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ブロックチェーンの事例からプロジェクトの進め方を学ぶ

ブロックチェーン・ビジネス最前線に立つコンサルタントが、自らが推進する国内外のプロジェクトの詳細や知見を紹介しています。国際貿易プロセスのデジタル化、分散アイデンティティ管理など、実際に活用されている17の事例を通して、ブロックチェーンの知識を深めることができます。

日本アイ・ビー・エム株式会社 ブロックチェーンチーム (編集)
出版社 : 中央経済社 (2020/5/26)、出典:出版社HP

はじめに

本書の執筆依頼をいただいたのは2019年の初めであるが,当時を振り返るとビジネスにおけるブロックチェーンの活用に懐疑的な意見が出始め,既存技術に対するブロックチェーンの必然性に疑問を呈する声も多かったように記憶している。これは,黎明期からブロックチェーンのビジネス利用を牽引してきた金融業界における技術検証がひと段落し,いわゆる熱狂期から幻滅期に差し掛かったことが大きく影響したと捉えている。一方,金融業界以外ではサプライチェーンにおけるトレーサビリティーなどでブロックチェーン活用を検討してみようという機運は高まりつつあったものの国内ではまだまだ実証実験にとどまっていた。

このように日本におけるブロックチェーン業界はまさに冷却期に差し掛かっていた状況に,外資系IT企業である日本アイ・ビー・エム株式会社(以下,日本IBM)でブロックチェーン事業を預かる筆者は大きな焦りを感じていた。それは「ブロックチェーン技術を核とした業界プラットフォーム」という複数の黒船が日本近海に浮かんでいるのを生々しく感じていたからである。例えば,世界最大のコンテナ船事業者であるマースク社(デンマーク)とIBMとの共同事業である国際貿易デジタル化プラットフォーム「TradeLens」は,2018年12月に日本を含む全世界で商用サービスを開始し,競合するコンテナ船事業者や世界中のターミナル事業者・港湾・税関当局などの参加を推し進め本格的に始動していた。また,食の信頼構築を目指してウォルマート,カルフール,ネスレなど世界的な食品事業者が主導するプラットフォーム「IBM Food Trust」も2018年10月より同じく全世界で商用サービスを開始し,リコール対策,プライベート商品のブランド力強化,サプライチェーン高度化,持続可能な水産資源の管理,フェアトレードなど幅広い用途に拡がっていた。これらのプラットフォーム上では競合関係にある企業同士が非競争領域で協業し,業界における積年の課題にチャレンジしたり,新たなビジネスモデルを構築したりしながら社会実装が進んでいたのである。世界ではまさに業界をリードする企業群がブロックチェーンという新たな分散コンピューティング技術の可能性に果敢に賭けていた。このままでは日本はまたもや取り残されてしまうという大きな危機感を感じていた。

そのような中でも明らかな変化の兆しがあった。長らく仲介機能を担ってきた商社などがブロックチェーン技術に抗うのではなく,新たなプラットフォーム基盤として積極的に取り入れて新規ビジネスを起こしたり,中堅企業が社会課題の解決を目指すデジタルプラットフォームを興し業界秩序に挑んだりするなど,複数のプロジェクトが本格展開を始めていた。実際,2019年には日本IBMが関与するだけでも10を超えるブロックチェーン・プロジェクトを公表する結果となり,2018年と比較して大きな飛躍を見せた。是非このダイナミズムを読者の皆様に伝えたく,日本IBMの専門家が業務の合間を縫い書き下ろしたのが本書である。なお,本書での紹介には間に合わなかったが,新たな事例,例えばソフトバンク社とのキャリア間ブロックチェーン・ソリューションの取組み1,オートバックスセブン社との消費者間による中古車市場プラットフォームの取組み2などが続々と生まれている。是非とも脚注の情報を参照いただきたい。加えて,新たな資金調達の可能性を広げるセキュリティトークンオファリング(STO: Security Token Offering)や中央銀行デジタル通貨(CBDC: Central Bankd Digital Currency)など,2019年後半から金融分野においても再びブロックチェーンへの注目が高まっている。

これまでブロックチェーンに関する書籍は数多く出版され,暗号資産,ブロックチェーン技術の概要,想定される利用シーンについて紹介されてきた。しかし,ブロックチェーン・ビジネスの最前線に立つ営業,コンサルタント,技術者が一堂に会し,自らが推進する国内外のプロジェクトの詳細や,そこから得られた知見をふんだんに盛り込んだ書籍は本書が初めてではないかと自負している。読者の皆様には,自社でブロックチェーン・プロジェクトを適用できる領域はあるか,誰と協業すべきか,どの技術を採用すべきか,どのように投資を回収できるかなどを想像しながら,本書を読み進めていただきたい。

本書を出版する最終局面において新型コロナウィルス(COVID-19)が猛威をふるい,多くの方が生活・仕事の両面で甚大な影響を受けている。物の需給や流れは予測困難となり,医療や生活における必需品がどこにどれぐらいの在庫があるかもわからない状況である。また,人との接触を可能な限り減らすべく在宅勤務が推奨されるものの,契約処理はいまだ書類と印鑑に頼っており,出勤せざるえない方も多い。私たちはポストCOVID-19に備え,サプライチェーン管理や契約管理のあり方を抜本的に見直すことは不可避であり,本書でも紹介するブロックチェーンを活用したトレーサビリティーやスマートコントラクトの取組みは大いに参考になるものと確信している。

最後に事例紹介に賛同いただき,内容の精査にもご協力いただいた関係企業の皆様方にこの場を借りて厚く御礼を申し上げたい。

本書を読み終わった後,読書の皆様にこう問いたい。

あなたの会社もブロックチェーンを始めませんか?

2020年4月
日本アイ・ビー・エム株式会社
ブロックチェーン事業部長
高田 充康

1 https://ibm.ent.box.com/notes/617606742032
2 https://www.autobacs.co.jp/ja/news/news-20191003140002.html

日本アイ・ビー・エム株式会社 ブロックチェーンチーム (編集)
出版社 : 中央経済社 (2020/5/26)、出典:出版社HP

目次

はじめに
本書を理解するための用語集

第1章 いまなぜブロックチェーンが注目されるのか?
1 デジタルトランスフォーメーションの時代
2 プラットフォーマーの台頭
3 情報利用に対する懸念
4 信頼を生み出す技術・ブロックチェーンの登場
5 仮想通貨・フィンテックから全産業に利用が拡大
6 ブロックチェーンを活用したプラットフォームの商用化が進む欧米
7 今こそ進めたいブロックチェーンの戦略的な活用

第2章 ブロックチェーンとは何か
1 Bitcoin すべてはここからはじまる
2 Ethereum ブロックチェーンの可能性を拡げる
3 ビジネス利用におけるパブリック型ブロックチェーンの限界
4 エンタープライズブロックチェーンの登場
5 主要なエンタープライズブロックチェーン技術
6 Hyperledger プロジェクトの概要
7 Hyperledger Fabric の詳細
8 アプリケーション開発

第3章 代表的なブロックチェーンの活用事例
1 食の信頼向上を目指すトレーサビリティー
2 国際貿易プロセスのデジタル化
3 欧州域内における中小企業向け貿易金融サービス
4 地方発金融サービスプラットフォーム
5 国際決済の効率化
6 責任ある原材料調達のためのトレーサビリティー
7 ブロックチェーンによる分散アイデンティティ管理
8 ポイントプログラム
9 医療・健康データ交換
10 ピア・ツー・ピアでの電力取引
11 次世代の成績証明プラットフォーム
12 音楽著作権管理の透明性向上
13 次世代の不動産デジタルプラットフォーム
14 シェアードサービスセンター
15 IoTデバイス向けセキュリティ管理
16 災害時の情報共有インフラー
17 サプライヤー管理デジタルプラットフォーム

第4章 ブロックチェーンプロジェクトの進め方
1 典型的な4つのステップ
2 ネットワーク構築の進め方
3 構想の具体化
4 インセンティブ設計
5 ブロックチェーンサービスの種類
6 ブロックチェーンの技術的な課題や考慮点
7 Blockchain as a Serviceの概要
8 あらためてブロックチェーンである理由

第5章 日本発の業界プラットフォームを目指して
1 ビジネスの観点でのブロックチェーンとは?(これまでの振り返り)
2 では,あなたの会社はブロックチェーンを進めるべきか?
3 途中で頓挫しないためのポイントは何か?―2つの要諦
4 結びに代えて―DXへの挑戦

付録 PaperNetのプログラム開発

日本アイ・ビー・エム株式会社 ブロックチェーンチーム (編集)
出版社 : 中央経済社 (2020/5/26)、出典:出版社HP