科研費獲得の方法とコツ 改訂第7版〜実例とポイントでわかる申請書の書き方と応募戦略

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最新のノウハウがわかる

2020年春に採択された申請書を掲載しているので、採択される申請書の書き方のコツや共通要素が分かります。研究遂行能力、学術変革領域、重複応募になどの最新情報がわかる、2021年にまで対応している最新版です。申請書の書き方を中心に、応募戦略、採択・不採択後のノウハウを学べます。

【注意事項】

本書の情報について
本書に記載されている内容は,発行時点における最新の情報に基づき,正確を期するよう,執筆者監修・編者ならびに出版社はそれぞれ最善の努力を払っております.しかし科学・医学・医療の進歩により,定義や概合,技術の操作方法や診速の方針が変更となり,本書をご使用になる時点においては記載された内容が正確かつ完全ではなくなる場合がございます.また,本書に記載されている企業名や商品名,URL等の情報が予告なく変更される場合もございますのでご了承ください.

第7版のはじめに

令和の時代になって初めての科研費審査の結果が先日発表された.世の中は新型コロナウイルス感染症流行の真っただ中だが科研費審査の発表は予定通り行われた.研究者にとっては毎年非責こもごもの恒例行事である.みなさんの結果はどうだったであろうか?またこの本の旧版を使っていただいた方の結果はどうだったであろうか?

本書はここに第7版を発行することになった平成28年度から順次行われていた性城質改単が一段落し,本書は第7版として新しい制度の変更点や新しい申請書のフォーマットをすべて含んだ内容に全面的に改訂した.特に令和元年度(2019年度)の申請書から,これまでの「研究業績」のリストが「応募者の研究遂行能力及び研究環境」に変更されたことが画期的な変更点で,もちろん今回の第7版ではそれに対応したものに改訂した.もちろん今後も科研費制度にはさまざまな変更や修正が行われるであろうが,基本的な考え方はいつも同じであるので,その点はどの版にもきちんと書いてある.申請書作成において重要なことは,明確な研究目的とそれを実現するための具体的な研究方法を書くということである.本書では常にこの点を重点的に解説してきた.

この数年の科研費申請の変化として,Web入力が増えたことがあげられる.申請者情報や研究費の使い方,研究分担者の承認などがWeb入力で簡単になった.また審査委員には申請者の業績などを調べるためにresearchmapの活用が推奨されており,今後さらにネットを介したさまざまな情報が審査に活用されるようになるのだろう.

科研費の予算拡充や制度改革によって,採択件数および採択率はかなり上昇した,若手研究における採択率40%というのは,とても高い率である.自分が若手のときにこうだったら,どれほどよかったことだろう.しかし,残念ながらというか,一部の配分額の大きい種目を除いて,現在の科研費の配分額では最先端の研究を行うには不十分である.特に実験系の研究者にとって高額な試薬やキットを買うには,場合によっては年間の研究予算額の1割が必要になることも起こりうる.また外部に委託して研究を進める機会も増えた.研究にはお金が必要である.国もわかってはいるのだろうが,予算が限られている現状では致し方がない.

毎年,採択の時期になると,何人かの方から本書のおかげで採択されたとのメールが届く,苦労して本書を書いてきてよかったと思える瞬間だ.本書がこれまで以上に研究者のお役に立てるように願っている.

令和2年7月吉日
久留米大学分子生命科学研究所にて
児島将康

初版のはじめに

この本は研究費のなかでも,科学研究費補助金(以下,科研費)を獲得するための申請書の作成方法について,具体的なテクニックをわかりやすく紹介したものだ.

毎年9月になると次年度の科研費の申請が始まる.いうまでもなく科研費は研究費の基礎として非常に重要だ.科研費に採択されるか採択されないかは,研究計画やキャリアに大きな影響を与える.ところが科研費の採択率は現在では約20~25%であり,4~5人に1人しか採択されない狭き門であり,採択されない人の方が圧倒的に多い,科研費にはぜひ採択されたいと誰もが思うが,世の中には「科研費を獲得できる申請書の書き方」などのガイドブックがありそうだが,これまでにお目にかかったことがない,各個人,各講座でのテクニックがあり,それはほとんど門外不出になっている.毎年春になって,その年度の科研費の審査結果が発表されると,毎回のようによく採択される人がどの大学にも研究所にも必ずいる.彼(彼女)らはいったいどのような申請書を作っているのだろう?

そういった疑問をもったのがきっかけで,個人的にいろいろ調べた結果をもとにして,この本を書いた,いろいろな研究者の科研費申請書をチャンスがあればコピーさせてもらったり,久留米大学で保管されている過去の申請書を,無理をいって読ませてもらったりした.さらに科研費を審査する側の経験も積んで,他大学の研究者の申請書もたくさん読んだ,またラボ内の若手やスタッフ,知り合いの研究者などから相談を受けて,申請書作成の手伝いもした.このような経験からいうと,絶対に採択されるという申請書はないが,(多分)絶対に採択されない申請書はある.「科研費に採択されるのは宝くじに当たるようなものだ」「コネがないと採択されない」などと聞いたこともあるが,しかし,そんなことはない!「科研費の審査はきわめてフェアなもので,しっかりと準備をしてよい申請書で応募すると,結構採択されるものだ.しかも宝くじよりもずっと当たる確率が高い.

若手研究者に「科研費の申請書の書き方は,どこで習ったか?」と聞くと,まずほとんどの者が「ラボの先輩が作成しているのを見よう見まねで作成している」と答えるだろう.私もそうだった.実物の申請書は作成した個人がコピーを保管しているだけで,見せて欲しいと頼まないと,見る機会などなかった.私のラボでは毎年の申請書を全員の分をコピーして保存してあり,誰でもいつでも見ることができる,もちろん採択されたものも不採択のものも全部資料としておいてある.これらの資料は,これから申請書を書こうとする者に,非常に役に立っていると信じている.なんといっても実物の申請書に勝る見本はない.そこで,この本では恥ずかしながら私の実物の申請書を見本として付けているし,本文中に出てくる例はすべて実物がもとになっている.ただし,内容は最新のものではなく,2~3年以上前の申請書のものを使っている.

第1章では,科研費とはどのようなものか,現状分析,科研費の種類,審査のしくみ,申請から採択までの流れなどについて紹介している.

第2章では申請にあたっての準備について書いてある.応募種目や応募分野の選び方や,どのような課題が採択されているかや,過去の審査委員についての調べ方を紹介してある.

第3章がこの本の中心部分で,実際の申請書の書き方をできるだけ実物の見本を示しながら解説してある.申請書の各項目ごとにポイントを書いて,どのように書けばよいかアドバイスしている.

第4章は書き上げた申請書をさらに読みやすくするための工夫について紹介している.また,わかっているようでやってみると結構戸惑う電子申請の仕方について順を追って説明した.

第5章は採択・不採択のときにどうすればよいかについて説明した.

この本に例としてあげた申請書は,久留米大学分子生命科学研究所のメンバーによる実物で,快く提供してくれたみんなに感謝している,また悪い例としたにもかかわらず,資料を提供してくれたメンバーには特に感謝しているまた佐藤貴弘くん佐藤浩くん,前原佳代子さん,高山優子さんの4名には「初めての科研費」として経験談をコラムにまとめてもらった.久留米大学研究推進課の梶原克彦さん,川辺貴光さん,村上郁磨さんと久留米大学分子生命科学研究所事務室の土岐陽子さんには,科研費の資料を快くみせてもらって感謝している.また羊土社の吉田雅博さん,富塚達也さんには「実験医学」連載時からお世話になった.吉田さん,冨塚さんなしにはこの本は完成できなかった.

この本が少しでもみなさんのお役に立って,1人でも多くの方に「科研費に採択された」と喜んでもらえるようにと願っている.

2010年7月
久留米大学分子生命科学研究所にて
児島将康

CONTENTS

科研費 獲得の方法とコツ 改訂第7版

第7版のはじめに
初版のはじめに
本書をよりご活用いただくために
「赤ペン添削HB2」アイコンについて/研究種目別「申請書の構成案」について/「速報」コーナーについて

書き込んで使おう!科研費申請To Do & Checkリスト
日本の研究費一覧

1章 科研費の概略
1. 科研費とは?
科研費の情報を得るには/科研費に応募する前にやるべきこと/直接経費と間接経費:2つの研究費
2. 科研費の種類—科研費にはどのような種目がある?
科研費の種目体系のイメージ/基盤研究と若手研究/PIとして独立した若手研究者のための新種目「若手研究」における独立基盤形成支援」/挑戦的研究/研究活動スタート支援/新学術領域研究(学術変革領域研究に発展的解消予定)の公募研究/学術変革領域研究/国際共同研究加速基金
3. 審査区分の種類
4. 審査のしくみ
2段階書面審査/総合審査/基盤研究と若手研究の審査/挑戦的研究の審査/その他の関連措置について
5. 申請から採択まで
公募の開始と準備/申請書の締め切り/第1段審査/第2段審査のスケジュール/交付決定
6. 科研費の現状について—令和元年度のデータより
科研費の予算額/新規応募件数の変化/新規採択件数,採択率の変化/研究費の配分額の変化/令和元年度の新規採択+継続分の配分状況/今和元年度の科研費の状況のまとめ
7. 科研費の基金化,調整金,合算使用
科研費の基金化/基金化の具体的なしくみ/調整金によって基金化されていない種目も使いやすくなった/科研費等の合算使用による共用設備の購入/今後への期待
8. 科研費に関する資料
科研費に関するウェブサイト/科研費に関する書籍/その他,役に立つ資料
9. 他の省庁・民間組織が公募する研究費
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)/省庁関連の国立研究開発法人の研究費/民間の研究費

コラム ○初めての科研費(Aくんの場合) ○若手研究の変更 ○審査した申請書の採択状況 ○初めての科研費(K教授の場合) ○科研費若手支援プラン(CIO)への期待 ○研究費はいくら必要か? ○初めての科研費(Bくんの場合) ○初めての科研費(Cくんの場合) ○各国の研究費事情:科研費と比べてどうなのか? ○社会科学系分野のTさんの科研費獲得への道

2章 科研費応募の戦略
1. 応募種目の選び方
基盤研究への応募/若手研究への応募/挑戦的研究(開拓・萌芽)への応募/学術変革領域研究(新学術領域研究)への応募/研究活動スタート支援/複数の種目への応募/日本学術振興会特別研究員の科研費への応募
2. 審査区分の選び方
審査区分を選ぶ際の注意点/データベースを使って最適な審査区分を選ぼう/細目で異なる採択件数,採択率は30%前後/異分野への応募
3. 採択課題の調査—審査区分を選ぶにあたって①
4. 審査委員は誰?—審査区分を選ぶにあたって②
5. 研究パートナー(共同研究者)の選び方
研究分担者,研究協力者/共同研究者の人選の採択への影響
6. 科研費申請のアイデアのまとめ方
ノートに書く/Post itを使う/マインドマップでまとめる/3つずつアイデアを出す—初心者におすすめの方法

コラム ○その後の科研費(K教授の場合) ○審査委員は知り合いだと有利なのだろうか?○アイデアのつくり方 ○K大学科研費事務担当者の奮闘記

3章 申請書の書き方
1. 申請書を書く前の注意点
まず申請書を入手しよう/最初はワープロソフトで下書きを/申請書(研究計画調書)の構成/どこから書いていけばいいのか一概要は一番最後に/申請書は審査委員のために書く一知り合いの研究者に向けて書くつもりで/申請書に求められるわかりやすさ/わかりやすい申請書にするためには/具体的に書くために
2. 研究課題名
課題名を読むだけで,研究計画がわかるようなものにする/課題名は簡潔で短いものでも,逆に長いものでもよい/専門的・マニアックな語句は避けて,一般的なキーワードを使う/その他,課題名を考えるときのアイデア
3. 研究目的,研究方法など
「概要」と(1)~(3)の分量について/「概要」—冒頭に研究計画全体の概要を書く/「概要」に書くべきこと/「概要」の例とその直し方/申請書を読みやすく理解しやすいものにするちょっとした工夫/「本研究の学術的背景,研究課題の核心をなす学術的「問い」の書き方/「本研究の目的および学術的独自性と創造性」の書き方
4. 『研究目的,研究方法など』欄の「本研究で何をどのように,どこまで明らかにしようとするのか」
「本研究で何をどのように,どこまで明らかにしようとするのか」の書き方/研究計画・方法を書くときの注意事項/研究計画・方法を具体的にするための方法
5. 本研究の着想に至った経緯など
「本研究の着想に至った経緯」/準備状況/関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ
6. 応募者の研究遂行能力及び研究環境
「(1)これまでの研究活動」をどのように書けばいいのか/researchmapについて「(2)研究環境(研究遂行に必要な研究施設・設備・研究資料等を含む)」をどのように書けばいいのか/文献入力のための便利なヒント
7. 人権の保護及び法令等の遵守への対応
8. 研究計画最終年度前年度の応募
9. 研究経費とその必要性
研究経費の明細/研究経費の必要性
10. 研究費の応募・受入等の状況
「研究費の応募・受入等の状況」記載時の注意事項/エフォートとは/エフォート採択への影響
11. 挑戦的研究(開拓・萌芽)の申請書について
挑戦的研究(開拓・萌芽)の申請書の構成/挑戦的研究(開拓・萌芽)の申請書の書き方/「研究計画調書の概要」(概要版)と「研究目的及び研究方法,応募者の研究遂行能力」/「挑戦的研究としての意義」/実現可能性の示し方
12. 日本学術振興会特別研究員の申請書について
申請書の書き方/「現在までの研究状況」/「これからの研究計画」/「研究遂行能力」/「研究者を志望する動機,目指す研究者像,アピールポイント等」「申請者に関する評価書」

コラム ○よい申請書とは ○審査委員はあなたの申請書を何分見るか? ○どんな申請書が印象に残るか? ○初めての科研費(Dくんの場合) ○初めての(Eさんの場合) ○ある研究室秘書の「ひとりごと」 ○審査委員経験者から書に対するアドバイス

4章 申請書の仕上げと電子申請
1. 申請書の見栄え
フォントの種類と大きさ/余白を生かす/箇条書きや小見出しを使う/文字を強調する/難しい単語を避ける/漢字,英語,カタカナを適切な割合に
2. 図の挿入
図の注意点/申請書へ図を入れる方法/申請書をPDFファイルに変換する方法
3. 電子申請の実際
電子申請前の準備/アクセスから提出まで/各項目の入力/応募ファイルのアップロード
4. 最後のチェック
チェック用の申請書をダウンロードする/チェックするポイント/訂正箇所に気づいたときはどうしたらよいのか?

コラム ○審査委員がうんざりする申請書 ○初めての科研費(Fさんの場合) ○科研費今昔物語 ○科研費を獲得した後に ○科研費はノーベル賞に必要か? ○元学振職員が語る困った研究者

15章 採択と不採択
1. 採択されたとき
採択の通知(交付内定)/採択後の手続き/論文を発表したときには謝辞を忘れずに
2. 不採択のとき一採択されなかったら,どうする?
不採択の通知/もし採択されなかったら
3. 次回の応募に向けての準備
4. 科研費以外の研究費への応募の可能性
通常の募集期間以外に公募される科研費/他省庁の研究費/民間の研究助成の応募時期/クラウドファンディング/その他:オープンイノベーション

コラム 初めての科研費(Gくんの場合) ○科研費がなくても生き延びる方法 ○科研費に採択されるための最良の方法 ○C村くんの三度の学振特別研究員への挑戦 ○大物研究者はどのように科研費をもらってきたのか?

そこが知りたい!科研費なるほどQ&A
実際に採択された申請書①基盤研究(C)の例
実際に採択された申請書②挑戦的研究(萌芽)の例
索引

本書をよりご活用いただくために

■「赤ペン添削HB2」アイコンについて

“申請書の書き方”に特化し,実例を多く盛り込んだ「科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック第2版」(児島将康/著)が,本書の姉妹書として発行されています(詳細は巻末の広告ページを参照).そこで本書の3章,4章に右図のようなアイコンを加えて,この姉妹書の参照箇所を示しました.よろしければ併せてご活用ください.

■研究種目別「申請書の構成案」について

研究種目ごとに申請書の様式が微妙に異なるため,何をどんな分量で書いたらよいか迷うことがあるという声をいただきます.そこで,第7版から各研究種目の申請書に対して,どんなことをどんな割合で書いていくとよいのか,その目安を児島先生にご紹介いただきます.羊土社HPで公開予定ですので,ぜひご活用ください.

■「速報」コーナーについて

科研費の制度は,審査の区分やしくみが変わったり,研究計画調書(申請書)の構成が変更になったりと,常に変化を続けています.次々と更新される制度に対応するため,第7版でも,本書の発行後に発表される科研費の最新かつ重要な情報を「速報」として児島先生にフォローしていただきます.
具体的には羊土社HPにて,下図のようにご解説いただく予定です.研究者が知っておくべき科研費情報を随時ご紹介いただきますので,ぜひご活用ください.

科研費の「速報」「申請書の構成案」は以下URLよりご覧ください.
www.yodosha.co.jp/kakenhi

書き込んで使おう! 科研費申請To Do & Checkリスト
To Do & Checkリストでは,応募を思いたってから採択・不採択後までを含めてやるべきこと,申請書作成の際に気をつけるべきポイントをまとめていただきました.やるべきことが増えた場合に後から自分で追加できるよう,空白の行も設けています.また,取り組むべき時期のおおよその目安を「理想」として示していただきました.「予定」「実際」の欄と併せてスケジュール管理,進行のペース配分にご活用ください.
(羊土社 編集部)