天才イーロン・マスク銀河一の戦略 (経済界新書)

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イーロン・マスクの戦略を読み解く

本書は、多くの人を惹きつける革新的なアイデアや壮大なプランを生み出すイーロン・マスクの戦略を解き明かそうとしている本です。彼の生い立ちや起業、ビジネスを軌道に乗せるまでの格闘などから、彼の考え方、哲学についてテーマごとに解説されています。

桑原 晃弥 (著)
出版社 : 経済界 (2014/11/22)、出典:出版社HP

はじめに

イーロン・マスクのつくった「ロードスター」は、本当に衝撃的な車だった。 ロードスターとは、マスクが設立したテスラモーターズが二〇〇八年から発売している スポーツカータイプの電気自動車である。
とにかく格好よかった。走行距離から加速性能まで、あらゆるスペック(仕様)が、それまでの電気自動車のダメなイメージと大きく一線を画していた。
トヨタ自動車の社長ながら、みずから自動車レースにドライバーとして参加したりする国際ライセンス保持者、豊田章男氏が実際にハンドルを握って、「新しい風を感じる」とほれ込んだのもうなずける。

私は十数年にわたってトヨタ式の普及にかかわってきた。だから、環境対応車はトヨタが最先端を走っていると、かなり信じ込んでいた。
電気自動車、燃料電池車、ハイブリッドカーの中で、トヨタが優先したのはハイブリッドカーだった。電気自動車は走行距離の極端な短さ、搭載電池の開発、充電設備のインフラ整備など、ネックだらけだった。多くの人が環境対応車はハイブリッドカーから徐々に燃料電池車へと向かい、電気自動車は台数を伸ばすことなく限られた用途に使われるだけだろうと見ていた。
実際、「プリウス」が出てからは各自動車メーカーが競ってハイブリッドカーを生産し、 環境対応車はトヨタが主導する流れになっていた。
その世界的な流れに、ほとんど一人で「待った」をかけたのがマスクだったのだ。
これはすごいとマスクを調べて、また驚いた。
マスクはテスラのほかに、宇宙ロケット開発会社の「スペースX」と、太陽光発電会社 の「ソーラーシティ」も経営しており、それぞれかなりの成果を上げているのである。
また、インターネット決済でよく使う「ペイパル」開発者の一人にもなっている。
しかも、優秀ではあるものの、エリートではまったくない。南アフリカ共和国から無一文でアメリカに渡ってきた移民である。
また、多くの会社を経営しているのは、「人類を救う」「地球を救う」という大目標に沿ったものであり、人類の火星移住を本気で考えている。
マスクがすごいのは、それらがただの荒唐 無稽な夢物語ではなく、着々と現実化されていることだ。

私は経営ジャーナリストとして、アップル創業者のスティーブ・ジョブズや、アマゾン創業者のジェフ・ベゾスなども、ずっと追ってきた。
自動車にしろ宇宙ロケットにしろ、長い歴史がある業界であり、お金も人も技術も持つ大企業が、すでに覇を競い合っている。それはジョブズが活躍したパソコンの誕生期や、ベゾスが目をつけたインターネットの普及期とはまったく異なる、規模の優位が圧倒的にものを言う世界だ。
そんな世界に南アフリカから単身乗り込んで、わずか一〇年あまりで流れを変えてしまったのである。マスクには、既存の企業が思いもつかなかったアイデアがあり、壮大なプランがあり、人を惹きつける何かがあるに違いない。
それを解き明かそうとしたのが本書である。
マスクの「人類を救う」「火星移住」といった目標が、私たちの手の届く、どのあたりまで具体化されているのかも、同時に解明できたと思っている。

ものづくりの世界で人を動かす力があるのは、つくり上げたものだけである。どんなものをつくっているのかを見れば、技術から思想まですべてがわかるのだ。
豊田章男氏は、マスクに会い、ロードスターに試乗してからわずか一ヵ月でテスラとの資本提携を決めている。あるいはNASAは、アメリカの威信をかけた有人宇宙ロケットの開発を、スペースXに委託している。
すべては、マスクのつくり上げたものがすぐれており、そこにたくさんの魅力と可能性があったからにほかならない。革命が起こりにくいとされていたものづくりの世界にも、まだまだ革命の余地があることがよくわかる。
今、日本では生産拠点が次々と失われ、日本発の世界製品も格段に減っている。しかし、日本の底力はこんなものではないはずだ。きっかけさえあれば、未来を開き、世界を変える力を持っている。その力が発揮された時、私たち一人ひとりの生活や人生も、もっと明るいものになっていくだろう。
本書がそのきっかけになれば幸いである。
桑原晃弥

桑原 晃弥 (著)
出版社 : 経済界 (2014/11/22)、出典:出版社HP

◎イーロン・マスクのあゆみ

1971(0歳) 6月8日、南アフリカ共和国プレトリアで生まれる
1975(4歳)*4月、ビル・ゲイツがマイクロソフトを創業
1976(5歳)*4月、スティーブ・ジョブズがアップルを創業
1979 (8歳) 両親が離婚。母親と南アフリカの都市を転々とするようになる
1981(10歳)プログラミングを独学する
1981 (12歳) ソフトウェア「ブラスター」を自作、販売してお金を得る
母親のもとを離れ、父親と暮らし始める
1988 (17歳) プレトリアボーイズ高校で大学入学資格を得る
1989 (18歳) 母親の出身地カナダに移住、労働の日々を送る
1990 (19歳) カナダのクイーンズ大学に入る
1992(21歳) アメリカのペンシルベニア大学ウォートン校に入る
1995(24歳) カリフォルニア州のスタンフォード大学大学院に進むが、2日で中退
弟のキンバルと、ウェブソフトウェア会社「ジップ2」を設立
*7月、ジェフ・ベゾスがアマゾンのサービス開始(創業は4年7月)
1998 (27歳) *9月、ラリー・ペイジ、セルゲイ・ブリンがグーグルを創業
1999 (28歳) ジップ2をコンパックに売却、2200万ドルを得る
オンライン金融とメール支払いサービス会社「Xドットコム」を設立
*アメリカでITバブルが始まる
2000(29歳) Xドットコムがコンフィニティ社と合併(のちに「ペイパル」となる)
2001(30歳) *9月1日、アメリカで同時多発テロ。ITバブルが終わる
2002 (31歳) ペイパルをイーベイに売却、1億6500万ドルを得る
ロケット開発会社「スペースX」を設立、CEO兼CTOに就任
2004 (33歳) 電気自動車会社「テスラモーターズ」に投資
*2月、マーク・ザッカーバーグがフェイスブックを創業
2006 (35歳) 太陽光発電会社「ソーラーシティ」を2人のいとこと設立、会長に就任
テスラがスポーツカータイプの電気自動車「ロードスター」を発表
スペースXが初のロケットを打ち上げるが失敗
2007 (36歳)*アメリカでサブプライム住宅ローン危機が急速に悪化
2008 (37歳) テスラの会長兼CEOに就任
テスラがロードスターを発売開始
スペースXが四回目のロケット打ち上げで初の成功
*リーマン・ブラザーズ倒産を契機に世界的金融危機が起きる
2009 (38歳) テスラにダイムラーが出資
テスラが高級電気自動車セダン「モデルS」を発表
2010 (39歳)
テスラとトヨタが提携を発表
テスラが株式公開
2011 (40歳) 福島県相馬市を訪問し、太陽光発電を寄贈
*10月、スティーブ・ジョブズが死去
2012 (41歳) 多くの富豪が参加する慈善活動「ギビング・プレッジ」に参加
スペースXの「ドラゴン」が国際宇宙ステーションとドッキングに成功
テスラがモデルSを発売開始
2013 (42歳) 超高速交通システム「ハイパーループ」構想を提案
2014 (43歳)「来日して安倍晋三総理大臣と会談

目次 ◎ 天才イーロン・マスク 銀河一の戦略

はじめに
イーロン・マスクのあゆみ

第1章 自分で自分の発想を制限するな
南アフリカの貧しい移民が富豪に駆け上がる
マスクは「どこから来た」人間か?――父と母、そして親の離婚
スティーブ・ジョブズの後継者に躍り出る
アマゾン創業者ジェフ・ベゾスとの「勝者の共通点」
読書もパソコンも「何かをつくる体験」につながってこそ
あこがれはあらゆる力の源泉――カナダを経てアメリカに
やる気さえあれば何でもできると信じる
「大きな答え」を早く出しておく
大きく得る人は惜しげもなく捨てられる人――二つの企業売却
タイミングをつかむことは成功の絶対条件
貧乏は成長をうながす慈雨でもある
お金を使う時は目的をはっきりさせておく
何がマスクに一八一億円をもたらしたのか
手を打つだけでなく二の手、三の手が大切 三社の経営を開始
マスクが「週一○○時間働く」理由
係争中の休暇には気をつける
スペースX、テスラ、そしてソーラーシティ

第2章 すごくなるにはすごい相手と組む
――小企業テスラがトヨタ、パナソニックを動かす
先に舞台に上がってこそ幕は開く―ロードスターの衝撃
急成長するにはハイエンド市場を狙う
暗闇だから小さな光でも価値がある
達成術は「妥協をせずに」やり続けること――ロードスターの開発
現実を変えるにはイメージをまず塗り替える
なければ自分でつくれ
世界最高を使い、世界最高を実現する
すごい新しさにはすごい人が集まってくる――トヨタとの提携
開発はできたが量産ができなかったテスラ
相手を乗せるには「渡りに船」を出せ
言葉よりも「実物」に説得力がある
販売は発明より重要である――トヨタ生産方式の導入
必要なのは「需要に合わせながら」安くつくること
いい発想は現地で現物を見てこそ
任せるが「丸投げ」はしない――一気通貫の実現
外注よりも自社開発のほうが周囲もうるおう
外注先進国アメリカのあとを追うな
マスクは「ものづくりの男」
成功を人にも分けることでさらに成功する――日本への進出
国を富ませる企業には政府も力を貸す
足場を固めるマスクのやり方
ビジネスはまず多くの人に知られることから

第3章 恐れは無視せよ。進むのが遅くなる
――新企業スペースXがアメリカの威信を背負う
成功はコストダウンから始まる――スペースXのスタート |
安くできれば資金も流れ込んでくる
スタートは荒唐無稽でかまわない
そして成功はゲームオーバー寸前にやってくる――宇宙船ドラゴンの成功
価格破壊は改革ビジョンの一つ
一○年続ければ状況が味方し始める
高い理想には危機を乗り越える力がある
汎用品の利用でもイノベーションは起こせる――格安ロケット革命
コストを劇的に下げる三つの方策
「すでにある技術を利用するほうが合理的です」
マスクはなぜ「火星で死にたい」のか――有人宇宙飛行へ
火星移住に一歩近づく
目標は普通の人が火星に行けること
ボーイングに勝ったスペースX
失敗を克服する者はすべてを克服する――スペースXの進化
失敗に打ちひしがれてはイノベーションは起こせない
大切なのは責任追及でなく原因追究
「バカの増殖」を防げ―スペースXの人材
トップ人材に目をつける
組織づくりに不可欠な「才能の集中」
世界を変えるのは「世界は変えられる」と信じる人たち――マスクの組織論
人生には「週一○○時間働く」時があっていい
「本気の人」に優秀な人が集まる

第4章 絶望は強烈なモチベーションにつながる
一人の執念が自動車一○○年の歴史を揺るがす
利益に踊っていると遠路は歩き通せない――テスラの設立
対策を取らなければ今は普通のことがやがて困難になる。
発明王ニコラ・テスラが教える「あと一歩」の計り知れない重み
「あいつには貸しをつくろう」と思わせよ――テスラの上場
生産台数わずか千台の自動車会社がなぜ上場できたのか
「世界をひっくり返したよ」
ついに二四八億円を得たマスク
「早く進める。利益は二の次」が正しい――テスラの経営戦略
大切なのは利益よりもシェア –
消費するな、投資せよ
特許で守るか、公開して進化するか―テスラの特許公開
絶望的な差が最初からついていたら?
進み方がまるで正反対のアマゾンとグーグル
「切り開いた道をみんながついて来れるようにしたい」
「今」を変えるには今までなかったことをする――テスラの技術
新規参入組の勝ち方「業界に相手にされない間に成長せよ」
発想源は「誰もまだ……ない」
大局は計画に沿い、細部は現実に沿うーマスクのマスターブラン
大切なのはコストダウンの計画
成功はチャンスを生かす心構えができていてこそ

第5章 大事なのは成長率。成功率とは限らない
ソーラーシティの太陽光発電が原発をしのぎ始める
成長するものは目立たなくても未来を変えてしまう―ソーラーシティ設立
太陽光発電はなぜエネルギー源の中で最も有望なのか
「私は巨大な木を育てている」
シェールガス、そして原発に未来はあるか
成長するには環境をまず整える―マスクのエネルギー戦略
マスクが大震災直後の福島を訪問した理由
批判するだけでは何も生まれない、変わらない
問題解決に最適な時期はいつも「今」である――マスクの危機感覚
エネルギー問題が進まない本当の理由
追い込まれる前に解決する

第6章 明るい未来を信じたくなる仕事をせよ
―壮大な「夢物語」がイノベーションを進める
適度な目標は行動を変え、高度な目標は意識を変える―イノベーション戦略 「常軌を逸していると言われてもかまわない」
イノベーションは発想の「大枠」を取り払うことから
不可能に見えたら少し「ゆるく見直す」といい――挑戦戦略
貧しくてもハッピーであればリスクは取れる
「ちょっとまぬけ」な見方からグーグルは生まれた
利益や勝利も大切だが「世界に役立つ」のはもっと大切―ビジネス戦略
「お金が目当てで会社を始めて成功した人は見たことがない」
建設的とは未来を変えられるということ
改革のうまい人は不満のすくい取り方がうまい――発想戦略
強い不満は強い意欲になり得る
自分たちが使いたいと思う製品をつくればいい
自分を必要としない分野を避ける――成長戦略
天才ゲイツもよけいな野望を捨てたから大成した
自分以外の誰かができるなら、かかわる必要はない
ハードワーカーは私生活に要注意――マスクの私生活
豊かさと幸福の関係は難しい
「女性にはどれくらい時間を割けばいいのか」

第7章 人をあっと驚かせる事業こそおもしろい
―コストダウンが火星移住を手の届く現実にする
可能性を高めるにはコストを含めたプランを示す――ハイパーループとマスク
すぐれたものを安くできるならそれはもう夢ではない
ビジネスの究極の目標は「最高」を提示すること―電気自動車戦略I
欠点を解消すれば不評製品も人気製品に変わる
挑戦の喜びは「いいね」が徐々に増えてくること―電気自動車戦略Ⅱ
消費者を動かせば大手が動く、すると不可能も可能になる
テスラにおごりはあるか
マスクは世界にどんなプラスをもたらすのか――電気自動車戦略Ⅲ
マスクが電池工場ギガファクトリーを建設する理由
「巻き込む力」が不可能を可能にしていく

参考文献

プロデュース、編集/アールズ 吉田 宏

桑原 晃弥 (著)
出版社 : 経済界 (2014/11/22)、出典:出版社HP