地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」

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地頭力を鍛える強力ツール

地頭力とは「結論から・全体から・単純に考えること」これがこの本の結論であり、具体的な解説を中身で行っています。問題解決のためには、これらの思考力や力が必要という全体的な枠組みを知るためにおすすめの本です。

細谷 功 (著)
出版社 : 東洋経済新報社 (2007/12/7)、出典:出版社HP

本作品は、2007年12月発行の、細谷功著『地頭力を鍛えるー問題解決に活かす「フェルミ推定」』(東洋経済新報社)に基づいて制作しています。
本作品を電子書籍として刊行するにあたり、一部の演字を簡易慣用字やかなで表記している場合があります。
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はじめに

■なぜいま「地頭力」が必要なのか?

あなたは日々の暮らしの中でどこまで本当に自分の頭を使って考えているだろうか?
いま「考える」ことの重要性がかつてないほどに高まっている。
インターネットによる情報検索が発達し、世界中のありとあらゆる情報が一瞬にして入手できるようになった。その結果として情報量という観点からは専門家と素人の差がほとんどなくなってきている。ところがこの膨大な情報量そのものが我々の世界をある意味で危機にさらしている。
ここに日本経済新聞の二〇〇七年四月二十日付の記事がある。「コピペ思考」というタイトルで、インターネットで検索した内容をそのまま「コピー&ペースト」してレポートにする若い研究者のことが掲載されている。インターネットの情報を使えば、表面上だけは専門家と同等レベルの論文を作成することが可能になったが、実は深い考察や事実・データによる検証に裏付けられたものでも何でもない。これは情報の洪水とお手軽な検索ツールの発達による「コピペ族」の増殖に伴う人々の思考停止の危機の一例を表している。
インターネット情報への過度の依存は三つの意味での危険をはらんでいる。第一は、素人参加型の情報源であるゆえ、鮮度が高い反面で精度に疑いが残るということ、第二はITや通信技術をはじめとした技術革新等、環境変化が著しく速くなってきたために陳腐化が激しくなってきていること、そして最後に情報への過度の依存が思考停止を招く可能性があることである。
インターネットの向こう側にある情報の大海というのは諸刃の剣である。検索エンジンによってすべての人間が膨大な情報への簡単なアクセスを手にした。しかしこういった膨大な情報を単に「コピペ」するという姿勢で使っていたのでは人間の考える能力は退化していき、そのうちにコンピュータにその役割は取って代わられて、そういった人たちはたちまち大海の藻屑として散るだろう。ただし、その反面で考える力(本書でいう「地頭力」を身につけた人はこの膨大な情報を駆使してこれまでとは比べ物にならないような力を発揮できる可能性がある。本書ではこの二極化を「ジアタマデバイド」と呼ぶ。
大宅壮一氏が「一億総白痴化」という言葉で、テレビの普及に対しての警鐘を鳴らしたのはすでに五十年以上も前のことである。そしていま、ふたたび世界は「インターネットによる総白痴化」の危機を迎えているといっても過言ではない。いまや漢字や電話番号はすべて携帯電話が「憶えて」くれており、単なる記憶力に関してですら、我々はますます頭を使わなくてもすむようになってしまった。
そうした危機感を反映してか、「脳力開発」「ロジカルシンキング」がビジネスパーソンの間でブームであり、数学が苦手な人や学生時代に理数系を専攻したビジネスパーソンに向けた数学本なども売れ行き好調のようである。またこうした傾向は日本にとどまらず、日本で命名された「数独」は海外でもブームを巻き起こしている。
これから本当に重要になってくるのはインターネットやPCでは代替が不可能なエリア、膨大な情報を選別して付加価値をつけていくという、本当の意味での創造的な「考える力」である。考える力を持っていれば、知識や経験が陳腐化すること自体は少しも恐れるに足らない。最新の情報はインターネットでいくらでも入手できるから、あとは自分の力を使って考えることによって新しい知識をいくらでも生み出していけるからである。
本書ではこの基本的な「考える力」のベースとなる知的能力を「地頭力」と定義した。「地頭」という言葉はコンサルティング業界や人事採用の世界では比較的日常的に使われていたが、定義があいまいで、かつ世間一般にはそれほど浸透している言葉ではなかった。筆者にとっても明確な定義のあるものではなかったが、十年以上にわたって「徹底的に考えること」を使命とするビジネスコンサルタントとして現場で様々な問題解決をクライアント企業とともに実施していくうちに問題解決に必要なベースとなる能力が明確になってきた。併せて若手コンサルタントとのプロジェクト活動を通じて、短期間で成長していくコンサルタントに共通の思考回路としての考える力のベースとなる部分、すなわち「地頭力」というものが存在することを強く意識するようになった。そしてまたその本質が「結論から」「全体から」「単純に」考えるという後述の三つの思考力を中心とする三層構造であると結論づけるに至ったのである。

■そもそも「地頭」は鍛えられるのか?

読者の中には、「地頭とは生まれつきの頭のよさなのだから、そもそも『地頭を鍛える』ということはできない、あるいは自己矛盾した言葉なのではないか?」と思われる人もいるかもしれないが、それは本書における定義においては必ずしも正しくない。確かに「地頭」という言葉が「生まれつきの頭脳」という意味で用いられる場合もあるが、本書における定義は「考えるために基本となる力」としての三つの思考力とそのベースカと定義しており、この意味における「地頭力」、特に三つの思考力というのは訓練によって必ずあるレベルまでは到達できると考える。

■「フェルミ推定」で地頭力を鍛える

それでは具体的に「地頭力」を鍛えるにはどうすればよいのか?
本書ではその具体的な訓練のツールとして「フェルミ推定」というものを紹介する。
筆者がフェルミ推定に初めて出会ったのは十年以上前、コンサルティング業界に入ってからのことであった。当時はそれを「フェルミ推定」と呼ぶということは知らずに「日本中に郵便ポストはいくつあるか?」「ガソリンスタンドは何軒あるか?」といった、容易には算出困難な数値を算出する課題がコンサルティング会社の面接で問われるということで、好奇心をそそられて興味は持ったものの、その時点ではその本質や奥の深さにまでは気づいていなかった。
時を経てコンサルティングの現場での経験を重ねるうちに、コンサルタントの使命とする「問題解決」におけるフェルミ推定の本当の威力や、その奥の深さに気づいていくことになる。フェルミ推定は問題解決の縮図であり、きわめてシンプルで誰にもわかりやすい敷居の低さを持ちながらも問題解決の方法論が凝縮されてここにつまっており、すぐに伸びていくコンサルタントはこのフェルミ推定の「ツボ」(基本精神)をしっかりと押さえている。
こうしたことからフェルミ推定が、先に触れた「結論から」「全体から」「単純に」考える「地頭力」を鍛えるための強力なツールと信じている。
インターネットには中毒性がある(これもテレビと一緒である)。したがって、この「ネット検索中毒」から脱するのは容易なことではない。考えるより先に検索エンジンへの入力の手が動いてしまうという「中毒症状」から脱して考える癖をつけるためには、「自らを羽交い絞めにして」でも検索をやめて一度立ち止まって考える癖をつけなければならない。
そのために「フェルミ推定」というツールを「ジアタマデバイド」への対策として活用してほしい。

■本書の構成

本書の構成は、まず第1章では本書のメインテーマである「地頭力」について、その定義と意義、およびその構成要素について解説するとともに、今後必要な「考える」知的能力を持った人間として「地頭型多能人」(パーサタイリスト)というものを提案する。次に第2章で二つ目のキーワードであり、おそらくほとんどの読者になじみのない「フェルミ推定」の定義とその意義を解説し、次の第3章で具体的なフェルミ推定の例題を用いて地頭力を鍛えるのにどう役に立つかの関連を説明する。続いて第4章では現実のビジネスへのフェルミ推定の精神の活用方法を紹介し、第5、6、7、8では地頭力の各構成要素、三つの思考力とベースカに関して個別に詳細を述べる。第9章では再びフェルミ推定にもどって、その応用例を紹介するとともにフェルミ推定以外の地頭力強化のためのツールを紹介するという構成である。
「フェルミ推定」および「地頭力」に関して包括的に定義・解説した類書はこれまで存在しておらず、そうした点で本書は他に類を見ないものと考えている。

■「地頭力」でジアタマデバイド時代を生き残る

本書が対象とするのは、若手のビジネスコンサルタントや企業における「問題解決」を必要とする業務に携わるビジネスパーソン、あるいは起業家(とその予備軍)に加えて、「考える力」を向上させたいと考える学生や研究者等のすべての職業の人であり、今後の日本を背負っていく人たちである。
本書を通じて「インターネットによる思考停止の危機」を食い止めるとともに、これまで知識詰め込み偏重であった日本人全体の「地頭力」、ひいては問題解決能力が向上し、世界におけるかつての競争力を取り戻すことに少しでも貢献ができればと考えている。
フェルミ推定による地頭力トレーニングの世界へようこそ。ぜひ「地頭力」という武器を持ってインターネットの情報の大海をうまく乗り越え、読者なりの「新大陸」を発見していただきたい。ではよい航海を。

二〇〇七年十月
細谷功

細谷 功 (著)
出版社 : 東洋経済新報社 (2007/12/7)、出典:出版社HP

目次

はじめに
■なぜいま「地頭力」が必要なのか?/■そもそも「地頭」は鍛えられるのか?/■「フェルミ推定」で地頭力を鍛える/■本書の構成/■「地頭力」でジアタマデバイド時代を生き残る

第1章「地頭力」とは何か
□「地頭力」を定義する
■「頭のよさ」は三種類/■「物知り」タイプの有する記憶力/■「機転が利く」タイプの有する対人感性力/そして考える力が高いタイプが有する「地頭力」/■三つの力のまとめ
□知的能力を「面」で語る
■旧来の会社経験で養われた「YZ平面」/■受験勉強で試される「XZ平面」/■「知の触媒機能」に必要な「XY平面」
□「地頭力」の構成要素
■ベースとなる三つの力/■地頭力に固有の三つの思考力
□なぜ「地頭力」が重要なのか
■「圧倒的に」生産性が上がる/■「結論から」「全体から」「単純に」は経営者の発想そのもの/■思考回路としての重要性/■トレーニングは二種類のアプローチ
□「地頭力を鍛える」ことは可能なのか
□「デジタルデバイド」から「ジアタマデバイド」へ
■地頭型多能人(バーサタイリスト)の時代へ■第1章のまとめ

第2章 「フェルミ推定」とは何か
□フェルミ推定=地頭力を鍛えるツール
■東京都内に信号機は何基あるか?/フェルミパラドックス/■「オーダー・オブ・マグニチュード」であたりをつける
□どんな場面で使われているか
□フェルミ推定が面接試験で用いられる三つの理由
■第2章のまとめ

第3章 フェルミ推定でどうやって地頭力を鍛えるか
□フェルミ推定の例題に挑戦
■フェルミ推定例題の解法例
□フェルミ推定と地頭力との関連
■「地頭力」を構成する三つの思考力/■「結論から考える」仮説思考力/■「全体から考える」フレームワーク思考力/■「単純に考える」抽象化思考力/■地頭力のベース
□あなたの地頭力を判定する
■地頭力の判定結果について
■第3章のまとめ

第4章 フェルミ推定をビジネスにどう応用するか
□ケーススタディ「地頭課長と積上クンの会話」
□フェルミ推定が必要な六つのタイプの症状と処方箋
■「検索エンジン中毒」|自分自身を羽交い絞めにする/■「完璧主義」―「タイムボックス」の考え方の習得/■「情報コレクター」―少ない情報で仮説を立てる/■「猪突猛進」―客観的に全体像で考える/■「セクショナリズム」―各因数のパランスよい算出を習得/■「経験至上主義」一般化・モデル化・共通の解法の適用
■第4章のまとめ

第5章 「結論から考える」仮説思考力
□仮説思考力のポイント
□仮説思考で最も効率的に目標に到達する
■仮説思考とは「逆算する」こと/■「はじめ」からでなく「終わり」から考える/■「できること」からでなく「やるべきこと」から考える/■「自分」からでなく「相手」から考える/■「売れないセールスマン」にならないために/■会議が「ミステリー列車」になっていないか?/■「手段」からでなく「目的」から考える/■キャリアプランも仮説思考で考えてみる/■人生設計を「自分の葬式」から考える/■両方のベクトルをバランスよく考えること
□どんなに少ない情報からでも仮説を立てる
■仮説が先か情報収集が先か?/データ分析の成否を決める仮説構築力/■仮説思考している人の口癖は「落としどころ」「うそでもいいから」
□前提条件を決めて前に進む
■前提条件を決めるとは課題を定義すること/■情報が足りなくても立ち止まらない
□限られた時間で答えを出す「タイムボックス」
■完璧主義を捨てる/■「ほうれんそう」をタイムボックスで考える/■プレゼンテーションのQ&Aもタイムボックス思考で
□仮説思考の留意事項
■はじめの仮説にこだわりすぎるべからず/■深掘りが甘くなるリスクに注意
■第5章のまとめ

第6章 「全体から考える」フレームワーク思考力
□フレームワーク思考力のポイント
□フレームワーク思考で「思考の癖を取り払う」
■すべての人には思考の癖がある/■個人が持つ相対座標と絶対座標/■座標系の具体例/■個人の相対座標とは「暗黙の思い込み」/■適切なコミュニケーションに不可欠な「座標系の一致」/■ホワイトボードで座標系を合わせる/■「プロ」とは「その道の絶対座標」を持つ人のこと
□全体を高所から俯瞰する
■全体俯瞰の威力/■全体は一つだが部分は無限/■「ズームイン」の視点移動で考えろ/■なぜ「話が長い」と感じるのか
□最適の切り口で切断する
■切り口の最適の選択は経験から決まる「アート」■フレームワークには「死角」が存在する
□分類とは「足し算の分解」
■「もれなくダブりなく」(MECE)が原則/■同レベルの「粒度」を合わせる/■狭義のフレームワークツールの活用/■KJ法の限界/■「箱を別に考える」のがフレームワーク思考/■「その他」を作ったり、安易に「改良」してはいけない
□因数分解とは「掛け算の分解」
■ビジネス指標分析への因数分解の応用/■業務プロセス分析も因数分解思考で
□全体最適をボトルネックから考える
■全体パフォーマンスはボトルネックで決まる
□フレームワーク思考の留意事項
■フレームワーク思考は「専制的」か?
■第6章のまとめ

第7章「単純に考える」抽象化思考力
□抽象化思考力のポイント
□抽象化とは「一を聞いて十を知ること」
■共通の性質から応用力を広げる/■抽象化思考のプロセスは「逆U字型」/■本質に迫るための抽象化/■抽象化レベルの違いに見る「改善」と「改革」の違い
□「モデル化」でシンプルに考える
■自然科学の標準アプローチ/■図解でモデル化力を鍛える/■枝葉を切り捨てる/■「牛を球とみなす」という発想/■知れば知るほど遅くなる?/■情報量が増えると本質が見えなくなる/■本質を理解すれば「三〇秒で」説明できる/■「三〇秒チェック」で頭の整理を
□アナロジーで考える
■「自分は特殊である」という思い込みを排除する/■抽象化能力の高い人はたとえ話がうまい/■たとえ話の効用の例/■「なぞかけ」は日本伝統のアナロジー能力開発ツール
□抽象化思考の留意事項
■抽象化と具体化をうまく組み合わせるべし/■「過度の一般化」にも注意すべし
■第7章のまとめ

第8章 地頭力のベース
□地頭力のベースの構造
■守りの「論理」と攻めの「直観」/■ビジネスは「アート」か「サイエンス」か
□「万人に理解される」ための論理思考力
□経験と訓練で鍛えられる直観力
□地頭力の一番のベースとなる知的好奇心
■知的好奇心にも二種類/■子供に学ぶ好奇心/■問題解決の達人に見る知的好奇心
■第8章のまとめ

第9章 さらに地頭力を鍛えるために

細谷 功 (著)
出版社 : 東洋経済新報社 (2007/12/7)、出典:出版社HP