入門 考える技術・書く技術――日本人のロジカルシンキング実践法

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伝え方のスキルが確実に上がる

本書の特筆すべき点は、ロジカルシンキングを「相手に合わせて」「文章に落とす」実行可能な方法論を、徹底的にわかりやすく解説してくれていることです。この本を読むことで、「ロジカルシンキングを相手に伝わる形に変換する」スキルを身に付けることができるはずです。

山崎 康司 (著)
出版社: ダイヤモンド社 (2011/4/8)、出典:出版社HP

まえがき

日本語のハンディを乗り越える

ピラミッド原則は、世界中の一流経営コンサルティング会社においてレポート・ライティングの基本コンセプトとして広く採用されているライティング手法です。
バーバラ・ミント女史が1970年代にマッキンゼーで教え始めて以来、ピラミッド原則をまとめた著書The Pyramid Principle (邦訳『考える技術・書く技術』ダイヤモンド社)は10数カ国語に翻訳され、コンサルティング会社や調査会社の定番図書として定着しています。

私がこの本に出合ったのは、某米国系経営コンサルティング会社に入社した1984年のことです。このコンセプトに強く惹かれ紆余曲折を経て、1992年には企業顧客を中心にレポート・ライティングの教育指導に取りかかる一方、1 995年には同書の邦訳に、1999年には新版の刊行に携わるなど、かれこれ四半世紀にわたってピラミッド原則の普及に取り組んできました。

しかし今なお、心残りがあります。ピラミッド原則はグローバルに通用するものですが、いざ実践しようとすると、日本語特有の問題が足を引っ張るのです。
たとえば、欧米言語の方からすれば信じられないことかもしれませんが、日本語のおよそ8割の文章には主語がありません。主語への意識が極めて薄いのです。これは、考えを正確に表現し、ロジカルに組み立てる際にかなりのハンディキャップとなります。

また、日本語では接続詞を気安く使えてしまうせいか、前後のロジックを問わずに文章をつないでしまっても、何の違和感も持たれないという難点もあります。詳しくは本書で解説しますが、たとえば、「が」に至っては、順接(and)と逆説(but)の両方に使われているほどです。ピラミッド原則の基本は、考えを1つの文章で表現することにあります。しかし、こうした日本語特有の問題が、考えを1つに絞ることを妨げています。単に表現上の問題ではなく、考える行為そのものの足を引っ張っているのです。私たちは普段使っている日本語についてさほど意識することはありませんが、論理思考に苦手意識を持つ人が少なくない背景には、こうした問題があるのです。

本書はレポート・ライティングの初級者を対象に、とりわけ日本語特有の問題に配慮し、考えを表現する方法を提示、「日本人による日本人のための実践ガイド」に徹しました。また、日常業務ですぐに使えることを念頭に、メール・ライティングについてのアドバイスもまとめています。
読者の皆様がピラミッド原則を理解するのみならず、本書によって実践スキルを身につけ、日々の仕事に活かしていただければ幸いです。

2011年3月
山崎康司

山崎 康司 (著)
出版社: ダイヤモンド社 (2011/4/8)、出典:出版社HP

目次

まえがき 日本語のハンディを乗り越える

序章 誤解だらけのライティング
日本人がロジカル表現を苦手とする本当の理由

誰も教えてくれなかったレポート・ライティング
●誤解l 書きたいことを書きなさい
●誤解2 起承転結で書きなさい
グローバル・スタンダードを学ぶ
●レポートを受ける立場になって読んでみる
●考えるプロセスと書くプロセスを分ける

1章 読み手の関心・疑問に向かって書く
OPQ分析で読み手の疑問を明らかにする

読み手は何に関心を持ち、どんな疑問を抱くのか
読み手の関心を呼び起こすには
読み手の疑問を明らかにする「OPQ分析」
OPQ分析のコツ

2章 考えを形にする
メッセージを絞り、グループ化する「ピラミッドの基本」

メッセージの構造を明らかにする
●一度に覚えられる数には限界がある
●メッセージ構造をそのまま文書へ

グループ化と要約メッセージ
●メッセージが一般論にならないようにする
要約メッセージを文章にするときの「4つの鉄則」
●鉄則① 名詞表現、体言止めは使用禁止とする
●鉄則② 「あいまい言葉」は使用禁止とする
●鉄則③ メッセージはただ1つの文章で表現する
●鉄則④ 「しりてが」接続詞は使用禁止とする
「So What?」を繰り返す

3章 ピラミッドを作る
ロジックを展開する、チェックする

帰納法でロジックを展開する
●帰納法の仕組み
●「同じ種類の考え」を前提とする
●帰納法は「つなぎ言葉」でチェックする
●結論を先に述べる
演繹法でロジックを展開する
●ビジネスで演繹法を使う際の注意点
●演繹法は「前提」をチェックする
ピラミッド作成のコツ
●コツ① 1つの考えを短く明快に
●コツ② 縦と横の「二次元」を意識する
●1対1の関係に要注意
●1対1の番外編「イメージによる説得」

4章 文書で表現する
導入から結びまで、気をつけるべきポイント

文書全体の構造はピラミッドに同じ
●ケース「X事業投資」
●主メッセージの位置
●目次のつけ方
段落表現のビジネス・スタンダード
●段落は「改行+大きめの行間」で
文章のわかりやすさは「接続詞」次第
●ロジカル接続詞
●「しりてが」接続詞の使用ルール
●曖昧な接続詞は誤訳のモト
読み手を引きつける「導入部」
●OPQ分析を使って導入部を作る
「結び」で今後のステップを示唆する

終章 メール劇的向上術
毎日のメールでピラミッドが身につく一石二鳥作戦

メールが見違えるように変わる「感謝の言葉にPDF」
「1日1回ピラミッド」×4カ月

巻末付録 ピラミッドの基本パターン
参考文献

山崎 康司 (著)
出版社: ダイヤモンド社 (2011/4/8)、出典:出版社HP

序章 誤解だらけのライティング

日本人がロジカル表現を苦手とする本当の理由

私たちは社会人になるまで、レポート・ライティングを学ぶ機会がありませんでした。

感想文や作文で習ってしまった癖、日本語ならではのあいまいさ……
まずは、私たちがロジカル表現をする際にひっかかる日本語特有の落とし穴に注意しましょう。

誰も教えてくれなかったレポート・ライティング

あなたは今まで、職場の上司や仲間、学校の先生や先輩から、「君の書いたもの、ちょっとわかりにくいのだけど ……」「もう少しわかりやすく書いて欲しい」などと言われた経験はありませんか?

私自身も経営コンサルティング会社に入社して間もない頃、米国人上司からそのように言われたことがあります。レポート・ライティングはコンサルタントの生命線の一つですから、心中、穏やかではありません。その2カ月後、ニューヨーク本社から教育部部長(ハーバード・ビジネススクールの元教授)が日本オフィスにやって来てライティング指導が行われました。その結果、わずか数日間で、その部長からMIP (Most Improved Player、最も上達した人)と言われるまでに変身しました。

それまでの私のライティングはまったくの我流でした。問題は「英語」ではなく「考え方」にあったのです。基本さえ理解できれば簡単なのですが、残念ながら、日本の学校でレポート・ライティングを習う機会はなかなかありません。ほとんどの人が、社会に出ていきなり、もっとわかりやすいレポートを書けと言われるのです。

米国のほとんどの大学では、何を専攻するかに関わらず、ライティングが必修科目となっています。留学していた私の娘も1年次に「ライティング基礎」を、3年次に「ライティング上級」を受講しました。どちらも必修でした。ビジネス専攻の学生であれば、ビジネス・ライティングやスライド表現といった講座も欠かせません。
このように、ライティングに関する意識や教育の日米格差は歴然ですが、問題はそれだけにとどまりません。ビジネスがスピード化・グローバル化し、eメール1本で相手を説得したり、スライド・プレゼン一発で重要事項を決定したりすることが当たり前となった今、もはやグローバル企業ではライティングの下手な人は出世が困難となっているのです。それが現代の趨勢です。
さて、日本の教育においてライティングを勉強する機会がなかったということは、とりもなおさず、小中学校の国語の時間に習ったことが私たちの頭の中にこびりついていることを意味します。そのうち、典型的な誤解を紹介しましょう。

●誤解1 書きたいことを書きなさい

「あまり考えすぎると書けなくなるので、思いついたことを書くようにしなさい」
「自分の書きたいことをそのまま書きなさい」。
学校の先生からこう言われた経験をお持ちの方は多いと思います。しかし、この教えは万能ではありません。あくまで、日記や感想文などで、書くテーマが見つからない場合のアドバイスです。

ビジネス文書では、何について書くのかを決めるのは、あなたではありません。それは読み手です。あなたは読み手の知りたいことを、読み手の関心に向かって書くのです。読み手は忙しいのですから、自分に関係のないあなたの関心事や思いつきに付き合っている暇はありません。

この読み手のために書く、読み手を理解するという教育が日本ではほとんど行われていません。作文や感想文のみならず、中学や高校の国語の試験でも、書き手の意図を答えさせる問題ばかり登場します。小説ならまだしも、実社会では書き手の意図がわかりにくいレポートなど、それだけで失格です。
しかし、社会人になったからといって、急に読み手の立場を考えて書けと言っても無理な話です。皆さんはどうでしょう。ライティングの前に、「読み手の関心はどこにあるのだろうか」「読み手はこの文書で何を求めているのだろうか」と考えているでしょうか。

●誤解2 起承転結で書きなさい

「起承転結で書きなさい。結論は最後に書きなさい」
学校の先生からこのように言われて育ったせいか、起承転結という言葉が私たちの頭の中に呪文のように刷り込まれています。
そもそも起承転結とは、起句・承句・転句・結句の4つから成る絶句と呼ばれる漢詩の構成を表したものです。つまり、ストーリー構成の一つの型を示しているに過ぎません。物語を考える際は便利でしょうが、レポート・ライティングの構成とは無関係です。

さらにやっかいなのは、結論を最後に持ってくるメッセージ・スタイルが、無用な摩擦を避けて和を尊ぶ日本の社会風土にマッチしていたことです。その結果、起承転結は「結論は最後に」という教えとして私たちの中にすっかり定着してしまいました。

ビジネス文書では、結論は冒頭に書くのが原則です。読み手は、目下関心を持っている事柄について、いち早くあなたの考えを知りたいのです。ただ、そうわかっていても、結論によほどの自信がないと躊躇するのも仕方ありません。しかし、それは訓練と経験で克服できます。30年前の私がそうだったように、ライティングの基本的な考え方を理解し、習慣として身につければ、起承転結の呪縛を打破することはまったく難しいことではありません。

このように、国語教育から来る誤解や日本語特有の構造が足かせとなって、ピラミッド原則になじめない人は少なくないようです。逆に言えば、この誤解さえ解ければ、「なるほど」と思うことばかりです。

グローバル・スタンダードを学ぶ

「ピラミッド原則」は、1970年代半ばに経営コンサルタント育成とレポート・ライティング向上を目指して開発され、今や世界中のコンサルティング会社や企業、大学などで採用されています。英語であれ、フランス語であれ、中国語であれ、日本語であれ、何語であろうと考え方は同じ。ピラミッド原則は、考え、書くことの「グローバル・スタンダー ド」です。
一方で、これまで受けてきた自身の日本語教育と、ピラミッド原則の間には、大きなジャンプが必要であることも確かです。いきなり本題に入る前に、軽くウォーミングアップをしましょう。読み手の立場から、主たるメッセージを絞り、考えを整理し、組み立て、文書に落とし込むという一連の流れを、簡単なケースで体験します。

レポートを受ける立場になって読んでみる

次の文書(原文)は、某一流企業で実際に書かれた「事業本部の業績」レポートの一部を抜粋したものです。まずはこの文書を読み、書き手が何を伝えようとしているのかを考えてみてください。「この文書のどこが悪いの?」と思った方は、もう一度読み返してください。「これではわかりにくい」と思った方は、自分だったらどのように書き直すか、考えてみましょう。そのうえで、修正見本を見て両者の違いを考えてください。

原文

修正見本

原文と修正見本を見比べて、どう感じましたか?
今回の原文ぐらいの短さならば何とか我慢できるかもしれませんが、この調子で数ページの報告書を読まされてはかないません。
修正見本では「結論」が冒頭に明快に表現されています。また、結論を導く「3つの判断根拠」も箇条書きでわかりやすく表現されており、全体として「メッセージ構成」が一目でわかるようになっています。
両者の主な違いは、「書くプロセス」ではなく、その前段階の「考えるプロセス」にあります。メッセージ構成を文書上、一目でわかるよう表現するには、文書を書き始める前に、伝えたい考えを明快に組み立てておく必要があるのです。
考える作業で大切なのは、最も重要な考え(主メッセージ)を見つけることです。原文では主メッセージが埋もれてしまっており、一読しただけでは見つけにくい状態でした。

主メッセージを明確にした後は、それを説明するメッセージ(下部メッセージ)との関係を整理します。今回の例では、事業推移のステージを3つ(成長ステージ、急落ステージ、平衡ステージ)に切り分けて解説するのがわかりやすいでしょう。
このような一連の考えの構成を一目でわかるよう、ピラミッド型に配したのが、次ページの「メッセージ構成」です。ここまで来れば、あとはできあがったピラミッドを文書に置き換えるだけです。この「メッセージ構成」を頭に入れて、先ほどの「修正見本」を見てください。

考えるプロセスと書くプロセスを分ける

以上の例で察していただけたかと思いますが、もしあなたの報告書がわかりにくいとすれば、その原因のほとんどは書く前の段階、すなわち伝えるべき考えを明快に表現し構成するという「考えるプロセス」にあるのです。

メッセージ構成

山崎 康司 (著)
出版社: ダイヤモンド社 (2011/4/8)、出典:出版社HP