新卒採用基準―面接官はここを見ている

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新卒採用の基準はどこにあるのか

本書は、企業が新卒採用を行う際に、どのような基準で学生を判断しているのかを解説している本です。企業が採用活動を行っている中で、何を重視しているのか、学生が就職活動を行う上で、何が誤解されているのかといった、新卒採用における企業、学生間双方のポイントが解説されています。

廣瀬 泰幸 (著)
出版社 : 東洋経済新報社 (2015/2/6)、出典:出版社HP

はじめに

私は、新卒でリクルートに入社して以降、さまざまな仕事をする中で、10年間、一貫して企業の新卒採用活動を支援する業務に携わってきました。
支援してきた企業は、ベンチャー企業から日本を代表する大企業まで多岐にわたります。業界も異なれば、企業の規模も大から小までさまざまな、歴史、風土、企業理念の異なる企業のお手伝いをさせていただきました。その数はトータルで1000社以上にのぼります。
このように数多くの企業の採用活動をサポートするうち、私は、あることに気がつきました。
各企業の経営者や人事担当者が描く「採用したい人物」は、話を聞く人によってさまざまに異なりました。ある人は「コミュニケーション能力の高い人」が欲しいと言い、またある人は「チャレンジ精神がある人」を採用したいと希望し、また別の人は、うちが採りたいのは「問題意識が高い人」だと、さまざまな人物像が挙げられました(実際に伸び盛りのベンチャー企業の経営者と、歴史のある通信キャリアの人事担当者では、求める人物像はまるで違っていました)。
しかし、実際に選考を経て内定を獲得する学生を見ると、彼らには皆、「共通する人間性や能力」が備わっていたのです。
考えてみれば当たり前のことですが、どの会社であろうと、お客様だけでなく、同じ部署の人にも好かれ、メンバーとうまくやることは、仕事をする上で欠かすことはできません。また、人から指示されたことをやるだけでなく、自分の頭で考え、自主的に行動したり、実行しないと仕事になりません。
このように、たとえば「仲間と協調できる」ことや、「主体的に考え、自ら動ける」といった素養は、仕事をする上で、どの会社でも共通して求められる「仕事ができる人」の「基準」として存在しているのです。
このような「基準」は、必ずしも経営者や人事担当者が「自覚」しているわけではありません。いえ、無自覚であるがために、人によって言うことが違うのでしょう。しかし、自覚していないからといって、その要素が重要ではないことにはなりません。むしろ無自覚であるからこそ、「やっかい」な基準だと言えるのです。

その後、私はリクルート勤務時代にお付き合いのあった、ある一部上場企業の人事責任者として転職しました。
そこでは社内の人事規定の改訂や社員教育の仕事に携わる傍ら、年間500名の新卒・中途採用の最終面接を行ってきました。このときの採用活動で感じた一番大きな課題は、人事がいいと思った「優秀な人」ほど、しばしば他社に逃げられてしまうということでした。
新卒採用は、一定期間に同時にさまざまな会社が採用・選考活動を行い、内定を出します。採用する企業の立場から言えば、熾烈な人材獲得競争に勝ち抜いていかなくてはいけません。
企業は、自社の風土に合致した人を採用したいと考えますが、同時に「仕事ができる人」を採用したいと思っています。そうした優秀な候補者をめぐり各社で争奪戦が行われている理由は、求めるレベル=「水準」に合致した候補者がそもそも少ないことに加え、企業が
求めている「基準」が同じであることにほかならないと、このときの経験を経て、私は確信するに至ったのです。

「新卒採用基準」を知らないことが、学生を苦しめている

こうした経験を経て、2010年より「就活コーチ」という、就活生の就職活動を支援する事業を始め、すでに1000名を超える学生の支援を行ってきています。成果の出方は人によって差は当然ありますが、おおむね高い満足感を味わってくださっていると自負しています。
「就活コーチ」で学生の支援を行っている過程で、私は3つのことに気がつきました。
1つは、学生たちがそもそも企業の「評価項目」=「基準」を知らないということ。次に、その基準に照らして、自分がどのレベル(水準)にあるのかわかっていないこと。そして、それゆえ、自分を客観的に見つめ、長所を伸ばし短所を改善する絶好の機会である、「就職を考え始めてから実際に活動する時期」に、小手先の「就活テクニック」の取得に走る学生が非常に多いことです。
企業の採用活動と、就活生の就職活動の双方の支援経験を持つ私なので、自信を持って断言できますが、企業の求める基準と学生の努力には、大きなミスマッチが生じています。これは、企業と学生の両者にとって不幸なことです。
多くの学生は、企業が学生に求めているのは、「コミュニケーション能力」「主体性」「粘り強さ」だと言います。確かに、こうした項目は実際に企業が学生に求めている「基準」であることも事実です。
しかしながら、これらは、企業が求めている基準のほんの一部でしかありません。他にも企業が求めている大切な基準はたくさんあります。
一方で、企業がそれほど重視していないにもかかわらず、重視していると学生が勘違いしている基準もたくさんあるのが実情なのです。
学生にとって、企業が求めている基準の全体像を知ることは、その後の就職活動の成否を左右する一大事でありながら、そのことを正確に伝えるマスメディアもなければ、的確な情報源も見当たらないのが現実です。
そこで本書では、企業と学生の間のミスマッチを解消することを第1の目的として、あらゆる企業に共通する「新卒採用基準」をリスト化し、公開することにしました。それが、本節末の「新卒採用基準 自己分析表」です。それぞれの項目の詳細は本文に譲りますが、このリストに沿って自らの能力を評価し、集計すれば、自分がどの程度の企業に合格できそうなのか、自分に足りない能力は何なのかが、すべてわかるようになっています。本書を
読み通していただいた後、ぜひコピーをとって、ご自身でチェックしていただければと思います。
企業の「新卒採用基準」の中には、意識するだけですぐに伸ばせる「能力」がある一方で、そう簡単に伸ばすことのできない「資質」のようなものもあります。ですから、本書を読んだだけで、すべての「新卒採用基準」を伸ばすことは難しいかもしれません。
また、企業が求める能力があまりにも広汎なため、モチベーションが削がれてしまうかもしれません。
しかし、それでも、そういった基準を知っているのと知らないのとでは、大きな違いがあることは間違いありません。また、すべての基準を完璧に満たす必要はなく、自分の得意なところを引き上げ、苦手を少しでも克服することで、就職活動は必ず有利に運びます。
ぜひ、本書にじっくりと目を通し、企業が採用しようとしている人材に何を求めているのかを理解した上で、できる準備をしっかりとして、就職活動に向かってほしいと思います。

 

廣瀬 泰幸 (著)
出版社 : 東洋経済新報社 (2015/2/6)、出典:出版社HP

新卒採用基準——目次

はじめに

序章 3つの誤解
■「企業が求めるもの」の誤解
□「基準」の誤解と「水準」の誤解
□なぜ誤解が生じているのか
■キャリアについての誤解
□「キャリアセンター」の役割
□キャリアデザインの3つの輪
「3つの輪」を大きく育てる
□「キャリアセンター」についての誤解
■「面接」に対する誤解
□就活本も先輩もあてにならない
□面接には2つの種類がある
一般面接
コンピテンシー面接
□コンピテンシー面接対策で能力向上を

第1章 新卒採用基準①人間性
■「自己肯定感」と「他者軽視感」
□自己肯定感
「自己肯定感」とは
□他者軽視感
□「人間性」の4タイプ
日本人には「自尊型」が少ない
□「自尊型」になるためにすべきこと

第2章 新卒採用基準②仕事力
■「仕事」について考える
□「仕事」とは何か
□仕事をする上で欠かせない「目標」と「目的」
「目標」とは何か
「目標」と「目的」の関係
「目標」と「目的」は車の両輪
■「仕事力」とは
□「社会人基礎力」こそ仕事力の根幹
□社会で必要な力を分解する
結局、すべては「社会人基礎力」に帰する
なぜ「リーダーシップ」は「仕事力」の構成要素ではないか
□「社会人基礎力」完全理解
前に踏み出す力(アクション)=一歩前に踏み出し、失敗しても粘り強く取り組む力
考え抜く力(シンキング)=疑問を持ち、考え抜く力
チームで働く力(チームワーク)=多様な人々とともに、目標に向けて協力する力
□大企業に取り入れられる「社会人基礎力」
育成に活用する
大企業内定者の取り組み
■仕事力を高める
□「自己プロジェクト」とは
□自らPDCAサイクルを回す
ドラゴンノート
「緊急でないが重要なこと」に取り組む
□「自己プロジェクト」の具体例
ゼミ・研究室での取り組み
部活・サークル活動での取り組み
アルバイトでの取り組み
ボランティアでの取り組み
□「自己プロジェクト」は誰にでもできる
普通の学生でもできる
「就活のネタ作り」でも成長できればいい

第3章 新卒採用基準③表現力
■コミュニケーション力と表現力
□コミュニケーション力とは
□コミュニケーションカは「表現力」の一要素にすぎない
■Visual(ビジュアル)
①姿勢
立ち方
座り方
②手
滝川クリステルさんに学ぶ「手」の効用
面接では「手」を意識する
③目
目力
アイコントロール
④顔
表情と内容を合わせる
それでもやっぱり笑顔は重要
笑顔はトレーニングで鍛えられる
■Vocal(声)
□それは「性格」ではなく「声のくせ」だ
□心の状態声は心に左右される
心を整える
□呼吸法
腹式呼吸をマスターする
呼吸は「心」を左右する
□発声法
「口ごもる」「噛む」のは、発声法を知らないから
発音トレーニング
滑舌トレーニング
□声の表現
①抑揚(イントネーション)
②強調(プロミネンス)
③間(ポーズ)
④緩急(チェンジオブペース)
■Verbal(言葉)
□相手に「イメージ」が伝わる単語を使う
具体と抽象を意識する
□表現技法
伝わりやすい構造
印象に残る4つの表現
□強いコトバ
□パーソナル・ストーリー
赤裸々な語りが心を動かす
面接でのパーソナル・ストーリーの使い方

第4章 新卒採用基準④就活スキル
■選考までに準備するスキル
□自己分析
自己分析の分析指標は「新卒採用基準」
過去の振り返り方
他者分析
□長所と短所
長所と短所には、2種類ある
エニアグラム
□「自己PR」と「学生時代に力を入れたこと」
自己PR
学生時代に力を入れたこと
「学生時代に力を入れたこと」が特にない場合
□志望業界の選定
ビジネス・システム
仕事の行為(誰に・何を・どのように)
志望業界の選び方
□志望企業の選定
企業を見るフレーム
志望企業の選び方
何社にプレエントリーすればいいのか
□インターンシップ、会社説明会、OB・OG訪問
会社説明会
インターンシップ
OB・OG訪問
□自己管理スキル
倫理憲章のスケジュール変更に対応する
PDリストとCA表を活用する
自己プロジェクトをやめない
■選考に通過するスキル
□エントリーシート
エントリーシートを見れば「仕事力」がわかる
企業によって、エントリーシートの通過率が変わる理由
エントリーシートを見れば、面接の内容がわかる
エントリーシートは早めに出す
「unistyle」を活用
□筆記試驗
「SPI3」のアウトプット帳票
1. 性格特徴
2. 能力
3. 人物イメージ
4. チェックポイント
5. 職務適応性
6. 組織適応性
「構造的把握力」と「英語力」
「備考」
「SPI3-R」「SPI3-N」
「SPI3」出題の方法
筆記試験の対策方法
□グループディスカッション
グループディスカッションにおける価値発揮の方法
面接官はグループディスカッションでどこを見ているか
□リクルーター面談
会社がリクルーター面談を行う理由
質問力とは
傾聴力のスキル
□グループ面接
グループ面接とは
グループ面接の3つのポイント
□人事面接(人事以外の面接官も含む)
コンピテンシー面接
一般面接
技術面接
ケース面接
□役員面接

第5章 新卒採用基準⑤ +α
■大学・大学院名
□人気企業は倍率100倍の難関
□どこの大学からも人気企業に入れる
□偏差値上位大学でも油断は禁物
■国際性・英語力
□TOEICはとても重要
□企業は常に変化する
■読書量
□読書の効用
□「すごい人」はみんな読書をしている
■新聞・ニュースとの接触度
□キャリアと新聞・ニュースの関係
■感謝の心

第6章 山田君と新卒採用基準の全体像
■初年度の就活を振り返る
□山田君のプロフィール
□山田君の初年度の就活
■「人間性」「仕事力」を高める
□山田君の自己分析
■山田君の自己プロジェクト
■「表現力」「就活スキル」「+α」を高める
□山田君の「表現力」トレーニング
□山田君の「就活スキル」「+α」トレーニング
■新卒採用基準の全体像
□新卒採用基準
□志望企業群への「入社可能性」がわかる
■山田君の2度目の就活
□志望企業に内定するまで
□山田君の感想

おわりに
参考文献

廣瀬 泰幸 (著)
出版社 : 東洋経済新報社 (2015/2/6)、出典:出版社HP

序章 3つの誤解

■「企業が求めるもの」の誤解

「新卒採用基準」の具体的な説明に入る前に、序章では「3つの誤解」を紹介します。「新卒採用基準」の説明を理解するための大前提ですので、少々遠回りに感じられるかもしれませんが、しっかりと読んでほしいと思います。

□「基準」の誤解と「水準」の誤解

いきなりですが、図表序-1を見てください。

これは経済産業省が2009年に実施した「大学生の『社会人観』の把握と『社会人基礎力』の認知度向上実証に関する調査」から、企業が「学生に不足していると思う能力要素」と、学生自身が「自分に不足していると思う能力要素」を調べた結果を、比較したグラフです。
ちなみに、この調査は学生4000人、企業3000社を対象としており、この種の調査としては大規模なので、結果の信憑性はかなり高いと考えられます。
さて、図表序-1のデータからは、企業は学生に対し、「主体性」「粘り強さ」「コミュニケーション力」といった能力が不足していると感じているのがわかります。これらの能力に関して、学生自身はあまり不足しているとは感じていないようで、企業と学生の間には大きなギャップが存在しています。
このようにギャップが生じている理由は、企業が期待するレベルと、学生が「この程度で十分だろう」と考えるレベルに差があることが原因だと推察できます。
つまり、企業と学生の間には、ある能力に関して、求めるレベル(水準)の差が生じているのです。この3項目に関しては、企業は学生が考えている以上に高い水準を求めているのは明らかでしょう。
一方、学生は、自分自身について「語学力」「業界に関する専門知識」「簿記」といった、「知識」が不足していると考えています。
これらの能力に関して、自分に不足していると感じている学生は、それを補おうと努力するかもしれませんが、実はその努力はまったく実を結ばない可能性が大いに考えられます。
なぜなら、学生が不足していると考えている3つの項目は、まったくと言い切っていい程、企業の人事担当者は今の学生に不足しているとは考えていないからです。
このことに気がついていない学生は、無駄なことにパワーを注ぐことになるのです。なんとも切ない話です。

同じ調査の中には、「既に身に付けていると思う能力要素」について調べた結果も載っているので、そちらも見てみましょう(図表序-2)。

こちらのデータからは、学生自身は「チームワーク力」「粘り強さ」といった能力を既に身に付けていると考えているものの、企業はまだまだ十分に身に付いていないと考えていることがわかります。つまり、「チームワーク力」や「粘り強さ」に関しては、企業が期待する水準には、学生ははるかに達していないと評価されているのです。
また、「ビジネスマナー」に関しては、学生自身はまだまだ不十分だと考 えているのに対して、企業は十分身に付けていると評価していることもわかります。
このように採用する企業と応募する学生の間には、重要と考える能力(基準)のミスマッチと、それぞれの能力をどの程度身に付けるべきかの、求めるレベル(水準)の2重のミスマッチが存在していることが、この調査の結果から見出されました。

□なぜ誤解が生じているのか

企業と学生の間にミスマッチが生じている原因の1つは、学生の就活を支援する立場にあるものが、企業が学生に求める「基準」と「水準」を正しく伝えていないことにあるのではないかと考えています。
具体的には、巷に溢れている「就活本」がその一例です。
企業は、学生にいわゆる「小手先のテクニック」を求めているわけではありません。企業が知りたいのは、それぞれの学生に「仕事ができる力」があるのか否かだけだからです。
しかしながら、ほとんどの就活本に書かれている内容は、就活スキルの「ハウツー」の範疇に属するものばかりです。
誤解があるといけませんので、一言お断りをしておきますが、私は「就活スキル」を否定しているわけではまったくありません。それも学生が就活を成功させるための、大切な項目=「基準」の1つだと考えています。しかし、多くの学生が「就活スキル」ばかりを気にしすぎるため、もっとほかの大切なことが見逃されてしまっているのではないかということを危惧しているのです。

実際、私が主催している「就活コーチ」に、学生が最初に訪れてきた際の要望は、「就活の『方法』を教えてください」という類のものがほとんどです。
「エントリーシートの『書き方』を教えてください」「グループディスカッションの『方法』や面接でうまくいく『方法』を教えてください」。女子学生の場合は、すでに十分すぎるほどマナーが身についているにもかかわらず、「『面接でのマナー』を教えてください」といった要望を多くの皆さんからお受けします。
これらの要望を受けた場合、私は「当然、それも大事だけど、他にもっと大切なことってないの?」と必ず聞き、「就活スキルの向上=就活の成功」という枠組みに凝り固まった学生さんの頭の中を、まずもってほぐすことから始めています。
ところで、こうした学生と企業の求める基準のギャップについて書かれた書籍があります。マッキンゼーで採用マネジャーを2年間務めた伊賀泰代さんが2012年11月に出版された『採用基準』(ダイヤモンド社)という本です。
この本で、著者はマッキンゼーに応募してくる日本を代表する「優秀な応募者たち」には、以下の5つの誤解があると述べています。

①「ケース面接」に対する誤解
②「地頭信仰」が招く誤解
③「分析が得意な人を求めている」という誤解
④「優等生を求めている」という誤解
⑤「優秀な日本人を求めている」という誤解

著者は、経営コンサルティング業務の根幹は、企業経営者向けのサービス業と定義しています。したがって、その仕事は、①経営課題の相談を受ける、②問題の解決方法を見つける、③問題を解決するという3つのプロセスがあり、これらに対応することが経営コンサルティングに従事する者には求められる。しかし、この経営コンサルティングという仕事の本質を理解している応募者は極めて少なく、ほとんどの応募者が先に挙げた5つの誤解をしていると言います。
つまり、経営コンサルティング業務の中では、「②問題の解決方法を見つける」だけにとどまらず、「①経営課題の相談を受ける」や「③問題を解決する」ことが重要であるにもかかわらず、多くの「優秀な応募者」には、その理解が不足していることが誤解を招いている理由であると述べています。

この例はコンサルティング業界を志望する就活生と受け入れる側の企業の間に生じている認識のギャップを教えてくれていますが、他の業界でも似たり寄ったりのことが起きていることは、想像に難くありません。
就職活動を円滑に進めるためには、企業の「新卒採用基準」をきちんと理解し、自分のパワーを有効に注ぐことが重要なのです。

■キャリアについての誤解

□「キャリアセンター」の役割

リクルートに入社して最初の2年半、私は大学の就職部・課とリクルートとの関係を良好なものにすることをミッションとした部署に配属されました。そのために私は、大学の就職部・課に足を運び、職員の皆さんの仕事をサポートする日々を送りました。
ときには、学生向けの「就職講演」を依頼されたりすることもあり、ある体育大学で就職講演をさせていただいた際には、学生の私語がうるさくて思わず「うるさい! 静かに!」と声を荒げ、帰り際には「校門の前に怖い学生がいないかなぁ。大丈夫かなぁ」とひやひやしながら大学を失礼させていただいたこともありました。

ところで、当時の大学で学生の就職活動を支援する部署は、「就職部・課」という名称で呼ばれていました。皆さんに身近な「キャリアセンター」という名称が使用されたのは、1999年の立命館大学が初めてです。以降、2000年代に入ると多くの大学が、名称を「就職部・課」から「キャリアセンター」へと変更しました。
「就職部・課」を「キャリアセンター」へ、単純に呼び名が変わっただけのように感じる方も多いかと思いますが、実は名称が変わったことで、「キャリアセンター」には新たなミッションが付け加えられたのです。
「キャリアセンター」のミッションは、当然ながら学生のキャリア形成を支援することです。では、学生のキャリア形成を支援するとはどういうことでしょうか?
一言で言うと、「学生生活並びに卒業後も、学生が自分のキャリアを考え、選択することができるように支援すること」です。
ここに、キャリアセンターの前身である大学の就職部・課とキャリアセンターの大きな違いがあります。就職部・課は学生の就活を支援することに機能を特化していたのに対し、キャリアセンターはより広い領域をカバーしているのです。
具体的には、大学の1年次から学生に卒業後のキャリアについて、その大切さを考えさせ、自分の目指すキャリアが実現しやすいように、履修科目やゼミ・研究室を選択するときなどに学生の支援をするという役割も、キャリアセンターは担っています。

□キャリアデザインの3つの輪

それでは、「キャリア」について考えるとは、どういうことでしょうか? そのエッセンスは、「キャリアデザインの3つの輪」と呼ばれている図に表現されます(図表序-3)。

ここで言う3つの輪とは、「やりたいこと」「やれること」そして「やるべきこと」からなります。自分の「やりたいこと」を明確にし、それをやるために「やれること」の力をつけ、同時に周りから期待されている「やるべきこと」を果たしていくというのが、キャリアを考える際に大切だとされています。
この「やりたいこと」「やれること」「やるべきこと」の3つの輪の重なりの部分を大きくしていき、さらに輪自体を広げていくというのが理想的なキャリア形成の考え方です。

3つの輪の考え方を、就活の場面に置き換えて具体的に説明します。

やりたいこと
自分自身の持つ欲求や将来の希望や夢のことです。面接での質問で言えば、企業の志望理由、入社してやりたい仕事、世の中にどんな貢献をしたいかなどがこの輪の中に入ります。ここが明確になればなるほど、「モチベーション」が上がります。

やれること
会社や社会で活躍できる力のことです。もっと端的に言えば、「仕事をする力」です。これが、企業の人事担当者がもっとも気にしているポイントです。ここの力が身につくと、やりたいことが実際に実現できるし、成長感を味わえるために、「モチベーション」が上がります。

やるべきこと
周囲からの期待や役割のことです。学生生活の中では、ちゃんと勉強や研究をすること、部活やサークル、またはアルバイト先で自分の役割をきちんと果たすことです。就活の場面で人事担当者から期待されていることは、業界や会社のことを研究することであり、そのために会社説明会に出たり、OB・OG訪問を行い、それぞれの企業の事業内容や、仕事のことを理解することです。

社会に出てからも、自分の「やりたいこと」を明確にして、それをやるために「やれること」の力をつけ、同時に会社から期待される「やるべきこと」を果たしていくのが、皆さんのキャリアを考える上で大切なことです。

廣瀬 泰幸 (著)
出版社 : 東洋経済新報社 (2015/2/6)、出典:出版社HP