経営とワークライフに生かそう! 産業・組織心理学 改訂版 (有斐閣アルマ)

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充実したワークライフのために

産業・組織心理学は、産業活動に従事する人々、そして組織に関わる心理学の分野であり、多様な研究領域によって構成されています。本書では、効率的な組織運営を行い、充実したワークライフを送るために重要なことを学ぶことができます。ワークライフを経験したことのない学生にとっても理解しやすい内容となっています。

山口 裕幸 (著), 髙橋 潔 (著), 芳賀 繁 (著), 竹村 和久 (著)
出版社 : 有斐閣; 改訂版 (2020/3/12)、出典:出版社HP

改訂にあたって

本書の初版第1刷が刊行された2006年4月から14年余りが過ぎました。たくさんの方々が読んでくださったお陰で、ありがたいことに改訂版のご要望をいただきました。初版刊行当時は各領域で熱く研究に取り組んでいたわれわれ4人の著者が、学生だけでなく、ビジネスパーソンにも広く読んでいただける内容を心がけて、わかりやすくかつ本格的な書を目指して執筆したのが本書です。その思いは、初版の「はじめに」に記してありますのでご覧いただけると幸いです。
改訂版のお誘いにそろそろベテランの域に入ってきた4人は、感謝の気持ちをもちつつも、正直なところ少しためらうところもありましたが、もう一踏ん張り頑張ってみようということになりました。改訂版なのだから、加筆・修正の箇所は必要最低限にしましょう、ということだったのですが、いざ筆を入れはじめると、さまざまな研究のトピックやテーマにおいて進歩や入れ替わりもあって、想定していたよりも多くの加筆と削除、そして修正を行うことになりました。
初版と比べて変わりのないところは、時代を超えて本質的に大切な内容なのであり、加筆・修正がなされているところは、時代や社会の変化に応じて産業・組織心理学の研究が適応的変化を進めたことがらなのだとご理解いただけるとありがたいです。初版をおもちの方には、その本質と変化をご確認いただきながら、読み進めるおもしろさを味わっていただくこともできるのではないかと思います。今回の改訂作業を進めるにあたって、有斐閣書籍編集第2部の渡辺晃さん、中村さやかさんには、献身的で真摯なサポートをいた。きました。少し尻込みしそうになるわれわれを力強く後押ししてくださいました。心より深くお礼申し上げます。
2020年 令和初めての啓蟄を迎えながら
著者一同

本書のWebサポートページ(下記)で各種補足資料を紹介しております。ぜひご利用ください。
http://www./yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641221543

はじめに

産業・組織心理学(industrial/organizational psychology: IOPsych, IOM)を学ぶことの意義はどんなところにあるのでしょうか。学校に通いながら勉強を中心とした生活を送った後には、多くの人が、組織に所属したりあるいは組織を経営したりしながら仕事に従事するワークライフを長期にわたって送ることになります。その長期にわたるワークライフを充実したものとできるか否かは、私たちにとって大切な問題です。本書は、私たちが充実したワークライフを送り、またその基盤となる組織経営を効果的なものとするために、どんなことが重要な鍵を握るのか、という観点に立って企画し、構成しました。
産業・組織心理学は、産業活動に従事する人々、そして組織体に関する心理学の分野であり、多様な研究領域によって構成されています。その研究領域について、わが国の産業・組織心理学会は、大きく4つの分野に分類しています。それは、①組織に所属する人々の行動の特性やその背後にある心理、あるいは人々が組織を形成し、組織としてまとまって行動するときの特性について研究する「組織行動」(organizational behavior : OB)の領域、②組織経営の鍵を握る人事評価や人事処遇、あるいは人材育成について研究する「人的資源管理」(human resource management ; HRM)の領域、③働く人々の安全と心身両面の健康を保全し、促進するための方略について研究する「安全衛生」(safety and health ; SH)の領域、そして、④よりすぐれたマーケティング戦略に生かすべく消費者心理や宣伝・広告の効果を研究する「消費者行動」(consumer behavior ; CB)の領域です。
本書では、各領域をその専門家である1人の著者が担当し、冒頭で示した基本方針に沿って、担当領域における重要なテーマを精選し、内容を構成しました。できるだけ長く読んでいただけるように、時代を超えて重要な問題を取り上げて、解説することを心がけました。そして、それらを全体として統合することによって、ワークライフと経営に生かせる産業・組織心理学の理論と知見を体系的にまとめあげた著書として編みあげることを試みました。ワークライフを本格的に経験していない学生にとっては、産業・組織心理学は、いまひとつ現実感の伴わない学習領域であることを考えて、組織に所属しはじめた時点から、人は実際に何を経験するのかと、という実践的な視点を大切にしようという共通の目標をもって執筆に取り組みました。他方、現にワークライフを送っているビジネス・パークンの方々にとっても、多様な要素が渦巻く混沌とした現実のワークライフの様相を、シンプルに客観的に把握するための視点と、その基盤となる理論を提供するものとなることを目指しました。はたして、私たち著者の願いが、形となって伝わるものになっているのかは、読者のみなさまのご批評を仰がねばなりません。みなさまからのご意見やご希望をお待ちしております。

本書の企画・編集には、櫻井堂雄氏をはじめとして有斐閣のみなさまの献身的なご支援をいただきました。とりわけ櫻井さんの我慢強いサポートには著者一同敬服しており、おかげでなんとかここでたどり着くことができました。心より深く感謝申し上げます。

2006年2月
著者一同

本書の構成と章の流れ


矢印で示した章の流れは、第8章までは、学生が就職活動をして、職に就き、組織で働いていくワークライフのプロセスを展望しながら構成しています。第9章以降は、マーケティングや空間・機器等のデザインのように、心理学との関連が強く、産業分野で非常に重要なテーマを取り上げています。4つの領域をクロスしながら章は展開されていますが、各章がどの領域に深く関連するものなのか、この図で確認しながら読み進めてみてください。

著者紹介

山口 裕幸(やまぐち ひろゆき) 執筆:第2章、第3章、第7章
九州大学大学院人間環境学研究院教授
[主著]『《先取り志向》の組織心理学プロアクティブ行動と組織』有斐閣、2012年、共編/『高業績チームはここが違う一成るために必要な三つの要素と五つの仕掛け』労務行政、2016年、共著/『チームワークの心理学一よりよい集団づくりをめざして』サイエンス社、2008年

高橋 潔(たかはし きよし) 執筆:第1章、第6章、第8章
立命館大学総合心理学部教授、神戸大学大学院経営学研究科名巻
[主著]『「就活」イノベーション―脱・母集団形成と面接重視』2015年(オンライン書籍)/『評価の急所(へそ)ーパラダイムシフト迎える人事評価』生産性労働情報センター、2013年/『Jリーグの行動科学――リーダーシップとキャリアのための教訓』白桃書房、2010年、編著/『人事評価の総合科学一努力と能力と行動の評価』白桃書房、2010年(日本労務学会学術賞)

芳賀 繁(はが しげる) 執筆:第4章,第5章,第12章
株式会社社会安全研究所技術顧問、立教大学名誉教授
[主著]『事故がなくならない理由(わけ)安全対策の落とし穴』PHP研究所、2012年/『失敗のメカニズム忘れ物から巨大事故まで』日本出版サービス、2000年(文庫版:角川書店,2003年)/『うっかりミスはなぜ起きるヒューマンエラーを乗り越えて』中央万働災害防止協会、2019年

竹村 和久(たけむら かずひさ) 執筆:第9章,第10章,第11章
早稲田大学文学学術院教授
[主著]『行動意思決定論経済行動の心理学』日本評論社、2009年/Behavioral decision theory : Psychological and mathematical descriptions of human choice behavior.Springer,2014./Foundations of econic psychology : A behavioral and mathematical approach.Springer、2019

山口 裕幸 (著), 髙橋 潔 (著), 芳賀 繁 (著), 竹村 和久 (著)
出版社 : 有斐閣; 改訂版 (2020/3/12)、出典:出版社HP

目次

第1章 採用と面接
就職活動では何が問われているのか
就職活動で問われること
1人間の能力とは
能力単一説
能力群因子説
能力多因子説
知能と職業との関係
2パーソナリティと仕事の向き・不向き
パーソナリティの類型理論
パーソナリティの特性理論
パーソナリティのビッグファイブ理論
3面接の落とし穴
実務家vs学者
面接評価の誤り

第2章 ワーク・モチベーション
やる気いっぱいで働くには
1ワーク・モチベーション研究の重要性
2ワーク・モチベーションに関する初期研究
科学的管理法の発展
ホーソン研究がもたらした視点の転換
行動科学的アプローチの登場
3内容理論的アプローチ
マクレランドの達成動機理論
ERG理論
内発的動機づけ
4過程理論的アプローチ
過程理論の視点
アトキンソンの達成動機理論
期待価値モデル
目標設定理論
公正理論
5仕事や職場に対する態度とワーク・モチベーション
職務満足感
組織コミットメント

第3章 組織の情報処理とコミュニケーション
正確な情報共有と組織の的確な判断のために
1組織経営においてコミュニケーションが果たす機能
組織とは
組織コミュニケーションの重要な局面
2組織における情報伝達場面のコミュニケーション
組織における情報伝達の特性
情報伝達が正確に成立するには
ITによる組織の情報共有の取り組みとその成果
3コンフリクト調整場面のコミュニケーション
組織コンフリクトとは
コンフリクトがもたらすもの
コンフリクトを克服し生かすコミュニケーション
4集団意思決定場面のコミュニケーション
組織における会議の機能
集団意思決定過程に潜む心理的罠
合議による的確な判断と創造的な問題解決のために

第4章 仕事の能率と安全
生産性と安全性は両立するのか
1仕事のやり方を決定し,改善する手法
作業設計,作業研究,時間研究
動作研究と動作経済の法則
2わが国の労働災害の現状
3ヒューマンエラーと不安全行動
ヒューマンエラーとは何か
ヒューマンエラーの分類と発生メカニズム
意図的な不安全行動
4事故防止対策
職場での取り組み
ハインリッヒの法則
リスク・アセスメント
安全管理のための適性検査
安全マネジメントシステム
5安全文化
6ヒューマンファクター
7レジリエンス・エンジニアリング

第5章 職場の快適性・疲労・ストレス
毎日健康に働くために
1ワークロード
作業負荷・作業負担・疲労の関係
作業負担の測定法
2疲労とストレス
疲労の自覚症状
精神的ストレスによって損なわれるメンタルへルス
厚生労働省の指針に基づく取り組み
ストレスチェック
3職場環境・

第6章 キャリアの展開と生涯発達
人生をどう歩むか
職業探しは自分探し
1キャリア発達の筋道
キャリアとは何か
エリクソンのライフサイクル論
スーパーのキャリア・ステージ論
2自分のキャリアに誰が責任をもつか
キャリアは誰のため?
シャインのキャリア・アンカー論
キャリア・マネジメントvsキャリアプランニング
3組織の中でのキャリアの行方
役職面でのキャリア発達
資格面でのキャリア発達
4組織の外でのキャリア

第7章 組織の変革と管理者のリーダーシップ
組織やチームを健全な成長へと導くには
1組織変革は何ゆえに重視されるのか
オープン・システムとしての組織
組織のライフサイクル
組織変革に不可欠な管理者のリーダーシップ
2管理者の役割の理解
なぜ組織には管理者が必要なのか
管理者の役割行動とリーダーシップの関係
3リーダーシップの理解
リーダーシップの定義
特性アプローチから行動アプローチへ
コンティンジェンシー・アプローチへ
認知的アプローチの台頭
変革型リーダーシップとは
4創造的な組織変革のために
どちらも必要な交流型と変革型
多様化するリーダーシップの考え方

第8章 人事評価
公平な評価のために考えるべきこと
1組織で何が評価されるのか
評価基準に関わる根本問題
評価の仕組み
2絶対評価か相対評価か
絶対評価法
相対評価法
絶対評価と相対評価の比較
3評価にミスとズルが起きないために
ハロー効果
中心化傾向
寛大化・厳格化
類似性効果

第9章 消費者行動
消費者心理がわかったら何の役に立つのか
1消費者行動とは
消費者行動の定義
消費者行動の3つの側面
2消費者行動の仕組みがわかると何の役に立つのか
マーケティングに役立つ
消費者の役に立つ
社会経済現象の解明に役立つ
3消費者行動の理論枠組みと研究法
モチベーション・リサーチ
態度研究
情報処理論的研究
ポストモダン研究

第10章 消費者の価格判断と心的会計
「安い」「高い」とどうして思うのか
1消費者の価格判断
価格判断とは
消費者の価格推定
消費者の価格判断と
心理物理学
2参照価格とプロスペクト理論
参照価格とは
参照価格とプロスペクト理論
損失忌避から導ける価格判断現象
3消費者の心的会計
心理的財布
心的会計
快楽追求的フレーミング

第11章 消費者の意思決定過程
消費者はどんな決め方をしているのか
1消費者の意思決定と情報探索
消費者の情報探索のタイプ
消費者の情報探索の状況
2消費者の種々の決定方略
情報探索と選択肢評価
決定方略とは
消費者の決定方略の種類
消費者の決定方略の分類
消費者の決定方略をどのようにして同定するのか
3購買環境と消費者の意思決定過程
情報過負荷と消費者の決定方略
消費者の決定方略と関与・感情
消費者の店舗内での意思決定
店舗内消費者行動に影響する要因
消費者の非計画購買
4消費者の意思決定後の過程
認知的不協和理論
認知的不協和と消費者行動

第12章 人間工学
ヒトの特性とモノのデザイン
1ヒトのサイズとモノのサイズ
2ヒトとモノの接点――ユーザー・インターフェイス
表示器と操作器
ヒトとコンピュータのインターフェイス
3人間工学的によいデザインの要件
4取扱説明書と警告表示
よいマニュアルの条件
リスク・コミュニケーションとしての警告表示
引用・参考文献
事項索引
人名索引

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山口 裕幸 (著), 髙橋 潔 (著), 芳賀 繁 (著), 竹村 和久 (著)
出版社 : 有斐閣; 改訂版 (2020/3/12)、出典:出版社HP