ロケットの科学 改訂版 創成期の仕組みから最新の民間技術まで、宇宙と人類の60年史 (サイエンス・アイ新書)

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世界のロケットを解説

開発の歴史と最前線を追いながら、写真やイラストをふんだんに使い、世界と日本のロケット50種超を解説しています。読むだけでも面白いが、辞典のように引く本としても重宝します。初学者にもおすすめの一冊です。

はじめに

本書は2013年4月に出版されたサイエンス・アイ新書『ロケットの科学』を改訂し、大幅に加筆修正したものです。『ロケットの科学』ではロケットを生産国別に分類しましたが、今回は開発された年の古い順に並べてみました。このように並べてみると、ロケット開発国が激しく競い合う様子がよくわかります。

また、当時と現在で大きく異なるのは、ロケット開発という膨大な費用を必要とする事業に民間企業が参加し始めていることです。インターネットで現金決済を行うサービス「PayPal」を開発したイーロン・マスク氏を筆頭に、IT事業で巨万の富を得た事業家たちが宇宙開発に強い関心を示し、これまでは国家的な事業であったロケット打ち上げや人工衛星による宇宙開発で、大きな役割を果たそうとしています。

そのような大きな潮流の変化のなかで、これまでの世界のロケット開発の歴史を概観し、未来を展望することは有意義なことだと思います。

ロケットの歴史は大変古いものです。歴史に初めてロケットが登場したのは、10世紀ごろであろうと思われます。そのころ中国で火薬が発明され、爆発的な燃焼をする火薬を筒に詰め、弓矢に取りつけて使用したのです。それがロケットの始まりで、火箭と呼ばれました。それを兵器として積極的に使用したのがモンゴルでした。12世紀に中国を征服したモンゴルは、火箭をもってユーラシア大陸を西へと版図を広げていきました。モンゴルは、13世紀に日本に攻めかけた元寇のときにも火箭を使用したようですが、火薬の威力に驚き、それを積極的に取り入れようとしたのは欧州の人々でした。

欧州では、兵器への火薬の使用にさまざまな工夫を凝らして大型化が図られました。また、容器を金属製にするなど、堅固化も進んでいったため、積極的に使われる兵器になりましたが、そのころのロケットには決定的な弱点がありました。ロケットの軌道を制御できないため、目標に向かって正確に飛ばすことができないのです。そのため、その飛翔音や爆発音で敵を威嚇するだけの兵器にすぎず、大砲の性能が向上して命中精度が高まると、やがてロケットは忘れられていきました。

そのロケットを、現在私たちがイメージするようなものにしたのは、ロシアの科学者コンスタンチン・ツィオルコフスキー(1857~1935年)です。「宇宙開発の父」と呼ばれるツィオルコフスキーは、ロケットで宇宙に行けることを計算で示しました。また、多段式ロケットや人工衛星についても卓越したアイデアを提案し、それに刺激されるように、欧州やアメリカでもロケット研究が始まりました。

宇宙を目指すロケットたち(写真:ESA/D.Ducros)

なかでも積極的に活動を始めたのが「ドイツ宇宙旅行協会」でした。たんに民間のロケット愛好家の集まりでしかありませんでしたが、ロケット開発費を捻出するためドイツ軍と接触し、さまざまな便宜を受けるのと引き換えに、兵器開発に協力する道へ進んでいくことになります。その是非をめぐって協会は解散することになりますが、軍人となり積極的にロケット開発に関わっていったのが、第二次世界大戦後アメリカに渡って、ロケット開発におおいにその手腕を発揮したヴェルナー・フォン・ブラウン(1912~1977年)です。フォン・ブラウンがドイツで開発したV2ロケットこそ、現代ロケットの礎となったロケットでした。

その後の成果は本書をお読みいただくとして、世界の宇宙開発の現状はどうなっているのかを簡単に見ておきましょう。

現在、世界の宇宙開発の勢力図は大きく描き換えられようとしているように見受けられます。アメリカよりも早く宇宙開発に成功したロシアは、絶対的な信頼を勝ち得ていたソユーズが打ち上げに失敗するなど、最近その勢いが揺らいでいるように見えます。経済的な苦境が原因なのかもしれませんが、ロシアに代わって台頭著しいのが中国とインドです。完全に独自路線を歩む中国は、月へ人間を送り込むことさえも射程にとらえたといえるかもしれません。

なお、本書で取り上げたロケット以外にも、宇宙へ行ったロケットがあります。中東で激しく覇を競うイスラエルとイラン両国はロケットの打ち上げに成功しています。しかし、どちらもその目的が軍事的なものであることがはっきりしているので、本書では紹介していません。

また、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)も、ロケットの打ち上げに成功していますが、その真の目的は、核兵器と合わせてミサイル兵器として国際社会を恫喝しようとするものと考えられ、とても平和目的でのロケット開発とは思えないので対象から外しました。また、韓国もエンジン試験用ロケットを打ち上げて成功しましたが、国産化を進めている途中の段階だと見られるため、言及を避けました。

使いようによってはきわめて危険なものとなるロケットですが、私たちの生活の向上に役立つものであってほしいと切に願うものです。

2019年1月 谷合 稔

CONTENTS

はじめに

序章 ロケットの飛ぶ仕組み
ロケットの飛ぶ原理
2種類のロケット
ロケットの性能を決める4つの指標
ロケットの構造と設計
ロケットの制御と誘導

第1章 戦中や戦後のロケット
V2ロケット(ナチス・ドイツ・1942年)
レッドストーン(アメリカ・1952年)
R-7(ソ連(現ロシア)・1956年)
ジュノーI/II(アメリカ・1958年)
ディアマン(フランス・1965年)
ブラック・アロー(イギリス・1969年)

第2章 日本の草創期
ペンシルロケット(日本・1955年)
ベビーロケット(日本・1955年)
カッパロケット(日本・1958年)
ラムダロケット(日本・1963年)
ミューロケット(日本・1974年)
M-V(日本・1997年)
N-I/II(日本・1975年/1981年)
H-I(日本・1986年)
人工衛星の主な軌道

第3章 成熟期のロケット
アトラス(アメリカ・1959年)
タイタンI/ⅡGLV(アメリカ・1959/1964年)
デルタ(アメリカ・1960年)
モルニヤ(ソ連およびロシア・1960年)
コスモス(ソ連およびロシア・1961年)
タイタンⅢ(アメリカ・1964年)
プロトン(ソ連およびロシア・1965年)
ソユーズ(ソ連およびロシア・1966年)
N-1(ソ連(現ロシア)・1969年)
長征1~4号(中国・1970年)
アリアン1~4(欧州・1979年)
SLV/ASLV(インド・1980年)
ゼニット(ウクライナおよびロシア・1985年)
タイタン23G(アメリカ・1986年)
エネルギア(ソ連(現ロシア)・1987年)
タイタンⅣ(アメリカ・1989年)
デルタⅡ/Ⅲ(アメリカ・1989年)
アトラスI/Ⅱ/Ⅲ(アメリカ・1990年)
ロコット(ロシア・1990年)
PSLV/GSLV(インド・1993年/2001年)
H-Ⅱ/ⅡA(日本・1994年/2001年)
アリアン5(欧州・1998年)
アトラスV(アメリカ・2002年)
デルタⅣ(アメリカ・2002年)
H-ⅡB(日本・2009年)
ヴェガ(欧州・2012年)
イプシロン(日本・2013年)
アンタレス(アメリカ・2013年)
アンガラ(ロシア・2014年)
長征5~7号(中国・2015年)

第4章 時代をつくったロケット
サターンI/IB(アメリカ・1964年/1966年)
サターンV(アメリカ・1967年)
スペースシャトル(アメリカ・1981年)

第5章 民間のロケット
ペガサス(アメリカ・1990年)
CAMUI(日本・2002年)
スペースシップワン/ツー(アメリカ・2004年)
ファルコン1(アメリカ・2006年)
ファルコン9(アメリカ・2010年)
ニューシェパード(アメリカ・2015年)
MOMO(日本・2017年)
ファルコンヘビー(アメリカ・2018年)
ニューグレン(アメリカ・2020年予定)

索引
参考文献/参考Webサイト

*( )内の年代は初回打ち上げの年です。