さりげなく思いやりが伝わる大和言葉 常識として知っておきたい美しい日本語

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人間関係をなめらかにする

言葉は、それを使ってきた人の歴史を背負っています。大和言葉のセンスを磨くことは簡単ではありませんが、身につければ必ず人生は豊かになります。“常に新しい言葉を学ぼうとする人は積極的な人生を歩むことができる“と謳う著者による、大人の学び直しのための1冊です。

幻冬舍
さりげなく思いやりが伝わる大和言葉
常識として知っておきたい美しい日本語
上野 誠

はじめに

大和言葉を大切にする
言葉というものは、それを使ってきた人の歴史を背負っているものです。一つは、言葉を使う個人の生活の歴史を背負っています。二十五歳の私と五十歳の私では、生活も経験も違うはずなのです。もう一つは、自分が生まれる前に日本語を使っていた人々の生活の歴史を背負っています。
言葉は、常に歴史的存在なのです。ときに外国の文化に学んで、私たちの祖先は外国の言葉を取り入れてきました。だから、日本語を「大和言葉」と「外来語」の二つに分けることもできます。

▷大和言葉
…もともとあった日本語
▷外来語
…中国から来た言葉
…ポルトガルから来た言葉
…ドイツから来た言葉
…フランスから来た言葉
…英米から来た言葉

私はよく学生に言います。「紙切れをポルトガル語では『カルタ」、ドイツ語では「カルテ」、英語では「カード」という。しかし、ポルトガルから来たカード遊びで遊んだ人々は、その紙切れを『カルタ」と呼び、ドイツで医学を学んだ人々は診療記録紙を『カルテ』と呼んだわけだよね。私たちはみごとにこれらの言葉を使い分けているではありませんか?」。私たちは、外国の言葉を学ぶだけでなく、日本語の中に定着させようと努力してきました。

カルタで遊ぶ
カルテに記す
カードを取る

こんなふうに、助詞と動詞を使って、日本語の中に取り入れてきたのです。だから、何がなんでも、日本人なら大和言葉を使わなくてはいけないというのは、言葉というものの性質をよく知らない人の言い分です。
ではなぜ、今、私は、大和言葉の本を書こうとしているのでしょうか?
それは、大和言葉のセンスをみがくことが、現代においては、たいそう難しいからです。そこで、なるべく大和言葉のもっている微妙な言い回し(ニュアンス)をうまく使いこなせるように、センスをみがくことができるようになれたらよいなぁ、と思いつつ、本書を企画しました。
だからといって、外来語を排除するようなことはしません。大和言葉と外来語とを区別することは大切かもしれませんが、区別したからといって、言葉の使い方がうまくなるなどとは思わないからです。言葉は、そんなに単純なものではありません。大切なことは、区別することや言い換えをすることではないのです。
こんな話をしましょう。
この三日間に食べた物を箇条書きにしてみてください。おそらく、和食も、中華料理も、西洋料理もあるでしょう。その和食も、みそとしょうゆは中国伝来です。カレーを食べた人がいるかもしれませんが、日本のカレーは日本にしかありません。日本のカレーは、イギリスの海軍で百五十年前に作られていたカレー風味のシチューを、ご飯にかけて食べているのですから。それを、イギリスに留学した日本の海軍軍人が日本で広めたのです。あえていえば、カレーシチューかけご飯。はたしてこれらは、何料理でしょうか?また、日本の中華料理は、中国の中華料理とは違います。和食になった中華料理です。
つまり、私たちの祖先は、外来のものを自分たちのものに作り替えて、自分たちの生活を豊かにしてきたのです。語源を知ることもときには大切ですが、私たちは、すでに大和言葉に取り入れられた外来語を使って、生活しているのです。

日本文化のすばらしさ
日本文化のすばらしさは、新しいものを作り出す点にはありません。新しいものをどんどんと取り入れて、自分のものにして使いこなす点にあるのです。私たちの先輩は、「怠業」という漢語を取り入れて、日本語にして使いました。

怠業する。
漢語に「する」をつけて日本語の動詞にしてしまったのです。「怠業する」とは、さぼることですね。この「さぼる」は、フランス語のsabotageから来ています。こちらも「する」をつけて作られた日本語の動詞です。ドイツ語のアルバイトしかり。
こう考えてゆくと、大和言葉かどうかということにこだわっても、得るものは少ないように思います。
取り入れて、自分のものにして、使いこなす。ここに日本語、日本文化のすばらしさもあるのです。だとしたら、目指すべきことは、一つしかありません。
それぞれの状況に合った言葉を選んで、うまく使いこなせるように、常々心がけておく。センスをみがく。今日の外出には、何を着てゆこうかという気持ちで。
しかも、失敗を恐れず、怯まずにです。一人ひとりが、言葉の肌触りのようなものを、自分でつかんでセンスをみがいてゆくしかありません。私は、そういう言葉の肌触りをつかむ作業のサポートをしたいのです。
最後に、私が考えた迷言を。

常に新しい言葉を学ぼうとする人は、積極的な人生を歩むことができる!

目次

◆はじめに

第一章 感謝の気持ちをさりげなく伝える
◆ちょうだいする◆もったいない◆お招き◆おいでいただく◆一入◆胸のつかえ◆ほめちぎる◆ねぎらう◆お骨折り◆この上もない◆いたみいる◆重ね重ね◆かねがね◆足を向ける

第二章 場をなごませるひと言を使いこなす
◆にぎにぎしく◆打ち上げ◆上を下への◆てんやわんや◆厄落とし◆合いの手を入れる◆おっつけ◆ほどよい◆のっけから◆ほどほどに◆頃合いをみる◆宴たけなわではございますが◆おひらき◆風ぶれ◆なみいる◆手締め◆手を打つ◆左うちわ◆末広がり◆場違い

第三章 やわらかな物言いで人づきあいを円滑に
◆ごめんください◆おかまいなく◆ようこそ◆ごぶさた◆よもやま話◆よろしく◆お見知りおき◆遠回し◆やんわり◆向こう三軒両隣◆言わずと知れた◆あからさま◆ぞんざい◆物言い◆言いかねる◆角が立つ◆受け流す◆いさめる◆とりなす◆言葉を飾る◆含むところ/含みをもたせる◆用立てる◆水臭い◆ややもすれば◆いまひとつ◆目に余る◆ことほどさように◆いささか◆しかるべき筋

第四章 心の機微を伝える言葉がある
◆うららか◆なごむ◆虫が好く/虫が好かない◆気の置けない◆くよくよ◆もの悲しい◆思いのたけ◆ときめき◆うろたえる◆かえすがえす◆胸にせまる◆せつない◆腑に落ちる◆脚をなでおろす◆やるせない◆泣きの涙◆目頭が熱くなる◆鼻白む◆目をむく◆ぎくしゃく◆うっとうしい◆こともあろうに◆息をのむ◆いきりたつ◆上の空

第五章 繊細で微妙な「今」をありありと表す
◆今しがた◆そこはかとなく◆たゆたう◆ほのか◆ゆゆしき◆えてして◆よもや◆さんざめく◆暮れなずむ◆あながち◆あまつさえ◆あたかも◆いたわしい◆いじらしい◆こよなく◆うってつけ◆あまねく◆にわか◆しめやかに◆おもむろに◆したり頭◆なまじ◆けたたましい

第六章 控えめな態度に、譲る気持ちを込めて
◆身に余る/身にすぎる◆さしでがましい◆つつしむ◆あやかる◆いたわる◆案ずる◆手向ける◆草深い◆花をもたせる◆付け焼き刃◆ひたむき◆頭が下がる◆恐れ入る◆ありあわせ◆ささやか◆つましい◆あつかましい◆口はばったい◆恥じらう

第七章 少し意識するだけで品性が保たれる
◆よそいき◆おめかし◆ふるまい◆たしなみ◆はしたない◆ものごし◆たたずまい◆匂い立つ◆しなやか◆妙なる◆ふぜい◆人となり◆がさつ◆あられもない◆あけすけ◆みっともない◆さもしい◆しゃしゃりでる◆奥ゆかしい◆召す/お召し物◆身ぎれい◆苦み走る◆気立て◆やんごとない◆ならわし◆しきたり

第八章 職場では立場や関わりを大切にしたい
◆そつがない◆心配り/気配り◆気働き◆打てばひびく◆顔を立てる◆あたらずさわらず◆筋が立たない◆懐に飛び込む◆筋がいい◆さじを投げる◆いそしむ◆さすが◆たしなめる◆生え抜き◆下にもおかぬ◆様になる◆押し出し◆道を譲る

第九章 食事をよりおいしく、楽しむために
◆まろやか◆舌鼓◆いただきます◆ごちそうさま◆煮炊き◆仕出し◆折敷◆お口よごし◆おみおつけ◆箸やすめ◆おもたせ◆お茶請け◆口ざみしい◆黒文字◆食べつける/飲みつける◆くだを巻く◆くゆらせる◆雪の上げ下げ

第十章 義理と人情を立ててじょうずに断る
◆あいにく◆せっかくですが◆白紙に戻す◆仕切り直す◆よんどころない事情◆事と次第によっては◆いかんともしがたい◆心ならずも◆体よく◆手だて◆手を尽くす◆ままならず◆気が咎める◆袂を分かつ◆むげに◆けじめをつける◆見込み違い◆いずれ

第十一章 奥行きのある人生も大和言葉から
◆来し方行く末◆身の振り方◆浮き沈み浮かぶ瀬◆明け暮れ◆朝な夕な◆うつろう◆(人間が)練れる◆(酸いも甘いも)かみわける◆渡りに舟◆ちまた◆虫の知らせ◆いまわの際◆極楽とんぼ◆なりわい◆行きがかり◆まがりなりにも◆趣◆永久
◆追い書き
◆さくいん
装幀 石川直美(カメガイデザインオフィス)
イラスト 石橋富士子
DTP 美創
編集協力 オフィス201

第一章 感謝の気持ちをさりげなく伝える