地政学入門 改版 – 外交戦略の政治学 (中公新書)

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地政学の歴史、考え方を紹介

地政学とは地球全体を常に一つの単位と見て、その動向をリアルタイムで掴み、そこから現在の政策に必要な判断の材料を引き出そうとする学問です。本書は現代の地政学の開祖であるマッキンダー、ドイツ地政学を代表するハウスホーファー、そしてマハンらによるアメリカ地政学を取り上げ、その歴史と考え方を紹介します。

曽村 保信 (著)
出版社 : 中央公論新社 (2017/7/19) 、出典:出版社HP

はじめに

最近何とはなしに、地政学とか地政的とかいう言葉を見たり聞いたりする機会がふえた。著書の題名にも何々の地政学といった式のものが次々に現われている。これは日本だけの現象ではなく、外国人の著書や有名新聞――ニューヨーク・タイムズやフランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥングなど――の論説のなかでもしばしば地政学(geopolitics, Geopolitik)の用語が大手を振って登場してきているのが、眼につく。

しかしながら、ハートランドやリムランド、または半月弧、などのような地政学と称するものに独特な用語をいきなり読まされて、その意味を的確につかめる人が、今の世代に果たしてどれだけいるだろうか。もともと事の起こりを知っていれば、これらの言葉の意味は自然に理解できるものだし、そう極端にむずかしい理屈をいおうとしているわけではない。しかしながら、その由来を知らぬ者にとっては、一種鬼面人を驚かすような効果をともなうことは事実だろう。

本来、地政学といわれるものの内容はそう珍しいことばかりではない。われわれ人間はおしなべて新しい時代の徴候を見、そしてこれまでの政治や社会の通念が揺らぎだすのを感じたとき、改めて歴史や地理の現実を振り返ってみて、それから情勢に対応するためのなにがしかのヒントを見出そうとする天性をそなえている。そうした情況下で、ひとまず世界の現実を大きく整理してみる考え方のひとつが、すなわち地政学である。それは固定した観念でもなければ宿命論の一種でもない。いわば、微妙に千変万化する外交戦略を立てる上での、大前提の考察とでもいうべきだろうか。

もちろん事実の説明に役立ち、また人びとを納得させうる限りにおいては、どのような表現の技術を使おうともそれは自由である。しかしながら、あらゆる学問の分野にはそれなりの客観性が要求される。たとえば、ケインズの存在を無視して、近代の経済の動きを論ずることは事実上不可能だろう。それと同じように、地政学にもまたそれ自身の生い立ちがあり、その主な経過を知ることによって、かなり世界の見方が変わってくることは確かだとおもわれる。

この本は、書肆の要望によって『地政学入門』と題したが、本来私の気持からいえば、ただこれまでの地政学の主要な文献から、何か現代にも依然として通用するものを掘り起こしてみたい衝動に駆られて、書いたものに過ぎない。したがって、同じような関心をもつ人にとっては、あるいは一種の手引きになるかもしれない。が、同時に、これには多少、従来の国際政治学と称するものにたいする新たな挑戦の気持もあった。そのことは、本文を読んでいただけばやがておわかりになるだろう。

しかしながら私は、さしあたって、直接日本外交の実務に役立つようなことを書いたつもりはあまりなく、あくまでもこれまでの地政学の要点を浮き彫りにし、その基本を明らかにすることを中心の目的にした。その点で、いささか物足りなくおもわれる読者も、あるいはあるかもしれない。ただ最後の章では、若干私自身のおおまかな見解を披露することを試みた。これは、地政学の理論と方法を現代の国際政治の現象にあてはめてみると、こういう考察がでてくるという、いわば一種の具体例のようなものである。

終わりに、これまでの世界一周航海や海外の取材旅行等に際して、数々の便宜を提供して下さった外務省や防衛庁、それから多くの商社等の関係の方々に尽きない感謝の気持を捧げたい。

一九八三年一二月
著者

曽村 保信 (著)
出版社 : 中央公論新社 (2017/7/19) 、出典:出版社HP

目次

はじめに

序章 地球儀を片手に

第一章 マッキンダーの発見
1 地政学の起こりと古典
2 英国の海上権の衰退
3 西欧シー・パワーの起源と由来
4 ハートランドの動向
5 ヨーロッパ半島の運命
6 自由社会の処方箋
7 最後の論文

第二章 ハウスホーファーの世界
1 ハウスホーファーと日本
2 生活圏の哲学
3 広域の思想
4 太平洋の地政学
5 大東亜共栄圏との関連
6 悲劇の結末

第三章 アメリカの地政学
1 モンロー主義の発展過程
2 西半球防衛の展望
3 汎米主義と二つのアメリカ
4 アルフレッド・マハンの遺産

終章 核宇宙時代の地政学
1 ソ連と地政学
2 アフリカおよび中近東の地政学
3 危機の弧
4 インド洋――世界の地中海

参考文献について

曽村 保信 (著)
出版社 : 中央公論新社 (2017/7/19) 、出典:出版社HP