ワークマン式「しない経営」―― 4000億円の空白市場を切り拓いた秘密

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急成長したワークマンの経営

日本の閉塞感を打開させる可能性を持つテキストで、一読する価値ありです。経営者だけではなく、ビジネスマンなら必読です。また、学生が読んでも応用できることがたくさんあり、就活で会社を見る目が養えます。

土屋 哲雄 (著)
出版社 : ダイヤモンド社 (2020/10/21)、出典:出版社HP

はじめに

4000億円の空白市場を切り拓いた秘密
ワークマンは「しない会社」だ。
◎社員のストレスになることはしない
残業しない。
仕事の期限を設けない。
ノルマと短期目標を設定しない。
◎ワークマンらしくないことはしない
他社と競争しない。
値引をしない。
デザインを変えない。

ワークマンプラスの店舗数は885店舗(ワークマン663店舗、ワークマンプラス222店舗)となり、ユニクロの国内店舗数を抜いた。

「しない会社」が、
どのようにブルーオーシャン市場を発見し、
客層拡大して業績を上げたのか。
どのように自分の頭で考える社員を育てたのか。
これが本書のテーマである。

2012年、還暦直前の私がワークマンに入社したとき、成長の限界ははっきりと見えていた。
2025年に1000店舗、売上1000億円に達し、それ以上の成長は見込めない。
社長は危機感を抱いていた。だが、具体的な戦略は持ち合わせていなかった。
ワークマンは作業服というブルーオーシャン市場に過剰適応し、身動きが取れなくなっていた。
あれから8年。会社はどう変わり、社員はどう成長したか。
ありのままに書いていく。
第1章では、個人向けの作業服という小さな市場を深化させ、圧倒的な強者となったワークマンの経営ノウハウについて紹介する。
第2章では、ブルーオーシャン市場の拡張(客層拡大)戦略と戦術を詳しく書く。ワークマンプラスという新業態の出店までに、「自社の強みを考える」「強化ポイントを考える」「市場の特性を読みながら進出先を考える」「進出する市場を分析する」「異常値が強みを教えてくれる」「アンバサダーが開発し紹介する」などを次々に実行した。
第3章では、「しない経営」がなぜ最強かを深掘りする。ワークマンプラスの成功が、競争戦略面から語られることは多い。しかし、それでは半分だ。いくら会社がビジョンを示そうと、社員が同意し、気持ちよく仕事をしてくれなければ結果を出すことはできない。
重要なのは企業風土を変えることである。


図2:左手に「しない経営」、右手に「エクセル経営」でブルーオーシャン市場の拡張

その柱が本書で初めて紹介する「しない経営」と「エクセル経営」だ。「しない経営」は社内だけにとどまらない。
加盟店は、「対面販売しない」「閉店後レジを締めない」「ノルマもない」。
無駄なことをしないと売上が上がるので、子どもなど2代目への加盟店の継承率は47%と長期的な関係を築いている(加盟店契約更新率は99%)。
国内ベンダー(製造元、販売供給元)にはワークマン本社から「発注書を出さない」「納品の数量を示さない」。ベンダーが当社の需要予測システムに基づき、自主的に判断して納品したものを当社は無条件で買い取る。
その結果、サービス率(需要に対し製品を供給できた割合)が93%から97%に上昇。
当社流通センターの在庫回転日数は27日から24日に短縮された。
「しない経営」により「社員よし」「加盟店よし」「取引先よし」「会社よし」の”四方よしの経営”ができている。「しない」とは、相手の立場で考えると、「されない」ということだ。
無用な干渉をされないことで、自分の時間を有効に使えるので、ストレスフリーで売上を上げ、自分のペースで楽しく働くことができる。
第4章と第5章は「エクセル経営」について掘り下げる。普段誰もが使っているエクセルを駆使して企業風土を変え、社員のやる気を引き出すしくみだ。マクロやVBAはほとんど必要ない。
第4章はおもに会社の変化だ。新業態を運営していく際、これまでの勘と経験は通用しない。未知なる暗黒大陸で勝利を収めるにはデータ活用能力が不可欠だった。
ワークマンにきてびっくりしたのが、データ活用ゼロの会社だったことだ。
店舗在庫の数量データすらなかった会社が、高度なAIソフトやデータサイエンティストを使わずに、ただのエクセルを活用することで、どのように変わったか。
ワークマンプラスの品揃えは「エクセル経営」で決まった。全取扱製品から一般客に購入された製品を抽出し、ショッピングモール店の品揃えを決めた。
ワークマン既存店の1700の取扱アイテムから320アイテムを抽出し、モールに「ワークマンプラス」を出店した。新業態をデータで運営したところ、全社の営業利益は2年前に比べ181%と急伸した。
第5章は「エクセル経営」で社員がどう変わったか。2012年以来、8年間飽きずにコツコツとデータ活用研修をやり続けている。「継続は力なり」とはよく言ったもので、社員のデータ活用力は年々高まっている。
まったく自信のなかった人、存在感のなかった人、店長に信頼されていなかった人が、いまやトップクラスの人材になり、会社を引っ張るリーダーになった。
第6章は、変革を「やりきる」にはどうしたらいいか。やりきるために必要なのはノルマではない。ましてや頑張りでもない。やりきるには社員に夢、希望、興味が必要だ。そのために経営者に必要なことは何だろうか。
第7章は、早稲田大学大学院・ビジネススクールの入山章栄教授との対談で、いま話題の「両利きの経営(知の探索×知の深化)」はどうすれば実現するかを考察した。
本書で紹介する方法は特別なものではない。すべての企業で実施できるものばかりだ。ビジネスに携わる方には企業変革のケーススタディとして、経営者や幹部の方には、経営変革の参考材料として活用いただければと思う。
この本は私の初めての本だ。成功談や美談を書く気は一切ない。
還暦直前に入社した私が、拙い頭でどう考え、実行したか。それだけをありのままに書こうと思う。
株式会社ワークマン専務取締役
土屋哲雄

土屋 哲雄 (著)
出版社 : ダイヤモンド社 (2020/10/21)、出典:出版社HP

目次

はじめに 4000億円の空白市場を切り拓いた秘密

第1章 「しない会社」にやってきたジャングル・ファイター
1 浅く広くなんでもやる男
「何もしなくていい」から始まった改革のゴング
三井物産時代に隙間市場を次々開拓
肩書きが変わっただけで時間単価が2倍に
商社では「ゴミ」扱いされるレベルの事業
2 「しない会社」ワークマンの秘密
競争相手のいる市場には行かない
お客様が値札を見ない理由
粗利益の高い製品は扱わない
一番儲かる製品をチラシに載せない理由
値引は「お客様への裏切り行為」だからしない
「しないこと」を積み重ねた圧倒的な強み
3 「還暦CIO」は常に20年先を見る
見えてきた成長の限界
隙間市場に過剰適応して思考停止したワークマン
戦う市場は大きすぎても小さすぎてもダメ

第2章 ワークマン式「第2のブルーオーシャン市場」のつくり方
1 まったく未知の市場へ 「ワークマンプラス」で乗り込んだ理由
成長の限界を打破する2つの改革
見せ方を変え、客層を変える
入場券なしで殴り込んだアウトドアウェア市場
ワークマンプラスを実現した「6+1」の視点
2 自社の強みを活かし、ブルーオーシャン市場を発見する。
自社の強みはどこにある?
強化ポイントを探る9パターン
ノルマやプレッシャーをかけない
統計数字から新市場をどう読むか
既存市場と隣の市場を狙う戦略
進出市場を分析・選定する方法
3 お客様の「異常値」が強みを教えてくれる
ウェア、シューズ、靴下、エプロンの「異常検知」
お客様のほうが知っている
ブルーオーシャン市場拡大の原点
「異常」から「あたりまえ」と認識を新たに
4 開発段階からアンバサダーを巻き込み店頭で紹介する
どうしたら「お客様視点」を得られるか
ワークマン好きブロガーを巻き込んだ製品開発
アンバサダー「狩女子」Nozomiさんがヒットした理由
アンバサダーとともに成長する姿勢
「アンバサダーが主役」のテレビCM
「製品戦略」6割、「アンバサダーマーケティング戦略」3割、「空間戦略」1割
4つの「しない経営」でブルーオーシャン市場を切り拓け
5 新型コロナ後のブルーオーシャン市場の読み方。
社会、経済、技術、生活環境のメガトレンドに注目する
猛暑や豪雨に適応した製品ニーズが高まる理由
アフターコロナの世界
「私の考えは0%間違っている」と10人の意見を聞く

第3章 「しない経営」が最強の理由
1 社員のストレスになることはしない
企業風土の7割を変える
仕事の期限は設定しない
ノルマや短期目標は設定しない
頑張ってできても意味がない
社員が自発的に動く唯一の方法化
2 ワークマンらしくないことはしない
アパレル業の戦略はマネしない
デザインは変えない
顧客管理はしない
「善意型」サプライチェーンで取引先を変えない
全工程に「善意」が流れる信頼関係のしくみ
加盟店は「対面販売しない」「閉店後にレジを締めない」「ノルマもない」
3 価値を生まない無駄なことはしない
余計なことはしないほうがいい
社内行事はしない
会議も出張時の送迎も極力しない
経営幹部は極力出社しない
稟議中も発議者は座らない
幹部は思いつきでアイデアを口にしない
4 巨人アマゾンに負けない「しない経営」
アマゾンが嫌がることを徹底的にやりきる
定価でアマゾンに負けない
配送費でアマゾンに負けない
販促費をかけない%

第4章 データ活用ゼロの会社が「エクセル経営」で急成長した秘密
1 社員全員が経営に参画するチームづくり
「何もしない2年間」がワークマン飛躍の原動力
会社を変えることは「自分自身」を変えること
「社員のストレスになることはしない」「上司に忖度しない」経営
高度な分析ソフトはいらない
「相関関係」と「因果関係」を混同するな
「一流の人材を育ててほしい」という教育効果も計測できる
なぜ、いまこそ「エクセル経営」なのか
AIやデータサイエンティストもいらない
2 小さく始めて大きな成果が出るまでやりきる
「データ活用ゼロ」の会社ワークマン
時間がかかっても、よいものをつくる
最初から完璧を求めない
職務質問されながらも駐車場調査で見えてきたこと
2枚看板店舗で「今、店の中でスゴイことが起きてます!」
3 「エクセル経営」の驚くべき成果的
IT系、情報系幹部をプロジェクトの長にしない方
「上司は50%間違える」と公言する
三井不動産からの強烈なひと言
ワークマンプラス第1号店の裏事情
動かない店長がすぐ動くようになる仕掛け
「在庫ゼロ」を実現する方法
成果をほめ、阻害要因を排除
「エクセル経営」で決まったワークマンプラスの品揃え

第5章 なぜ「エクセル経営」で社員がぐんぐん成長するのか
1 データ活用教育の始め方
データ活用教育を早めに始める
全員参加でないと意味がない
社員に求める能力を明確にする
試験の平均点は「90点」にすると社員が伸びる
新入社員に売上なんか期待するな!個々の能力が伸びるほうが重要だ
失敗を心から歓迎する風土づくり
データ分析チームをつくる
組織をダメにする最悪の一手
「もしかすると自分が主役になれるんじゃないか」と自信を持たせる
データ活用上位者を会社全体で表彰する
2 なぜ、エクセル教育で社員が伸びるのか
追従型SVがリーダーシップ型に変身した理由
人に強く言えない「気弱SV」が劇変した理由
存在感がなかったSVが「季節製品管理」のプロに
イケイケSVはどうやって「未導入製品発見ツール」を開発したのか

第6章 興味こそがやりきる経営のエンジンである
1 経営者は社員の「夢」にコミットしなくてはならない
どうしたら「やりきる」ことができるのか
人は夢で動く
「オタクは少数」だと経営者は自覚すべき
社員の給与100万円アップを発表
マネジャー以上の退職者が実質ゼロになった理由
得意と感じたことは本当に得意になっていく
「やり抜く力」がある人のいる環境に身を置く
2 「冗員ゼロ宣言」をする
「2-6-2の法則」は本当か?
なぜ経営者はノルマを与えてしまうのか
中位6割、下位2割を活性化する方法
下位社員が8割活性化すれば1日で960万円稼げる
組織は社員の力以上には成長しない
過剰に社外の情報をアテにしてはいけない
わからないことは社員に聞こう
3 夢に向かって動く組織に変わる
何をやるかは経営が、どうやるかは社員が決める?
社員のやりたいことをヒアリングする

第7章 「両利きの経営」はどうすれば実現できるのか
…早稲田大学大学院・ビジネススクール入山章栄教授との対談
「知の探索」型と「知の深化」型との幸せな出会い
「エクセル経営」こそDXだ
ベンダー、加盟店、顧客との「善意型」サプライチェーン
固定客200万人で挑んだ新市場印経営で一番大切なこと
「レッドクイーン理論」と競合を意識しすぎるワナ
アンバサダーが開発段階からコミットするしくみ
弱いつながりこそが、革新を引き起こす
ワークマンの第3のブルーオーシャン市場
イノベーションに不可欠な「センスメイキング理論」とは
スタープレーヤーを不要にする「凡人による凡人の経営」
驚異の脱力系企業の未来型サーバントリーダー

おわりに

土屋 哲雄 (著)
出版社 : ダイヤモンド社 (2020/10/21)、出典:出版社HP