円高やドル安といった表現の方がずっと多い.本書の訳では,それをある程度混在させている.
また,原著では学生や教師用に,各種データや練習問題などを満載した会員制の学習支援サイトがある.残念ながらこの邦訳ではそこまで対応はできていない.ただし,一部の章に用意されたオンラインの補遺は翻訳し,以下のサポートサイトから参照できるようにした.
http://pub.maruzen.co.jp/space/International economics/appendix/
原文は平易で特に迷う部分もなかったものの,誤変換や思わぬミスもまだ残っているかもしれない,ご指摘いただければ幸いだ.見つかったものについても,上のサポートサイトで随時公開する.

2016年9月 深圳/東京にて
訳者代表 山形浩生

まえがき

2007~08年に勃発した世界金融危機から何年もたっているのに,先進国の経済はいまだに成長が遅すぎて,完全雇用を回復できずにいる.途上国の市場は,多くの例で驚異的な所得増大を示してはいるけれど,相変わらず世界資本の浮き沈みに翻弄されやすいそして最後に,2009年からずっとユーロ圏で厳しい経済危機が続き,ヨーロッパの共通通貨の未来すら疑問視されている.
だからこの第10版は,グローバル経済の出来事がいかに各国の経済の成否や政策,政治論争に影響するかを,これまでになく切実に認識させられている時期に登場することになる.第二次世界大戦が終わった頃の世界は,国同士の貿易や金融や通信のつながりですら限られていた.でも21世紀になって十年以上たった現在,話はすっかり変わっている.グローバル化がドーンとやってきた.輸送費や通信費が低下し,政府の貿易障壁が世界的な協議で撤廃され,生産活動のアウトソーシングが広がり,外国の文化や製品に対する認知度が高まるにつれて,財やサービスの国際貿易は着実に拡大してきた.新しく優れた通信技術,特にインターネットは,各国の人々が情報を手に入れてやりとりする方法を一変させた.通貨,株,債券などの金融資産の国際取引は,国際的な製品貿易よりさらに急速に拡大した.このプロセスは,富の保有者に便益をもたらす一方で,金融不安定性の感染リスクもつくり出す.こうしたリスクは最近の世界金融危機で実現してしまい,危機は国境を越えて急激に広がって,世界経済にすさまじいコストをかけた.でもここ数十年の国際状況変化すべての中で,最大のものはやはり中国の台頭だろう――これはすでに,今後21世紀における経済と政治パワーの国際バランスを塗り替えつつある.
今日の世界経済のようすを予見できたら,1930年代の恐慌期に生きていた世代はどんなに驚いたことだろう!それでも,国際論争を引き起こし続けている経済的な懸念事項は,1930年代のものと大して変わっていないし,それどころか2世紀以上前に経済学者たちが初めて分析を行った頃とも大差ない.保護主義と比べて,国同士の自由貿易にはどんなメリットがあるんだろうか?なぜ各国は貿易黒字や貿易赤字を計上するんだろうか,そしてそうした不均衡は長期的にどう解決されるんだろうか?開放経済の銀行や通貨危機を引き起こすものは,そして経済の間に金融感染を引き起こすものは?そして国際金融不安定性に政府はどう対処すべきか?政府はどうやって失業やインフレを避ければいいのか,その際に為替レートはどんな役割を果たし,各国は経済的な目標実現にあたり,お互いにどのように協力すればいいのか?国際経済学ではいつものことながら,出来事や発想が相互にからみ合う中で,新しい分析手法も登場した.そしてこうした分析上の進歩は,一見するとえらく難解に見えても,最終的には間違いなく政府の政策や国際交渉や,人々の日常生活で大きな役割を果たすことになる.グローバル化はあらゆる国の市民たちに,自分たちの運命を左右する世界的な経済的影響力について,空前の規模で認識させるにいたった,そしてグローバル化はもはや止めようがない.

第10版の変更点

この版の変更点として,国際経済学という1巻本と,貿易部分と金融部分を別々の巻に分けた本とを提供することにした.このように巻を分けたのは,教授たちが国際経済学の講義で何をカバーするかに応じて,ニーズにいちばん適した本を使えるようにするためだ.2学期にわたる経済学講義で使う1巻本でも,本を半分ずつ,それどれ貿易と金融の問題に分けるという標準的なやり方に従っている.国際経済学で,貿易と金融の部分はしばしば,同じ教科書の中ですら無関係な話として扱われるけれど,どちらのサブ分野でも似たような主題や手法が何度も出てくる貿易と金融分野につながりが出てきたときには,必ずそのつながりを強調するようにしたその一方で,本書の両半分がそれぞれ完全に独立するようにもした.だから貿易理論の1学期講義なら,第2章から12章まで使えばいいし,国際金融経済学に関する1学期講義なら,第13章から22章まで使えばいい,先生や学生たちの都合に合わせて,今は講義の範囲や長さに応じて,貿易だけの巻を使ったり,金融だけの巻を使ったりすればいい.
内容は全面的に更新して,いくつかの章は大幅に改訂した.こうした改訂は,利用者からの示唆や,国際経済学の理論面と実践面での重要な展開に対応したものだ.最も広範な改訂は以下のとおり:

・第5章 資源と貿易:ヘクシャー=オリーン・モデル
この版では,南北貿易,技術変化,アウトソーシングが賃金格差に与える影響についての説明を拡充した.ヘクシャー=オリーン・モデルの実証的な証拠の説明部分はかき直し,新しい研究を前面に出した,この部分ではまた,中国の輸出パターンがヘクシャー=オリーン・モデルの予想と整合するかたちで変化してきたことを示す,新しいデータもとり入れている.
・第6章 標準貿易モデル
この章はアメリカと中国の交易条件がどう変わってきたかを示す新しいデータを使って更新した.
・第8章 グローバル経済の企業:輸出判断,アウトソーシング,多国籍企業
貿易での企業の役割を強調する記述を改訂した.またアメリカでのオフショア化(外国生産)がアメリカの失業に与える影響を分析した新しい事例研究も追加した.
・第9章 貿易政策のツール
この章では,貿易制限がアメリカ企業に与える影響についての記述を更新した.今回の章は,最近EUと中国の間で太陽電池パネルをめぐって生じた貿易政策紛争や,2009年アメリカ復興再投資法に記述された「バイ・アメリカン(アメリカ製品を買おう)」制限の影響について述べている.
・第12章 貿易政策をめぐる論争
新しい事例研究で,バングラデシュでの衣料工場の倒壊(2013年4月)を扱い,バングラデシュの衣料輸出国としての急成長がもたらす費用と便益の緊張関係を論じる.
・第17章 短期的な産出と為替レート
2007~09年の世界金融危機を機に,世界中の多くの国は財政的な景気刺激策をとった.その後間もなく,財政乗数の規模に関する学術研究が復活したけれど,そのほとんどは閉鎖経済を扱ったもので,本章のモデルで強調されている為替レートの影響を無視している.この版では,開放経済の財政乗数に関する新しい事例研究を追加した.最近の学術文献は,ゼロ下限金利制約での財政政策を重視したものとなっているので,その議論に合わせて我々のモデルで流動性の罠を説明する.
・第18章 固定為替レートと外国為替介入
この章はこの版から,為替市場介入などの手段で増価した水準に抑えられている為替レートに対する「インフロー攻撃」についての議論を追加した.こうした現象は,中国などでみられる,新しい事例研究では,スイスフランの為替レートをユーロに対してキャップしようという方針について論じている.
・第19章 国際金融システム:歴史のおさらい
この版では国際収支の議論を補うものとして,開放経済での異時点間予算制約の詳細な導出を加えた(このかなり専門的な内容を扱いたくない教官は,飛ばしても話のつながりは失われない).異時点間分析は,ニュージーランドの継続的な外国借り入れの持続可能性分析に応用されている.加えて,この章での世界経済における最近の出来事の記述も更新した.
・第20章 金融グローバル化:機会と危機
この版では,第20章と21章の順番を入れ替えて,最適通貨圏やユーロ危機を扱う前に国際資本市場の話をカバーするようにした.なぜかというと,ユーロ危機は相当部分が銀行の危機でもあって,国際銀行業務とその問題を事前にしっかり理解していないと,学生たちはこれを理解できないからだ.このアプローチに合わせて,この版の第20章は銀行のバランスシートと銀行の脆弱性について詳しく扱い,特に銀行資本と資本規制を重視する.本書の初版からずっと,我々は銀行規制のグローバルな文脈を強調してきた.この版では,「金融のトリレンマ」を扱う,これは各国の政策立案者が,金融開放性,金融安定性,自国の金融政策コントロールという三つの考えられる目的のうち,最大でも二つしか選べないというものだ.
・第21章 最適通貨圏とユーロ
ユーロ圏の危機は,本書の第9版が印刷にまわってから急激に悪化した.この新版では,ユーロ諸国での銀行連合など,密接な協調をもたらすイニシアチブに関する新しい材料を使い,ユーロ危機の記述のものにした.最適通貨圏についての理論的な議論も,ユーロ危機の教訓を反映したものとなっている.
・第22章 発展途上国:成長,危機,改革
発展途上国への資本フローに関す説明は,この版ではこうしたフローの規模の小ささに関する最近の研究や,そうした資本が高成長の途上国よりも低成長の途上国を選びがちだというパラドックスめいた傾向についても扱う.途上国への資本配分の理論と,国同士の所得分布の理論上の密接なつながりを指摘する.

こうした構造的な変更に加え,本書は各種の面で更新して現代とのつながりを維持するようにした.だから,アメリカにいる外国生まれの労働者の教育水準を検討し,それが人口全体とどう違うかも調べる(第4章),中国がらみの最近の反ダンピング紛争も検討する(第8章).統計にみられる世界的な経常収支黒字の原因も考える(第13章),ジンバブエのハイパーインフレの発生と収束も説明する(第15章).国際銀行規制のインフラ発展を検討し,バーゼルIIIや金融安定化委員会なども扱う(第20章)

本書について

本書をかこうと思ったのは,1970年代に学部生やビジネスマンに国際経済学を教えた体験のせいだ,教えるにあたり,主な課題が二つあると思った.一つは,このダイナミックな分野でのわくわくする知的な進歩をどう伝えようかということだ.もう一つは,国際経済学理論の発達が,これまで変貌する世界経済を理解する必要性から生じたものであり,国際経済政策の実際の問題を分析する必要があって発展してきたのだということをどう伝えるかということだった.
それまで刊行されていた教科書を見ると,こうした課題に十分に応えきれていなかった,国際経済学の教科書は,生徒たちが怖気をふるうほど多数の特殊モデルや仮定をつきつけ,そこから基本的な教訓を引き出すのは難しかった.そうした特殊モデルの多くはすでに陳腐化していたので,生徒たちはそうした分析が現実世界にどう関係しているのかわからずじまいだった.結果として,多くの教科書は授業で扱ういささか古くさい内容と,目下の研究や政策論争にあふれる,わくわくするような問題との回にギャップを残してしまう.国際経済問題の重要性――そして国際経済学講義の履修者数――が増えるにつれて,このギャップも拡大した.
この本は,目下の出来事に光をあて,国際経済学の興奮を教室にもたらすため,最新の分析フレームワークを理解できるかたちで提供しようとしたものだ.国際経済学の実体経済面と金融経済面のどちらを分析する際にも,我々のアプローチは,壮大な伝統的洞察とともに,最新の知見やアプローチを伝えるための,単純で統合されたフレームワークを一歩ずつ構築することだった.生徒たちが国際経済学の根底にある論理を把握して維持しやすくするため,それぞれの段階で,理論的な展開の前に関連するデータや政策問題を示すことにした.

経済学カリキュラムでの本書の位置づけ

生徒たちが国際経済学を最もしっかり理解するのは,抽象モデルについての抽象理論のかたまりとしてではなく,世界経済の出来事に重要なかたちでむすびついた分析手法として提示されたときだ.だから我々の狙いは,理論的な厳密さよりは,概念とその応用を強調することだ.だからこの本は経済学についての深い知識は想定していない,経済学入門の講義を履修した生徒なら,この本が読めるはずだけれど,もっと進んだミクロ経済学やマクロ経済学の講義を履修した生徒でも,新しい材料はたっぷり得られるはずだ.きわめて先進的な生徒たちへの挑戦として,専門的な補遺や数学的な補遺も含めた.

本書の特色

本書は国際経済学での最近の最も重要な発展をカバーしつつ,この分野の核を伝統的に形成してきた長年の理論的・歴史的な洞察をもないがしろにしないようにした.この包括性を実現するため,最近の理論が世界経済の展開への対応として,以前の発見からどのように発展してきたかを強調している.本書の実物貿易の部分(第2章から12章)と金融の部分(第13章から22章)は,理論中心の核となる何章かがあって,それに続いてその理論を過去や現在の主要な政策問題に適用する章が続く形式になっている.
第1章では,この本が国際経済学の主要なテーマをどう扱うかについて,少々細かく説明する.ここでは,ほかの教科書の著者たちがこれまで系統だったかたちで扱ってこなかった,いくつかのテーマを強調しておこう.

収穫逓増と市場構造

国際的な取引の促進における比較優位の役割と,それに伴う厚生増大の話をする前に,理論と実証研究の最前線を訪れて,貿易の重力モデルを説明しよう(第2章).それから第7章と8章では,収穫逓増と商品の差別化が貿易と厚生にどう影響するか説明して,研究の最前線に戻ってくる.この議論で検討するモデルは,同じ産業内での貿易や,動学的な規模の経済による貿易パターン変化といった,現実の重要なとらえたものだ.そしてこうしたモデルは,相互に利益のある貿易は,比較優位に基づかなくてもいいのだということを示している.

国際貿易での企業

第8章では,国際貿易における企業の役割に注目した,刺激的な新しい研究もまとめている.この章では、グローバル化に直面したときに,企業によって影響が違うのだという点を強調している。一部の企業は拡大し,一部の企業は縮小するので、全体としての生産は同じ産業部門の中でももっと効率的な生産者の方にシフトし,全体としての生産性は上がり,これにより貿易による利得が生まれる、自由貿易環境で拡十する企業は、生産活動の一部をアウトソーシング(委託生産)したり、海外生産を行ったりするインセンティブもありそうだ。これもこの章で説明する。

貿易政策の政治と理論

第4章を皮切りに,貿易が所得分配に与える影響こそは,自由貿易制限の重要な政治要因なのだと強調している。これを強調することで,なぜ貿易政策の標準的な厚生分析による処方箋が,実際の世界ではほとんど通用しないのかが明確になる.第12章では、政府が活発な通商政策を採用して、重要とみなされる経済セクター奨励を行うべきだという一般的な考え方を検討する。この章では,こうした貿易政策の理論的な議論について,ゲーム理論からの単純な発想に基づいた議論をする.

為替レート決定のアセットアプローチ

開放経済マクロ経済学の説明で中心となるのが,現代の外国為替市場と各国金利や期待による為替レート決定だ。我々が開発するマクロ経済学モデルの主要な中身は,金利パリティ関係で,後にそこにリスクプレミアムを追加する(第14章)。このモデルを使って検討するテーマとしては、為替レートの「オーバーシュート」、インフレ目標,実質為替レートのふるまい、固定為替レート下の国際収支危機,外国為替市場への中央銀行介入の原因と結果などだ(第15章から18章)。

国際マクロ経済政策協調

国際金融の経験に関する本書の議論(第19章から22章)で強調したいのは、為替レート方式の違いでそこに参加する各国の政策協調問題も違ってくるということだ。両大戦の間の時期に、黄金をかき集めようと各国が必死に競争した結果が示すように、近隣窮乏政策は自滅的なものになりかねない。これに対して現在の変動為替相場制は、各国の政策立案者たちが各国の相互依存性を認識し、強調して政策を形成するよう求めるものとなっている.

世界資本市場と発展途上国

第20章では,世界の資本市場についての幅広い議論をする.ここでは,国際ポートフォリオ分散がもつ厚生上の意味や,国際的に活動する銀行など金融機関のきちんとした監督の問題を扱っている.第22章は,長期的な成長の見通しと,中進国や新興工業国の具体的なマクロ経済安定問題と自由化問題を集中的に扱う.この章では,エマージング市場の危機を振り返り、借り手である発展途上国と,先進国の貸し手と,国際通貨基金(IMF)などの公的金融機関との相互作用を歴史的に整理する.第22章では,中国の為替レート政策を検討し,発展途上国での貧困持続に関する最近の研究も振り返る。

学習のための仕掛け

本書は,いろいろ学習のための仕掛けを使うことで、説明の中で生徒たちの興味を持続させて,その内容を理解する手助けをしている。

事例研究

すでに説明した内容を裏づけ、それが現実世界にどう適用できるか示し,理論的な議論にしばしば伴う重要な歴史的情報を示すという三重の役割を果たすのが事例研究だ.

囲み記事(コラム)

あまり中心的ではなくても,文中の論点について特に赤裸々な例示となる話題はコラムとして扱う。例えば、アメリカのトマス・ジェファソン大統領による1807~09年の禁輸措置(第3章),バナナ貿易をめぐる争いのおかげで、自国では寒すぎてバナナなんかつくれない国々の間に敵対関係が生じてしまったという驚異のお話(第10章),ノンデリバラブルフォワード取引の市場(第14章),発展途上国による外為準備高の急速な増大(第22章)などだ。

グラフ

200点以上のグラフに,説明文をつけて、本文の議論を強化し、生徒が中身を振り返るのに役立てている。

まとめと重要用語

それぞれの章の最後には、主なポイントを振り返る「まとめ」をつけた。「重要用語」は本文中に初めて出てきたときには太字のゴシック体でかかれ,章末にまとてある。学生が内容を復習しやすいように,「重要用語」は「まとめ」の中では太字にしてある。(注:原書の本文中でイタリックで強調されているところは,本書では太字の明朝体で表した)

練習問題

各章の後,学生の理解を試してしっかりしたものとするための練習問題をつけた。問題は,定型の計算問題から,教室での議論向けの「大きな構図」を尋ねる問題までさまざまだ。多くの問題では生徒に対し,学習内容を現実世界のデータや政策問題にあてはめてもらう。

もっと勉強したい人のために

教科書をほかの読み物で補いたい講師と、自力でもっと深く勉強したい生徒のために、それぞれの章には説明つきの参考文献一覧をつけた。そこには確立した古典から。最近の問題についての最新の検討までいろいろ載せてある.

謝辞

誰よりも大恩あるのが本プロジェクト担当の購買編集者クリスティーナ・マツルゾだ。またプログラムマネージャのキャロリン・フィリップスと、プロジェクトマネージャのカーラ・トンプソンにも感謝する。インテグラ=シカゴとヘザー・ジョンソンのプロジェクトマネージャとしての努力は重要かつ効率的なものだった.またピアソン社のメディアチームにも感謝したい――デニス・クリントン,ノエル・ロッツ,コートニー・カマウス,メリッサ・ホーニッグ――みんなこの第10版のためのMyEconLab教材に尽力してくれた。最後に,これまでの9つの版を実に優れたものにしてくれたほかの編集者たちにも感謝する。
またタチヤナ・クラインバーグとサンディルフラシュワヨの見事な研究支援についても名前をあげておきたい。カミール・フェルナンデスはすばらしい後方支援をいつもながら提供してくれた。有益な示唆とやる気の支援の面では、ジェニファー・コッブ、ギータ・ゴビナス、ヴラディミール・フラサニ、フィルップ・スワゲルに感謝する.
また過去と現在の査読をしてくれた以下のレビューアたちに,その助言と洞察について感謝する:

Jaleel Ahmad, Concordia University
Lian An, University of North Florida
Anthony Paul Andrews, Governors State University
Myrvin Anthony, University of Strathclyde, U.K.
Michael Arghyrou, Cardiff University
Richard Ault, Auburn University
Amitrajeet Batabyal, Rochester Institute of Technology
Tibor Besedes, Georgia Tech
George H. Borts, Brown University
Robert F. Brooker, Gannon University
Francisco Carrada-Bravo, W.P. Carey School of Business, ASU
Debajyoti Chakrabarty, University of Sydney
Adhip Chaudhuri, Georgetown University
Jay Pil Choi, Michigan State University
Jaiho Chung, National University of Singapore
Jonathan Conning, Hunter College and The Graduate Center, The City University of New York
Brian Copeland, University of British Columbia
Kevin Cotter, Wayne State University
Barbara Craig, Oberlin College
Susan Dadres, University of North Texas
Ronald B. Davies, University College Dublin
Ann Davis, Marist College
Gopal C. Dorai, William Paterson University
Robert Driskill, Vanderbilt University
Gerald Epstein, University of Massachusetts at Amherst
JoAnne Feeney, State University of New York at Albany
Robert Foster, American Graduate School of International Management
Patrice Franko, Colby College
Diana Fuguitt, Eckerd College
Byron Gangnes, University of Hawaii at Manoa
Ranjeeta Ghiara, California State University, San Marcos
Neil Gilfedder, Stanford University
Amy Glass, Texas A&M University
Patrick Gormely, Kansas State University
Thomas Grennes, North Carolina State University
Bodil Olai Hansen, Copenhagen Business School
Michael Hoffman, U.S. Government Accountability Office
Henk Jager, University of Amsterdam
Arvind Jaggi, Franklin & Marshall College
Mark Jelavich, Northwest Missouri State University
Philip R. Jones, University of Bath and University of Bristol, U.K.
Tsvetanka Karagyozova, Lawrence University
Hugh Kelley, Indiana University
Michael Kevane, Santa Clara University
Maureen Kilkenny, University of Nevada
Hyeongwoo Kim, Auburn University
Stephen A. King, San Diego State University, Imperial Valley
Faik Koray, Louisiana State University
Corinne Krupp, Duke University
Bun Song Lee, University of Nebraska, Omaha
Daniel Lee, Shippensburg University
Francis A. Lees, St. Johns University
Jamus Jerome Lim, World Bank Group
Rodney Ludema, Georgetown University
Stephen V. Marks, Pomona College
Michael L. McPherson, University of North Texas
Marcel Mérette, University of Ottawa
Shannon Mitchell. Virginia Commonwealth University
Kaz Miyagiwa, Emory University
Shannon Mudd, Ursinus College
Marc-Andreas Muendler, University of California, San Diego
Ton M. Mulder, Erasmus University, Rotterdam
Robert G. Murphy, Boston College
E. Wayne Nafziger. Kansas State University
Steen Nielsen, University of Aarhus
Dmitri Nizovtsev, Washburn University
Terutomo Ozawa, Colorado State University
Arvind Panagariya, Columbia University
Nina Pavcnik, Dartmouth College
Iordanis Petsas, University of Scranton
Thitima Puttitanun, San Diego State University
Peter Rangazas, Indiana University-Purdue University Indianapolis
James E. Rauch, University of California, San Diego
Michael Ryan, Western Michigan University
Donald Schilling, University of Missouri, Columbia
Patricia Higino Schneider, Mount Holyoke College
Ronald M. Schramm, Columbia University
Craig Schulman, Texas A&M University
Yochanan Shachmurove, University of Pennsylvania
Margaret Simpson, The College of William and Mary
Enrico Spolaore, Tufts University
Robert Staiger, University of Wisconsin-Madison
Jeffrey Steagall, University of North Florida
Robert M. Stern, University of Michigan
Abdulhamid Sukar, Cameron University
Rebecca Taylor, University of Portsmouth, U.K.
Scott Taylor, University of British Columbia
Aileen Thompson, Carleton University
Sarah Tinkler, Portland State University
Arja H. Turunen-Red, University of New Orleans
Dick vander Wal, Free University of Amsterdam
Gerald Willmann, University of Kiel
Rossitza Wooster, California State University, Sacramento
Bruce Wydick, University of San Francisco
Jiawen Yang, The George Washington University
Kevin H. Zhang, Illinois State University

いただいた示唆や変更案すべてを採用はできなかったものの,レビューアたちの知見は本書の改訂にとても有益だった。当然ながら、本書に残るすべての欠点については,我々だけが責任を負う。

P.R. クルーグマン
M. オブストフェルド
M.J. メリッツ
2013年10月

Paul R. Krugman (著), Maurice Obstfeld (著), Marc J. Melitz (著), 山形 浩生 (翻訳), 守岡 桜 (翻訳)
出版社 : 丸善出版 (2017/1/19)、出典:出版社HP

目次

第1章 はじめに
国際経済学って何を扱うの?
貿易の利益
貿易のパターン
どのくらい貿易するのがいいの?
国際収支
為替レートの決定要因
国際政策協調
国際資本市場
国際経済学:貿易と金融

第Ⅰ部 国際貿易理論

第2章 世界貿易の概観
誰が誰と貿易するの?
規模が大事:重力モデル
重力モデルの使い方:異常値を探す
貿易を阻害するもの:距離,障壁,国境
世界貿易のパターン変化
世界は小さくなっただろうか?
何を貿易するんだろう?
サービスのオフショア化
古い法則は今でも使えるの?
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために

第3章 労働生産性と比較優位:リカードのモデル
比較優位の概念
1要素経済
相対価格と供給
1要素しかない世界での貿易
貿易後の相対価格を決める
コラム 現実世界の比較優位:ベーブ・ルースの事例研究
貿易の利益
相対賃金について一言
コラム 貿易しない損失とは
比較優位をめぐる誤解
生産性と競争力
コラム 賃金は生産性を反映するだろうか?
貧民労働論
収奪
多くの財での比較優位
モデルの構築
相対賃金と専門特化
多財モデルで相対賃金を決める
輸送費と非貿易財を追加する
リカード・モデルの実証的な裏づけ
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために

第4章 特殊要素と所得分配
特殊要素モデル
コラム 特殊要素って何?
モデルの想定
生産可能性
価格,賃金,労働配分
相対価格と所得分配
特殊要素モデルでの国際貿易
所得分配と貿易の利益
事例研究 貿易と失業.
貿易の政治経済:予備的な見方
所得分配と貿易政策
国際労働移動
事例研究 大量移民時代の賃金の収斂
事例研究 移民とアメリカ経済
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために
第4章補遺:特殊要素の詳細

第5章 資源と貿易:ヘクシャー=オリーンモデル
2要素経済のモデル
価格と生産
投入の組合せを選ぶ
要素価格と財の価格
資源と生産量
2要素経済同士の国際貿易が与える影響
相対価格と貿易パターン.
貿易と所得分配
事例研究 南北貿易と所得格差
事例研究 技能偏向技術変化と所得格差
要素価格の均等化
ヘクシャー=オリーン・モデルの実証的な証拠
財の貿易を,要素貿易の代替として見る:貿易の要素内容
先進国と発展途上国間の貿易パターン
こうした試験の意味合い
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために
第5章補遺:要素価格,財の価格,生産判断

第6章 標準貿易モデル
貿易経済の標準モデル
生産可能性と相対供給
相対価格と需要
交易条件の変化による厚生効果
相対価格を決める
経済成長:RS曲線のシフト
成長と生産可能性フロンティア
世界の相対供給と交易条件
成長の国際的な影響
事例研究 新興工業国の成長は先進国に痛手か?
関税と輸出補助金:RSとRDの同時シフト
相対需要と関税の供給効果
輸出補助の影響
交易条件効果の意味合い:得をする人と損をする人は?
国際的な借り入れと融資
異時点間の生産可能性と貿易
実質金利
異時点間比較優位
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために
第6章補遺:異時点間貿易について詳しく

第7章 規模の外部経済と生産の国際立地
規模の経済と国際貿易:概観
規模の経済と市場構造
外部経済の理論
専門特化した供給業者
労働市場のプール
知識のスピルオーバー
外部経済と市場均衡
外部経済と国際貿易
外部経済,生産量,価格
外部経済と貿易パターン
コラム 世界をとじ合わせる
貿易と厚生と外部経済
動学的收穫遞增
地域間貿易と経済地理
コラム 虚飾の町の経済学
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために

第8章 グローバル経済の企業:輸出判断,アウトソーシング,多国籍企業
不完全競争の理論
独占:簡単なおさらい
独占競争
独占競争と貿易
市場規模拡大の影響
統合市場の利益:数値例
産業内貿易の重要性
事例研究 実際の産業内貿易:1964年北米自動車協定と,北米自由貿易協定(NAFTA)
貿易への企業の対応:勝ち組負け組,産業のパフォーマンス
生産者ごとのパフォーマンスの差
市場規模拡大の影響
貿易費用と輸出判断
ダンピング
事例研究 反ダンピングが保護主義の一種に
多国籍企業とアウトソーシング
事例研究 世界のFDIフローのパターン
外国直接投資(FDI)をめぐる企業の意思決定
アウトソーシング
事例研究 仕事を外国に輸出? アメリカのオフショア化と失業
多国籍企業と外国アウトソーシングの影響
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために
第8章補遺:限界収入を決める

第Ⅱ部 国際貿易政策

第9章 貿易政策のツール
基本的な関税の分析
単一産業での需要,供給,貿易
関税の影響
保護の量を計測
関税の費用と便益
消費者余剰と生産者余剰
費用と便益を計測する
コラム 因果と関税はめぐる
貿易政策のほかのツール
輸出補助金:理論
事例研究 ヨーロッパの共通農業政策
輸入割当:理論
事例研究 輸入割当の実例:アメリカの砂糖
自発的輸出制限(VER)
事例研究 自発的輸出制限の実例
ローカルコンテンツ要求
コラム ギャップの橋渡し
そのほかの貿易政策ツール
貿易政策の影響:まとめ
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために
第9章補遺:独占がある場合の関税と輸入割当

第10章 貿易政策の政治経済
自由貿易の支持論
自由貿易と効率性
自由貿易の追加の利益
レントシーキング
自由貿易支持の政治的な議論
事例研究 「1992」の利益
国民厚生から見た自由貿易反対論
交易条件に基づく関税支持論
国内市場の失敗に基づく自由貿易反対論
市場の失敗説はどこまで納得できるものだろうか?
所得分配と貿易政策
選挙での競争
集合行為
コラム 政治家の買収:1990年代からの証拠
政治プロセスのモデル化
保護されるのは誰?
国際交渉と貿易政策
交渉の利点
国際貿易交渉の小史
ウルグアイラウンド
貿易自由化
体制改革:GATTからWTOへ
コラム 紛争の解決――そして新たな紛争の火種に
便益と費用
事例研究 WTOの試金石
ドーハの失望
コラム 農業補助金は第三世界に痛手を与えるか?
特恵貿易協定
コラム 自由貿易圏VS関税同盟
コラム 特恵貿易の魅力とは
事例研究 南米の貿易転換
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために
第10章補遺:最適関税がプラスだという証明

第11章 発展途上国の貿易政策
輸入代替工業化
幼稚産業論
保護を通じて製造業を促進
事例研究 メキシコ,輸入代替工業化を放棄
製造業びいきの結果とは:輸入代替工業化の問題点
1985 年以来の貿易自由化
貿易と成長:アジアの離陸
コラム インドの躍進
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために

第12章 貿易政策をめぐる論争
活発な貿易政策を支持する高度な議論
技術と外部性
不完全競争と戦略的貿易政策
コラム インテル創始者の警告
事例研究 シリコンチップをめぐる争い
グローバル化と低賃金労働
反グローバル化運動
貿易と賃金再訪
労働基準と貿易交渉
環境問題と文化問題
WTOと国の独立
事例研究 バングラデシュの悲劇
グローバル化と環境
グローバル化,成長,公害
「公害ヘイブン」の問題
炭素関税論争
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために

●数学補遺
要素比率モデル(第5章数学補遺)
貿易する世界経済(第6章数学補遺)
独占競争モデル(第8章数学補遺)
●索引

【掲載写真クレジット一覧】
第3章 p.38: AP Images: p.41: North Wind/North Wind Picture Archives
第8章 p.198: Carlos Osorio/AP Images; p.208: Si Wei/Color China Photo/ AP Images; p.217: © 2004 Drew Dernavich/The New Yorker Collection/ www.cartoonbank.com
第9章 p.241: Courtesy of Subaru of America, Inc.; p.245: Jockel Finck/ AP Images; p.249: Rachel Youdelman/Pearson Education, Inc.; p.253: McClatchy-Tribune Information Services/Alamy

下巻目次
第Ⅲ部 為替レートと開放経済マクロ経済学

第13章 国民所得計算と国際収支
国民所得計算
国民生産と国民所得
資本の損耗(減価償却)と国際移転
国内総生産(GDP)
開放経済での国民所得勘定
消費
投資
政府購入
開放経済での国民所得恒等式
仮想的な開放経済
経常収支と対外債務
貯蓄と経常収支
民間貯蓄と政府貯蓄
コラム 消えた赤字の謎
国際収支勘定
対になった取引の例
根本的な国際収支の恒等式
経常収支再び
資本勘定
金融勘定
純誤差脱漏
公的準備資産の取引
事例研究 世界最大の債務国の資産と負債
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために

第14章 為替レートと外国為替市場:アセットアプローチ
為替レートと国際取引
国内価格と外国価格
為替レートと相対価格
コラム 為替レート,自動車価格,通貨戦争
外国為替市場
参加者
この市場の特徴
スポットレートとフォワードレート
外国為替スワップ
先物とオプション
コラム アジアのノンデリバラブルフォワード為替取引
外国通貨資産の需要
資産と資産収益
リスクと流動性
利子率(金利)
為替レートと資産収益
簡単なルール
外国為替市場の収益,リスク、流動性
外国為替市場での均衡
金利平価(金利パリティ):基本的な均衡条件
現在の為替レート変化が期待収益に与える影響
均衡為替レート
金利,期待,均衡
金利が変わると今の為替レートはどうなる?
期待の変化が今の為替レートに与える影響
事例研究 キャリートレードはどう説明する?
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために
第14章補遺:フォワード為替レートとカバーつき金利平価

第15章 貨幣,金利,為替レート
お金の定義:概要
交換媒体としてのお金
会計単位としてのお金
価値貯蔵手段としてのお金
お金って何だろう?
お金の供給量(マネーサプライ)はどう決まるか
個人によるお金の需要(貨幣需要)
期待収益
リスク
流動性
お金の総需要(総貨幣需要)
均衡金利:通貨供給と貨幣需要の相互関係
貨幣市場均衡
金利と貨幣供給(マネーサプライ)
産出と金利
短期での貨幣供給と為替レート
貨幣,金利,為替レートを関連づける
アメリカの貨幣供給とドル/ユーロ為替レート
ヨーロッパの貨幣供給とドル/ユーロ為替レート
長期の貨幣,物価水準、為替レート
貨幣と貨幣価格
貨幣供給の変化による長期的影響
貨幣供給と物価水準の実証的証拠
長期的にみた貨幣と為替レート
インフレと為替レートの動態
短期的公格硬直性VS長期的な価格伸縮性
コラム 貨幣供給の増加とジンバブエのハイパーインフレ
貨幣供給の恒久的変化と為替レート
為替レートのオーバーシュート
事例研究 インフレ率の上昇は通貨の増価をもたらすか? インフレ目標の影響
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために

第16章 物価水準と長期的な為替レート
一物一価の法則
購買力平価 (PPP)
PPPと一物一価の法則の関係
絶対的PPPと相対的PPP
購買力平価に基づく長期的為替レートモデル
貨幣的アプローチの基本方程式
持続的なインフレ,金利平価, PPP
フィッシャー効果
PPPと一物一価法則の実証的証拠
PPPの問題点を説明する
貿易障壁と非貿易財
自由競争からの逸脱
消費パターン,物価水準測定の違い
コラム 一物一価の法則をめぐる肉々しい裏づけ
短期的、長期的にみたPPP
事例研究 貧困国の物価水準はなぜ低いか
購買力平価を超えて:長期為替レートの一般モデル
実質為替レート
需要,供給,長期的実質為替レート
コラム 硬直的な価格と一物一価の法則:スカンジナビアの免税店から得られた証拠
長期均衡における名目為替レートと実質為替レート
国際金利格差と実質為替レート
実質金利平価
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために
第16章補遺:価格伸縮的な貨幣的アプローチでのフィッシャー効果, 金利,為替レート

第17章 短期的な産出と為替レート
開放経済における総需要の決定要因
消費需要の決定要因
経常収支の決定要因
実質為替レートの変化が経常収支に与える影響
可処分所得の変化が経常収支に与える影響
総需要の方程式
実質為替レートと総需要
実質所得と総需要
短期的な産出の決まりかた
短期的な産出市場均衡:DD曲線
産出,為替レート,産出市場均衡
DD曲線の導出
DD曲線をシフトさせる要因
短期的な資産市場均衡:AA曲線
産出,為替レート,資産市場の均衡
AA曲線を導き出す
AA曲線をシフトさせる要因
開放経済の短期均衡:DD曲線とAA曲線を組み合せる
金融・財政政策の一時的な変化
金融政策
財政政策
完全雇用を維持するための政策
インフレバイアスなど政策形成の問題
金融・財政政策の恒久的シフト
貨幣供給の恒久的増加
貨幣供給の恒久的増加に対する調整
恒久的財政大
マクロ経済政策と経常収支
貿易フローの段階的調整と経常収支の動向
Jカーブ
為替レートパススルーとインフレ
経常収支、財産、為替レートの動向
流動性の罠
事例研究 政府支出乗数の大きさは?
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために
第17章補遺1:異時点間取引と消費需要
第17章補遺2:マーシャル=ラーナー条件と貿易弾性の実証的推計

第18章 固定為替レートと外国為替介入
なぜ固定為替レートなんかを研究するんだろうか?
中央銀行の介入と貨幣供給
中央銀行のバランスシートと貨幣供給
外国為替介入と貨幣供給
不胎化
国際収支と貨幣供給
中央銀行はどうやって為替レートを固定するか
固定為替レートでの外国為替市場の均衡
固定為替レートでの貨幣市場の均衡
グラフによる分析
固定為替レートの安定化政策
金融政策
財政政策
為替レートの変化
財政政策と為替レートの変化に対する調整
国際収支危機と資本逃避
管理フロート制と不胎化介入
資産の完全代替性と不胎化介入の無効性
事例研究 市場は強い通貨を攻撃できるか? スイスの例
資産の不完全代替性のもとでの外国為替市場均衡
資産の不完全代替性のもとで不胎化介入が与える影響
不胎化介入の影響をめぐる証拠
国際通貨制度における準備通貨
準備通貨本位制の仕組み
準備通貨国の非対称的な立場
金本位制
金本位制の仕組み
金本位制における対称的な金融調整
金本位制の利点と欠点
複本位制
金為替本位制
事例研究 外貨準備の需要
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために
第18章補遺1:資産不完全代替のもとでの外国為替市場均衡
第18章補遺2:国際収支危機のタイミング

第Ⅳ部 国際マクロ経済政策

第19章 国際通貨システム:歴史のおさらい
開放経済におけるマクロ経済政策の目標
国内均衡:完全雇用と物価水準の安定
対外均衡:経常収支の最適水準
コラム 国は永遠に借金できるのか――ニュージーランドの場合
通貨システムの分類:開放経済の通貨のトリレンマ
金本位制での国際マクロ経済政策(1870~1914)
金本位制の起源
金本位制下の対外均衡
物価・正貨流出入機構
金本位制の「ゲームのルール」:神話と現実
金本位制下の国内均衡
事例研究 為替レート制の政治経済:アメリカの本位制をめぐる1980年代の衝突
戦間期(1918~39)
つかの間の金への回帰
国際経済の崩壊
事例研究 国際金本位制と大恐慌
ブレトンウッズ体制と国際通貨基金 (IMF)
国際通貨基金 (IMF) の目標と構造
交換可能性と民間資本移動の拡大
投機的資本移動と危機
国内均衡と対外均衡を達成する政策オプションの分析
国内均衡の維持
対外均衡の維持
支出増減政策と支出転換政策
ブレトンウッズ体制下のアメリカの対外均衡問題
事例研究 ブレトンウッズ体制の終わり、世界的インフレ,変動レートへの移行
輸入インフレの仕組み
評価
変動為替レートの支持論
金融政策の自律性
対称性
自動安定装置としての為替レート
為替レートと対外収支
事例研究 変動為替レートことはじめ 1973~90
変動為替レートのもとでのマクロ経済的相互依存
事例研究 世界経済の変化と危機
1973年以来の教訓とは?
金融政策の自律性
対称性
自動安定装置としての為替レート
対外収支
政策協調の問題
固定為替レートは多くの国にとってそもそも選択肢になり得るか
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために
第19章補遺:国際的な政策協調の失敗

第20章 金融のグローバル化:機会と危機
国際資本市場と取引による利益
質による利得3種類
国際取引の動機としてのポートフォリオ分散
国際資産のメニュー:負債(デット)対資本(エクイティ)
国際銀行業務と国際資本市場
オフショアバンキングとオフショア通貨取引
影の銀行(シャドウバンキング)システム
銀行業務と金融の脆弱性
銀行破綻の間題
金融不安に対する政府の安全策
モラルハザードと「Too Big to Fail(大きすぎてつぶせない)」
コラム モラルハザードの単純な算数
国際銀行業務の規制という難問
ファイナンスのトリレンマ
2007年までの規制に関する国際協調
事例研究 2007~09年の世界金融危機
コラム 外国為替の不安定性と中央緩行のスワップライン
世界的な金融危機以降の国際規制のイニシアチブ
国際金融市場は資本とリスクをうまく配分できただろうか?
ポートフォリオの国際的分散の進展
異時点間取引の規模
オフショアとオフショアの利率格差
外国為替市場の効率性
まとめ
重要問題
練習問題
もっと勉強したい人のために

第21章 最適通貨圏とユーロ
ヨーロッパの単一通貨はどう発展したか
ヨーロッパの通貨協力を推進したものは何か
欧州通貨制度(1979~98)
ドイツの金融支配とEMSの信頼性理論
市場統合のイニシアチブ
欧州経済通貨同盟(EMU)
ユーロとユーロ圏の経済政策
マーストリヒト収斂基準と安定成長協定
欧州中央銀行とユーロシステム
為替相場メカニズムの改訂
最適通貨圏の理論
経済統合と固定為替レート圏の利点:GG曲線
経済統合と固定為替レート地域のコスト:LL曲線
通貨圏に参加する決断:GG曲線とLL曲線を合わせる
最適通貨圏とは?
そのほかの重要な検討事項
事例研究 ヨーロッパは最適通貨圏だろうか?
ユーロ危機とEMUの未来
危機の始まり
自己実現的な政府の債務不履行と「ドゥームループ」
さらに広範な危機と政策対応
欧州中央銀行の国債買取プログラム(OMT)
EMUの将来
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために

第22章 発展途上国:成長,危機,改革
世界経済の所得,富,成長
富裕国と貧困国のギャップ
世界の所得ギャップは縮まってきただろうか?
発展途上国の構造的な特徴
発展途上国の借り入れと負債
発展途上国への金融流人の経済学
デフォルト問題
他の資金流入方法
「原罪」の問題
1980年代の債務危機
改革,資本流入,危機の復活
東アジア:成功と危機
東アジアの奇跡
コラム なぜ発展途上国はこんなに大量の国際準備を積み上げたんだろうか
アジアの弱点
コラム 東アジアのやった正しいこととは?
アジア金融危機(アジア通貨危機)
発展途上国の危機の教訓
世界の金融「アーキテクチャ」再編
資本の移動性と為替レートレジームのトリレンマ
「予防的」措置
危機対応
事例研究 中国の固定通貨
世界資本フローと世界所得分配を理解する:地理が命運を決めるのか?
コラム 資本のパラドックス
まとめ
練習問題
もっと勉強したい人のために
●数学補遺
リスク忌避と国際ポートフォリオ分散(第20章数学補遺)

Paul R. Krugman (著), Maurice Obstfeld (著), Marc J. Melitz (著), 山形 浩生 (翻訳), 守岡 桜 (翻訳)
出版社 : 丸善出版 (2017/1/19)、出典:出版社HP