ロケットエンジン

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ロケット推進の教科書

ロケットエンジン初学者にとって、とても分かりやすく書かれています。液体推進薬によるもの、固体推進剤によるもの、電気エネルギーによるもののすべてを記述してあります。宇宙推進の原理とエンジン設計の基本を学びたい方、初学者にとって良書です。

鈴木 弘一 (著) , 中村 佳朗 (監修)
出版社 : 森北出版 (2004/4/1) 、出典:出版社HP

監修者序

本書は,鈴木弘一先生が永年勤務され活躍された石川島播磨重工(株)での仕事を通じて経験修得された技術的な事柄の集大成であり,ロケットの特徴が大変詳細にかつ要点を押さえたかたちで書かれている.その結果,大変読みやすく,学部学生や大学院学生が勉強するのには最適な教科書といえる.また,航空機ではライト兄弟の初飛行から,ロケットではツィオルコフスキーの多段式ロケット理論からほぼ100年が経過した今日,本書が出版されたことは喜ばしいかぎりである.

ロケットの打上げには失敗がつきまとうが,2003年10月の中国有人宇宙飛行の成功,2004年1月の米国探査機の火星表面への着陸成功,また月開発計画に関する米国ブッシュ大統領のNASAでの演説など,宇宙への関心が最近とみに高まっており,われわれが近々どこかで一気に宇宙へ進出する時代が到来する可能性を示唆している.宇宙に行くためにはそのための乗り物が必要で,それがロケットである.

本書では,ロケットエンジンに焦点を絞り,化学ロケット(液体ロケット,固体ロケット)と電気推進ロケットが詳細にかつ要領よく述べられている.化学ロケットは伝統的なロケットで,大型の荷物(ペイロード)を打上げるのには必須であり,一方,電気推進に関しては,2003年5月に打上げられた宇宙科学研究所(現宇宙航空研究開発機構)の小惑星探査機ミューゼスC(はやぶさ)は,宇宙推進として画期的なイオンエンジンを使用している.今後,電気推進の開発研究はますます活発化するものと思われる.

以上述べたように,本書を読めばロケットに関する大筋が把握できるので,学生や技術者のみならずロケットに興味のある人はぜひ一読されることをお勧めする.

2004年3月
名古屋大学大学院工学研究科
教授 中村佳朗

鈴木 弘一 (著) , 中村 佳朗 (監修)
出版社 : 森北出版 (2004/4/1) 、出典:出版社HP

はしがき

本書は,「宇宙推進工学」を大学で学ぶための教科書あるいは参考書として記述した.大学のどの学年で学ぶかによりいつも問題になるのは,専門基礎科目との兼ね合いである.圧縮性流体力学と熱力学の理解なしに,ロケットのノズル内の流れを理解するのは困難であるが,多くの大学では圧縮性流体力学にたどりつくまえにロケット工学関係の講義がはじまってしまう.このロケットのノズル内の流れはロケット推進原理の基本であるため,講義の初期の段階で行うのが普通である.したがって,ここでは,推進原理に入るまえに簡単な圧縮性流体力学の議論を行っているが,詳しくは流体力学の講義で学んでいたがきたい.

本書はいわゆる「ロケット」そのものの教科書ではない.ロケット推進の教科書として記述している.したがって,ロケット機体の構造やシステムに関しては,別途学んでもらうこととして,ここではロケットを推進させる機構いわゆるロケットエンジンについて詳しく述べている.そのロケットエンジンも液体推進薬によるもの,固体推進剤によるもの,電気エネルギーによるものとすべて記述している.読者はこれにより宇宙推進の原理を把握できるとともに,エンジン設計の基本を学ぶことができるものと信じる.

宇宙推進の周辺領域は,本学では以下のような講義内容になっている.ロケット本体の機構および世界のロケットの現状や人工衛星の軌道などについては「宇宙工学概論」で与えており,ロケットエンジンや機体の伝熱問題は「熱工学」で履修することができる.

宇宙時代を迎えて,いままでと異なる学問は何かと考えてみる.宇宙に行ってからの超真空,極低温,無重力のうち前の2項目は,いままでの地上における学問分野でカバーすることが可能である.無重力と宇宙に到達する手段,すなわちロケット推進のみがいままでにない学問分野ということができる.

本書でとりあげるとくに地表からの打ち上げに使用されるロケットエンジンは極限の容積,重さにより大推力を発生させる原動機であり,その単位容積当たりの熱負荷,燃焼壁の熱流束,タービンおよびポンプの周速は,現在の技術の最高レベルであり,それゆえに学生にとっては学問的に大変面白い分野であると考える.たとえ卒業後,ロケットエンジン関係の職業に就くことができなくても,知的訓練としては大変効果的な学問分野である.しっかりと勉強すれば,将来必ず読者の血肉となるものと信じる.

第1章で,近代ロケットの始まりとなったV2ロケットとその後の歴史的発展を述べたのち,第2章では,各種ロケットの概説を行いつつその分類について述べる.第3章では,ロケット推進の原理を述べ,あわせて基本パラメータである比推力,質量比などに触れている.第4章では,推力発生のノズル理論について詳説した.なお本章の前段では,理解を助けるため圧縮性流体力学について概説を与えている.以上の準備の後,第5章で液体推進剤の性能,第6章で液体ロケットエンジンシステム,第7章で液体ロケットエンジンの設計について述べる.ここまでで液体ロケットについては一応終了であるが,液体ロケットのみの履修を行う場合には,これに第10章の飛行性能を加えれば十分と考える.

第8章,第9章は固体ロケット関連で,第8章では,固体ロケットの燃焼速度およびロケットモータの構造について,第9章では,固体ロケット推進剤について述べる.固体ロケットのみ履修する場合には,第1章~4章までと第8章~10章を学ぶことを勧める.第10章では,ロケットの飛行解析について概要を述べた.概要ながらエクセルなどのソフトの助けを借りると相当な計算ができることを学んでいただきたい,第11章では,電気推進について触れている.電気推進はこの一項目で一冊の教科書があってもよいくらい発展中の学問であるが,ここではその基本原理を与えている.内容もDCアークジェット,イオンロケット,MPDスラスタと少し欲張っている.とくに本学で実験装置をもっているDCアークジェットについては多少詳しく述べている.

本書の執筆にあたり,名古屋大学中村佳朗先生の数々の助言と懇切なる監修を得ることができた,わが国航空宇宙工業の中心地で長く教鞭をとられている先生のご指導をいただいたことは,著者の望外の喜びであり,深く感謝申しあげます.

浅学非才を省みず,必要に迫られてこのような教科書をつくったが,内容に誤解や筆不足があるかもしれない,読者諸兄からご一報いただければ幸いである.

2004年 早春
鈴木弘一

鈴木 弘一 (著) , 中村 佳朗 (監修)
出版社 : 森北出版 (2004/4/1) 、出典:出版社HP

目次

第1章 ロケットの歴史
1.1 世界のロケット
1.2 日本のロケット
参考文献

第2章 ロケットの分類

第3章 ロケット推進の原理
3.1 ロケットの推力
3.2 推力
3.3 特性排気速度c*
3.4 質量比

第4章 ノズル理論
4.1 圧縮性流体力学
(1) 熱と仕事
(2) 内部エネルギー
(3) 全熱エネルギー(エンタルビー)
(4) 比熱
(5) 状態方程式
(6) 等温変化
(7) 断熱変化
(8) エネルギー方程式
(9) 全温,静温
(10) 音速
(11) マッハ数
(12) 非粘性ガスの管内の流れ
(13) ファノ(Fanno)方程式(単位面積当たりの流量)
(14) 縮小管
(15) 縮小拡大管(ラバールノズル)
4.2 ノズルを通る流れ
(1) 断面積とマッハ数
(2) ノズル流出速度
(3) 推力および推力係数
(4) 特性排気速度(c*)
4.3 高度補償型ノズル

第5章 液体ロケット推進薬
5.1 液体推進薬の特性
(1) 経済性
(2) 性能
(3) 腐食性
(4) 爆発
(5) 自然発火
(6) 比重
(7) 蒸気圧
5.2 液体推進薬各論
(1) 液体酸素(O2)
(2) 過酸化水素(H2O2)
(3) 硝酸(HNO3)
(4) 四酸化窒素(N2O3)
(5) 液体水素
(6) 炭化水素
(7) ヒドラジン(N2H4)
5.3 推進薬性能
参考文献

第6章 液体ロケットシステム
6.1 ガス加圧供給サイクル
6.2 ターボポンプ供給サイクル
(1) ガス発生器サイクル(Gas Generator Cycle)
(2) タップオフ・サイクル(tap-off cycle)
(3) クーラント・ブリード・サイクル(coolant bleed cycle)
(4) エキスパンダ・サイクル(expander cycle)
(5) 二段燃焼サイクル(staged combustion cycle)

第7章 液体ロケットエンジン設計
7.1 全体システム
(1) エンジン流量
(2) 圧力のバランス
(3) 動力のバランス
7.2 推力室の設計
(1) 燃焼室およびノズルの設計
7.3 冷却
(1) 再生冷却
(2) フィルム冷却
(3) アブレーション冷却
(4) 放射冷却
7.4 噴射器の設計
7.5 ターボポンプの設計
参考文献

第8章 固体ロケット
8.1 固体推進剤の燃焼速度
(1) 燃焼速度と圧力の関係
(2) 燃焼速度と温度の関係
(3) 侵食による燃焼速度の増加
(4) その他の原因による燃焼速度の増大
8.2 基本性能関係式
8.3 推進剤グレイン形状
8.4 ロケットモータの構造
8.5 ノズルの構造
8.6 ノズル・ジンバリング機構
参考文献

第9章 固体推進剤
9.1 固体推進剤が備えるべき特性
9.2 固体推進剤の構成
9.3 ダブルベース推進剤
9.4 コンポジット推進剤
9.5 固体推進剤の組成と性能
9.6 機械的特性
9.7 固体推進剤の製造法
参考文献

第10章 飛行性能
10.1 重力および空気抵抗のない場合の基礎式
10.2 重力および空気抵抗の影響
10.3 運動の基礎式
10.4 基礎式の積分
10.5 多段ロケット
参考文献

第11章 電気推進
11.1 電気推進の分類
(1) 電気推進のミッション
11.2 電気推進の基本的パラメータ
11.3 DCアークジェット
(1) 推力の測定
(2) DCアークジェットの性能
11.4 イオンロケット
(1) 一次元の基本式
(2) イオンスラスタの分類
(3) 電子衝撃型スラスタ
(4) 接触電離型
(5) イオンビームの中性化
(6) 加速・減速のコンセプト
(7) イオンロケットの性能
(8) わが国の研究の現状
11.5 MPDスラスター
(1) MPD加速器内の電磁ガスダイナミクス・モデル
(2) わが国の研究例
(3) 軌道上での推力測定
参考文献

索引

鈴木 弘一 (著) , 中村 佳朗 (監修)
出版社 : 森北出版 (2004/4/1) 、出典:出版社HP