詳説世界史研究

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『詳説世界史』に準拠した最も詳しい1冊

本書は世界史を500ページ以上にもわたり詳細に解説しており、内容的にも出来事を羅列するだけでなく、背景等も解説されているため一層世界史に関する理解を深めることができます。また、全編フルカラーで資料の写真も多々掲載されているため、これ一つで学習が可能な一冊です。

木村 靖二 (編集), 岸本 美緒 (編集), 小松 久男 (編集)
出版社 : 山川出版社 (2017/12/3)、出典:出版社HP

まえがき

今を生きる私たちは、どこにいるのだろうか。時間軸でいえば,長きにわたる人類の歴史の最先端にいる。言い換えれば,私たちはときの流れが歴史に変わる瞬間を生きているのである。私たちはみな歴史と繋がっている。これはあたりまえのことだが,日々の生活のなかでは、ともすれば忘れがちになることである。空間的には多くの場合,日本のどこかにいるということになるだろう。しかし、そのどこかにしても,そこだけで完結する限られた空間ではない。例えばインターネットをみればわかるように、意識しているかどうかは別として,私たちはもはや世界大の空間と結びついている。現代世界に生起しているさまざまなことが,直接あるいは間接に私たちの生活に影響を与えているといってよいだろう。同じ世界の空気を吸っているのである。

グローバル化した現代世界の課題
それでは、現代の世界とは,どのような世界なのだろうか。これはもちろん人によって見方は異なるだろう。ただ,かなり広く共有されている見方というものはある。一例をあげてみよう。2015年9月,国連は「我々の世界を変革する――持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択した。世界が直面する深刻な課題を解決するために,2030年までに実現すべき目標とその方法とを定めたものである。これを踏まえて2016年1月には、17項目の持続可能な開発目標が発効した。これは、その英語表現Sustainable Development Goalsを略してSDGsとよばれる。この壮大なプロジェクトが前提としている問題、つまり現状認識はつぎのように記されている。

我々は,持続可能な開発に対する大きな課題に直面している。依然として数十億人の人々が貧困のうちに生活し、尊厳のある生活を送れずにいる。国内的,国際的な不平等は増加している。機会,富及び権力の不均衡は甚だしい。ジェンダー平等は依然として鍵となる課題である。失業,とりわけ若年層の失業は主たる懸念である。地球規模の健康の脅威,より頻繁かつ甚大な自然災害,悪化する紛争、暴力的過激主義,テロリズムと関連する人道危機及び人々の強制的な移動は、過去数十年の開発の進展の多くを後戻りさせる恐れがある。天然資源の減少並びに、砂漠化,干ばつ、土壌悪化,淡水の欠乏及び生物多様性の喪失を含む環境の悪化による影響は,人類が直面する課題を増加し,悪化させる。我々の時代において、気候変動は最大の課題の一つであり、すべての国の持続可能な開発を達成するための能力に悪影響を及ぼす。(外務省の仮訳を引用)

このように問題は多岐にわたり、かつ深刻である。これらの問題の解決には各国の利害を超えた協力と叡知の結集が必要であることはいうまでもない。

世界の今とこれからを考えるための世界史
ここで少し立ち止まって考えてみると,これらの問題の要因や淵源,あるいはその規模やことの成否は別として、同じような問題に直面した社会の経験や経験知は,これまでの世界史のなかに求められることがわかる。このことの意味は大きい。現代世界の課題を解決するにあたって、世界史は十分な参照に値するからである。
いくつかの例をみてみよう。貧困と不平等は、人類史を貫くテーマであるといってよい。それは古来の思想家が論じたテーマであり、また多くの歴史家が取り組んできたテーマでもある。その知見は,現代を考えるうえでも欠かすことはできない。ジェンダー平等は,歴史学でもこれまで実現されることがなく,そこに空白があったことは明らかである。近年ようやく,歴史の全体像を描くにはジェンダー視点が欠かせないことが主張されるようになった。ここは今後に期待するところが大きい。現代の紛争や集団的な暴力は,資源や権力をめぐる闘争や大国の策動だけで説明することはできない。その背景には多くの場合,アジア・アフリカ地域における,かつての植民地支配のような歴史的な構造が存在している。それを理解しなければ解決にいたることは難しい。

地球規模の健康の脅威といえば,14世紀にはいってユーラシア大陸の東西に蔓延したペスト(黒死病)が,各地の国家や社会に大きな打撃を与えたことも世界史は教えている。
気候変動は、それと知っていたかどうかは別として,人類が絶えず対応を迫られてきた課題にほかならない。それはある地域に社会・経済的な停滞をもたらすこともあれば集団の移動を促すことによって,それ自体が歴史的な事象の要因になることもあった。ただし、現代の気候変動は近代以降の大規模な工業化という人為的な要因が大きくかかわっているところに特徴がある。
自然災害もまた人々が絶えまなく各地で経験してきたものであり,必ずしも自然に起こったわけではなく、しばしば人為的な要因が絡んでいたことがわかっている。そして人々はそこからどのように立ち直り,あるいは復興できなかったのか,それも重要な知見である。3.11(2011年東日本大震災)以後,歴史研究者の目が,それまであまり顧みられることのなかった災害史に向けられるようになったのは心強いことである。

環境の悪化についていえば、私たちは現に世界第4位の内陸満であったアラル海の見る影もない縮小とその一帯の乾燥化を,この目でみているところである。それはソ連時代の度を越した開発,とりわけ綿花栽培の拡大が,パミール高山地帯の?お水を源とする2つの河川の水量を奪い、アラル海にそそぐ水が枯渇したところに原版があった。ソ連は,今年(2017年)でちょうど100周年を迎えるロシア革命で成立した国家である。初はまさに世界を変革することを意図していたが,このユートピア的な構想は結果として上最大ともいえる環境破壊を招いてしまったのである。このように,私たちは世界史からのことを学ぶことができる。

世界の一体化からグローバルへ
SDGsのもう1つの特徴は、地球規模の問題をともに考え、行動することをよびかけた点にある。その前提となるのは世界の一体化グローバル化という認識である。それでは、この世界の一体化とはいつ、どのようにして起こったのだろうか。これも世界史の問題である。一般に,世界の一体化は、ユーラシア大陸とアメリカ大陸との間の交流が始まった16世紀を起点に考えられているが,最近はそれに先立つ時代における動きにも関心がはらわれるようになった。例えば、13~14世紀にアフリカを含むアフロ・ユーラシア規模での政治、経済、文化にわたる父親。もたらしたモンゴル帝国の時代である。例えば、アデン港を拠点に多角的な交易をおこなていたイエメンでは、トルコ系の起源をもつ一地方王朝の君主が、14世紀後半にアラビペルシア語・トルコ語・ギリシア語・アルメニア語・モンゴル語からなる多言語辞音と、らせていた。その必要があったのだろう。また、この時代に集積された地理情報はアプリ大陸の存在も認識していたことがわかっている。世界の一体化は、このような過程を経てしだいに進展した。もっぱらヨーロッパのヘゲモニー(主導権)によって進んだわけではない。そして、世界の一体化とは行したことも事実である。それはグローバル化した現代においても変わるところはない。

長い歴史をとおして世界の一体化が進行したとすれば,そこには当然のことながら日本も含まれるはずである。日本は世界史の流れのなかでどのような位置にあり、外の世界とどのような関係を結び、そしてどのような役割をはたしてきたのだろうか。少しでも考えてみるつることがない。日本では長く,世界史と日本史とを別の科目として教え.まですか。大陸とは離れ,海に囲まれた日本列島という地理的な条件もあって,世界史日本中という二分法を自然に受け入れてきたのかもしれない。しかし,日本列島の人々も,世界の同じ時代の空気を吸って生きてきたのである。世界史と日本史とを分けて考えることはできない。日本史を世界史の流れのなかにおいてみれば,これまでみえなかったこトがみえてくるに違いない。これは,ともすれば自己完結しているかにみえる日本史をより客観的に考えるうえでも有効だろう。とりわけ19世紀後半以降の近代は,これまでの日本史世界史の枠を超えて考えることが大切である。これは現代の日本がどのようにしてできたのかを考えるうえで、欠かすことのできない姿勢だからである。

文化としての世界史
このように世界史の理解は,日本を含めた現代世界の直面する課題を考えるうえで有効である。あるいは、グローバル化した現代世界を生きていくためには欠かすことができないともいえる。これは,歴史学を含む人文学がいったい何の役に立つのかと問われることの多い現在,答えるべきことの1つかもしれない。しかし、すべての人がこのような問題意識をもって世界史を学ぶわけではない。冒頭に記したように、私たちはみな歴史と繋がっているとすれば、それこそ文字はもたずとも自分たちの集団の過去や記憶を語り継いでいた時代以来,歴史への関心は人間の存在に深く根ざすものともいえるだろう。ユネスコの主導する世界文化遺産は、その一例であり、登録された遺産はいまや世界大に広がっている。そこには現代の国家による歴史の資産化という面もあるが,訪問する人々の歴史的な想像力をかきたてていることは疑いない。一例をあげれば、アフガニスタンにあるバーミヤンの大仏像は、2001年にターリバーン勢力によって爆破されたが、東京藝術大学の研究チームは、そのみごとな天井壁画を復元することに成功した。これをみると、人はかつてこの地域で展開されていた壮大な文化交流の姿を実感することだろう。また今日、世界史に取材したアニメや漫画は広く受け入れられている。文化としての世界史は、人々の関心や興味を引かずにはおかないのである。

本書は,世界史に関心をもたれる幅広い読者を想定して編集されている。構成は、基本的に現行の高等学校教科書『詳説世界史』に準拠しており、最新の研究成果を取り入れながら、教科書の内容を深掘りするかたちで書かれている。対象が膨大である世界史の叙述はもとより多様であるはずであり本書はその一例にすぎない。また、読者にはどこからでも,関心でもたれたところから読んでいただきたい。本書が世界史理解の一助となれば幸いである。

2017年10月 編者

木村 靖二 (編集), 岸本 美緒 (編集), 小松 久男 (編集)
出版社 : 山川出版社 (2017/12/3)、出典:出版社HP

目次

序章 先史の世界

第Ⅰ部
第1章 オリエントと地中海世界
①古代オリエント世界
②ギリシア世界
③ローマ世界
第2章 アジア・アメリカの古代文明
①インドの古典文明
②東南アジアの諸文明
③中国の古典文明
④南北アメリカ文明
第3章 内陸アジア世界・東アジア世界の形成
①草原の遊牧民とオアシスの定住民
②北方民族の活動と中国の分裂
③東アジア文化圏の形成

第Ⅱ部
第4章 イスラーム世界の形成と発展
①イスラーム世界の形成
②イスラーム世界の発展
③インド・東南アジア・アフリカのイスラーム化
④イスラーム文明の発展
第5章 ヨーロッパ世界の形成と発展
①西ヨーロッパ世界の成立
②東ヨーロッパ世界の成立
③西ヨーロッパ中世世界の変容
④西ヨーロッパの中世文化
第6章 内陸アジア世界・東アジア世界の展開
①トルコ化とイスラーム化の進展
②東アジア諸地域の自立化
③モンゴルの大帝国
④東西の交流

第Ⅲ部
第7章 アジア諸地域の繁栄
①東アジア世界の動向
②清代の中国と隣接諸地域
③トルコ・イラン世界の展開
④ムガル帝国の興隆と東南アジアの交易の発展
第8章 近世ヨーロッパ世界の形成
①ヨーロッパ世界の拡大
②ルネサンス
③宗教改革
④ヨーロッパ諸国の抗争と主権国家体制の形成
第9章 近世ヨーロッパ世界の展開
①重商主義と啓蒙専制主義
②ヨーロッパ諸国の海外進出
③17~18世紀ヨーロッパの文化と社会
第10章 近代ヨーロッパ・アメリカ世界
①産業革命
②アメリカ独立革命
③フランス革命とナポレオン
第11章 欧米における近代国民国家の発展
①ウィーン体制の成立
②ヨーロッパの再編と新統一国家の誕生
③南北アメリカの発展
④19世紀欧米の文化
第12章 アジア諸地域の動揺
①オスマン帝国支配の動揺と西アジア地域の変容
②南アジア・東南アジアの植民地化
③東アジアの激動

第Ⅳ部
第13章 帝国主義とアジアの民族運動
①帝国主義と列強の展開
②世界分割と列強の展開
③アジア諸国の改革と民族運動
第14章 二つの世界大戦
①第一次世界大戦とロシア革命
②ヴェルサイユ体制下の欧米諸国
③アジア・アフリカ地域の民族運動
④世界恐慌とファシズム諸国の侵略
⑤第二次世界大戦
第15章 冷戦と第三世界の独立
①戦後世界秩序の形成とアジア諸地域の独立
②米ソ冷戦の激化と西欧・日本の経済復興
③第三世界の台頭と米ソの歩み寄り
④石油危機と世界経済の再編
第16章 現在の世界
①社会主義世界の変容とグローバリゼーションの発展
②途上国の発展と独裁政権の動揺
③地域紛争の激化

読書案内
索引

木村 靖二 (編集), 岸本 美緒 (編集), 小松 久男 (編集)
出版社 : 山川出版社 (2017/12/3)、出典:出版社HP