世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」

【最新 – 西洋美術史を学ぶためのおすすめ本 – 全体像の概観から政治や宗教等との関係まで】も確認する

教養として美術史を学ぶ

本書は、政治、宗教、世相といった歴史的背景と美術の関連を解説した一冊です。美術の裏側にある、欧米の歴史、価値観、文化を読み解くことで、美術の見方が変わります。美術鑑賞する時に必要な歴史や宗教といった知識を身につけることができ、美術をより面白く鑑賞することができるようになります。

木村 泰司 (著)
出版社 : ダイヤモンド社 (2017/10/5) 、出典:出版社HP

美術様式年表

はじめに
「美術史とは、世界のエリートの共通言語”である」

社会がグローバル化するいま、ようやく日本でも美術史の重要性が認識され始めています。ここ10年来、日本で、財界人や企業向けの美術に関するセミナーが増えているようです。私も以前に比べると、多くの企業に美術史を教える機会をいただくようになりました。

美術史は欧米人にとって必須の教養であり、欧米社会における重要な共通認識、コミュニケーション・ツールです。私のセミナーにおいても、欧米に駐在や留学経験のある方たちほど、その必要性を認識されています。とくに、エグゼクティヴなポジションにいる方やその配偶者ほど、その地位に相応しい現地の方との社交からその必要性を痛感されているようです。
私自身、カリフォルニア大学のバークレー校で美術史を学びましたが、在籍中に、そのことを痛感した出来事がありました。それは、美術史の上級レベルの「初期ネーデルラント絵画」を受講していたときの話です。
上級レベルの授業ともなると、受講している学生は美術史専攻の人たちばかり。ほとんどが顔見知りです。しかし、その中で明らかに初めて見かける学生がいました。
学期が進むうち、その学生と声を交わすようになった私は、彼にこう聞いてみました。
「ところで、君って美術史専攻だったっけ?」
すると、「物理だよ」と思わぬ返事が返ってきたのです。
私は、「え?どうして物理専攻なのにこのクラスを取っているの?一般教養のスタンダードな美術史の授業じゃないのに」と聞き返しました。すると彼は、
「だって、社会人になったときに自分のルーツの国の美術の話ができないなんて恥ずかしいじゃないか」
と答えたのです。彼は、オランダ(ネーデルラント)系アメリカ人でした。
そのとき私は、欧米人の未来のエリート候補の意識の高さを痛感しました。私はいまだにその衝撃と感動を忘れることができません。

私には、全米でベスト10に入るほどの国際弁護士の友人がいます。私は、彼の子どもたちのゴッド・ファーザーにもなっているため、私が日本に帰国して以降も、その友人夫妻と子どもたちとは長年の付き合いとなっています。国際弁護士の友人だけでなく、彼の夫人もまた、バークレーからケンプリッジ、コロンビアで学んだ後にハーバードで博士号を取得し、その後もイェール法科大学院に進むほどの秀才です。夫婦そろって大変な「知的エリート」なのです。
そんな彼らからも、欧米のエリートたちに美術史の素養が根付いていることを痛感させられます。たとえば、彼らが寄付をしている美術館での特別講義に一緒に行った際、美術史家に堂々と的確な質問をしていたときは感服しました。

もちろんこの夫妻に限らず、私がこれまでかかわってきた欧米のエリートたちも、当然のように美術史を教養として身につけていました。なぜ欧米では、ここまで教養として西洋美術史が根付いているのでしょうか。
その理由として、欧米における「美術」は、政治や宗教と違い一番無難な話題であると同時に、その国、その時代の宗教・政治・思想・経済的背景が表れているからです。日本人は、どうしても美術を見るときに「感性」という言葉を口にしがちですが、美術を知ることは、その国の歴史や文化、価値観を学ぶことでもあるのです。
私は、いつも講演で「美術は見るものではなく読むもの」と伝えています。美術史を振り返っても、西洋美術は伝統的に知性と理性に訴えることを是としてきました。古代から信仰の対象でもあった西洋美術は、見るだけでなく「読む」という、ある一定のメッセージを伝えるための手段として発展してきたのです。つまり、それぞれの時代の政治、宗教、哲学、風習、価値観などが造形的に形になったものが美術品であり建築なのです。それらの背景を理解することは、当然、グローバル社会でのコミュニケーションに必須だと言えます。

一方の日本では、美術史というジャンルの学問が世間で認知および浸透していないのが現状です。それにもかかわらず、日本は非常に展覧会に恵まれています。とくに東京では年中展覧会が開かれており、海外の美術館が所蔵する一級の作品も来日を果たします。
しかし、それをただ鑑貨するだけで終わることが多く、それはまるでわからない外国語の映画を字幕なしに観ているのと同じだと言えるでしょう。
欧米の美術館を訪れた方なら目撃したこともあるかもしれませんが、欧米では小さな子どもたちでさえ学芸員や引率する先生に教わりながら美術品を鑑賞します。自分勝手に鑑賞するだけでは、当然、学べる点が少ないからです。
しかし、残念ながら日本ではこのような美術教育が施されていません。このような状況からも、日本と世界の差を実感してしまいます。美術(それすなわち美術史)に対して造詣がないことは、むしろ恥ずかしいことであるという認識が日本ではなさすぎるのです。
もちろん、「日本にいる限り、そのような知識は必要ではないだろう」という声があるのもわかります。
しかし、世の中はどんどんグローバル化に向かっています。「私は日本人だから、欧米のことなど知らない、必要ない」と言っている時代ではなくなってきているのです。そして、感度の高い企業が、それをいち早く感じ、幹部候補たちにその教養を身につけさせようとしているのです。

そこで私はこの本を執筆することを決めました。一人でも多くの方に、馴染みのない美術史を身につけてもらえるよう、西洋美術史約2500年分のうち必要最低限の知識を1冊に凝縮したのが本書です。ただの美術品の説明ではなく、背景にある歴史や事件、文化・価値観など、「教養」としての美術史が学べるように心して記したつもりです。
世界のエリートたちが身につけている知識を得られることはもちろん、歴史的な背景を踏まえ、美術史という概念および知識を念頭に置くことで、美術鑑賞や社交の場においても、より世界が大きく開かれていくことでしょう。
ぜひ、本書で「世界」への扉を開いてみてください。

西洋美術史家 木村泰司

木村 泰司 (著)
出版社 : ダイヤモンド社 (2017/10/5) 、出典:出版社HP

目次

世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」
はじめに 「美術史とは、世界のエリートの“共通言語”である」

目次

第1部 「神」中心の世界観はどのように生まれたのか?
ギリシャ神話とキリスト教
なぜ、古代の彫像は「裸」だったのか?ギリシャ美術
「男性美」を追求した古代ギリシャの価値観
古代ギリシャの発展と美術の変化
現存するギリシャ美術のほとんどは「コピー」
COLUMN 平和の祭典「オリンピック」の始まり
ローマ帝国の繁栄と、帝国特有の美術の発達ローマ美術
ローマ美術のもうひとつの源流「エトルリア」
「美」の追求から「写実性」の時代へ
後世に影響を与えたローマの大規模建築
ローマ帝国の衰退とキリスト教美術の芽生え
キリスト教社会がやってきた宗教美術、ロマネスク
「目で読む聖書」としての宗教美術の発達
キリスト教最大の教派「ローマ教会」が発展できたワケ
修道院の隆盛によるロマネスクの誕生
巡礼ブームで進んだ都市化と「ゴシック美術」の芽生え
COLUMN キリスト教公認以前のキリスト教美術
フランス王家の思惑と新たな「神の家」ゴシック美術
ゴシック様式に隠された政治的メッセージとは?
「光=神」という絶対的な価値観
大聖堂建立ブームの終焉と「国際ゴシック様式」の発展

第2部 絵画に表れるヨーロッパ都市経済の発展
ルネサンスの始まり、そして絵画の時代へ
西洋絵画の古典となった3人の巨匠ルネサンス
「再生」を果たした古代の美
レオナルド・ダ・ヴィンチは軍事技術者だった!?
宗教改革による盛期ルネサンスの終焉
都市経済の発展がもたらした芸術のイノベーション 北方ルネサンス
レオナルド・ダ・ヴィンチにも影響を与えた革新的絵画
台頭する市民階級に向けた“戒め”の絵画とは?
絵画から読み解けるネーデルラントの混乱
COLUMN ドイツ美術史の至宝デューラーとクラーナハ
自由の都で咲き誇ったもうひとつのルネサンス ヴェネツィア派
貿易大国ヴェネツィアの発展と衰退
自由と享楽の都が生み出した謎多き絵画
ヴェネツィア絵画は二度輝く
カトリックVSプロテスタントが生み出した新たな宗教美術 バロック
「プロテスタント」の誕生
宗教美術を否定するプロテスタント、肯定するカトリック
カラヴァッジョの革新的なアプローチ
対抗宗教改革の申し子ベルニーニ
COLUMN バロック絵画の王「ルーベンス」
オランダ独立と市民に広がった日常の絵画 オランダ絵画
オランダ独立と市民階級の台頭
市民に向けて描かれた多種多様なオランダ絵画
レンブラントとフェルメール
COLUMN オランダ人を翻弄した17世紀の「チューリップ・バブル」

第3部 フランスが美術大国になれた理由
“偉大なるフランス”誕生の裏側
絶対王政とルイ14世 フランス古典主義
ルイ14世が作りあげた「偉大なるフランス」
かつての芸術後進国フランスで、美術家たちが抱えたジレンマとは?
「プッサン知らずして、フランスの美を語るなかれ」
COLUMN 古典主義以前のフランス様式
革命前夜のひとときの享楽 ロココ
「王の時代」から「貴族の時代」へ
勃発した「理性」対「感性」の戦い
ロココ絵画の三大巨匠
聞こえてきた「フランス革命」の足音
皇帝ナポレオンによるイメージ戦略 新古典主義、ロマン主義
フランス革命と「新古典主義」の幕開け
現代の政治家顔負けの「ナポレオン」のイメージ戦略
再び起こった「理性」対「感性」の争い
2つの様式で揺れる画家たち

第4部 近代社会はどう文化を変えたのか?
産業革命と近代美術の発展
「格差」と「現実」を描く決意 レアリスム
「現実」をそのまま描いたクールベの革新性
マネから読み解く19世紀フランス社会の「闇」
産業革命と文化的後進国イギリスの反撃 イギリス美術
「イギリス」が美術の国として影が薄い理由
「肖像画」によって輝いたイギリス美術
英国式庭園の霊感源となったクロード・ロラン
産業革命でさらに発展するイギリスの国力と文化
産業革命の時代に「田舎」の風景が流行った理由 バルビゾン派
近代化によって生まれた「田園風景」需要
サロンを牛耳る「アカデミズム」
なぜ、印象派は受け入れられなかったのか?印象派
「何を描くか」ではなく「どう描くか」の時代へ
マネを中心に集まった印象派の画家たち
印象派の船出「グループ展」の開催
アメリカ人が人気に火をつけた印象派
アメリカン・マネーで開かれた「現代アート」の世界 現代アート
アメリカン・マネーに支えられたヨーロッパの芸術・文化
女性たちが開拓した現代アートの世界
ノブレス・オブリージュの精神で広がる「企業のメセナ活動」

おわりに
掲載美術品一覧
主な参考文献

木村 泰司 (著)
出版社 : ダイヤモンド社 (2017/10/5) 、出典:出版社HP