福岡市が地方最強の都市になった理由

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地方が生き残るためのヒント集

都市の発展は、企業の経営と同様に変数の多い複雑な要因が絡んでいます。また、都市発展の結果というのは、数十年かけてようやく現れるものです。福岡市の現在のポジションを解き明かすには、過去についても知る必要があります。本書では、福岡市の都市経営について解説し、現在のポジションを確立した理由を明らかにしていきます。

木下 斉 (著)
出版社 : PHP研究所 (2018/2/18)、出典:出版社HP

はじめに

私にとって九州は、地域活性事業の取り組みのなかでたくさんの縁がある所です。そのきっかけは、3年ほど前、私が高校時代に地域活性化事業として「早稲田商店会」の取り組みに携わっていた時代に遡ります。
当時、早稲田商店会では、「環境に配慮した事業」「補助金に頼らない事業」「民間主導・行政参加での事業」という3つを柱にした取り組みを行い、様々な企業やメディアから注目を集め、全国からも多くの視察がありました。その際に、九州の方々とも繋がりを得ることができ、現在もその関係は続いて、福岡市、北九州市、熊本市、長崎市などでまちビジネス事業に関わらせていただいています。
九州というのは、幕末から現代にかけて、都市の優劣が目まぐるしく変わっています。明治維新から第二次世界大戦までは、国の出先機関が集積する熊本市が九州内を統括していました。その後、高度経済成長期では工業都市として、北九州市が大きなポジションを獲得します。そして現在は、福岡市が全国から注目を集める人気都市となっています。
私もこれまで福岡市へ何度も訪れていますが、かねてより「なぜ今、福岡市が競争力を持ったのか」という漠然とした疑問を持っていました。
都市の発展は、企業の経営と同様に変数の多い複雑な要因が絡んでいます。まずは、「政治」「行政」「民間」という3つのセクターを横断して考える必要があります。また、都市発展の結果というのは、数十年かけてようやく現れるものです。福岡市の現在のポジションを解き明かすには、過去についても知る必要があります。
そして、都市の評価は様々な他都市との「相対」で決まるので、周辺都市との比較で総括する必要もあります。
都市経営について見つめ直そうとすると、様々な角度から考えなければならず、困難を極めました。アドバイスをいただいた方々からは、「福岡市は歴史が長く深いから、取りまとめるのに苦労する」といった忠告を受けました。そのため、執筆するにあたっては、「何を書かないか」を意識しています。
本書では都市分析の複雑さに注意しつつ、情報過多にならないよう、都市経営に繋がる要素だけを抽出しています。そのため、この本では紹介しきれない、福岡市の魅力や九州内にある様々な都市の魅力が数多くあることを最初に申し添えておきたいと思います。

本書の流れ

本書はまず福岡市が発展したポイントを「都市経営的な視点」で絞り込みをし、以下の流れで読み解いていきます。

第1章では、都市経営の打ち手を理解するための前提として必要な、「まちづくりの心構え」についてまとめています。まちづくり分野で一般的な常識とされるような取り組みは、かえって地域を衰退させてしまうことが多くあります。それらを5つのポイントにまとめて紹介します。
第2章では、近年「福岡市はすごい」と言われながらも、一体何がすごいのかよくわからないという方も少なくないと思います。各種統計などの解説を通じて「今の福岡市の優位な点」について整理します。
第3章では、福岡市が現在のポジションを確立する大きな転機となった、都市経営での「常識破り」の打ち手を5つ紹介します。それらの打ち手から、今、私たちが何かの課題にぶつかった時、どのように乗り越えるべきかのヒントを導き出します。
第4章では、それら都市経営的に重要な打ち手を繰り出した5人の功労者を紹介します。福岡市の近現代を見ると、現代では考えられないほどエネルギーに満ちた人々が福岡市の発展に関わっています。厳選には大変苦労しましたが、この5人が都市の発展に寄与した実践を「0の覚悟」という視点で解説します。
第5章では、2~4章で解説した内容をもとに経営の視点から見た「福岡メソッド」としてまとめました。単に福岡市の事例を学ぶだけでなく、これからの私たちが都市経営や企業経営とどう向き合うべきかがわかる、3つの指針としてまとめています。
第6章では、本書の最後を飾るうえで、今後の福岡市の期待と課題について整理しています。未来について語ることは難しい部分があるものの、将来、福岡市にもたらすであろう「制約」を軸に整理しています。
では、福岡市のユニークで超個性的な打ち手の数々を見ながら、都市経営の栗醐味を味わって参りましょう。

木下 斉 (著)
出版社 : PHP研究所 (2018/2/18)、出典:出版社HP

目次

はじめに
第1章
まちづくりは「常識」を疑え!
やれることではなく、やるべきことと向き合う
流行りを無視して、逆を狙う
量を求めず、利益にこだわる
優秀な人材を役所に集めない
「変人」を大切にする
《まとめ》まちづくりは、「常識を疑う」ことから始まる

第2章
福岡市は「ここ」がすごい!
世界も認める福岡市!
人口増加、日本一!
優れた教育都市
他都市も羨むコンパクトシティ
サービス産業が豊かな都市
建設投資伸び率、第1位!
《まとめ》正のスパイラル都市・福岡市

第3章
福岡市5つの「常識破り」
福岡市の個性が光るわけ
【常識破り①】民間主導・民間投資のまちづくり
【常識破り②】「競争」と「協調」で強くなる
【常識破り③】素早く「撤退」する
【常識破り④】周りに流されない
【常識破り⑤】伸びしろがあるのに、伸ばさない
《まとめ》「制約」は常識破りの知恵を授け、まちを強くする

第4章
福岡市を変えた10の「覚悟」
福岡市を変えた5人、10の覚悟
【都市計画・都市開発】渡與八郎土地を開発し、電車も走らせる
【覚悟①】持ちうる私財は、都市発展のために投資する
【覚悟②】「理想」と「具体行動」を同時に展開する
【インフラ整備】松永安左エ門地域外から刺激を与え続ける
【覚悟③】徹底的な合理化を進める
【覚悟④】行政事業ではなく、民間事業で人材を育てる
【金融】四島一二三地域金融で、成長企業を育てる
【覚悟⑤】地域金融を通じて、若い産業人を支援する
【覚悟⑥】独立心を守り続ける
【商業】川原俊夫オープンイノベーションで一大産業をつくる
【覚悟⑦】ノウハウを公開し、新しい産業を育てる
【覚悟⑧】稼いだお金を、地域に投資する
【市政】進藤一馬アジアを見据え、市長を務める
【覚悟⑨】民間に任せる、現場に委ねる
【覚悟⑩】いち早くアジアとの交流文化事業を開始する
《まとめ》独立した「覚悟」の連鎖が福岡市をつくった

第5章
経営視点で見える「福岡メソッド」
経営の視点から見える、3つのポイント
【福岡メソッド①】制約から戦略を考える
【福岡メソッド②】新技術を味方につける
【福岡メソッド③】民間資金の力で「尖り」をつくる
《まとめ》「論理」と「覚悟」をセットで持つ

第6章
福岡市の「制約」と「未来」
福岡市の未来を左右する4つの制約
【制約①】九州衰退のリスク
【制約②】「アジア」の多様な成長・衰退・混乱
【制約③】大学の国際競争、若い人材の獲得競争の激化
【制約④】急速な成長による凡庸化、過剰集積
《まとめ》「追う側」から「追われる側」になる

おわりに
参考文献
ブックデザイン:石間浮
図表作成:株式会社デジカル
写真提供:紙与産業株式会社、壱岐市教育委員会、株式会社ふくや
協力:日野昌暢(株式会社博報堂ケトル)、株式会社西日本シティ銀行

木下 斉 (著)
出版社 : PHP研究所 (2018/2/18)、出典:出版社HP