いかにして研究費を獲得するか 採択される申請書の書き方

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目からウロコの内容が満載

本書は、アメリカの二人の学者が書いた本を和訳したものです。そのため、競争的研究資金を獲得するための申請書作成のノウハウが、よりグローバルな視点から述べられています。本書を通して、研究者たちは自身の研究の質と、それを実施できる能力を効果的に伝える方法を学ぶことができます。

Gerard M. Crawley (著), Eoin O’Sullivan (著), 尾崎 幸洋 (監修), 櫻井 香織 (翻訳)
出版社 : 化学同人 (2017/4/7)、出典:出版社HP

The Grant Writer’s Handbook
How to Write a Research Proposal and Succeed

Gerard M Crawley (University of South Carolina, USA) &
Eoin O’Sullivan (University of Cambridge, UK)

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Japanese translation right Hs arranged with Imperial College Press, United Amu
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序文

William C. Harris
(Science Foundation Ireland 創設理事長)

「知識集約型」経済が確立している国であれ,多くの新興国であれ,世界中で研究と高等教育への投資は急増しています。国際的競争力のある研究およびイノベーション体制を構築するための要はピアレビュー,つまり独立した専門家による審査に基づく研究助成事業の確立です。研究者は自らの研究の質とそれを実施できる能力の両方を,レビュワーに効果的に伝える方法を学ぶ必要があります。また、新たな研究投資の原動力の一部は経済における生産性の向上と経済成長を刺激する政策によるものなので、研究者は自らの研究がもつ価値について、産業や経済への波及効果という点でますます説明を求められるでしょう。

研究を社会(国の安全保障,医療の進歩,新企業,雇用)に結びつけることは、Vannevar Bush の1945年の報告書,“Science -The Endless Frontier” の根本でした。その報告書はいまもあらゆる国において、経済の安定と国家安全保障に政府機関が投資する根拠として最も強力で有効とされています. Bush 報告はScience Foundation Ireland(SFI)の創設の枠組みともなっています.その初期投資の一つとして、この財団が戦略的優先領域としていたバイオテクノロジー(BIO)と情報通信技術(ICT)以外の領域で重要なアイデアを支援する研究フロンティア計画が策定されたことを、ぜひ知っておいていただきたいと思います。Bush報告のなかの「フロンティア」という言葉を借りて計画名がつきました。

ここで強調したいのは,本書『いかにして研究費を獲得するか」の著者らがSFIの設立に重要な役割を果たし,21世紀の研究助成組織に欠かせない。的なピアレビュー制度の構築を助けてきたことです。著者らの経験とそのたんで直に得てきた知識とユーモアが本書のそこかしこに織り込まれています。現代の諸国にとってこれほど重要な意味をもつ論説を楽しく読めることはめったにないでしょう。実際のところ,このCrawleyとO’sullivanの著書は “Science — The Endless Frontier,” the US National Science Foundation (NSF), SFI, そして the European Research Council にルーツがある研究助成プロセスの進化の経緯を表しています。本書は,競争的研究資金の交付を受けているトップクラスの研究者くらいしか理解していそうにないたいへん重要な話題を身近なものにしています。また本書は,「研究費獲得の必須事項を理解したい」,「無駄と機会の損失は絶対避けたい」という断固たる考えをもっている若手研究者や各国政府の政策立案者にとってもおもしろい必読書です.国としては、ロースキルローコストの生産活動を,高度な研究能力とイノベーション能力を必要とする知識集約度の高い活動へと移行させるにはどうすればよいのでしょうか、世界に通用する教育制度を目指すことへの投資は間違いなく必須です。また国内で競争力のある質の高い研究を奨励するとともに,研究者と国内外の企業との相互作用を促進し、国家のイノベーション能力を向上させる必要があります。国際的な企業にとって、優れた教育制度と生産的な研究コミュニティをもっている国はたいへん魅力的です。さらに、その国のビジネスにコスト競争力があれば一層魅力が増します。

世界は過去20年間に大きく様変わりしましたが,慧眼なリーダーは、高度な技術のいらない製造業中心の国から、時代の最先端の仕事と高収入の雇用のある国への変革と成長を実現できます。アイルランドは、その変革の歴史と規模,さらには変革を成功させたことを考えると、いまもなお変革の実現方法を理解するのに理想的な事例だといえるでしょう。つまり、ほどよい大きさの国であるアイルランドは、何が必須で何がうまくいくかを理解しやすく、しかも、適度に複雑で、もっと大きな国が学ぶのにも適しているのです.SFIを設立し→2001年当時,取り組むべきことの大きさと必要とされる文化的変容を考えると、この改革にはおそらく10年はかかるだろう,と私たちは政府に進言しました。SFIに全力を注いで10年経った2011年,アイルランドはIBM研究センターの本拠地になりました。SFIとアイルランドは,戦略的な重点を設定することがいかに重要であるか,強力な研究助成制度からどう経済的価値をうみだすかに関する「ケーススタディ」となりますが,本書の各章に書かれている内容を吟味することも必要でしょう(6章,7章など).

知識集約度の高い経済にうまく移行できた国のなかには,国内で行われる研究の質を改善したところがあります.しかし,これには大学の機能のしかたを変革することが,少なくとも工学・科学の分野で必要でした。真の業績評価指標と真のパートナーシップに対する新たなアプローチが不可欠でした.研究への投資は、研究と高等教育を理解し,しかも産業界に信頼されている専門家によって細心の注意を払って管理されなければなりません、うまく機能する産学連携を確立し、経済の発展を促すためには、SFIのような独立した機関が絶対に必要です。つまり、各関係者を評価し,各関係者が結果に責任をもち,誇大宣伝をしないようにするには,仲介組織が欠かせません。

著者らは、ピアレビューで審査される競争的研究資金を申請しようとする研究者のために必読の「ハウツー」本を提供することに成功しました.本書には,競争の激しいピアレビューの伝統をもつ国と,これからそのプロセスが始まろうとしている国の両方で、著者ら自身が審査を行い,とりまとめた経験が活かされています.また,各国の研究者仲間が鋭い見識とアドバイスをわかち合う形で本書に協力しています。優れた成功事例,よくある失敗例,レビュワーのコメントも多数収められているので著者らが指摘しているポイントがわかりやすくなっています。

本書は駆けだしの研究者にとって何より価値のある本です。しかし国外のレビュワーによるピアレビューをあまり経験したことがない場合には少し経験を積んだ研究者や技術者にとっても,とくに有用でしょう.本書の主眼は科学技術分野の助成金の申請にありますが,本書の貴重な内容はほかのさまざまな分野にも通じるでしょう.
もう一つ指摘しておきたいことがあります。本書は,採択される助成金申請書の書き方ガイドであると同時に,研究をうまく遂行するためのベストプラクティス,すなわち最良の実践方法についても貴重なアドバイスをたくさん含んでいます。人の管理,予算の管理,定期的なコミュニケーションの奨励,研究分野の進歩に常に明るい状態でいること,学際的な研究活動に対してオープンな態度でいることなどについてのアドバイスがあります。申請書の作成準備についての章はどれも,若手研究者が(おそらくちょっと先輩の研究者も)これから優れた科学研究を実践し続けていく参考となるでしょう.

本書は、これから研究助成のための組織を設立する国の研究機関の職員にも役立つはずです。ピアレビュー審査をとりまとめた経験に乏しいこういった研究機関の職員の多くは、本書に収められた深い見識の恩恵を受けるでしょう.そしてこれが大切なのですが、早い段階でかなりのキャリアを積んだ経験者を同僚として巻き込むことで、つまずかずに済むでしょう。

本書は、所属する研究者に研究助成機関への申請書の提出を奨励する責任がある大学や研究機関の運営管理者にも役立つでしょう.助成機関がいま、国外のレビュワーを用いる競争的ビアレビュー審査のプロセスを採用しようとしている場合にはとくにそうでしょう。また、21世紀に大学のシステムを一段と競争力の高いものに移行させることや、国の発展のためにはどういう仕事のしかたを新たにしていけばいいのかを真剣に考えている国家政策の立案者にとっても、本書は必読書になるはずです。本書は、いままさに求められている待望の書です。

Gerard M. Crawley (著), Eoin O’Sullivan (著), 尾崎 幸洋 (監修), 櫻井 香織 (翻訳)
出版社 : 化学同人 (2017/4/7)、出典:出版社HP

謝辞

本書の執筆にあたり,レビュワーとして,助成金応募書類の書き手として,あるいはその両方として,30分を超えるインタビューに快く応じてご経験を語って下さった方がた,各章の原稿に目を通してご意見をくださった方がた,ご自身の申請書の一部使用や,実際の審査結果を一部変更した事例の使用を許諾してくださった方がたに深く感謝申し上げます.
ご多忙な中で公私にわたり協力していただいた方がたは次の通りです(アルファベット順,敬称略).
Kamal Abdali(計算機科学), Swann Adams(公衆衛生), Claudia Benitez-Nelson(海洋科学), Frank Berger(生物学・医 学), Anthony Boccanfuso(化学), James Burch(公衆衛生・疫学), Ronan Daly(ナノテ クノロジー), Michael Felder (遺伝学), Joseph Finck(物理学), Stephaine Frimer(教育), Frank Gannon(生物学), Giorgia Giardina(工学), Charles Glashausser(物理学), Bill Harris(化学), Thomas Healy(化学), James Hebert(公衆衛生・疫学), Richard Hirsh(計算機科学), Rory Jordan(物理 学), Ohad Kammar(計算機科学), James Kellogg(地質科学), Mary Kelly (生物学), Peter Kennedy(工学), Scott Little(化学), Graham Love(生 物学), Aisling McEvoy(材料科学), Timothy Mousseau(環境科学),尾崎 幸洋(化学), Daniel Reger(化学), Roger Sawyer(生物学), Shirley Scott (教育・人文科学), Susan Steck(公衆衛生学), Marko Tainio(疫学・環 境衛生学), Michael Thoennessen(物理学), Vicki Vance(遺伝学), Alan Waldman(生物学), Ken Wilson(経済学), Jennifer Yip(公衆衛生学).
家族の協力と助言にも助けられました。みんな、ありがとう

監訳者序文

本書の著者の一人であるGerard M. Crawley博士は、アメリカ物理学会の核物理学部門のchairも務めた著名な学者である。エネルギーも彼の重要な研究テーマで、“World Scientific Handbook of Energy” (World Scientific Publishing Company, 2013)などの著書もある. Crawley博士は物理学者として研究の第一線に立ちながら,長年,科学技術行政に関わってきた。たとえば本国のアメリカではNational Science Foundation(NSF)の物理部門の責任者 Director of the Physics Division や核物理プログラムのプログラムオ フィサーなどを務めた。またアイルランドでは the Director of the Frontiers Engineering and Science Directorate of Science Foundation Irelandを務め,アイルランドの科学技術の発展に大きく貢献している。さらにアラブ首長国やカザフスタンでもそれぞれの国の科学技術政策のアドバイザーとして活躍した。どこの国にも目を向ける非常な国際人であると同時に優しい人柄のもち主である。

私が同博士と知り合ったのは、ともにカザフスタンの科学技術の評価委員を「務めたときである。彼の強いリーダーシップと科学技術の発展に関するさまざまな卓見と熱意には強く心を打たれた、その後も同博士との交誼は続いているが、3年ほど前に「研究費の獲得に関する本を書くので、手伝ってほしい」といわれた、私の仕事はすべての原稿に目を通してコメントを与えること,日本の研究費獲得に関する状況について情報を伝えることであった。正直これはたいへんな仕事を任されたと思ったが、いざ読み始めると本当におもしろく,しかも新鮮でほとんど一気に読んでしまった。まさに“目から鱗”の本である。

日本にもこのような本があればと思っていた矢先に、化学同人から翻訳しなかとみちかけられた知人の翻訳家でもある櫻井香織さんに相談したとこる彼女の協力が得られるとわかり引き受けることにした。櫻井さんがまず原著を訳し,それを私が監修するというやり方で仕事が始まった.その結果でき上がったのが本書である。
この本は題名通り,まさに「いかにして研究費を獲得するか」についておもしろくわかりやすく書かれた本である。いわゆるハウツー本であるが,それをはるかに超えた幅広い研究推進に関する指南書である.研究費の申請書の書き方だけでなく,研究のアイデアの発想のしかた,研究をうまく遂行する「ベストプラクティス(最良の実践のしかた)」,予算の使い方に至るまで,詳しく丁寧に書かれている。申請者を悩ますさまざまなことがら,たとえば申請書の要約や序論,研究計画の書き方から,いかにして申請書を推敲するか,共同研究の立ち上げ方予算の立て方に至るまで,隅々まで詳しく書かれている。また申請書のレビュワー(評価者)の心理をどうとらえるか,研究グループ内をどのようにまとめていくかなどについて深い経験に基づいて書かれており,心理学書を読むようなおもしろさもある。各所に著者らの長い経験が生かされており、また世界中の研究者仲間の協力を得て,彼らから達見と助言を集めている。ずばりレビュワーの生のコメントがふんだんに収められているのもおもしろい、各章のはじめに書かれている格言は至極のものばかりである。たとえ It, “Good writing is bad writing that was rewritten” (Marc Raibert) – 良い文章は拙い文章を書き換えたものである、などは実に名言である.また風刺のきいたイラストも十分に楽しませてくれる.
本書は若手の研究者にとってきわめて価値のある本であるが,若手ばかりでなく,もう少し経験を積んだ科学者や技術者,さらにはベテランにとっても役に立つ本である。私も本書を読んでいて、なるほどと何度も感心させられた.本書は研究者だけでなく,研究費を配分する国や民間団体の職員,大学や研究機関の運営管理者,職員にも役立つはずである。さらにグローバル化のなか,「読者が海外の助成金制度について学ぶ機会も与えてくれる。なお日本と海外の研究費申請制度には異なる部分もあるので,適宜訳注を入れた。本書は幅広い読者に読まれるべき待望の書である。

本書を出版するにあたり、お世話になった化学同人の浅井歩さん,岩井香容さんにお礼申し上げます.

2017年2月
監記者 尾崎幸洋

Gerard M. Crawley (著), Eoin O’Sullivan (著), 尾崎 幸洋 (監修), 櫻井 香織 (翻訳)
出版社 : 化学同人 (2017/4/7)、出典:出版社HP

目次

序文
謝辞
監訳者序文
Chapter 1 はじめに
Chapter 2 研究のアイデア
Chapter 3 審査のプロセス
Chapter 4 申請書の下書き
Chapter 5 申請書の推敲
Chapter 6 パートナーシップ
Chapter 7 研究のインパクト
Chapter 8 引用,盗用,知的財産
Chapter 9 予算
Chapter 10 レビュワーのコメントへの対応
Chapter 11 特別な助成金の選考
Chapter 12 研究助成金の管理

参考文献
結び
索引

補遺 1,2は、小社ホームページに掲載しています。
→ http://www.kagakudojin.co.jp

Gerard M. Crawley (著), Eoin O’Sullivan (著), 尾崎 幸洋 (監修), 櫻井 香織 (翻訳)
出版社 : 化学同人 (2017/4/7)、出典:出版社HP