環境経済入門(日経文庫)

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環境問題と経済学の関係性

環境関連の重要な法律から環境政策・グリーン経営まで、知っておきたいポイントが丁寧にまとめられています。現実・理論・政策をバランスよくわかりやすく解説しているので、環境問題に関わる人はもちろん、一般の方にもおすすめの導入本です。

三橋 規宏 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版; 第4版 (2013/3/16)、出典:出版社HP

まえがき

改訂4版のポイント

環境問題は、時代の変化によって扱う対象も大きく変わります。本書は、このような時代の変化を反映して今回、第4版として全面的に改訂しました。本書の第3版は六年前の二〇〇七年九月に出版しました。当時は、京都議定書の約束である温室効果ガス(GHG)の排出量を一二年度末までに一九九〇年比六%削減することが大きな関心事でした。第3版もそんな時代の空気のなかで、六%削減対策に重点を置きました。それから六年後の今、環境問題の関心は大きく変わってきました。一一年三月一一日の東日本大震災と、それに起因する深刻な原発事故が発生しました。温暖化対策の関心も京都議定書の約束期間が終わり、一三年以降の法的拘束力を持つ国際的削減の枠組みづくりに移っています。

「原発事故と新たな環境問題」を新しい章として加える

このような時代の変化を取り入れ、新しく「原発事故と新たな環境問題」(第2章)を加えました。原子力発電は、私たちの豊かな生活に大きな貢献をしましたが、一度事故が起きると、プラス要因をすべて打ち消すような大きな被害をもたらすことが分かりました。原発事故前は、「原発の安全神話」を信じて、多くの国民はこのような深刻な事故が起こるはずはないと思っていました。さらに、使用済み核燃料や高レベル放射性廃棄物の適正処理がいまだに確立されていない現状を知り驚きました。脱原発を求める国民の声が高まっています。
放射能汚染という新たな環境問題の発生とその対応は、これから長い歳月をかけて取り組み、解決していかなくてはならない重要なテーマです。本書を通し、原発の是非を含め、原発問題を根本から考えるきっかけにしていただければ幸いです。

二〇一三年以降の温暖化対策に焦点

第3章の「地球温暖化と経済活動」は一三年以降の温暖化対策に重点を移し、GHGを五〇年に八〇%削減する目標に挑む日本の取り組みを中心に全面的に書き換えました。
第5章に「環境政策の実際」を新しい章として設けました。環境政策を学生に講義すると、国の環境政策はどのような領域を対象にするのか、どのような手順で実施されるのかといった環境政策の実際を知りたいという声が多く寄せられます。国の環境政策には、必ず根拠になる法律が必要であり、実施に当たっては財源(予算)も確保しなければなりません。政策実施後、第三者機関による政策評価も重要です。環境政策の実際を、分かりやすく解説しました。

低炭素、循環、自然との共生を満たす社会の実現

一二年四月、閣議決定された第四次環境基本計画は、これから約五年先までを視野に入れた日本の環境政策の方向を示しています。基本計画は、「低炭素、循環、自然との共生を満たす社会」を持続可能な社会と定義しています。低炭素は温暖化対策、循環は資源循環型社会の構築、自然との共生は生物多様性の保全です。
本書をお読みいただけば、この三つの目標を達成するための方法、環境と経済の基本的な考え方や枠組み、日本の環境政策の最新の姿が理解できるように工夫したつもりです。
第4版の改訂に当たっては、今回も日本経済新聞出版社の堀口祐介氏に大変お世話になりました。同氏の適切なアドバイスと迅速な編集作業に感謝します。

二〇一三年二月
三橋規宏

三橋 規宏 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版; 第4版 (2013/3/16)、出典:出版社HP

目次

第1章 地球環境と経済

1 環境の世紀に生きる
(1)境と経済の両立を目指す
(2)有限な地球と折り合う知恵
(3)ワンウェイ型の発展で問題はなかった
2 経済成長優先の時代
(1)自然支配を目指した近代科学思想
(2)経済成長が優先する社会の出現
(3)自然の原理・原則を克服する技術の登場
(4)自然資源収奪型技術の発展
3 膨張の時代と地球の限界
(1)人口爆発の二〇世紀
(2)五〇年間で世界人口は約二・四倍に増加
(3)GDPは五〇年間に八倍に拡大
(4)食生活の高度化で食糧生産も加速
(5)様々な環境問題が発生
4 地球の限界と折り合う知恵
(1)地球の限界に遭遇した人類最初の世代の生き方
(2)地上資源の有効活用を図る
(3)地上資源の二つの特徴
(4)共生を重んじる日本人の自然観に期待

第2章 原発事故と新たな環境問題

1 東電福島原発事故と放射能汚染
(1)原発事故の衝撃——避難者一六万人を超える
(2)一○兆円を超える被害額、長期的には一〇〇兆円を超えるとの見方も
(3)メリットを上回るデメリットに驚く
(4)内部被ばくによる健康被害を懸念
(5)転地療法など万全の対策を
(6)放射性セシウムの食品新基準が二〇一二年四月一日からスタート
(7)ベクレルとシーベルトの違い
2 放射性廃棄物の処理
(1)汚染土壌の処理にお手上げだった政府、自治体
(2)五ヵ月遅れで汚染がれき法成立
(3)汚染レベルで地域を区分
(4)最終処分場をどこにつくるかでも意見が対立
3 世界の原発事情
(1)原発新・増設の動き活発化
(2)世界の原発ブームに逆風
(3)ヨーロッパ中心に脱原発の動き目立つ
4 革新的エネルギー・環境戦略——二〇三〇年代原発稼働ゼロ
(1)原発依存から脱原発へ一八〇度転換の日本
(2)二〇三〇年代に原発稼働ゼロを目指す
(3)事故以前は原発依存型のエネルギー基本計画だった
5 グリーンエネルギー革命——原子力を再生可能エネルギーが補う
(1)節電、省エネで一一〇〇億kWh削減
(2)再生可能エネルギー、発電量は二〇一〇年実績の約三倍
(3)コジェネなど熱の高度利用
(4)GHG排出量、二〇年に二五%削減は達成困難に
6 核のごみの処理問題
(1)浮上する核のごみ問題
(2)溜まる一方の高レベル放射性廃棄物
(3)高レベル放射性廃棄物、地下三〇〇メートル以深に処分
(4)日本学術会議、NUMOの安全処分を批判
(5)使用済み核燃料の処理も今後の課題
7 脱原発社会への道
(1)原発ゼロには批判も強い
(2)それでも脱原発の道を選ぶしかない
(3)再生可能エネルギー、節電、省エネなどに期待
(4)自民党政権下でも、原発依存度低下の流れは止まらない

第3章 地球温暖化と経済活動

1 地球温暖化と二〇世紀文明
(1)温暖化のメカニズム
(2)石油に依存してきた経済システム
2 京都議定書の発効
(1)国連中心で温暖化対策を推進
(2)日本六%、アメリカ七%、EU八%の削減を公約
(3)吸収源としての森林の役割を考慮
(4)京都議定書が発効
3 日本は目標を達成できるのか
(1)EUは達成、カナダは議定書から離脱
(2)リーマン・ショックが削減に貢献する皮肉
(3)原発稼働ストップで楽観論、吹き飛ぶ
(4)原発一〇基分に相当する節電効果
(5)目標は滑り込みセーフで達成か
4 京都議定書の限界と課題
(1)地球益優先の考え方は、画期的だったが……
(2)京都議定書締約国、排出量の三割弱カバーにとどまる
(3)アメリカ、中国、インドなどの参加が不可欠
5 二〇一三年以降の温暖化対策
(1)温暖化に警鐘をならす二つの報告書
(2)先進国、二〇二〇年までに二五〜四〇%削減が必要
(3)COPの場で、国際的枠組みづくりに取り組む
(4)二〇二〇年時点の排出量目標の提出
(5)南ア・ダーバンCOP17で、「二〇二〇年に新しい枠組み」発足で合意
(6)残された課題——二〇一〇年代の削減をどうするのか
6 二〇一三年以降の日本の温暖化対策
(1)原発事故で、二〇二〇年二五%削減達成困難に
(2)二〇五〇年八〇%削減の目標は維持
(3)幻に終わった温暖化対策基本法案
(4)再生可能エネルギー法の成立と固定価格買取制度の創設
(5)地球温暖化対策税の導入
(6)二〇一三年度以降の日本の課題と目標は?
(7)二○%削減程度の目標は掲げたい
7 二○五○年八〇%削減のロードマップ
(1)人口九七〇〇万人を想定
(2)一次エネルギー供給量の約五〇%が再生可能エネルギー
(3)八〇%削減には、CO2の回収貯蔵分二億トンも貢献
(4)GDPの規模が小さければ、八〇%削減はもっと楽に達成できる

第4章 環境政策の歴史

1 日本の環境政策の歩み
(1)高度経済成長のひずみ
(2)様々な産業公害の発生
(3)転機となった公害国会
(4)環境庁の新設
2 公害防止先進国への道
(1)急増した公害防止投資
(2)省エネ製品の開発も活発化
(3)公害防止投資を促した理由
(4)公害企業のレッテルに負い目
3 一九九〇年代の環境政策
(1)環境基本法成立の背景
(2)持続可能な社会の構築
(3)環境基本法の概要
4 二○○○年代の環境政策——リサイクル関連法の強化

第5章 環境政策の実際

1 環境政策が扱う領域、実施手順、評価
(1)放射性物質の汚染対策も環境政策の対象に
(2)環境政策の実施に必要な法律、制度
(3)企画立案、予算措置が必要
(4)政策評価
2 環境基本計画
(1)環境政策に関する国の総合的指針
(2)「低炭素、循環、自然との共生を満たす社会」が目標
(3)今後の環境政策展開の四つの方向
(4)放射性物質による環境汚染からの回復
3 環境政策の原則
(1)環境効率性
(2)予防的取り組み
(3)汚染者負担の原則
4 環境政策の手法

第6章 経済学からのアプローチ

1 市場の失敗と外部不経済
(1)外部効果と外部不経済
(2)外部不経済のコントロール
(3)補助金
(4)コースの定理
2 様々な経済的手段
(1)OECDの五つの基準
(2)排出権(量)取引制度
(3)経済合理性のある排出権取引
(4)国家間の排出権取引
(5)両国にとって、プラスが大きい
(6)国内排出権取引のメカニズム
(7)世界の炭素市場、取引量は着実に拡大
(8)預託金(デポジット)払い戻し制度
3 公共財としての地球環境
(1)コモンズの悲劇
(2)囚人のジレンマ
(3)必要な情報の公開

第7章 環境経済学の視点

1 環境経済学の考え方
(1)環境と経済のトレードオフの解決を目指す
(2)経済学に欠けている有限性やストックの視点
(3)「合理的な愚か者」を超えられるか
(4)規模の経済にも修正が必要
(5)経済のグローバル化にも限界が……
2 環境経済学の関心分野はどこにあるのか
(1)フローとストックの関係を重視
(2)不確実性を考慮した体系
(3)市場経済内部に取り込む工夫
(4)世代間の衡平に配慮
(5)ホモエコノミクスの修正
(6)総合的なシステム思考
3 自然満足度曲線から学ぶ
(1)地球限界時代の経済領域
(2)環境破壊の修復代もGDPを増やす要因
(3)精神的満足や気持ちの安らぎなども大切
(4)B点の左側の世界——大量生産、大量消費の時代
(5)B点の右側の世界——地球の限界が明らかになった時代
(6)地球の限界と折り合える社会を目指す
4 持続可能な社会の条件
(1)サステナビリティとは何か
(2)持続可能性の三条件
(3)ハーマン・デーリーの三つの不等式原則
(4)ナチュラル・ステップのシステム四条件
(5)ゼロエミッション
5 エコロジカル・フットプリント
(1)踏み潰した土地の面積
(2)先進国のエコロジカル・フットプリントは途上国よりも大きい
(3)エコロジカル・フットプリントの計算の考え方
(4)二〇五〇年には三個の地球が必要?
(5)持続可能性の条件は守られていない
6 デカップリング経済への転換
(1)経済成長と化石燃料の関係を引き離す
(2)ローカーボン・グロウスへ経済発展モデルを転換
(3)再生可能エネルギーを経済発展のエンジン役に
(4)デカップリング経済に成功したEU諸国
(5)一九八〇年代の日本はデカップリング経済を実現
(6)デカップリング経済実現の四本柱

まとめ 持続可能な社会への道

三橋 規宏 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版; 第4版 (2013/3/16)、出典:出版社HP