入門!論理学 (中公新書)

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目からウロコの入門書

現代の論理学は、「記号論理学」とも言われ、記号や式がたくさん使われています。しかし、本書は記号論理学の入門本ですが記号をほとんど使っていません。記号を使わずに記号論理学を紹介することで、論理学の根本的なところの本質をつかみとり、提示するように書かれた、今までにはなかった論理学の本です。

野矢 茂樹 (著)
出版社 : 中央公論新社 (2006/9/1)、出典:出版社HP

中公新青
中央公論新社
野矢茂樹著
入門!論理学

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はじめに

論理学の本を手にしたのはいまがはじめて、というひともいるのではないでしょうか。もちろんそういう読者を念頭において、私はこの本を書きました。だけど、同時に、「いままでになかった論理学の本を」という気持ちももっています。なので、いまちょっと悩んでいます。だって、論理学の本はこれがはじめてというひとは、この本がいままでにないタイプのものだということなんか、分からないでしょうから。そうですね、私としては危険な賭けかもしれませんが、ちょっと他の論理学の本をパラパラとめくってみてくれませんか。それからこの本もパラパラめくって、見比べてみる。比較対象は、『論理トレーニング』(拙著)とかいう本ではなくて、現代論理学の教科書とかです。ほら、まず見た目がだいぶ違うでしょう?
現代の論理学は、「記号論理学」とも言われて、堅い本だと記号や式のオン・パレードです。「記号」論理学なので当然なのですが、この本は記号論理学の入門のくせに記号をほとんど使っていません。しかもタテ書き。

最初は私も論理学の本としてはごくふつうにヨコ書きを考えていましたし、記号も使うつもりでいました。だけど、出版社の担当の人に「タテ書きでやりたい」と言われて、「それはムリです」とか答えたのですが、「でもタテ書きでやりたい」とさらに言われて、「そうかい、やってやろうじゃないか」と、いささかムキになったのでした。たかだかヨコかタテかの違いなのですが、こういう小さいことが、この本の性格を劇的に変えるということに気がついたのは、しばらく執筆を進めてからのことです。タテ書きにするからには、式の部分だけヨコに寝かせるみたいなこともしたくない。そうして、記号なんか使わないのだけれど、論理学の入門として、ふつうなら記号を使って書かれるようなこともきちんと伝えたい。そう思ったのです。他の本にあるような、「公理系」というのも出てきますし、証明もやってみたりします。

感覚的な言い方で申し訳ないのですが、記号を使わずに記号論理学を紹介することで、論理学を「裸に」することができたような気がします。他の本を見てみれば感じていただけると思うのですが、各ページを埋める記号の放列はあたかも論理学が鎧をまとって私たちの前に現れたかのようです。その鎧をはぎとり、さらに着ていたものを脱がせ、意外と柔らかいその論理学の素肌に触れることができたのではないか、そんなふうに思うのです。タテ書きにしたことで、そして記号を使うことを禁じたことで、私たちがふだん使っていることばと論理学との関係にいっそう敏感になることができました。論理というのは、私たちがふだんことばを使うときの重要な技術のひとつです。そして私たちはとても豊かで多様な論理を用いています。その論理の仕組みを解明したい、それが論理学にほかなりません。私は、この本で、私たちのふだんづかいのことばから、その論理を取り出し、理論化し、体系化する、その最初の産声を取り上げようと思いました。ここには、まだプニプニしていて、ホカホカしている、そんな産まれたばかりの論理学の姿があります。

私は、「入門書」というものには少なくとも二種類あると思っています。ひとつは、これからもっと進んで勉強していくひとのために、その第一段階の基礎を教える入門書。積み上げ型の学問の場合に多いタイプです。たとえつまらなくても、たとえいまは意味がよく分からなくても、ともあれまずはこれだけのことはマスターしといてくれないと、先に進めないからね、というわけです。この本はこういうタイプの入門書ではありません。
私が考えるもうひとつのタイプは、少し唐突な言い方ですが、「哲学」です。つまり、その学問の根本的なところ、その本質を、つかみとり、提示する。論理学ってけっきょく何なんだ。何をやっているんだ。禅坊主の言い方を借りれば、襟首つかんで「いかなるかこれ論理学」とか「作麼生!」とか迫るところです。入門だからこそ、その根っこをつかまなければいけない。表面的なあれこれを拭い去って、根本を取り出そうとするその態度は、まさしく哲学です。

そして、タテ書きにして、記号を使わないと決めたときから、このような、論理学の根本に向かおうとする姿勢が色濃くなっていきました。入門の第一歩ではあるけれども、同時に、ここは何度でも立ち戻ってこなければならない論理学の核心部分なのです。ですから、正直に言って、執筆していてなによりもまず私自身に新たに学ぶところがありましたし、この本の執筆はとても楽しい作業でした。その楽しさが、どうか読者のみなさんのもとにも届きますように。

野矢 茂樹 (著)
出版社 : 中央公論新社 (2006/9/1)、出典:出版社HP

目次

はじめに
第1章 あなたは「論理的」ですか?
「論理的」って、どういう意味だろう?
論理は非常識か?
論理学が扱う推論とはどういうものか
論証と導出を区別しよう
ちょっと論理力をテストしてみましょう
論理学って何のためにあるのだろう
論理のことばたち

第2章 「否定」というのは、実はとてもむずかしい
ひとはどういうときに否定するのだろう
私はあなたのことが好きではない
肯定するか、否定するか、どっちかしかない?
勇気と盲腸の違い
二回否定すると肯定になるのか?
矛盾の形
背理は否定される
否定の論理

第3章 「かつ」と「または」
論理と接続詞
「かつ」の入れ方・はずし方
「かつ」の仲間たち
ひとが「または」と言うとき
こうすれば「または」は取れる
「かつ」と「または」を否定すれば
ド・モルガンの法則を導いてみる

第4章 「ならば」の構造
「ならば」で困った
「ならば」のはずし方
導入則をどうしよう
「ならば」の否定対偶をとる
「ならば」の連鎖

第5章 命題論理のやり方
私たちはいまどのあたりにいるのか
証明するとはどういうことか
論理命題と推論規則
証明も、けっこう楽しい
ほしい論理法則・ほしくない論理法則
二つのアプローチ
「健全」で「完全」な公理系
いろいろな公理系が作れる
遠くにゲーデルの不完全性定理が見える

第6章 「すべて」と「存在する」の推論
この推論はどう扱おう
全称と存在
全称と存在のド・モルガンの法則
世界に三匹のブタしかいなかったら
「すべての男はバカである」の論理構造
「バカな男がいる」の論理構造
「すべて」と「存在する」を組み合わせる
述語論理の公理系
論理学のやり方
おわりに、
この本のキーワード

逆らってはいけない
合わさってもならない
体を左右に
軽く揺らすとよい
井上陽水・奥田民生
「手引きのようなもの」

第1章あなたは「論理的」ですか?

野矢 茂樹 (著)
出版社 : 中央公論新社 (2006/9/1)、出典:出版社HP