世界一カンタンで実戦的な文系のための人工知能の教科書

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AIの今と未来がよくわかる

AI時代の今、AIに関する知識は教養として身につけておくことが求められます。本書は、第一線で活躍しているAIの研究者が人工知能にまつわる素朴な疑問や知っておくべきことなどを丁寧に解説していきます。専門用語や数学・プログラミングの知識が無くてもわかる、一問一答方式の構成になっています。

福馬 智生 (著), 加藤 浩一 (著)
出版社 : ソシム (2020/4/2)、出典:出版社HP

はじめに

筆者は、AIの研究者です。AIの基礎研究を行いながら、AIを導入したいという企業の支援活動も行っています。
日々いろいろな方とお話させていただく中で、「人工知能(AI)は、謎につつまれている」と不安を感じられている方が多いことを気にしています。
確かに、ここ数年は「AIであなたの仕事はなくなる!」「AIが人を支配し始める」というような書籍が多く出版されました。恐怖を煽るものや、また技術的にこの先の数年間では実現できないSFの世界を、明日のことのように描いているものもあります。
AIは、大きな技術革新であり、人の営みに直接影響を与えるために、誰もが期待よりも先に不安を感じるのは、ある意味必然なのかも知れません。また、AIが様々な科学や数学の組合せでできているため、エンジニアではない人にとって、その中身を理解するのが容易ではないということも、AIが謎めいてみえる理由の一つと思います。
そのためでしょうか、ここ数年、AIについて単に技術的なことだけではなく、次のようなリクエストを受けることが多くなっています。

・AIは既に身近にあるもので、個人でも仕事でも使わないといけない。素人向けのAI本は、概念が書かれているだけで具体的ことがわからない。その一方で、AIの中身を知ろうと思うと、数式やプログラミングのコードが書かれている本ばかりで、それこそ意味がわからない。技術者ではない自分がAIを理解するにはどうしたら良いだろうか?
・上司からAIを使って事業を始めたいといわれた。何から始めれば良いのだろう?
・部下からAIを利用したいと提案があったが、その投資が妥当なのかわからない?
・AIの仕組みがわかっていないので、AIが導く答えを信頼できない?AIをどこまで信じてよいのだろう?
・AIの中身を知りたいけれど、数式で説明されても分からないし、プログラミングをしたいわけでもない。
・AIは、誰がどのように研究しているのだろう?AIはこの先にどうなるのだろう?
・AIを使って何かする(投資)なら、いつがベストなタイミング?

これらは、AIを利用する人のみならず、AIを用いて仕事を改善したい、もしくは新しい事業を創造したい人にとって切実な問題です。筆者が本書を執筆するきっかけは、まさにここにあります。
本書は、AI研究者の立場から、AIの真実をお伝えするために執筆しました。対象を文科系の方とし、数学の知識がなくても理解できるように工夫しています。もちろんプログラミングの知識も不要です。

10年後に何が最先端になるかを予見するということ
昨今のAI技術の進歩は目を見張るものがあります。それは間違いありません。しかし技術の移り変わりというのは激しく、今はやりのディープラーニング技術(追って本書の3章で解説します)も10年前は“過去”のものでした。AIブームは、去っては訪れを繰り返しています。10年後に何が最先端になるかを予見するのは容易ではありません。
ある日、筆者が何気なく見ていたお笑い番組に「さらば青春の光」というコンビが出演されていたのですが、彼らのネタを見たとき、何か恐ろしいものを感じました。

ある博士はタイムマシンの研究をしています。ある日新しいタイムマシン理論を自信満々に発表しました。この理論によって大きなブレイクスルーが起き、タイムマシンは多くの研究者によってすぐにも完成するはずだと信じて。
そして博士が部屋に戻った直後、博士の目の前に突然青年が現れます。青年はなんと未来からタイムマシンでやって来たといいます。
「やった!タイムマシンは実現したんだ!」その事実に博士は大きく喜びます。その青年に「いつの時代から来たのか?」と訪ねたところ「52万年後」と答えるではありませんか。
そこから青年は畳み掛けます。「未来のタイムマシンは博士の考えているものとは、仕組みが全然違います。それどころか、教授が発表した論文のせいで、世界中の研究者が一気にそっちに向いてしまい、完成が48万年も遅れてしまいました。」

昨今のAI開発の流れが、これと同じとは思いませんが、とても心に刺さります。これからのAI技術の発展はどうなるか本当にわかりません。この本を執筆している間にも、すごいスピードで技術革新が起きています。
今のブームは、もしかしたら未来のAIの発展を、ある面で阻害している可能性もゼロではありません。そのことを考えますと、このAI時代に生きていくために大事なことは、きっと次のようなことです。

・常に新しいこと吸収する姿勢
・周りに流されず、AIを良い点でも悪い点でも多面的に捉える目線
・技術を無条件に信じないこと

AI研究において、情報の価値は劣化する速度がとても速いです。常に何が起きているのかを把握しておく必要があります。
そして多面的な目線も重要です。新しい技術によって何ができるようになったのか、そのリスクはなんなのか、それによって社会はどのような方向へ進むのか。
それらの視点から本書では、次のような内容を扱います。

そもそもAIとは何か?
AIはとかくブラックボックスにみえます。本書ではAIを正しく活用していただくために、まずAIの基本的な仕組みを解説します。AIの持つ神秘性の謎も解明します。

AIが学習するとはどういうことか?
AIが答えを出すということは、AIの中で何らかの学習と判断が行われていることになります。AIが行う学習は、いったいどのように行われているのでしょうか?それは人がする学習と同じでしょうか?その仕組みを知れば、AIが導く結果をどのぐらい信用できるかがわかります。

AIはこの先、どう進化するか?
AIの近未来を予見するために、これまでAIの進化の過程を解説します。この数年でAIの学習レベルは急速に進化しています。AIがAIを作りだし、AIがAIの正しさを監視するなど新しい仕組みが開発されています。

AIは間違える
AIは万能ではありません。設計者が想定しなかった間違えをしてしまうことは、実のところ良くあります。なぜAIは間違えるのでしょうか?AIが導く答えは偶然の産物という人もいます。その理由とAIを信頼できるものにするための方法を解説します。

AIの中に芽生えた悪意や差別意識
AIの学習過程が高度に自動化したために、AIが人を欺くような動作をするようなことが起きています。AIが導く結果に悪意や差別意識が含まれるようにもなり、またAIによってフェイクニュースやフェイク動画を簡単に作れるようになってしまいました。それらの仕組みと対策について解説します。

AIの研究最前線
AIは世界中の研究者により日々改良が進んでいます。その実態を知ることは近未来のAI像をイメージするのに重要です。世界のいったい誰がAI研究をリードしているのか?AI研究は、どのようなモチベーションで行われているのか?AI研究のプログラムはなぜオープンソースとして無料で公開されることが多いのか?AI研究は華やかに見えるなかで、間も存在しています。世界のAI研究と研究者の実像に迫ります。

AIを使いこなすには?
AIは複合的な技術です。AIを使いこなすことは料理に例えることができます。良い食材があっても、それだけでは料理になりません。レシピがあり調理道具が揃い、そこに料理人がいてようやく料理ができあがります。AIの世界も同様で、何か一つのプログラムがあれば、システムが完成して良い答えが導けるということはありません。

AIに投資すべきタイミングは?
AIを実際に使う際に、もしくは会社でAIを用いた事業に投資する際に、早ければ早いほど良い場合もありますが、思い立ったら吉日ではない場合もあります。AIには、いくつもの種類があり、それぞれ得意不得意があります。本書では、ビジネスモデルとAIの精度との関係から、AI投資を成功させる要素について考えます。またAIを適用するにあたり、技術だけでは解決できないことがあるのも大きな課題です。例えば自動運転AIの「ある人を助けるために他の人を犠牲にするのは許されるか?」というトロッコ問題は有名です。倫理面や法律面の整備が求められる点についても考慮が必要です。

本書では、企業や大学のAI研究者が見ている世界観を、俯瞰的に読者と共有することを目指しています。必要な理論は、抽象的にし過ぎると逆に分かりにくくなりますので、できるだけ正面から取り上げます。
本書をお読みいただくことで、「AI内部の仕組み」はもちろん、「AIの研究者が考えているAIの未来や価値観」そして「AIの正しい利用法や適切な投資のタイミング」などを知ることができます。AIをビジネスで活用する場合には、いわゆる「データサイエンティスト」や「AIエンジニア」と呼ばれる技術系の人たちと、同じ目線で会話ができるようにもなるようことを目指しました。
本書が読者のみなさんのお役に立てば幸いです。

2020年3月
東京大学大学院博士課程/株式会社TDAI Lab代表 福馬智生
早稲田情報技術研究所代表 加藤浩一

福馬 智生 (著), 加藤 浩一 (著)
出版社 : ソシム (2020/4/2)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1章 「AIってスゴイ!」と思ってしまう理由
1-1 なぜ人は「AIってスゴイ!」と思ってしまうのですか?

第2章 AIの正体
2-1 何ができたらAIと呼べるのですか?
2-2 AIが考える合理的とはどういうことですか?
2-3 AIはどうやって最高の一手を選ぶのですか?
2-4 AIはどうやって失敗から学ぶのですか?
2-5 どうしてAIには大量のデータが必要なのですか?

第3章 AIはどのように進化してきたのか?
3-1 なぜ、いまAIが注目されているのですか?
3-2 AI研究が急拡大しているという根拠はなんですか?
3-3 昔のAIってどんなものだったのですか?
3-4 昔のAIと今のAIのちがいは何ですか?
3-5 機械学習って何ですか?

第4章 AIはどこまで人に近づけるのか?
4-1 AIは人の気持ちを理解できますか?
4-2 AIが書いた文章に知性を感じるのはなぜですか?
4-3 AIが賢くなるのに人の知識は役立ちますか?

第5章 AIは間違える
5-1 どんなときにAIは間違うのですか?(その1)
5-2 どんなときにAIは間違うのですか?(その2)
5-3 どんなときにAIは間違うのですか?(その3)
5-4 どんなときにAIは間違うのですか?(その4)
5-5 AIが出した答えは信用してよいのでしょうか?

第6章 AIの内部に潜む悪意とは?
6-1 AIを騙せるって本当ですか?
6-2 AIが人を差別するって本当ですか?
6-3 AIの予測や決定を信じてもらうには何が必要ですか?
6-4 AIはどのように予測や決定の根拠を説明してくれるのですか?
6-5 AIの予測や決定を信じてもらうために説明以外の方法はありますか?

第7章 これからのAIはどうなる?
7-1 AIが感情を持つようになるって本当ですか?
7-2 AIがAIを作るってどういうことですか?
7-3 囲碁AI同士が対局したらどうなるのですか?
7-4 AIはどのようにリアルなフェイク画像を作るのですか?
7-5 AIはどのように不良品を見つけるのですか?

第8章 AI研究の最前線
8-1 AIの研究が急速に進んでいる理由を教えてください
8-2 世界でAI研究をリードしているのはどこの国ですか?
8-3 最先端のAI研究に触れるにはどうすれば良いですか?
8-4 AI研究の成果はどのように評価されているのですか?
8-5 AI研究のいまの課題はなんですか?

第9章 AIを使いこなすには?
9-1 AIプロジェクトに取り組むときの注意事項を教えてください
9-2 AIプロジェクトで差をつけやすいポイントを教えてください

第10章 AI投資を成功させるには?
10-1 どんな領域のAIに投資すれば良いですか?
10-2 AIビジネスにチャレンジする際の注意事項を教えてください

第11章 近未来のAIはどうなるか?

おわりに
図版出典
参考文献

福馬 智生 (著), 加藤 浩一 (著)
出版社 : ソシム (2020/4/2)、出典:出版社HP