国際経済学―国際貿易編 (Minervaベイシック・エコノミクス)

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国際経済の仕組みをわかりやすく

本書は、国際貿易論の基本的な理論から現代の経済政策までを網羅しています。難解な数式を使わずにミクロ的な理論を解説しており、初学者でも理解できる教科書と言えます。国際的な経済活動を精緻に分析することも可能で、直感的に理解しながら、国際貿易論の基本をいろいろな側面から身に付けられます。

中西 訓嗣 (著)
出版社 : ミネルヴァ書房 (2013/3/1)、出典:出版社HP

はしがき

最近では「グローバリゼーション」という言葉を見たり聞いたりしない日はない。それが何ものであるにせよ、政治、経済、文化、娯楽、教育、学術、宗教など、あらゆる人間活動がグローバリゼーションの只中にある。グローバリゼーションに弱肉強食の殺伐さを感じて不安をいだく人もあれば、実力発揮の好機と捉えて声高に推し進めようとする人もいる。グローバリゼーションの中で人々の利害対立が鮮明なものとなる。
たとえば、環太平洋パートナーシップ協定(TPP: Trans-Pacific Partnership)への日本の参加問題を見るとよい。賛成派・反対派それぞれが、「製造業空洞化の阻止」「食糧自給率の確保」「国益増進」「格差拡大」「成長促進」「弱者切り捨て」など様々な論拠を示してTPPへの参加・不参加を争っている。しかし、意見の対立とはまったく別次元で、両者の議論にはどこか噛み合っていないものが感じられる。それぞれの側が、互いに異なるグローバリゼーションを勝手に思い描いて、的外れな論戦を展開している。グローバリゼーションが何であるのかについての共通理解が欠けているのである。共通理解がなければ、賛成・反対どちらの主張も空回りして、議論自体が成り立たない。
グローバリゼーションは、人々に繁栄をもたらすのか、格差と対立を生じさせるだけなのか。こうした問に答えるためには、まず、「グローバリゼーションとは何か」が正しく把握されていなければならない。国際経済学は、グローバリゼーションのすべてとは言わないまでも、その経済的側面、すなわち「経済のグローバル化」と呼ばれる現象を分析・理解するための首尾一貫した方法となる学問分野である。国際経済学は、グローバリゼーションを肯定的に捉える人にとっても、否定的に捉える人にとっても、有意味な議論を展開するための適切な「方法」と「共通言語」を提供してくれるはずである。

本書のねらいと特色
国際経済学は、国や地域を基本単位として、それらの間で行われる様々な国際経済取引を体系的に把握し、それらの原因や効果を明らかにすることを目的としている。国際経済学の分析枠組は、「国際金融論」と「国際貿易論」の2つに大別される。国際金融論では、国民所得水準、経常収支、物価水準、為替レート、金利などのマクロ経済学的・貨幣的変数が主に取り扱われるのに対して、国際貿易論では、生産・消費・貿易パターン、相対価格、経済厚生などのミクロ経済学的・実物的変数が主に取り扱われる。本書は、国際経済学の2大分野のうち「国際貿易論」に関する標準的理論と基礎的事項について解説することを目的としている。
狭い意味での「貿易」とは財・サービスの国際取引のことであるが、国際貿易論の名称にある「貿易」には、より広い意味で、資本・労働の国際移動や企業の国際展開なども含まれている。「貿易」という言葉を広義に理解しておけば、国際貿易論の主題を「貿易パターンの解明」と「貿易利益の論証」の2つにまとめることができる。「貿易パターンの解明」とは、いかなる要因によって、どのような財・サービス等が、どちらの方向で取引されるのかを明らかにするものであり、他方「貿易利益の論証」とは、財・サービス等の国際取引によって人々の暮らし向きがどのような影響を受けるのかを明らかにするものである。本書全13章を通じて、これら2つの主題が繰り返し取り上げられる。
本書は、今日の国際貿易論に関する標準的な教科書をめざしたものであるから、個別テーマの理論的内容について筆者自身のオリジナリティを主張するものではない。しかし、テーマの取捨選択や提示の仕方には独自の工夫を凝らしている。
まず、本書では、類書によくある「貿易モデルを紹介する」というスタイルは採用しなかった。目次からも明らかなように、本書には「××モデル」といった章や節は一切含まれていない。特に、代表的な貿易モデルである「ヘクシャー=オリーン=サミュエルソンモデル」や「特殊要素モデル」は、所得分配や経済成長などの課題やテーマごとに、必要とされる部分に解体して利用した。1つ1つの「モデル」について微に入り細をうがって理解することは、経済学の専門家をめざす人には大切な作業だが、これから新たに経済学を学ぶ人にとっては迂遠で無用なことと考えたからに他ならない。むしろ、どのような課題やテーマに、国際貿易論という方法が、いかに適用可能であるのかを学びとってほしいと思う。
また、本書では、類書に見られるものより数多くの図解が示され、それらは、かなり詳細・精密に描かれている。国際貿易論をある程度知っている人には、クドイと思われるほどかもしれない。「百聞は一見にしかず」と言われるように、適切な視覚的イメージやグラフは、言語や文章による表現よりも豊かな情報を生き生きと伝えてくれる。本書における図解は、単なる例示やイラストレーションではなく、ある意味で理論の本質に触れるものである。ある曲線や図形が何を表しているのか、ある曲線が右上がりのグラフで描かれる理由は何か、ある条件が変化したときに曲線が移動するのはなぜか、などなどを考えながら、理論の解説に利用される図解の1つ1つを読者自身の手で再現してみることで、内容に対する理解を深めることができるはずである。
本書が対象読者として主に想定しているのは、経済学を習い始めた大学1~2年生である。基礎的な経済学を知っているに越したことはないが、それがなくとも本書を読み進められるよう、必要な基礎知識については、本文中あるいはコラム等を利用して解説を加えてある。したがって、意欲さえあれば、一般の社会人あるいは高校生の読者にも本書を読み通してもらえると思う。
本書では、「貿易と環境」および「貿易と天然資源」という2つの重要問題についてはまったく触れていない。これらの問題を取り上げなかったのは、恥ずかしながら、筆者の能力が及ばないというのが第一の理由である。加えて、「貿易と環境」や「貿易と天然資源」の問題を正面から取り上げるためには、国際貿易論に関する知識の他に、環境経済学や資源利用と再生産の動学に関する十分な理解も必要であって、基礎的事項として紹介するには難度が高くなり過ぎると判断したのが第二の理由である。
教科書であるということを意識して、本書では、筆者自身の思想や意見を記述することは避けている。とはいえ、まったく無味無臭・無色透明というわけでもない。筆者自身は、これまでに学界で積み重ねられてきた知見に基づいて「貿易自由化は、いくらかの問題を孕んではいるものの、基本的に実行したほうがよいものだ」と考えている。したがって、本書を通じて、このような見解に則した記述が見え隠れしていることは否めない。そして、このような見解は、ほとんどの国際貿易論研究者の共通認識でもあろう。この点に関して、恩師の1人でもあり友人でもあった下村耕嗣教授(故人、神戸大学)が好んで引用されていたアマルティア・セン教授の発言をここでも掲げておきたい。

『グローバル化をやめるかではなく、グローバル化に加えて何をするかだ。しっかりとした公共政策を併せ持つことが大切なのだ。先端技術や国際貿易の恩恵を否定することでアジアやアフリカの貧しい人々が豊かになるわけではない。』(朝日新聞、2000年8月28日)

上記のセン教授の発言ほど、本書の基本的なスタンスを的確に言い表したものはないと思う。

謝辞
筆者が初めて国際貿易論に触れたのは、広島大学経済学部在学中に三辺誠夫先生(故人、広島大学)のゼミナールにおいて、サミュエルソンの貿易利益に関する論文を輪読したときであった。経済学の数ある命題・定理の中でも「貿易利益命題」には珍しく前向きのニュアンスがあって、筆者が国際貿易論に関心を抱く大きなきっかけとなった。神戸大学大学院経済学研究科に進学後は、国際経済学の泰斗、池本清先生(故人、神戸大学名誉教授)のご指導を受けた。池本先生の研究室に所属できたのは、まったく偶然の巡り合わせであったが、池本先生からは、単に国際経済学のみならず、研究者・教育者としての心構えや姿勢について多くのことを学ばせていただいた。両先生ともすでに鬼籍に入られて久しいが、改めて感謝の言葉を記しておきたい。
筆者が、曲がりなりにも本書のような教科書をまとめられるまで国際貿易論に対する理解を深められたのは、学会・研究会・セミナー等を通じた多くの優れた方々との交流のおかげである。特に、青木浩治(甲南大学)、阿部顕三(大阪大学)、井川一宏(京都産業大学)、石川城太(一橋大学)、石黒馨(神戸大学)、石黒靖子(兵庫県立大学)、市野泰和(甲南大学)、岩佐和道(京都大学)、岩本武和(京都大学)、大川隆夫(立命館大学)、大川昌幸(立命館大学)、大川良文(滋賀大学)、太田博史(神戸大学)、大山道廣(東洋大学)、岡村誠(広島大学)、小田正雄(立命館大学)、岡本久之(兵庫県立大学)、菊地徹(故人、神戸大学)、清野一治(故人、早稲田大学)、近藤健児(中京大学)、趙来勲(神戸大学)、佐竹正夫(東北大学)、佐野進策(福山大学)、柴田孝(大阪商業大学)、下村耕嗣(故人、神戸大学)、神事直人(京都大学)、鈴木克彦(関西学院大学名誉教授)、寶多康弘(南山大学)、多和田眞(名古屋大学)、出井文男(神戸大学)、寺町信雄(京都産業大学)、内藤巧(早稲田大学)、西島章次(故人、神戸大学)、橋本賢一(神戸大学)、林原正之(追手門学院大学)、原正行(桃山学院大学)、広瀬憲三(関西学院大学)、福井太郎(近畿大学)、古沢泰治(一橋大学)、松林洋一(神戸大学)、丸山佐和子(神戸大学)、椋寛(学習院大学)、安武公一(広島大学)、吉田千里(立命館大学)、米山昌幸(獨協大学)、若杉隆平(横浜国立大学)の諸先生に対する筆者の学問的負債の大きさは計り知れない。記して御礼申し上げる次第である。
本書の執筆に本格的に取りかかった頃、同じ池本清先生の薫陶を受け、同じ研究科に勤務し、そして、よき友人であった菊地徹氏(神戸大学)が若くして世を去った。菊地氏の精力的な研究活動は筆者の大きな刺激となっていたし、研究・教育をめぐる彼との議論はいつも楽しく生産的であった。菊地氏には、原稿の一部に目を通していただいたが、残念ながら、本書全体を通したコメントをいただきたいとの望みはかなわなかった。菊地氏の冥福をお祈りしたい。
神戸大学大学院博士課程後期課程の松岡佑治君、稲葉千尋さん、後藤啓君からは、本書の初期原稿に対して詳細なコメントをいただいた。本書がいくらかでも読みやすいものになっているとすれば、彼らのおかげである。また、特に松岡君には、本書作成にあたっての資料収集・整理・グラフ作成などの労もとってもらった。貴重な時間を割いて作業をしてくれた彼ら3名に感謝したい。もちろん、本書に残る不備や誤りは、すべて筆者のみの責任である。
本書は、岩本武和著『国際経済学 国際金融編』のいわば姉妹編である。岩本武和氏(京都大学)からのご紹介を受けて、ミネルヴァ書房の堀川健太郎氏と初めてお目にかかり、本書の執筆依頼をいただいたのは、かれこれ5年ほども前であったかと思う。堀川氏には、怠惰な筆者による数々の引き延ばし戦略にもあきらめることなく、執筆を継続するよう熱心に促していただいた。堀川氏に、心よりのお詫びと感謝を申し上げたい。
家族からの日常的な支援なくしては、本書の完成はありえなかった。原稿動筆に取りかかると不機嫌な顔をしていることの多い筆者を、いつも変わらぬ笑顔で励まし、暖かい家庭を支えてくれている妻かおりに感謝の言葉を伝えたい。また、ひかると俊輔、2人の子どもたちにも感謝したい。彼らの健やかな成長が何より未来への希望を与えてくれる。来るべき彼らの時代がよりよいものであることを願ってやまない。

2012年11月
神戸大学六甲台キャンパスにて 中西訓嗣

中西 訓嗣 (著)
出版社 : ミネルヴァ書房 (2013/3/1)、出典:出版社HP

目次

はしがき

第1章 比較優位の基礎
1.1 分業の利益
1.2 生産構造
1.3 企業行動と長期均衡
1.4 貿易自由化と生産の変化
1.5 貿易均衡価格の範囲

第2章 比較優位と貿易利益
2.1 生産可能性フロンティア
2.2 家計部門の導入
2.3 閉鎖経済均衡
2.4 貿易からの利益
2.5 比較優位と貿易利益の実証

第3章 比較優位と自由貿易均衡
3.1 オファーカーブ
3.2 輸入需要曲線・輸出供給曲線
3.3 貿易均衡の存在
3.4 貿易均衡の効率性

第4章 貿易自由化と所得分配
4.1 要素間所得分配
4.2 産業間所得分配
4.3 短期的利害と長期的利害の乖離
4.4 貿易自由化とセーフティネット

第5章 貿易政策分析の基礎
5.1 貿易政策とは何か
5.2 関税の効果——交易条件が一定の場合
5.3 関税の効果——交易条件が可変の場合

第6章 貿易政策分析の展開
6.1 関税とその他の課税・補助金
6.2 有効保護率
6.3 輸出補助金
6.4 数量制限

第7章 独占・寡占市場と貿易
7.1 不完全競争の類型
7.2 国内独占と貿易自由化
7.3 国際複占競争

第8章 規模の経済性と製品差別化の役割
8.1 規模の経済性
8.2 マーシャルの外部経済性
8.3 産業内貿易
8.4 製品差別化
8.5 独占的競争

第9章 生産活動の国際展開と規制
9.1 国際生産要素移動の基礎
9.2 海外直接投資の概念と様態
9.3 海外直接投資の理論分析
9.4 国際生産要素移動に対する規制

第10章 自由貿易と保護貿易
10.1 最適関税論
10.2 幼稚産業保護論
10.3 戦略的貿易政策論
10.4 国内政治過程

第11章 貿易交渉とルール
11.1 GATT・WTO小史
11.2 WTOの基本理念と構造
11.3 関税競争
11.4 関税交渉
11.5 貿易救済措置

第12章 経済成長と貿易
12.1 成長パターンと貿易
12.2 貿易から成長への影響
12.3 貯蓄・投資と異時点間貿易

第13章 地域貿易協定・経済統合
13.1 類型と現状
13.2 経済統合の効果
13.3 経済統合の形成

練習問題解答
文献案内
索引

中西 訓嗣 (著)
出版社 : ミネルヴァ書房 (2013/3/1)、出典:出版社HP