科研費のしくみと研究をめぐる状況

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科研費の解説書

本書は、現代の大学の研究になくてはならない研究費制度である、「科研費」の実際の制度運営に携わり、その仕組みを最もよく知る著者によって書かれた、解説書です。科研費制度についてはもちろん、日本の論文事情や女性研究者などの現状についても述べられているため、大学研究に関する知識を豊富に身につけることができます。

渡邊淳平 (著)
出版社 : 科学新聞社 (2016/5/18)、出典:出版社HP

はじめに

本書のタイトル『大学の研究者が知っておきたい科研費のしくみと研究をめぐる状況』を見て、少し上から目線に思われたかもしれません。本書は決してそういうものではありません。
筆者はこれまで,大学の研究に近いところで,国の行政側の立場で学術研究の振興にかかわる仕事をしてきました。科研費の制度も担当してきました。そうした中で,大学の先生方が,意外にも科研費のことや最近の大学の研究をめぐる様々な情報について知らないということに気がつきました。

政府はイノベーションによる日本の発展を目指しています。資源の乏しい日本にとって、科学の発展は,持続的な社会の成長のための最重要ポイントの1つであることは間違いありません。2015年には、赤崎勇、天野浩,中村修二の3先生が青色LED の発明でノーベル物理学賞を同時に受賞され, その翌年には大村智先生が感染症の予防に絶大な効力を有する化合物の発見でノーベル生理学・医学賞を受賞されました。これらは科学の発展が社会の発展に結びついていることを示す最も身近で典型的な例の1つといえましょう。
同じく、素粒子物理学の分野で梶田隆章先生がノーベル物理学賞を受賞されました。先生がおっしゃられたように,まさに「人類の知の地平線を拡大」するという自由な学問のすばらしさを示すものです。
日本人ほどノーベル賞が好きな国民はいないのかもしれませんが,いずれにしても,日本の科学研究のレベルの高さが認められたことについて,国民の多くが日本人として大きな誇りを感じていることは間違いないでしょう。

いろいろな意味で、大学における科学研究に対する期待が高まっていますが、その一方で、大学を取り巻く環境は厳しさを増しています。

科研費は、いまや大学で研究する者にとって,なくてはならない研究費制度です。ですから,研究者の皆さんに科研費の制度の考え方やよく考えられた審査のしくみについてもっとよく知っておいてもらいたいと思います。よく知ることで,科研費の制度をよりよいものにしていくことにもつながりますし,また,応募する側として科研費を獲得することにもつながるでしょう。 そうすることで,研究に割く時間を増やすことにもつながるでしょう。
そういう思いを込めて、日本の科学研究を支える科研費制度について,で きるだけわかりやすく紹介してみました。
また,現在の日本の科学研究を取り巻く論点のうち,論文の現状,世界の 研究費の状況,女性研究者のことなどについても簡単にまとめてみました。 こうした点についても,研究者自身がもう少し整理された知識として知っておいた方がよいのではないかと思ったからです。

外国との比較を含めて、なるべくわかりやすく記述したつもりですが,そのために説明が初歩的になり過ぎたり、逆にまだ説明が足りない点があるか もしれません。また,論点に対するとらえ方が不十分であったり、むしろ間違っているのではないかと思われる方もいらっしゃるかもしれません。そうした点については、皆さまからのご指摘をいただければありがたいくらいの気持ちもありますので,あらかじめご容赦いただけると幸いです。

渡邊淳平 (著)
出版社 : 科学新聞社 (2016/5/18)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1部 科研費のすべて
1章 日本の科学研究のごく大まかな姿
(1) 研究者の数
(2)研究の種類
(3) 研究費

2章 大学での研究を支える科研費
(1) 大学の研究費
(2) 科研費の応募・採択の状況
(3) 科研費の予算額
(4) 科研費の「研究種目」
(5)応募から審査,採択されるまで
(6) 審査システムを支える「日本学術振興会・学術システム研究センター」
(7)採択の結果を見ると
(8)研究の評価と報告

3章 米国の研究費制度と比べるとどうなのか
(1)応募数,採択率
(2) 大学別の配分状況
(3) 助成金の平均規模
(4) 審査のしくみ
(5)審査後の応募者に対する対応
(6)審査の改善のためのいくつかの取り組み

4章 科研費の使い勝手をよくする
(1)使いやすくするための様々な改善
(2)設備購入のための科研費の合算使用
(3) 科研費の基金化

5章 科研費の採択のためのヒント
(1) 基本的に頭に入れておくべきポイント
(2)情報を入手しましょう
(3) 審査と採点のルールを理解する
(4) そのほかのヒント

6章 科研費の研究成果
(1)研究の結果としての論文
(2) 論文のオープン・アクセス化
(3) 成果の社会への発信
(4) 研究成果と社会・経済の発展

第2部 研究をめぐる状況
7章 世界の論文を比較する
(1) 世界の論文の国別シェア
(2) 論文数と研究者数,科学技術予算との関係
(3) 日本企業による研究論文の激減
(4) 科研費による論文の状況
(5) 国立大学におけるデュアル・サポートの変化と論文への影響

8章 女性研究者をめぐる状況
(1)企業を含めた日本全体の女性研究者の現状
(2) 大学の職名別の女性教員比率
(3) 米国における分析
(4)博士課程修了者の進路(就職状況)
(5) 女性研究者を増やすための長期的な戦略

あとがき

渡邊淳平 (著)
出版社 : 科学新聞社 (2016/5/18)、出典:出版社HP