P&Gで学んだ経営戦略としての「儲かる人事」

【最新 – P&Gの人材育成、経営戦略を学ぶためのおすすめ本 – 個人の考え方からマネジメントまで】も確認する

経営手法としての最適・最強の人事システムとは

実践型で、人材マネジメントの話をちゃんと読むことができる本です。具体的な方法が多くの事例でわかりやすく解説されています。経営者はもちろん、部門責任者、部下を持つ上司に役立つノウハウがぎっしりの一冊だと思います。

松井 義治 (著)
出版社 : CCCメディアハウス (2019/3/1)、出典:出版社HP

はじめに

中小企業経営者の多くは、「人事」とは人材がたくさんいる大会社に必要なものであって、中小企業には無用の長物と思っているように見えます。
これは、大きな勘違いです。
欧米企業では、人事のことをHRM (Human Resource Management : ヒューマン・リソース・マネージメント)といいます。
HRMという名称は日本でも根付いているようですが、ヒューマン・リソースというと、「人事」というよりは「人的な経営資源」と捉える人のほうが多いように思います。
経営資源とは、広義にはいわゆる「ヒト、モノ、カネ」のことです。
そして、経営資源を最大限に活用して、企業の設立目的や社会的使命を果たすためのグランドデザインが「経営戦略」ということになります。
「ヒト、モノ、カネ」という経営資源に関心を払わない経営者はいないでしょう。
なかでも「ヒト」という経営資源を最も効果的に活用できる経営者、社員に最大の能力を発揮させることのできる経営者こそ、経営手腕のある人なのです。

経営手腕は多くの経営者が求める力です。ところが、こと「人事」となってしまうと、とたんに「ヒトゴト」になってしまう経営者が多い。
同じ「人事」でも、人事権に無頓着な経営者は企業の大小を問わず皆無ですが、人事戦略・人事施策となるとにわかに関心が下がってしまうようなのです。
ピーター・ドラッカーが言うように「経営とは人を通じて成果を出す」ことですから、人事とはまさに企業経営に他なりません。
人事というと、日本では人員の確保や適材適所の配置、昇進・昇格の評価など信賞必罰・論功行賞の後処理を行うものと考える人が多くいます。これは間違いではありませんが、手段と目的を混同しているともいえます。
人事の目的は、会社のミッションを達成するために人の意欲を高め、最も生産性高く働けるようにすることです。
人事異動や信賞必罰の評価・処遇は、そのための手段であることを忘れてはいけません。
人事戦略、そして人事施策とは、企業が儲かるための経営ツールのひとつです。せっかく業績を上げる有効なツールがあるにもかかわらず、誤解や無関心によって使わないのは、文字どおり宝の持ち腐れといえます。

人事の目指すところは、企業の目標達成に貢献する人材をつくる(よい人材を採用し、よい人材に育てる)ことですから、規模の大小には関係なく、優れた会社には優れた人事システムがあるものです。
つまり、人事とは本来、「儲かる(会社にするための)人事」ということになります。
中小企業経営者が、業績を上げたい、優秀な人材が口では欲しいと言いながら、人事戦略・人事施策を無用の長物と見なすのは、収穫は欲しいが農地は耕さないと言っている農家と同じで、ひどく矛盾した話です。
私は長く人事の世界に身を置いてきて、とくに中小企業経営者の「人事の誤解」について、機会があったら一度まとめてみたいと思い続けてきました。今回、このテーマで執筆を依頼されたとき、真っ先に考えたのもこの点です。
「人材なくして企業なし」という言葉はよく聞きますが、私は「人事なくして人材なし」と言っています。
しかし、多くの中小企業経営者から、「そうは言っても、わが社に人事スタッフなどいないよ」という反論をいただきます。
ところが、ここにも大きな勘違いがあります。
たしかに日本の大手企業(あるいは役所)には、人事部という部署が存在します。人事制度づくりやその運用は、もっぱら人事部の仕事であり、昇進・昇格や異動のシーズンになると全社員の目が人事部に集まるものです。
しかし、この人事部というセクションが組織にとって絶対に不可欠かというと、私は必ずしもそうは思っていません。
私はP&G(プロクター・アンド・ギャンブル)で採用・人材育成など、いわゆる人事や組織開発のリーダーを務めましたが、P&Gの基本的な人事はラインで完結します。
つまり、たとえばマーケティング部の中での評価、昇進、教育はラインのリーダーの仕事であって、人事部の役割はリーダーによって評価の偏りが出ないよう、組織としての不動の評価軸や枠組みを示すことにあります。
人事は原則、部門のライン・リーダー、マネージャーが果たすべき務めです。
部下のことは、最も身近にいる上司が一番よく知っているはずです。それは日本でも欧米でも同じです。したがって、上司には部下の動機付けから評価、処遇、育成まで責任をもってやらせるべきだと私は考えています。
私は、このP&G方式の人事は、人事スタッフに人を割けない日本の中小企業にこそ有効な人事システムだと考えています。
P&Gをはじめとして外資系企業は、会社としては世界規模のグローバルカンパニーですが、日本法人は意外に中小企業規模並みです。つまり、外資系の人事システムは中小企業の人事システムとも言えるのです。
ですから、中小企業であっても、効果的で生産的な人事は、各部署のリーダーがもう少し目配りと気配りをすればできると私は考えています。「いや、それもP&Gだからできることで、わが社の部課長にそれができるだろうか」と、なお不安な経営者もいるかもしれません。
しかし、できない最大の原因はやらないことにあります。

人事戦略・人事施策は、トップの決断があれば、ほぼすべて実行可能です。有能なスタッフがいなければできないわけではありません。
肝心なのは、まずトップ自身が人事について正しく知ることです。
本書は、中小企業だからできる人事について、できるだけわかりやすく、論理よりも行動を重視して紹介・説明しています。
人事の力とは、自社の求める人材をつくり、長期には企業の理念やビジョン(夢)を達成する力であり、短期には目標達成のためにパフォーマンスを高める力です。これらは、すなわち経営者の力に他なりません。
ビジネスの基本は巧緻より拙速。本書は人事の専門家ではない読者に考慮し、正確さを追求してわかりにくくなるよりはわかりやすさを重視し、あえて思い切った表現をとっているところもあります。
経営者にとって、人事を知ることは経営の力を得ることでもあります。
本書を読んでいただければ、その一端がおわかりになるはずです。

松井 義治 (著)
出版社 : CCCメディアハウス (2019/3/1)、出典:出版社HP

目次

はじめに

CHAPTER1 人事とは強い会社を創るシステムでなければならない
中小企業でもできるのがP&G方式の人事
人事なくして会社の成長なし
コストセンターからプロフィットセンターへ
生産性を上げるのも人事の仕事
人事の力とは企業価値を上げる力
社員の幸福と会社の利益は両立できる
中小企業の人事に求められる能力
残業時間を減らしても売上を落とさない仕組み
成果主義人事が必ずしも生産性に貢献しない理由

CHAPTER2 採用とは未来のリーダーを獲得するシステム
人材像なくして採用の成功なし、まず人材像を定めよう!
人材像は能力よりマインド、知識より行動重視で
採用を成功させるための基本ステップ
若者が3年で辞める原因は面接時につくられる
採用ツールを使って失敗を防ぐ方法
自社に合った人材を引き寄せる発信力
中小企業のイメージを生かした採用をしよう
中小企業の採用スケジュールのつくり方

CHAPTER3 新人がぐんぐん伸びる人事システム
新人を定着させる正しいオリエンテーション
配属先の上司は新入社員の一生を決める存在
社員には年にひとつは新しい分野にチャレンジさせよ
ダメ上司をマネージャーにしてはいけない
新人に求められる能力と育成計画の進めかた
人を育てる原則と人事の3つの大罪
人が育つ仕組みを持っている会社は強い
外資系企業に学ぶ執念で人を育てるGEの文化
新人であっても積極的にポジションを与えよ!
任せすぎは任せなさすぎに勝る

CHAPTER4 社員が自発的に動き始める人事システム
利益は行動からしか生まれない
結果ばかりを評価するとかえって利益を取りこぼす
仕事はチームでやるものチームを強くする6つの要素
社員の前進を促す人事評価のしかた
報酬は大切、しかし報酬で人は成長しない
コミュニケーションを人事評価の対象とせよ
長期的な成長を促すキャリアパスを示そう
地球をステージに活躍する人をつくる人事

CHAPTER5 人を伸ばす・組織を生かす人事システム
組織づくりはまず要のリーダーづくりから
ラインのリーダーを生かしてこそ組織が生きる
経営陣を成長させる評価制度をつくれ
後継者を若いうちから鍛えるサクセッション・プランという人事戦略
人は仕事で成長する効果的なアサインメント計画の立て方
人を伸ばすには段階に応じた働きかけが必要
人を生かすためのマインドを上げる力
ダイバーシティはビジネスチャンスをつくる武器

CHAPTER6 人事の力とは社長の力
人事でよくある社長の勘違い
中小企業では評価の基準は社長の価値観
信賞必罰は社長の決断
孫子の兵法を人事的な目で見ると
社長という職務に定年は必要か
社長ほど社員のことを見ている人はいない
中小企業だからこそ「儲かる人事」は社長次第ですぐできる

あとがき

松井 義治 (著)
出版社 : CCCメディアハウス (2019/3/1)、出典:出版社HP