マーケティングとは「組織革命」である。 個人も会社も劇的に成長する森岡メソッド

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成功のための「社内マーケ」術

USJのV字回復の立役者である著者がその経験に基づいて書いているため、本書は非常に説得力がある1冊です。著者の主張である「マーケティングの本質は組織革命である」という意見に納得でき、組織を機能させる上で今、自分に何ができるのかがよくわかります。

はじめに 一人でも会社に変化は起こせる!

最強の経営資源は何か?それは「ヒト」です。
カネでも、モノでも、情報でも、時間でも、知財でもなく、ヒトだけがその他の全ての経営資源を使いこなすことができるからです。そもそも企業とは「ヒト」の集合体であり、「ヒト」の力をどう引き出して「ヒト」をどう成長させるかに、企業の命運が懸かっているのです。その貴重な「ヒト」の繋がりを「組織」と我々は呼んでいます。
本書は、これまで私が培ってきた、「ヒト」の力を活かす「組織」をつくるための本質と、一人のサラリーマンでも「組織」を動かす起点になるための秘訣の2つをお伝えすることが目的です。2年前に執筆した『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』は、マーケティングの本質を世界で一番わかりやすく理解できる入門書として執筆し、大好評をいただいております。本書も、ビジネスで最重要な「ヒトと組織」の本質を理解できるものとして世界で一番わかりやすい本になることを目指します。

私は、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)再建の使命を果たし、2017年にマーケティング精鋭集団「株式会社刀」を立ち上げ、日本をマーケティングの力で活性化する挑戦に踏み出しました。V字回復したUSJでの経験を振り返ると、真っ先に頭をよぎるのは「ヒト」と「組織」がめちゃくちゃ大事だと言うことです。マーケティングのノウハウは重要ですが、そのノウハウを“実行できる組織”を同時に構築できなければ、業績を継続的に向上させることはできません。
マーケティングに限ったことではないですが、策を立てるよりも実行する方が100倍は難しい…。逆に“実行できる組織”を構築できたのであれば、少数の個人技に依存しすぎることなく、その組織は継続的にある程度の結果を出し続けることができます。私が去った後もUSJがまだ好調を維持しているのは、ノウハウを導入しただけでなく、そのための「組織」までしっかりとつくったからです。

「集団知は個人知に勝る」という考えを私は信じています。どんな人間にも盲点があり、発想の起点を増やして意志決定の死角を減らす、集団での知恵を引き出せる組織が中長期では必ず強いのです。一人の天才的経営者でも活躍できるのはせいぜい30年、企業の平均寿命もだいたい30年です。一人一人の情報や発想を活かせなければ、企業は変わり続ける市場に対応できず、いずれ淘汰されます。

しかしながら、そういうことはわかっているのに、実際の多くの会社が集団知を活かすための組織構造になっていないのはなぜでしょうか?本当のことが言えない、ちゃんと議論すらできない、そんな会社が山ほどあるのはなぜでしょうか?消費者や顧客のことを考える時間はごく僅かで、上司や同僚を付度している時間ばかりが異様に長い毎日を過ごしているのはなぜでしょうか?業績がジリジリと悪化しているのに、皆が言われたことをやる作業ばかりに終始して、毎年同じようなことを繰り返して一向に新しいやり方が芽生えないのはなぜでしょうか?「組織」は「一人」の力を発揮させるためにどのような仕組みを備えるべきか?その秘訣は「人間の本質」を理解し、精神論ではないシステマティックな仕組みを構築することです。一人一人が組織のために正しい行動を取る“確率”を高めることなのです。本書ではその核心となる本質的な考え方をわかりやすく解説します。問題意識のある経営者や経営幹部や人事関係の皆様に読んでいただきたいのはもちろんですが、むしろそういう立場にないビジネスパーソンの皆様にこそ広く読んでいただきたいと切に願っています。組織についての理解や知識は上層の人達だけに必要なのではありません!上層の皆様は今の体制の既得権者です。変革の未来はむしろ次世代の気付きとその情熱に懸かっています!私はその将来を見越して、考え方の種をできるだけ広く撒きたいと思うのです。

では逆に、「一人」はどのような方法で「組織」をより良く変えていくことができるのか?組織を変える個人技とは、端的に言えば「提案を通すスキル」です。もちろん組織によって提案の通しやすさには差がありますし、同じ組織でも勝てたり負けたり色々あります。しかし、このスキルの核心は実は会社を選ばず、このスキルが強い人ほど変化の起点になれる確率が高いのです。たった一人のサラリーマンでも、下からでも、会社を動かすことは可能です。正確に言えば、たった一人で全て実現できることは僅かしかないけれども、たった一人でも、“変化の起点”になることはできます。
私自身がやってきたことも、それが可能であることを示しています。今までの私は、常に下の立場で上を変えてきました。私は、大きな組織の創業者だったわけでも、その御曹司でも、株主でもなく、雇われ社長ですらありませんでした。USJのCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)だった頃も絶対権力などには程遠く、上には怖い社長や泣く子も黙るファンドの株主、横には人生の大先輩の役員諸兄、下にも年長者の方が多いような状態。そんな中でも、マーケティングの枠をも超えてあらゆる提案を通しまくって、会社組織まで大改革したのです。

社内で自分の提案を売っていく技術は、いわば「社内マーケティング」です。組織の中で、周囲を勝てる場所へ連れていくためにも、自分自身がやりたいことを実現してキャリアを切り拓くためにも欠かせません。また、自分の部下や同僚が素晴らしいアイデアを持っている時に、その力があればあなたは「人を活かす」という最高の働きができる。このスキルに長けることで多くの人の力を束ねて、一人や小さな集団では達成できない大仕事が実現できるでしょう。本書では、私自身の当事者経験に根差して、提案を通すのが上手い人に共通に見られる「Target Analysis(ターゲット・アナリシス)」のスキルを中心に秘訣をお伝えしようと思います。

私は本書を、実務者である私が書くことによって「組織の本質」がわかる本にしたいのです。アカデミックな組織関係の本は山ほど存在しています。しかしながら、実務者が実戦経験で培った組織の本質をシンプルに解き明かした本は少ないと感じています。当然と言えば当然ですが、教養として知識の枝葉を茂らせる目的ならばともかく、“本質”は実際に組織づくりで悪戦苦闘した経験のある人にしかわからないのです。自分が、組織を動かしたり、大きな組織改革をやったり、理論と実際を行き来した経験がなければ、山ほどあふれている情報や現象の奥底にある“本質”を洞察することはできない。組織論に限らず、実務に役立つのはシンプルな本質の理解です。

私はずっと実務家として、当事者としての一人称で組織と向き合ってきました。また、当事者として奮闘しておられる多くの経営者の皆様のご相談も受けております。つくづく、実戦で役立った組織の本質は一貫していると感じますし、実戦で役に立つ“道具”もシンプルなものに限られます。それはシンプルでないと実戦では扱えないからです。というわけで、本書は、よくある組織論の本のように、組織図やその理論をどっさり覚えるような“フォーマット暗記型”ではありません。本書は実務家として役立つ本質を腹落ちしていただくことに焦点を当てたいと思います。私の“実戦フィルター”を通して遠慮なく書かせていただきます。
本書は大きく言うと、以下のような3部構成になっています。最初にビジネスパーソンであれば誰しもがしっかりと認識しておくべき、組織を活性化させる方法について述べます。組織全体をどう編成し運用するかという会社規模の大きな視点に留まらず、人間の本質を理解することで自分の小さなチーム内の生産性を高めるのにも役立つはずです。次に一人の人間が下からの立場で会社を動かすことに成功する確率を上げる方法についてお伝えします。このおかげで私は新エリア、「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」に450億円も費やす無謀な冒険にUSJを引きずり込んで大成功させることができました。そして最後に、起点となって世の中を実際に変えた方々と私のインタビュー記事を掲載します。2017年度に日経トレンディで連載した「森岡毅のビジネスに役立つマーケティング対談」からのピックアップです。

Ⅰ 組織に熱を込めろ!~ 「ヒト」の力を活かす組織づくりの本質~
Ⅱ 社内マーケティングのススメ ~ 「下」から提案を通す魔法のスキル~
Ⅲ 成功者の発想に学べ!~起点となって世の中を変えた先駆者たち~

少し飛躍してしまいますが、日本社会をより良くしていくことにも、実は一人一人の国民が「変化の起点になる」ことが求められているのではないでしょうか。会社において社長ができることが限られている以上に、政府や総理大臣ができることは本当にビックリするほど限られているのです。国は本来、国防と外交と防犯など政府にしかできないことをやるのが使命で、経済発展は民間こそが主体のはず。
日本経済がこの20年以上も停滞したのは、我々一人一人が日本の経済をより良くする行動を十分にやってこなかった積み重ねの結果ではないでしょうか?今、数字の上では好景気がずいぶん長く続いているように見えますが、日本経済のファンダメンタルがその数字ほど強いと信じられない人は多いでしょうし、何よりも国際社会で日本経済の立ち位置が相対的にどんどん下がってきている。今こそ、我々一人一人が各自の持ち場で“2歩だけ”前に出る時ではないでしょうか?政府はそもそも何もしてくれないし、政府に何かしてもらうことを期待してはいけない。素晴らしい「お上」が登場するまで何もできない水戸黄門ドラマのような日本人では困ります。

正直なところ、ちょっと精神論に近いのですが、私はデフォルトとしてもっと一人の可能性を信じることにしています。我々一人一人が、自分の属する社会をより良く変える力を持っているはずだと。なぜならば、社会は確かに我々一人一人の集合体だからです。その時代を生きる一人が、何かの起点になって社会を大きく発展させることは幾度となく歴史上に確認されていますし、そんなスーパーマンの話でなくても、自分の目が届いている周囲をより良く変えることは誰もがやろうと思えばできる。実際に多くの人が自分のことだけ考える範疇を超えてやっています。一人だけで全てを変えられることはほとんどないでしょうが、一人だけでも変化の起点になることはできます。

自分の目に見える範囲で良い、誰でも自分の景色をより良く変えることができる。そう考える方が、意識がより前向きになって「得」です。そう考えないと得るものがないのです。だって、そう思わなければ、自分の存在や人生にワクワクしなくなるじゃないですか。自分の人生を面白くするのは自分しかいませんので、私はそう信じることにしているのです。日本や世界はともかく、もっと小さな単位である会社、しかも人の顔と名前が一致する自分が所属する部署くらい、自ら起点になってより良くできないわけがない。目的の正しさとやり方によっては可能なはずだと、まずはそう信じることです。

そして日々の仕事の中でそれに実際に挑戦する!自分の取れるリスクの範囲で構わないので、今までの枠を“2歩だけ”踏み出してみるのです。一度しかない人生の中の最も充実した何十年もの時間を費やす仕事…。自分が起点になって自分の周りを変える力は、一度しかない人生をよりエキサイティングに変えていくでしょう。
本書がそのための一助になることを願っています。

2018年春
株式会社刀 代表取締役CEO 森岡毅
マーケティングとは「組織革命」である。

Contents

はじめに 一人でも会社に変化は起こせる!

第一部 組織に熱を込めろ!
「ヒト」の力を活かす組織づくりの本質

第1章 USJを劇的成長に導いた森岡メソッド
1 「持続可能なマーケティング力」を目指して
2 「60点を90点にする組織」とは何か?
3 会社を支えるのは、たった4つの機能
4 「ボトルネック」を解消する組織づくり

第2章 マーケティング革命とは「組織革命」である。
1 会社はなぜ成長できなくなるのか?
2 マーケティング・ドリブンな組織は生存確率が高い
3 「売れるものをつくる」組織づくりの本質とは?

第3章 理想の組織とは「人体」である。
1 明確な役割による人体の恐るべき「共依存関係」
2 多くの会社で神経伝達回路が破断されている!
3 コミュニケーション不全に陥る「3つの呪い」

第4章 人間の本質とは「自己保存」である。
1 人はなぜ緊張するのか?
2 行動パターンの原点は「個人 > 組織」
3 社員を「羊」に変えてしまう組織とは?
4 「自己保存」の本能を逆手に取るアメとムチ
5 パチンコの釘のように確率を操作せよ!

第5章 社員の行動を変える「3つの組織改革」
1 集団知を活かすための「意志決定システム」
2 個人の強みを引き出す「評価システム」
3 成功する「相対評価システム」の5つのステップ
4 社員のモチベーションを上げる「報酬システム」
5 人事制度改革は、USJ再生の「一丁目一番地」だった!

第二部 社内マーケティングのススメ
「下」から提案を通す魔法のスキル

第6章 自分起点で会社を変える個人技
1 社内マーケティングのフレームワーク
2 「顧客視点」でなければ提案は売れない!
3 変えられること、変えられないことの違いはどこに?

第7章 あなたは一体何を変えたいのか?(目的の設定)
1 その提案に「大義」はあるのか?
2 上司と目的を共有しないと報われない!
3 目的や戦略があいまいな組織でやるべきこと

第8章 成功のカギはターゲット理解が9割(WHO)
1 社内マーケティングのWHOは2つある!
2 勝ち筋を見つける「ターゲット・アナリシス」の技術
3 優先順位をつけてターゲットを絞り込む!

第9章 何が相手に響くのか?(WHAT)
1 「公の便益」に訴える
2 提案に“やりがい”を盛り込む
3 相手の感情を揺さぶる「真実の迫力」

第10章 伝え方の技術(HOW)
1 まずは「スタイル」を理解すべし
2 対話の真理は「押し引き」にあり
3 スタイルの幅が成功確率を上げる

第三部 成功者の発想に学べ!
起点となって世の中を変えた先駆者たち

鈴木敏文氏 セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問
秋元康氏 作詞家
佐藤章氏 湖池屋社長
佐藤可士和氏 SAMURAIクリエイティブディレクター

終章 マーケティングの力で日本を元気に!