総合的研究 論理学で学ぶ数学――思考ツールとしてのロジック

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長年の疑問が氷解する

数学的な主張は、数学的記号とそれをつなぐ論理で述べられますが、論理もまた、数学的記号を用いて数学的に語ることができることが明らかになりました。それが記号論理学や数理論理学と呼ばれる学問領域です。本書では、数理論理学の記号と方法を、数学自身の理解の深化を目指して実践的に講じています。

長岡 亮介 (著)
出版社 : 旺文社 (2017/5/30)、出典:出版社HP

旺文社総合的研究論理学で学ぶ数学―思考ツールとしてのロジック
長岡亮介著

序文

数学的な主張は、数学的記号とそれをつなぐ論理で述べられる。「論理的に正しい」ことは、数学の最も重要な徳性と見なされてきた。ところが19世紀に入ると、論理それ自身もまた、数学的記号を用いて数学的に語ることができることが明らかになってきた。それが記号論理学、あるいは、より現代的には数理論理学と呼ばれる学問領域であり、数学基礎論という数学分野とも密接に結びついて現代思想の重要な話題の一つともなっている。

だからといって、本書は、数理論理学それ自身の紹介を目指すものではない。本書の目的は、数理論理学の記号と方法を、数学自身の理解の深化を目指して実践的に講ずることである。扱う素材は、主として、多くの読者に親しみのある高校数学、あるいは大学入試の問題であり、これらを数理論理学の道具を使って理解しなおすことにより、すでに知っていると思っていた世界が違って見えてくる、という経験の一―望むらくは驚愕と感動に満ちた――場を提供しようとするものである。最初は見なれぬ記号や従来からの知識と異なる発想にとまどいを感じるかもしれないが、その困難を克服して本書に述べられる方法と概念を自分のものにしたとき、新しい認識を獲得することの誇らしさと喜びを感じてもらえると思う。

本書は、筆者が若い頃、難関大学を志望する若者(受験生、高校生)を相手に夏季の集中的な講習のために用意した教材とその講習に参加した講習生のノートに由来している。およそ、素人目には入試に直結しそうにない主題のために、貴重な「受験の夏」を競って捧げてくれた往時の若者の目の輝きの記録を通じて、現代の若者が、ご両親の世代の輝きを感じてくだされば、望外の幸せである。もちろんいまはすっかり壮年になった昔の青年が、知らない人からは「灰色の青春」と一括りにされる受験生時代の輝きを思い起こしてくれたなら、それもまた嬉しい。

本書の少し奇異な構成は、この気持から、当時のものを踏襲している。ただし、当時の講習では「主題」の、いわば通奏低音ともいうべき論理そのものについての記述は、本書のそれよりずっと軽量でその後に続く具体的問題の中で適宜参照する、という形で講義された、初読の際は、この点を考慮して「主題」の提示部で聞くことのないように注意して欲しい。

最後に、論理学の記号と用語は、数学を理解するために便利で強力な道具であるが、また道具に過ぎないことも忘れないで欲しい。本書で、しばしば「日常語による解答」を対照的に解説しているのは、道具は使いこなすことこそ大切で、道具に振り回されてはならない、鋭利な刃ものは、正しく使わないと危険極まりない、という教訓のためである。

長岡 亮介 (著)
出版社 : 旺文社 (2017/5/30)、出典:出版社HP

目次

記号論理の主題による数学的変奏曲
第1章 前奏曲(Prélude)
1.1兄と弟の対話
1.2弟とその女友達との対話

第2章 主題(Thème)
■理論編
2.1数学と論理
2.2命題と条件
2.3論理演算子(logical operator)
2.4組み合わされた論理演算子
2.5条件と論理演算子
2.6条件の真理集合
2.7論理演算子と真理集合
2.8最化記号(∀と∃)
2.9量化文の成立条件
2.10量化文の内部構造
2.11量化文の否定
2.12量化文の成立と条件の真理集合
2.13量化記号の分配則
2.14量化文の中に残っている自由変項
2.15量化記号の順序
2.16数学と論理学
2.17集合を介した数学と論理の関係
■演習編

第3章 変奏(Variations)
■理論編
3.1写像の値域
3.2関数の値域
3.3点の軌跡
3.4変換の像
3.5対応の値域、曲線の通過する範囲
■演習編

第4章 練習(Etudes)
あとがき
さくいん
編集協力:会田英一崎山理史、高橋康夫、小林健二

記号一覧
本書で用いられる集合の記号
検定教科書には現れないが、以下は万国共通の記号(いわば固有名詞のようなもの)である。

Rの部分集合で区間(interval)と呼ばれるものの記号がある。以下a、bはa<bの実数とする。

1前奏曲(Prélude)

分厚い本を紐解くのは読書の習慣のない人には勇気のいることである。一方、躍動感のある序曲を聞くと、続くオペラへの期待が昂るだろう。本書に取り組もうとしている読者のために、まず、短い前奏を心で聞いていただこう。

長岡 亮介 (著)
出版社 : 旺文社 (2017/5/30)、出典:出版社HP