世界全史

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世界史の基礎教養

本書を、「サクサク読める、映画フィルムを早送りしながら見ているような感覚で歴史を読める」一冊と著者はしています。そのため、歴史の細かい話には言及されていませんが、著者が設定した「35の鍵」を道標に簡潔に解説されており、世界史の全体の流れを学ぶことができます。

宮崎 正勝 (著)
出版社 : 日本実業出版社 (2015/3/19)、出典:出版社HP

はじめに

最近の新聞やテレビニュースは、世界が混迷の時代にあることを伝えています。ヨーロッパの景気の低迷、EU内部の北欧と南欧の対立、二〇一〇年末に起こった「アラブの春」以来、混乱が強まる中東とアフリカ、石油価格の低迷とウクライナ紛争に悩むロシア、中国の経済成長と格差の拡大、さらには強引な海洋進出……。
こうした現代の世界は、どのような道筋をたどって出来上がってきたのでしょうか。

戦後しばらくの間、日本は歴史ブームで、古めかしい中国史(東洋史)やヨーロッパの自己主張が強い西洋史、発展段階説に基づく世界史などがさかんに読まれていました。
その後、各国史や地域史、時代史などに重点が移り、膨大な量の細かい歴史事実が集められるようになり、世界史への興味を弱めていく結果となりました。
本当は部分を集めれば集めるほど、全体が見えなくなってしまうのですが、部分史を寄せ集めたものが世界史である、というような傾向が強まったのです。

私は、大学教官を辞した後、カルチャーセンター等で、社会経験が豊富な優れた聞き手の方々に世界史について話しながら、普通の市民やビジネスパーソンに世界史を伝えるにはどうしたらいいのか、試行錯誤を繰り返してきました。
その経験から、従来の歴史の本とは違ってサクサク読める、映画フィルムを早送りしながら見ているような感覚で歴史を読めればいいと考えるようになり、書いたのが本書です。

まず、「5の鍵」(キーポイント)を歴史の道筋をたどる道標として設定、それに基づいて簡潔な本文を書き、適宜「トピック」と「歴史の読み方」を組み入れました。「歴史の読み方」では、歴史事実の意義、現代から見た着眼点などを示しています。
史実の配列に配慮をしつつも、簡単な文章を読んでいくことでスーッと読めるように組み立てられています。「覚える」のではなく、「わかる」、「考える」を重視した手引書というような趣になります。巻頭の簡単な図版も、適宜本文中に入れた図版も主に地理面の補助として役立つと思います。

本書が描く世界史の道筋は、巻頭の一九ページに「世界史の道筋―本書の歴史のとらえ方」として図式化されています。簡単に本書の構成を紹介すると、以下のようになります。
まず、「第1章 世界史の始まり」「第2章 四つの河川文明の出現」「第3章 地域ごとに並び立つ帝国の時代」「第4章 ユーラシアが一体化して起きた文明の大交流」までは、モンゴル帝国の時代に至るひとつながりのユーラシアの世界史ですので、歴史の筋道はたどりやすいと思います。次いで、「第5章 再編されていくユーラシア」「第6章 世界史の舞台を大きく拡張した大航海時代」「第7章 大西洋が育てた資本主義と国民国家」は、時期的に並行するユーラシアの「陸の世界史」(小さな世界史)と地球規模の「海の世界史」(大きな世界史)を対比しながら概観することになります。
「第8章 イギリスがリードした『ヨーロッパの世紀』」は、イギリスを中心とする「海の世界史」が変化をしながら「陸の世界史」を飲み込んでいく時代になります。
そして、「第9章 地球規模の時代へ」は、ヨーロッパが二つの世界大戦で没落し、アメリカの主導下に地球の一体化が進む、二〇世紀、二一世紀の世界史です。

「世界史の道筋はそんなに簡単なの?」と思われるかもしれませんが、大筋は簡単であればあるほどよいわけで、無理に繁雑にする必要はありません。
もちろん、他にもくくり方があるのは当然ですが、長期にわたって様々な形で世界史にかかわってきた私の経験では、これが世界史の担い手の推移と次々に姿を変える世界史のポイントをわかりやすくとらえることができる簡潔な枠組みだと考えます。
一般の人々が知っておくべき歴史は、別に専門家を育成するための内容ではありませんし、受験にも関係ありません。歴史の道筋と、ダイナミックな変化、それらが現代の世界に及ぼしている影響、そしてこうした事実を知った上でこれから世界がどう動いていくかを予測する力をつけることだと思います。

今から二〇〇年前の歴史地図を見てみましょう。
ユーラシアでは、ロシア帝国、オスマン帝国(トルコ)、清帝国(中国)、そしてあまり馴染みのないムガル帝国(インド)が大部分の土地を支配していました。大西洋の周辺ではヨーロッパが主導する資本主義経済と国民国家体制からなる「大きな世界」が台頭しつつありました。アメリカは独立したばかりの国であり、オーストラリア、カナダはイギリスの植民地でした。

ところが、二〇〇年が経過する中で、ユーラシアでは先の四帝国の崩壊を受けて各地に混乱が訪れ、近代を牽引してきたヨーロッパは「没落」の色合いが濃くなってきています。
アメリカ、様々な矛盾を内包する中国、そして日本、アジアの新興国などを周辺に持つ「太平洋」が世界史を主導する地域になりつつあるのです。
本書で、このように世界史が常に姿を変えながら、一貫した道筋として現代につながっていることを実感していただければ幸いです。

二〇一五年三月
宮崎正勝

宮崎 正勝 (著)
出版社 : 日本実業出版社 (2015/3/19)、出典:出版社HP

目次

はじめに

図で見る世界の歴史と地理
世界の地域区分の呼び方
世界史の道筋—本書の歴史のとらえ方
大地溝帯から四大文明へ
資本主義経済は大西洋から生まれた
国民国家(近代政治システム)の普及
二つの世界大戦でヨーロッパの時代が終焉
グローバル経済への転換
世界史対照略年表
古代に生まれた四大帝国
騎馬遊牧民によるユーラシアの一体化
大転換する海の世界
世界の地理と気候

第1章
世界史の始まり
1 「大地溝帯」からの旅立ち
2 世界史の次の舞台は「大乾燥地帯」に
KEY POINT 1 農業と牧畜の出現

第2章
四つの河川文明の出現
1 灌漑が生み出した都市と国家
KEY POINT 2 灌漑インフラの整備
KEY POINT 3 都市と国家の出現
2 ズバ抜けて富裕だったナイル川流域(エジプト)
3 部族の対立が激しいメソポタミア
4 インド半島と東アジアの文明
KEY POINT 4 中華世界は天子がすべてを支配
5 ユーラシアの主要な宗教と学問のルーツ
KEY POINT 5 宗教・学問が前五、四世紀に出現

第3章
地域ごとに並び立つ帝国の時代
1 ウマと戦車により「帝国」が生まれる
KEY POINT 6 ウマが帝国形成の後押しをした?
KEY POINT 7 ユーラシアの一体化
2 最初に大帝国が出現した西アジア(イラン)
3 東地中海の成長と初の海洋帝国ローマ
KEY POINT 8 地中海の大帝国ローマの誕生
4 世界初の湿潤地帯の帝国
KEY POINT 9 世界史から離れていったインドの帝国
5 独自の内陸帝国を形成した中華帝国
KEY POINT 10 遊牧民が中華世界に浸透

第4章
ユーラシアが一体化して起きた文明の大交流
1 騎馬遊牧民が生み出すユーラシアの時代
KEY POINT 11 ユーラシア帝国の誕生
2 世界史をリードしたイスラームの大征服運動
KEY POINT 12 大征服運動の後に大商圏が誕生
3 ユーラシア規模の大商圏が成立
4 イスラーム帝国を乗っ取ったトルコ人
KEY POINT 13 11世紀に革新を果たした西欧
5 烈風のモンゴル高原から始まるユーラシア統合の動き
KEY POINT 14 中華世界の弱体化で世界帝国が出現

第5章
再編されていくユーラシア
1 挫折に終わったユーラシア帝国の再統一
KEY POINT 15 世界帝国の時代から並立時代へ
2 大きく二つに分裂したイスラーム世界
3 史上最大の中華帝国、清の誕生
4 「大きな世界」の準備に向かうヨーロッパ
5 毛皮大国ロシアのシベリア征服とヨーロッパ化

第6章
世界史の舞台を大きく拡張した大航海時代
1 資本主義を誕生させた大西洋海域
KEY POINT 16 「大きな世界史」への移行
2 海の時代を主導したポルトガル
3 大西洋世界を拓いたコロンブス
KEY POINT 17 一四九〇年代は世界史の大転機
4 スペイン人に改造されていくアメリカ大陸
KEY POINT 18 16世紀、「第二ヨーロッパ」の形成
5 「海の時代」を本格化させた海運大国オランダ
KEY POINT 19 宗教戦争でできた「主権国家」
6 大西洋の覇権を海軍力で奪ったイギリス
KEY POINT 20 蘭・英が世界のルールをつくった

第7章
大西洋が育てた資本主義と国民国家
1 サトウの生産から資本主義が生まれた
KEY POINT 21 資本主義と国民国家の成立
2 産業革命と産業都市が世界史を主導する
KEY POINT 22 石油の時代へ
3 都市の成長を支えた地球規模の高速交通網
KEY POINT 23 鉄道・蒸気船の高速ネットワーク登場
4 「国民国家」はアメリカの独立戦争から広まった
KEY POINT 24 19世紀はヨーロッパの世紀

第8章
イギリスがリードした「ヨーロッパの世紀」
1 大英帝国を支えたポンドの時代
2 蒸気船の登場で小さくなる世界
3 解体を迫られたユーラシアの諸帝国
KEY POINT 25 欧州のアジア進出が加速
4 イギリス、ドイツの覇権争いで変わっていく世界
5 新大陸で巨大になっていくアメリカ
KEY POINT 26 アメリカは西部開拓と鉄道で大国に
KEY POINT 27 海の支配権が世界を制す
6 従属的に世界史に組み込まれたアフリカ・太平洋

第9章
地球規模の時代へ
1 二つの世界大戦とヨーロッパの没落
KEY POINT 28 二つの大戦でヨーロッパが没落する
2 新たな破局に向かう戦間期の世界
3 世界恐慌が引き金になった第二次世界大戦
KEY POINT 29 世界恐慌が第二次大戦を誘発
KEY POINT 30 第二次大戦は複雑な要因で起きていた
4 世界通貨となったドルと冷戦の影響
KEY POINT 31 米ソ冷戦で第三勢力が台頭
KEY POINT 32 世界経済が激変した一九七〇年代
5 グローバル化と見えてこない地球新時代
KEY POINT 33 グローバル経済がもたらす経済の不安定化
KEY POINT 34 オーヴァーチャル空間が世界経済を動かす
KEY POINT 35 世界史の中心となり得る「太平洋」

索引

装丁/中村勝紀(TOKYOLAND)
本文組版/-企画

宮崎 正勝 (著)
出版社 : 日本実業出版社 (2015/3/19)、出典:出版社HP