自治体議員が知っておくべき新地方公会計の基礎知識 ~財政マネジメントで人口減少時代を生き抜くために~

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議員のための公会計入門書

地方公会計のプロである著者のこれまでの経験とノウハウが詰め込まれた1冊です。新公会計・従来の官庁会計や財務書類の読み解き方や活用方法など、公会計の基礎がよくわかります。自治体議員や地方公務員、公会計を勉強しようとしている方におすすめのやさしい入門書です。

はじめに

自治体の会計制度が大きく変わろうとしています。
その契機は、平成27年1月23日付総務大臣通知(「統一的な基準による地方公会計の整備について」総財務第14号)という総務省の強い要請でした。この通知の背景としては、人口減少・少子高齢化が進展している中、財政のマネジメント強化のため、地方公会計を予算編成等に積極的に活用し、自治体の限られた財源を「賢く使う」取組みを行なわなければ、国が破綻してしまうという危機感が挙げられます。
これまでの総務省の地方公会計の整備促進の取組みとしては、平成26年4月30日に固定資産台帳の整備と複式簿記の導入を前提とした財務書類の作成に関する統一的な基準を示し、その後、「今後の新地方公会計の推進に関する実務研究会」において議論を進め、平成27年1月23日に「統一的な基準による地方公会計マニュアル」を完成させました。この制度設計には、筆者も関与させてもらいました。
総務省は、すべての自治体に対して、上記のマニュアルを参考にしつつ、原則として平成27年度から平成29年度までの3年間に、統一的な基準による財務書類等を作成し、予算編成等に積極的に活用することを求めました。このことから、自治体職員は、財務書類の作成について真剣に取り組む必要が生じてきました。
一方、自治体議会の議員は会計のプロでなければならない、ともいわれています。自治体議員の仕事のメインは予算を審査して可決か否決かを決め、その後予算の執行状況、つまり決算を審査して様々な指摘をしていくことです。自治体の財務状況や将来予測を把握し、投資や政策が妥当かどうかを判断する必要があるでしょう。
人口減少・少子高齢化社会到来の中、限りある予算をいかに納得度高く配分するのか、優先順位をどのようなプロセスで決定していくのか。高い次元での透明性と説明責任が求められます。このことから、新公会計制度は、議会における予算・決算審査にも影響を与えることになるはずです。本書は、議会の予算・決算改革に意欲的な自治体議員の方はもちろん、予算や決算は苦手であるという自治体議員にも分かるようなイメージで執筆しましたので、ぜひ読んでもらいたいたいと思います。
なお、本書の内容の意見や感想はすべて個人的な見解であることをご了解ください。
本書が、自治体議員に加え、自治体職員や一般市民の方々にも参考にされ、多くの皆様が新しい「地方公会計」に馴染み、理解していただくきっかけとなれば幸いです。

平成29年6月
宮澤 正泰

目次

はじめに
この本の読み方

第1章 新公会計制度を理解しよう

第1節 現金主義会計ではだめなの?
現金主義会計とは?
現金主義会計は日本国憲法からの要請

第2節 発生主義会計は「儲け」の会計?
そもそも発生主義とは?
信用取引の増大
コラム
売上原価の算定
適正な期間損益計算

第3節 修正現金主義の限界
出納整理期間
自治体の資産とは?

第4節 複式簿記って覚えなくてはいけないの?
複式簿記は覚えた方がいいかも
コラム
複式簿記、これだけは覚えよう!3つの基本ルール

第5節 夕張市ってなぜ財政破綻したの?
夕張市の財政破綻を学ぶことは、新公会計制度への理解につながる
夕張市の財政破綻を考えるうえでの3つのポイント

第6節 小泉内閣時の「行政改革推進法」が根拠なの?

第7節 なぜ会計制度を法制化せず、大臣通知なの?
発生主義・複式簿記が法制化されないのはなぜか
地方公会計の整備の進展

第8節 どんな不適切な会計処理の事例があるの?
なぜ不適切な会計処理が行われるのか?
政務活動費の不正使用はどうしたら防げるのか
市長交際費の適正な管理に向けて
千葉県における不適切な会計処理

第9節 新公会計制度がなぜ必要か
本章のまとめ
地方公会計の意義

第2章 官庁会計の決算の見方とチェックポイント

第1節 決算の審査
現行制度の決算は現金主義である官庁会計の決算
決算は行政が実施したことの報告

第2節 決算の調製と議会の認定
地方自治法に規定されている、決算の調製と議会の認定

第3節 議会に提出すべき決算書類

第4節 歳入歳出決算書
決算の調製の基本となる歳入歳出決算書
予算分類である「款」・「項」

第5節 歳入歳出決算事項別明細書

第6節 官庁会計の分析は「決算カード」で!
会計分析には決算カードの活用を
総務省方式の決算カードの見方とポイント

第3章 新公会計制度の財務書類の見方とチェックポイント
第1節 財務書類の概要をつかもう
新公会計制度の財務書類とは
財務書類4表の役割と関係
注記と附属明細書

第2節 貸借対照表
自治体の財政状態を明らかにする貸借対照表
固定資産台帳の整備
貸借対照表を読み解いていこう
①資産合計・負債合計・純資産合計
②資産
③固定資産
④有形固定資産
⑤基金
⑥徴収不能引当金
⑦負債
⑧固定負債
⑨流動負債
⑩純資産

第3節 行政コスト計算書
行政コスト計算書は自治体の費用・収益の取引高を明らかにする
行政コスト計算書を読み解いていこう
①経常費用
②業務費用
③人件費
④物件費等
⑤その他の業務費用
⑥移転費用
⑦経常収益
⑧純経常行政コスト
⑨臨時損失
⑩臨時利益
⑪純行政コスト

第4節 純資產変動計算書
純資産変動計算書からは、会計期間中の自治体の純資産の変動がつかめる
純資産変動計算書を読み解いていこう
①前年度末純資産残高
②純行政コスト
③財源
④固定資產等の変動(内部変動)
⑤その他の表示区分
⑥本年度末純資產残高

第5節 資金収支計算書
資金収支計算書からは、資金の利用状況と獲得能力が分かる
資金収支計算書を読み解いていこう
①現金預金(貸借対照表)是本年度末現金預金残高(資金収支計算書)
②資金收支計算書残高計算
③業務活動收支
④業務支出
⑤業務費用支出
⑥移転用支出
⑦業務収入
⑧臨時支出
⑨臨時收入
⑩投資活動収支
⑪投資活動支出
⑫投資活動収入
⑬財務活動収支
⑭財務活動支出
⑮財務活動收入
⑯本年度資金収支差額

第6節 注記
財務書類の記載についての重要事項が書かれる注記
注記を読み解いていこう
①重要な会計方針
②重要な会計方針等の変更
③重要な後発事象
④偶発債務
⑤追加情報

第7節 附属明細書
重要な項目についての明細書
附属明細書を読み解いていこう
①貸借対照表の内容に関する明細〜資産項目の明細〜
②貸借対照表の内容に関する明細〜負債項目の明細〜
③行政コスト計算書の内容に関する明細
④純資産変動計算書の内容に関する明細
⑤資金収支計算書の内容に関する明細

第4章 議会で活用しよう

第1節 議会で活用しよう
高い次元での透明性と説明責任が求められる時代にこそ、新公会計に基づく議論を
身近な事例から、「資産」・「負債」・「収益」・「費用」を理解しよう
新公会計を予算や決算に活かすヒント
施設マイナンバーを活かしたフルコスト把握の例

第2節 指標の見方を理解しよう
財務書類4表と決算カードを使った分析
将来世代に残る資産はあるのかを分析しよう
①住民1人当たりの資産額
②有形固定資産の行政目的別割合
③歳入額対資産比率
④有形固定資産減価償却率(資産老朽化比率)
将来世代と現世代の負担割合は適切なのかを分析しよう
①純資産比率
②将来世代負担比率
どのくらいの借金があるのかを確認しよう
①住民1人当たり負債額
②基礎的財政収支(プライマリー・バランス)3地方債の償還可能年数行政サービスが効率的に提供されているのかを確認しよう
1住民1人当たり純経常行政コストあらたな資産を持つ余裕があるのかを確認しよう
1行政コスト対財源比率
受益者負担の水準はどうなっているのかを確認しよう1受益者負担の割合
第3節習志野市の活用事例〜バランスシート探検隊事業〜
習志野市のバランスシート探検隊事業住民に理解してもらうためには、分かりやすい言葉で下水道事業をマクロ的に分析してみよう小学校校舎をミクロ的に分析してみよう
「橋」の状況を台帳から把握しよう
第4節習志野市の活用事例〜その他の活用事例〜
債権管理における財務書類の活用
公共施設マネジメント推進のための施設別サービスコストの住民への公表公共施設再生計画(データ編)との連携
市の財政を「家計簿」に見立ててみよう
第5節一般質問を通して公会計改革を推し進めよう一般質問が、公会計改革を進めてきた公会計改革、こんな質問を実践!一般質問
おわりに

この本の読み方

本書は4章から構成しています。第1章は「新公会計制度を理解しよう」です。本来ならば、新公会計制度にはこのようなメリットがあるので、新公会計制度を理解するために、「複式簿記」や「発生主義」を覚えるべきです、というような説明がなされると思います。筆者自身も、自治体議員の視察や研修などで、そのような説明をしてきました。しかし、このような説明をすると、「腑に落ちない」とか「よく分からない」との感想をいただくこともあります。そういった経験から、この章は「腑に落ちない」と思っている自治体議員をイメージして執筆をしました。本章を読んでいただいて「腑に落ちた」「なるほど、そういうことなのか」と納得していただければ幸いです。
納得していただいた自治体議員の方に、次に理解してもらいたいのが第2章の「官庁会計の決算の見方とチェックポイント」です。新しい会計制度は現在の官庁会計の“補完”としての制度設計となっています。このことから、まず、今の官庁会計のポイントを復習していただきたいと思います。
続いて、第3章は「新公会計制度の財務書類の見方とチェックポイント」とさせてもらいました。この章は自治体議員自ら自治体の財務分析ができるようになるイメージで、実際のデータを利用しての分析を試みました。このデータは大阪府吹田市の協力を得ました。なお、分析にあたって、金額等が億円未満のものについて、計数があるものは「0」、計数がないものは「-」として本文中の図表等で表記しています。
最後の第4章は「議会で活用しよう」です。この部分は、習志野市の独自の事業展開や筆者独自の見解を盛り込みました。特に第1節は、筆者の講演などで受講者から好評だった内容をまとめたものです。本書の一押しです。