使える行動分析学: じぶん実験のすすめ (ちくま新書)

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じぶん実験で行動を変える

「〇〇をしたいのにできない」「△△を止めたいのに止められない」このようなことの原因を意志の弱さや能力の欠如のせいにはしないのが、行動分析学の特徴である。本書は、その原因を行動分析学の理論で推理し、自らの行動を変えながら突き止める「じぶん実験」によって新たな自分を発見し、悩みの解決につなげる方法が書かれている。

島宗 理 (著)
出版社 : 筑摩書房 (2014/4/7)、出典:出版社HP


使える行動分析学
自分実験のすすめ
島崇理

目次

まえがき

第一章
じぶん実験と自己理解――自分の行動の理由を知る
自己実験は発明の源/エビングハウス「記憶研究」の功績/自己実験に対する批判/素朴な自己実験/じぶん実験の目的/セルフコントロール、セルフマネジメントとの違い/他者理解と自己理解/便利な要約語/具体語の限界/思い込みや決めつけの失敗/素朴な実験による他者理解要約語の罠/循環論の罠/じぶん実験の「自己理解」とは

第二章
行動分析学と自己実現――自分の行動を変える
成功のカギは、決意の強さか才能か/りんごが木から落ちるのは力不足?死人テスト/行動の諸法則/行動随伴性を考えるためのABC分析/好子と嫌子/強化の随伴性と確立操作/弱化の随伴性/自己実現への道程/欠乏欲求と存在欲求の区別/行動は多重に制御されている/制御変数を知れば、選択肢の幅が広がる/確立操作と弁別刺激/後続事象による行動随伴性の分類/行動随伴性と「消去」「復帰」/意識や知識は必要条件ではない/言語刺激による行動制御/強化擬と弱化擬/「塵も積もれば山となる型」と「天災は忘れた頃にやってくる型」の随伴性/行動分析学についてよくある誤解

第三章
じぶん実験レポート――他人のじぶん実験に学ぶのじぶん実験の流れを読みとる/片付けられる女子になる/目指せ細マッチョ

第四章
じぶん実験の進め方%じぶん実験の進め方/標的行動の数え方/行動ではなくパフォーマンスとして標的を定義する/「遅刻」を解決する標的行動の探し方/行動変容の核心点を見つける/達成目標を見直す「なぜなぜ法」/測定方法の決め方/記録用紙の作成/測定は手間取らない方法を/目標値の設定とべースラインの測定/記録を視覚化する/傾向線を引いてデータを読む/測定誤差/随伴性ダイアグラムで原因を推定する/随伴性ダイアグラムを解釈する/原因推定と介入立案の早見表/早見表の読み方――行動が増えない理由/早見表の読み方――行動が減らない理由/ダイアグラムに早見表を当てはめる/介入の成功失敗を分けるカギ/随伴性を変える/社会的随伴性で介入計画の実行をサポートする/記録を視覚化し、評価する/因果関係を調べるには/再現と系統的再現/標的行動の妥当性を評価する/介入計画を改善する/じぶん実験からわかったことをまとめる

第五章
広い「じぶん実験」の適用範囲じぶん実験それぞれの物語/積年の癖を直す/改札をさっと抜ける/字を丁寧に書く、ネット中毒から脱却する/花嫁修業/試験勉強/二度寝を防ぐ、毎日、新聞を読む/スリーポイントシュートを練習する/読書少女、復活

あとがき
引用文献/参考文献/行動分析学の参考書
*M作
新井トレス研究所

島宗 理 (著)
出版社 : 筑摩書房 (2014/4/7)、出典:出版社HP

まえがき

現在、あなたはどの程度幸せですか。「とても幸せ」を一〇点、「とても不幸せ」を0点とすると、何点くらいになると思いますか。
これは内閣府が二〇〇九年から三年間実施した「国民生活選好度調査」の一項目です。読者の皆さまは、何点と回答するでしょう。ちなみに、二〇一一年度の平均値は六・四一でした。

OECD(経済協力開発機構)では、暮らしやすさの指標(Better Life Index)を作成し、加盟国を対象に調査を行い、一○点満点で点数化しています。指標は一一項目あり、それぞれいくつかのデータから算出されます。たとえば「教育」については、国民が教育を受ける年数の平均値、OECDが別途実施している学習到達度調査(PISA)における得点の平均値、高等学校を卒業した人の割合の三つのデータから計算されます。-一一の指標のうち、「生活の満足度」(Life Satisfaction)については、内閣府の調査と同様の質問に対する回答から得られたデータを集計しています。二〇一三年度の報告では、日本の平均値は六・○で、三六か国中二七位。上位三位はスイス(七・八)、ノルウェー(七・七)、ア3イスランド(七・六)です。-日本の「教育」はフィンランドに続いて二位ですし、「安全」では一位です。他の指標もそこそこのところに位置しているのに、幸せや生活の満足度について聞かれると、平均以下になるというのが興味深いです。もしかすると、日本人は幸せの自己申告ではとても謙虚なのかもしれません。

幸せって、何だっけ、何だっけ?うまい○○○のある家さ

明石家さんまさん出演で、一九八六年にヒットし、二〇〇九年にリバイバルしたキッコーマンのテレビコマーシャルです。○○○に入ることばを「ポン酢」と覚えているか、「しょうゆ」と覚えているかで年齢層がわかるそうです。単後、幸せを追い求めて頑張ってきた日本人ですが、高度経済成長も終わり、ふと気がつくと何が幸せなのか、何を追い求めて、たのかわからなくなる。そんな心の隙間をうまくつき、
オン酢や醤油で味付けした料理でほっとできる癖間があればそれで幸せなのかもと、心理台,溺れそうなところへ浮き輪を投げたような、上手な作りの作品です。

もっとも日本は八六年からバブル経済に突入するわけで、ポン酢で満足できるような状況ではなくなります。そしてこのCMがリバイバルする二〇〇九年の直前にはリーマンショックが起きていて、持ち直しそうだった景気が大幅に後退しました。経済と心理が錯綜する様子がわかります。

近年、幸福をテーマにした本がブームになっています。幸せとは何なのか、人はどのような条件で幸せと感じ、どのような条件で不幸せと感じるのかを明らかにする研究が、心理学や経済学、最近では脳科学においても、急速に進んでいます。住民の幸福度を測定し、その改善を目指して政策を実施しようとする国や地域も出てきています。

書店には自己啓発本のコーナーがあります。成功したい、人格を高めたい、人生をより充実させたいと願う人たちに、ひらめきや助言を提供する本が集められています。これまでこうした棚にあったのは著名人の自伝的な本や宗教関係の本、その他、あの手この手で「浮き輪」を投げる本がほとんどでした。これからもそうした本が本棚から消えることはないでしょう。けれど最近は、そうした本に交じって、心理学や経済学などの実証的な研究にもとづいて書かれた本も見られるようになってきました。自己啓発本に書かれていることをしている人は実際にはうまくいっていないことが多いといった研究成果が紹介されている本さえあります(リチャード・ワイズマン、木村博江訳『その科学が成功を決める』など)。

本書は自己啓発本ではありません。本書には幸せになる方法は書いてありませんし、本書を読んでも幸せにはなれません。本書が投げる浮き輪は、幸せになる方法の見つけ方です。何をもって幸せと感じるかは人それぞれです。心理学や経済学の研究からは、個人差があることと、どのくらいの人がどんなときにどのように感じるかがわかります。

たとえば、ボランティアや市民活動に参加することが幸せにつながる人がどのくらいいるか、参加することでどのくらい幸せ度が上がるのかは予測できます。ところが、こうした研究からは、私たち一人ひとりについてはわかりません。私の幸福度がボランティアに参加して上がるのかどうか、上がるとすればどのくらい上がるのかは、当然のことですが、私が実際にそうしてみないとわからないのです。

さらに重要なのは、幸福度の向上や維持にとって役に立つ活動は、ふつうに暮らしていると続けることが難しいことです。ボランティアに参加し続けること、家族や友人に親切にすること、将来に備えて貯金をすること、ピアノを習ったり、山歩きをするなど。

本当に「やりたい」と思っていることは、何かと先送りしてしまいがちなのが忙しい毎日に追われる現代人。何が自分の幸せにつながるかがわかったとしても、それをやり続けることの難しさから、結局は幸福度の停滞や低下につながってしまうのです。本書では、幸せになる方法を見つける「じぶん実験」をご紹介します。実験の方法や解釈については、行動分析学の考え方を用います。

行動分析学は心理学の一つで、目の前の行動をそのまま対象とし、行動を変える変数を実験によって探る方法論をもっています。他の多くの心理学とは異なり、何かができないときに、その原因を意志の弱さや能力のせいにはしないところに特徴があります。

私は大学で行動分析学を教えています。これまでに、一〇年以上、学部生や大学院生、ときには社会人を対象に、行動分析学を学びながら、課題としてじぶん実験をする授業をやってきました。こうして積み重ねられた実験レポートの数は数百にもなります。
授業の課題としての実験は、研究として行うものではありませんから、記録や手続きの信頼性は限定されます。それでも、これだけの数になると、自分の行動を対象に行う実験がどうすればうまくいくか、どんなときに失敗するかがわかってきます。

本書を読んで、興味をもっていただければ、ぜひご自分の幸せ探しに、じぶん実験をお試し下さい。
第一章と第二章は行動分析学の考え方やじぶん実験の説明です。第四章では、じぶん実験のやり方を解説しました。第三章と第五章は、わかりやすいように受講生を登場人物とした物語形式で、授業やじぶん。実験がどのように展開するのかを解説しました。物語はすべて、掲載に同意してくれた受講生のレポートにもとづいています(ただし、プライバシー保護のため、登場人物の名前や所属などはすべて架空のものとしてあります)。
とにかく「じぶん実験」をやってみたいという読者は、第三章以降を先に読んでしまうというのも手かもしれません。

島宗 理 (著)
出版社 : 筑摩書房 (2014/4/7)、出典:出版社HP