科研費 採択される3要素 第2版: アイデア・業績・見栄え

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新制度にも対応

採択件数トップを誇る著者が贈る、科研費についてよくわかる渾身の1冊です。科研費の新制度にしっかりと対応した内容になっています。審査委員の心をつかむコツがわかるので、科研費獲得のための指南書です。

郡 健二郎 (著)
出版社 : 医学書院; 第2版 (2017/7/3)、出典:出版社HP

著者紹介

郡 健二郎Kenjiro Kohri
公立大学法人 名古屋市立大学 理事長・学長

略歴
大阪府東大阪市生まれ, 1973年大阪大学医学部卒業, 東大阪市立中央病院泌尿器科, 近畿大学医学部講師, その間日本学術振興会特定国派遣研究員およびBritish Royal Societyとの交換研究員として南マンチェスター大学(英国)留学を経て, 1993年名古屋市立大学医学部教授, 同大学病院長(兼任), 同医学研究科長・医学部長(兼任), 2014年からは名古屋市立大学理事長・学長

受章歴紫綬褒章
受賞歴日本医師会医学賞, 中日新聞社中日文化賞, 東海テレビ文化賞, 杉田玄白賞, 日本泌尿器科学会坂口賞など

本書に関して, 著者の3つの特徴

1)研究外国人には採択率が厳しいとされるアメリカ泌尿器科学会で, 採択演題数が2年連続トップ10に取り上げられた.
2)人材育成教室員の受賞件数(学会および民間を通して)が, 教授在職中に約200件であることがマスコミなどで報じられた.
3)科研費)細目(泌尿器科)の中で, 2015年までの5年間の採択件数が全国1位であることが文部科学省ホームページで公表された.

科研費採択される3要素―アイデア・業績・見栄え
発行
2016年7月15日 第1版第1刷
2016年11月15日 第1版第4刷
2017年6月15日 第2版第1刷
2019年5月15日 第2版第3刷
著者 郡健二郎
発行者 株式会社医学書院
代表取締役 金原俊
〒113-8719東京都文京区本郷1-28-23
電話03-3817-5600(社内案内)
組版ビーコム印刷・製本日経印刷

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郡 健二郎 (著)
出版社 : 医学書院; 第2版 (2017/7/3)、出典:出版社HP

第2版を上梓するに至った理由を2つ述べ, 序といたします

1)深い感謝

昨年7月, 拙書を発刊しました.その後, 科研費の申請月を中心に8月から11月まで, 予想をはるかに超える多くの方々に拙書を手に取っていただきました.毎月増刷され, 一般新聞でも取り上げられ, 東大の本郷生協では毎週売上トップが続いたと教えていただきましたご愛顧いただいた皆さまに深く感謝申し上げます.
本年4月には, 「科研費に初めて採択された」, 「門外不出の資料が役立った」など, 丁重なるお礼状を多数いただきました.申請書を校閲させていただいた研究者のみならず, 直接存じ上げない研究者からのお便りには嬉しさと同時に, 責任の重さに身が引き締まる思いがいたしました.
各大学からの科研費セミナーの依頼には, 時間の許す限りお引き受けしました私がこれまで最も力点をおいている若手研究者の育成に, 少しでもお役に立ちたいとのボランティア精神からです.しかし日程が合わず, ご要望にお応えできなかった方々には, この書面でも深くお詫び申し上げます.
第2版を上梓するにあたっては, 皆さまからいただいた疑問点やご意見を参考にし, 初心に戻って出書を読み直しました.私が言いたい2つのこと, 「研究の大切さ」と「採択される申請書の条件」は, 私の拙い経験からではありますが, おおむね書き表せていると改めて確信いたしました.

2)平成30年度(平成29年9月申請)からの大幅な改定

平成30年度からは科研費の制度が大幅に改定されます.このことは昨年の初版時にもわかっていたので, その概要を初版に載せました第2版では, 正式に公表された主に2つの改定点を中心に, 第2章を全面的に改訂しました.
改定の内容は膨大なのでポイントのみを載せていますが, 文科省の原文をできる限り尊重したので, 格調高い文章になっています.
今回の科研費の改定にいかに対応し, 採択率を高めるかを, 第2章で述べました愚見をまとめていて感じたことは, 大幅な改定により, 研究者や科研費担当の事務の方々は若干の戸惑いはあるでしょうが, その戸惑いは1, 2年のことです, 科研費を採択されるために肝心要なのは「独創的で優れた研究をすること」と「採択される申請書を書くこと」で, それらは大幅改定でも変わらないことです.
最後に, 皆さんに留意していただきたいことを2つ述べます.

1つ目は, 第2章を全面的に改訂した直後の本年6月に, 文部科学省による説明会が行われ, 「応募書類の変更点」の概要が公表されたことですそれらは付録6(164頁)に坊物載せています.応募書類の変更点は, これまでのものと多少の違いはありますが, 出書の中で強調している申請書の書き方と変わるものではありません.とりわけ, 「研究目的」では「概要」が大切で, 「起承転結」の考えを基本にして, 誰にでもわかるように書くことです.今回の改定から推察されることをあえて言えば, 今後の審査方針は, 従来に比べ, 「業績」よりも「アイデア」が重視されるであろうことですこの方針は, 拙書でも述べてきたところと一致するもので, 「採択される3条件」の中でも最も重要なのは「アイデア」, 次いで「業績」, さらに「見栄え」があることです日頃の地道な研究が大切です.

2つ目は, 9月に正式に公表される「公募要領」を精読していただきたいことです.上記の6月の説明会でも言われていますが, さらに小さな改定がある可能性があるからです.いずれにしても例年に比べ少し早く準備をすることが「科研費に採択される4つ目の条件」かもしれません.

初版にてご執筆いただきました髙久史麿先生の「推薦のことば」と合田哲雄様の「発刊に寄せて」を, 第2版でも掲載させていただきました.お2人には改めて深く感謝申し上げます.
拙書にはすべてのことが書かれています.申請書を作成する時には参考書のようにして, 時間にゆとりのある時には読み物や教科書のようにして, 出書をご利用いただけると望外の喜びです.
採択されますことを心よりお祈りしながら.

2017年6月吉日
名古屋市立大学
郡健二郎

郡 健二郎 (著)
出版社 : 医学書院; 第2版 (2017/7/3)、出典:出版社HP

推薦のことば

このたび, 名古屋市立大学理事長・学長を務めておられる郡健二郎先生が執筆された『科研書採択される3要素—アイデア・業績・見栄え」の推薦文の執筆を本書の出版元である医学書院から依頼された.
郡先生は泌尿器科学を専門とされておられ, そのご業績に対して紫綬褒章をはじめ, 数々の賞を受賞されておられるが, そのなかに平成16年に受賞された, 「尿路結石症の病態解明と予防法への応用研究」と題する論文に対する日本医師会医学賞がある.私はそのとき, 日本医学会の会長として医学賞の選考に携わったが, この医学賞は日本医学会に加盟している基礎・社会・臨床のすべての分野の研究者から申請を受け, そのなかの3名だけに受賞が限られるので, 泌尿器系の先生が受賞されるのは珍しいことであった.そのため郡先生のことは私の記憶に強く残っていた.その郡先生が上記の題で200頁近い本をご自身で執筆されたことは私にとって大きな驚きであった.

この本は「研究の楽しさ, 美しさ」「科研費の制度を知る」「申請書の書き方」「見栄えをよくするポイント」の4章に分かれているが, 特に第3章の「申請書の書き方」では実際の申請書の執筆形式に沿う形で, それぞれの項目において基本的に注意すべき点(基本編)と, 実際にどのように書くか(実践編)について詳細に記載されており, 科研費を申請される方にとってきわめて有用かつ実用的な内容となっている.
また, 第4章の「見栄えをよくするポイント」についての記述には, 今まで数多くの科研費の審査にあたってきた私自身にとっても思い当たる点が数多くあり, 郡先生が本書で述べている科研費が採択される3要素の1つに「見栄え」をあげられた理由がよくわかった.私の経験では, 科研費の審査の際, どうしても申請内容の新規さと申請者の過去の業績に目が向きがちであったが, 考えてみると読みやすさも評価の大きなポイントであった.
2013年にあったディオバン事件を契機にして, 従来からあった企業からの奨学寄付金がかなり減額したと聞いている.また, 国立大学法人への運営費交付金も毎年減額されており, 研究者は文部科学省の科学研究費, AMEDからの科研費, 民間の研究助成財団からの研究費などを受けなければ研究ができない状況になっている.郡先生が第1章で書かれているように, わが国からの研究成果の発表論文数は減少しており, 中国に追い抜かされつつあるのが現状である.本書を精読することによって, 能力のある研究者が科研費をより多く受けられるようになることを期待している.したがって, 本書はわが国の医学の進歩にきわめて重要な役割を果たすと考えられ, 本書を出版された郡先生に心から敬意を表したい.
2016年6月
日本医学会会長
髙久 史麿

発刊に寄せて
2015年1月まで, 私は文部科学省研究振興局の学術研究助成課長として科研費を担当していた.周知のとおり, わが国最大の競争的資金である科研費の審査は, 私どものような重丸方の容除する余地のない完全なピアレビューによって行われており, 科研費が研究者の間でも社会においても最も信頼されている最大の理由となっているこのことに私自身, 大きな誇りを感じながら科研費を担当していた.

担当課長として科研費の審査に陪席していたある日, 1年間派遣されていたNSF(米国科学財団)での, あるプログラムオフィサーとした次の対話を思い出した.NSFには500人ほどのプログラムディレクター(PD)プログラムオフィサー(PO)がいるが, その約半分は大学からの「ローテーター」, 大学教員からの出向組だった私にとって不思議だったのは, 30代後半から40~50代の自然科学者がなぜ1~2年にわたって大学を離れるというリスクを背負ってまでNSFに来るのか, ということだった.そのことを, 私と同世代, 大学1年のときに北京大学の学生として天安門事件に遭遇し渡米, スタンフォードでPhDを取り30代でペンシルベニア州立大学のコンピュータサイエンスの教授になったうえでNSFのPOをしている若手の俊英に尋ねたことがあった.彼は, 「NSFのPOでいることは研究にとって決してマイナスではない. ペンステートのような有数の研究大学であっても研究室に1日座って得られる情報と, 新しいアイデアを抱えた研究者がどんどんやって来る. NSFで得られる情報とでは, 質・量ともに全然違うもちろん盗用するわけではないが, 研究者としてのインスピレーションが湧く」と言っていた, 研究費の審査がいかに創造的な仕事なのかを知った瞬間だった.

本書において郡学長が指摘なさっているとおり, 科研費の申請とは, 自分の研究上の「アイデア」を, ディシプリンに基づいた論理とフィージビリティ(「業績」)を明らかにしながら, 専門分野や実績, 経験の異なる第三者にわかりやすく(「見栄え」)アピールし, 学術研究上の新規性, 卓越性のみをルールとする土俵で存分に競い合うある種のコミュニケーションであり, そこからさらに新たなアイデアが創発される創造的な営為にほかならないだからこそ, 本書は, 若い研究者に研究の楽しさ美しさを知ってもらいたい. わが国の研究力を高めたいという郡学長の思いに満ちている.

本書が1つの契機となって, 多くの研究者が自らのアイデアを冷静にメタレベルで捉え直したうえで分かりやすく表現し, 研究者同士や社会とのコミュニケーションを通して, さらにアイデアが触発されるという「知の循環」が一層盛んになり, わが国の研究力が強くしなやかになることを心から期待している.また, 現在私は小・中・高校のカリキュラムを担当しているが, この「知の循環」のなかで輝く研究者の姿は, 子供たちにとって大切なロールモデルであると痛感している次第である.

2016年6月
文部科学省初等中等教育局教育課程課長
合田 哲雄

郡 健二郎 (著)
出版社 : 医学書院; 第2版 (2017/7/3)、出典:出版社HP

初版序

本書を執筆するきっかけになった4つの理由をお話しし, 序といたします.

1)私が持っている「科研費」のすべてを伝えたい

一昨年秋, 文部科学省(以下, 文科省)は, 科研費の獲得件数を細目別にみた大学ランキング上位10校を公表しましたその公表を知ったのは, 当時文科省の科研費を担当する課の課長だった合田哲雄さんの「名市大の泌尿器科は, 獲得件数が突出して多いですね」との話からでした.
その後, 私のもとに, 「申請書をみてほしい」, 「書き方のセミナーをしてほしい」などの依頼を, 学内外のみならず, 私の専門外からもいただきました.昨年夏から秋にかけては, 土, 日曜日を含め空いている時間はそれらに割きました.

そんな折, セミナーを聴講された先生方からは, 「他の人も聞きたかったでしょうね」との過分な話や, セミナーの準備をしていただいた秘書さんからは, 「本を書いたらどうですか」といった, 来年も同じことをするのか, とも聞こえるような話に後押しされ, 執筆に至りました.
なお, この4月には, 昨年申請書を見せていただいた大学や研究者から嬉しいお便りをたくさんいただきました教育者冥利に尽きます.
本書の内容は, 私の長年の経験と知識・知恵の集大成です.持てるものをすべて書き込んだつもりです.
教授時代には, 毎年20名余りの申請書を1人数回にわたって完成するまでアドバイスしました.当初は, 申請書の体裁をなしていなかったものが大半でしたが, 毎年同じことを繰り返すたびに, 私の補助をする人材が次々に育ちました.
大学や学会でも「科研費申請書の書き方」の講演を何回かにわたってしましたそのあとには決まって「私の申請書が採択されなかったのはどこが悪いのでしょうか」と熱心な方が尋ねに来られました.そのような方の申請書からは, 反面教師のようにして学ぶことが多かったように思います.

泌尿器科学分野における科研費の新規採択累計数上位10校(2010~2014年)

順位 大学名 累計数
1 名古屋市立大学 78.5
2 K大学 39
3 K大学 27.5
4 O大学 27
5 O大学 23
6 T大学 20
7 Y大学 17
8 F大学 17
9 A大学 16.5
10 K大学 16
[日本学術振興会より]

2)若い人に「研究の楽しさ, 美しさ」を知ってもらうことで, 応援したい

このようにして, 多くの申請書を見せていただいて気付いたことは, 若い研究者は優秀で研究熱心だが, 「基本」が身についていないことです.時には, このようなことで論文の作成や研究の遂行は大丈夫だろうかと心配になることがありました.
「研究のおもしろさを申請書に書ききれていませんね」とか, 「読む気になる申請書に書き変えましょう」などと話すことは多かったのです.しかし, それらの問題点はテクニックである程度直すことができます.
問題なのは, 「その研究をなぜ始めたのですか」, 「オリジナリティは何ですか」, 「その研究はどんなことに役立つのですか」といった質問をついしてしまう申請書が多かったことです.

多分, そのような方々は, 「研究の楽しさ, 美しさ」を知ることがないので, 独創性や発展性は生まれず, 心ときめかす研究生活は得られないことだろうと思います.
そこで本書では, 「申請書の書き方のコツ」(第3, 4章)を話すだけでなく, 「研究の楽しさ, 美しさ」や「研究サイクル」の大切さを知っていただきたく, 私の考えを第1章に力を込めて書きました.

3)わが国の研究力を高めたい

わが国の研究力が諸外国に比べ低下していることが, 最近問題になっています.本書でも, この点については第1章で触れています.
学会や学術雑誌が増えたにもかかわらず, 「聞きたい, 読みたい」と思う論文が逆に少なくなっているのはなぜでしょう.その理由の1つは, それらの論文は似たような内容が多く, 新規性や独創性が乏しいからだと思います.
昨今, 研究成果を早急に求められているためか, 研究時間が少なくなっているためか, ハングリー精神が薄れ大きな目標を見失っているためか, いずれにしてもじっくり考えながら研究をする人が少なくなっているように思えます.
本書では, このようなことを改善したいとの強い思いで, 執筆をしました.

4)危ない科研費を守りたい

前述の文科省の合田課長さんは, なぜ「科研費大学ランキング」を公表されたのでしょうか?
公表された当時は, 国家プロジェクトとしたAMEDなどの大型研究資金に研究費を集中させる動きがあり(今もあります), その財源として科研費の二千数百億円がターゲットになったように思います.その動きを阻止するのが「大学ランキング」の公表で, 細目(専門分野)によっては, 地方大学や中小規模の大学のなかにも「キラリと輝く研究」があることを, 文科省は示したかったのでしょう.
その取り組みが功を奏してか, 小さな研究を支援するムードが高まり, 科研費予算はギリギリの線で守られました.私は, 文科省のこの取り組みに敬意を表しています.
研究費は, 基盤的経費と競争的研究資金とに大別されます.基盤的経費の代表格は科研費と運営費交付金です.昨今, 基盤的経費が減り続け, 競争的研究資金を獲得しなければ, 研究はおろか教育にも支障が出始めています.この動きは, 大学間の格差をさらに増長させています(キラリと輝く申請書17-134頁).
このような偏在により, すぐれた人材が潤沢な研究費がある研究施設に集中するようになり, 研究成果には研究者の能力や努力だけでは語りきれない格差が生じている一因になっています.その結果, 地方大学や中小の大学では, 基盤的経費で行われてきた裾野の広い独創性に富んだ研究が激減していることが指摘されています.
特化した研究を推進することは不可欠で, 本学でも同様の方針で研究支援をしています.一方, 次世代を担う若手研究者の育成や, 大型研究ではないがユニークな研究を支援することは重要です.それらには基盤となる研究費が必要なのです.
社会から「科研費はもっと必要だ」と言われるためには, あなた方若い世代が, 科研費を用いて独創的な社会に役立つ研究を世界に発信することだと思います.そのようなことも念頭におき, 本書を執筆しました.

謝辞

本書の出版に当たっては, 「郡との二人三脚で, 自分にとっても代表作となる書籍を作りたい」との思いでご尽力いただいた医学書院の渡辺一さん, 科研費申請書を本書の具体例として快く提供していただいた先生方, そしてご協力いただいた秘書生駒桂子さん, 河村千尋さん, 早川喜代さん, 市川教子さんにこの場をお借りして深く感謝申し上げます.

2016年6月吉日
名古屋市立大学
郡健二郎

郡 健二郎 (著)
出版社 : 医学書院; 第2版 (2017/7/3)、出典:出版社HP

目次


推薦のこと
発刊に寄せて
初版序
本書の特色と使い方
科研費を申請する前のチェックリスト

第1章 研究の楽しさ, 美しさ
1 科研費が採択される3つの要素「アイデア・業績・見栄え」
2 「研究の楽しさ, 美しさ」を知っていただきたい
3 なぜわが国の研究は停滞しているのか?
4 すぐれた研究をするための12の条件
5 なぜ申請書を書くのか?

第2章 科研費の制度を知る
1 科研費の制度が, 平成30年度(平成29年9月申請時)から大阪に改定
2 申請時の「審査区分」と「審査方式」の抜本的な改革
3 「若手研究」と「挑戦的萌芽研究」の大幅な見直し
4 採択率と充足率のバランス
5 新制度への改定について思うこと.

第3章 申請書の書き方
A 研究課題
I基本編
1 「研究課題」の申請書における位置づけ
2 「研究課題」を書くコツと落とし穴
Ⅱ実践編
B 研究目的1(概要)
Ⅰ 基本編
1 研究目的(概要)は, 論文のabstractと同じである
2 概要の書き方の基本型は, 「起承転結」である
3 「起承転結」で何をどのように書くか
4 「起承転結」の分量とそれぞれの配分
5 「概要」の書き方に慣れるまでのコツ
6 その他の留意点
Ⅱ 実践編
1 実例から学ぶ:その前に7つの留意点
C 研究目的2(学術的背景, 研究動向, 着想までの経緯など)
Ⅰ基本編
1 「研究目的で審査評価は決まる」との思いで書く
2 「研究目的」を書くコツと落とし穴
Ⅱ実践編
1 「学術的背景([1]本研究に関連する国内外の動向および位置づけ)」の書き方
2 「学術的背景([2]これまでの研究成果を踏まえた着想)」の書き方
3 「研究期間内に何をどこまで明らかにするのか」の書き方
4 [①本研究の学術的な特色・独創的な点, ②予想される結果, ③意義, 将来性」の書き方
5 「研究目的」に書く4つの項目の配分比率
6 「研究目的」における文献の書き方
7 「見栄え」をよくするために

D 研究計画・方法
Ⅰ基本編
1 「研究計画・方法」の申請書における位置づけ
Ⅱ実践編
1 「研究計画」を書くコツと落とし穴
E 準備状況および研究成果を社会・国民に発信する方法
Ⅰ基本編
1 書く前の注意点
2 本研究を実施するために使用する研究施設・設備・研究資料など, 現在の研究環境の状況
3 研究分担者(若手研究では研究協力者)がいる場合には, その者との連絡調整状況など, 研究着手に向けての状況(連携研究者および研究協力者がいる場合も必要に応じて記述)
4 本研究の研究成果を社会・国民に発信する方法など
Ⅱ実践編
1 書き方の実例
F 研究業績
Ⅰ基本編
1 「研究業績」は科研費が採択される第一歩である
2 書き方のポイント
3 重要な変更点
4 あなたの研究業績が少ないときにどうするか?
Ⅱ実践編
1 書き方の実例
G これまでに受けた研究費とその成果等
Ⅰ基本編
1 書き方のポイント
Ⅱ実践編
1 書き方の実例
H 人権の保護および法令等の遵守への対応
Ⅰ基本編
1 研究をする前に研究倫理を見直す
Ⅱ実践編)
1 書く対象と書き方の実例
I 研究経費の妥当性・必要性
Ⅰ基本編
Ⅱ実践編
J 研究経費(設備備品費, 消耗品費, 旅費等)
Ⅰ基本編
Ⅱ実践編
1 設備備品費の書き方とその実例
2 消耗品費の書き方とその実例
3 旅費, 人件費・謝金, その他の書き方とその実例
K 研究費の応募・受け入れ等の状況・エフォート

第4章 見栄えをよくするポイント
Ⅰ基本編
1 「見栄え」は「採択される3要素」の1つである
2 なぜ, 業績があり, 先端研究なのに採択されないのか?
Ⅱ実践編
1 余裕のスペースを作る
2 すっきりした申請書にする
3 図表を用いる
4 わかりやすい文章のコツ:「流れのある文章」を書く
5 申請書全体のレイアウトを見直す

付録
①申請書を引き立てる表現
②文の接続に有用な表現
③科研費の第1段審査(書面審査)における評定基準
④予算額等の推移
⑤問い合わせ先等
⑥新たな応募書類(研究計画調書)

キラリと輝く申請書

1. 先生, どうして科研費の採択が多いのですか?
2. 私のよき共同研究者
3. 「私の恩人:2人のK先生」「人に支えられ, 人を育て人に尽くす」
4. 研究するのに必要な費用は?
5. 「研究サイクル」:正か負か, それが問題だ
6. 研究種目「若手研究」に思うこと
7. どの研究種目, どの区分に申請するのが有利か
8. 応募書類を修正しながら思うこと—科研費事務担当者より①
9. 1つ上の科研費にアタックしよう
10. とにかくお願い—科研費事務担当者より②
11. 「起承転結」こそ科研費の採択を左右する
12. 0.9×0.9×0.9×0.9の原則
13. パラグラフ・ライティングの書き方とは?
14. 独創性ある研究
15. 自己アピールはどの程度するか
16. 熱意こそ採択への道
17. 研究費に思うこと(その1):研究費にも「格差社会」がある
18. 申請書を書き終わったところで, もう一度(その1)
19. 申請書を書き終わったところで, もう一度(その2)
20. 研究費に思うこと(その2);研究費に格差をきたしている他の原因とは
21. 研究費に思うこと(その3):科研費の必要性を, 研究成果で示そう

郡 健二郎 (著)
出版社 : 医学書院; 第2版 (2017/7/3)、出典:出版社HP

本書の特色と使い方

1)「科研費が採択される3つの要素(アイデア・業績・見栄え)」のすべてを会得できるように使ってください
本書では, これら3要素を4つの章, 付録, 「科研費を申請する前のチェックリスト」で説明しています.
皆さんは, 「申請書の書き方のコツ」すなわち“見栄え”を早く会得したいと思われることでしょう.それらは第3章, 第4章にしっかり書きました.しかし, 科研費が採択されるには「アイデアと業績」がより重要で, それらは第1章に「研究の楽しさ, 美しさ」として書いています, 時間の余裕があるときに必ず通読してください.新たな「アイデア」が生まれ, 「業績」が積み重なるきっかけになるものと確信しています

2)本書の構成は, 4つの章, 科研費を申請する前のチェックリスト, 付録, コラムからなります
各章では, まず初めにPointを設け, 章のエッセンスを書きました.大切なことばかりです.各章の目次の働きもしています.それらに目を通すと「その章の流れ」がわかると思います.
Pointに続き, 第3章と第4章では, 「基本編」があり, 申請書の書き方の基本事項を説明しています.その後には「実践編」で, 紙面の許すかぎり多くの具体例を示しています.
Before, Afterの形式(一部はHop, Step, Jumpの形式)をとり, 多くの研究者が陥りやすい落とし穴を赤字で示し, それらを改善するコツを丁寧に書きました.
ここでお断りしたいのは, ①具体例にある, 申請書の内容, 氏名, 年月などはすべて本書に向けて加筆修正したものであること, ②重複した記述はあえてしたもので, それらは特に重要であることです.

3)付録, コラム「キラリと輝く申請書」には, 非常に重要なインフォメーションがあります
通常の書物では, 「付録」は付け足しの感があり, 「コラム」はコーヒーブレイクの働きをしていることが多いようです, 本書の付録とコラムは, 本文の中には書ききれなかった内容を示しています, 科研費を獲得する上において非常に有益なインフォメーションを, 力を込めて書きました.
付録は6項目からなります, 特に有益なのは, 「付録1 申請書を引き立てる表現」, 「付録2文の接続に有用な表現」, 「付録3 科研費の第1段審査(書面審査)における評定基準」の3つです.付録1, 2については, これまでの集大成で, 門外不出としていたものです.これらを上手に用いれば, あなたのよき味方になることでしょう
コラムの名前は「キラリと輝く申請書」としました「キラリと輝く研究」(初版の序を参照)をあなたにしていただきたいとの思いからです20余りのコラムの中で, 2つは科研費を担当している本学事務によるもの, 残りは私からのアドバイスです.あなたがアイデアに富んだ研究をし, 採択される申請書を書くためのものです
これらのことから, 付録とコラムについては, 目次の中にタイトルと掲載頁を明確に示しています.

4)「科研費を申請する前のチェックリスト」も門外不出の資料です
「本書の特色と使い方」のあとには, 「科研費を申請する前のチェックリスト(以下, チェックリスト)」を載せています本文の前なので, 見落とさないでください
チェックリストは, 私たちが長年にわたってブラッシュアップして作り上げた資料です門外不出の大切な資料ですが, 本書のために用いることにしました.申請書を書き上げるとホッとするものですが, その時にチェックリストを用いると, 独りよがりになっていた書き方に気づき, 科研費が採択されたケースがしばしばありました.
チェックリストは, 使い勝手がよいように4頁にまとめています本書のエッセンスを集約したものです.研究をする上においても, 申請書を書く上においてもあなたの味方です.
チェックリストの項目を流し読みするだけで, 私の言いたいポイントが具体的に言えるようになると, あなたの科研費のレベルは, 免許皆伝の境地です.例えば, 「なぜ申請書を書くのか?」「研究サイクルとは何か?」, 「320文字の世界とは?」, 「起承転結の書き方とは?」, 「見栄えのよい申請書のコツを20挙げなさい」などです.
チェックリストには, □□が付いています.それらの使い方は2通りあります.1つ目は, 1回のチェックでは不十分なので, チェックを2回するためのもので, 2つ目は, 指導者とあなたが用いるためのものです.
最初のうちは, チェックリストの項目は多いので, 申請書を書き上げたあとにチェックリストを用いて申請書を見直すことは並大抵ではありません.しかし, 私の周りの研究者はチェックリストの恩恵を受けてきたので, あなたにもお勧めします.
申請書を書き上げたあとにすることは2つ翌日声を出して読み返すこと(キラリと輝く申請書18 138頁)と, チェックリストを用いることです.その熱意が科研費獲得への道です.

5)本書は, 「教科書と参考書」の2通りの使い方をしてください
教科書としては, 一度はすべてを読み流してしてください.本書の内容は, 仔細な点まで多岐にわたり示した濃いものだと思います.できる限り平易な文章で, 「ですます調」で書いていますので, 一気に読むことができるでしょう.特に第1章を読んでください.
参考書としては, 申請書を書くときは, 本書を横におき, 首っ引きになって参照してください, 特に実践編の実例と第4章の「見栄え」のポイント, 付録1, 2を照らし合わせながら申請書を完成させてください.
もう1つ大切な使い方は, 提出前には, 必ず科研費を申請する前のチェックリストxxiiを用いて, 申請書を見直すことです.

6)本書の主たる対象は, 若手研究, 基盤研究(C)の申請者, そして事務・URAの方々です
これらの読者を常に頭に描きながら執筆しました.加えて, 熟達したベテラン研究者にも, 申請書を見つめ直す機会となり, 若手研究者への研究ならびに人生のご指導に役立てていただければ幸いでございます.なお本書について, お気づきの点がございましたらご指摘いただければと存じます(再掲 10)
読者としてもう一人意識したのは, 事務およびリサーチ・アドミニストレーター(以下, URA)の方々です, 科研費の採択率を高めるには事務やURAの力が必須です.事務の方々が科研費に関心をもち, 知識を深め, 研究者に適切なアドバイスとサポートをすることが科研費採択への王道だと思います.
本学でも, 一昔前までは, 事務の方々の科研費に対する意欲が薄く, つまらないミスが多かったのですが, 中心となる人が1人誕生すると, そのあとは次々に科研費に精通した事務のエキスパートが生まれました
最近では, 多くの大学にURAがおられ, 科研費申請のアドバイスとサポートをされていますURAの熱意と能力で採択率は大きく変化するものです.

7)本書の対象は, 医学のみならず薬学, 歯学, 看護学, 農学, 工学などの研究者です
私の専門が医学であることから, 本書で示した実例や文言は医学関係が多くなっています.できる限り幅広い領域の研究者に出書を使っていただきたいとの思いで執筆しましたが, どうしてもやむを得ないことで申し訳なく思っています.しかし, 研究の考え方や, 申請書の書き方の基本は, 領域に関係なく共通していると思います, 科研費が採択される3要素も, 領域に関係なく「アイデア・業績・見栄え」だろうと思います.
研究室に1冊, 拙書をおいていただき, 愛読書になり, 手あかにまみれることを願っています.

8)本書の内容は, 科研費だけでなく, 論文作成, 学会抄録にも応用できます
学会抄録のなかには, 読む気にならないものがあります.その理由は, 内容にオリジナリティがないこと, 画一化した書き方であること, 論理性がないこと, などが考えられます.タイトルに工夫がないので引きつけられず, 最初と最後の12行を読むだけで抄録の内容が推測できるものがあります. それらの抄録は内容も書き方もパターン化しているためでしょう.本書をマスターして, 他にはないひと味違う学会抄録を書いてください.論文作成は, 出版社からの一定の指示があるので, 独自性のある表現を醸し出すことは難しいと思います.ただ言えることは, 論文作成で共通して大切なことは, 独自性・新規性・発展性のある内容を, 論理的に(多くは「起承転結」で), 簡潔に書くことです.それらは本書に流れる基本的な考え方です.

9)本書はあくまでも基本型です.あなたのオリジナルな書き方を生み出してください.
それにあたっては, あなた個人だけでなく, グループや大学(事務, URA)と一体となって, まず研究力を高めること, それをもとに申請書の書き方のコツを磨き上げることだと思います.つまり「研究サイクル」を実行させることです(第1章2016頁)でなければ, どの申請書も同じスタイルの無味乾燥なものになってしまいます.
本書を手に取っていただいた時点がスタートです.皆さんは, 独創性ある研究をされ, 魅力ある申請書を書くなかで, 本書を(改変して)ブラッシュアップしてください.ゴールはいつまでもありません.
初版の序において, 私の教授時代には長年の積み重ねにより, 申請書の書き方を後輩に指導できる人が複数育った話をしました.その方々は研究業績もすぐれ, 若手の指導にも熱心です.
ただ心配なのは, 同じことを受け継いでいるのでは, マンネリになることです, 審査委員を経験されたある先生が, 「郡先生のところの申請書は素晴らしい, でも同じパターンですね.勉強になったので教室員に教えました」と話されました, 的を射たこの指摘は重要です.たえずオリジナリティをもって進化せねばなりません.このことは, 組織や社会が常に変革をせねばならないことと同じです.

10)本書に対するご意見を医学書院までお寄せください
本書に対するご意見を是非お聞かせください, これからの参考にさせていただきます.
本書があなたの研究と申請書作成に多少なりともお役に立ち, あなたの科研費が採択されますことを心より願っています.
また本書が皆さんにとって末永く愛読書になることができれば望外の幸せです.

郡 健二郎 (著)
出版社 : 医学書院; 第2版 (2017/7/3)、出典:出版社HP