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【最新 フェイクニュースを知るおすすめ本 – 真偽を見分けてメディアリテラシーを身につける】も確認する
あなたもファクトチェッカーに
情報が氾濫する社会に生きる私たちは、多くの情報を見てそれが正しいのかどうかを判断する必要があります。その中でも典型的な虚偽の情報の1つがフェイクニュースであり、それに対してできることはファクトチェックと言えます。本書ではファクトチェックのすすめ方やルールなどが丁寧に解説されています。
まえがき
「立岩陽一郎って馬鹿なの?国連の登録名が「北朝鮮」「南朝鮮」」
最近、ツイッターで批判されることの多い私ですが、これはそのひとつです。このツイートは、私が日刊ゲンダイに連載している「ファクトチェック・ニッポン」で、「北朝鮮」という呼称を使うことを止めるべき、と書いたことに対する意見かと思われます。
この記事で私は次の点を指摘しました。
北朝鮮とは朝鮮民主主義人民共和国を略したものとして使われていること。その国の人々は、この北朝鮮という呼称を好ましく思っていないこと。通常、正式名称を略する場合、「北」といった新たな言葉を加えることはないこと。また、北朝鮮という国名は、かつての西ドイツと東ドイツのように、南朝鮮という国名があって初めて意味をなすこと。そして、日本では南朝鮮とは言わず、韓国と言っていること。
そのうえで、略するなら「朝鮮」が妥当である、と書きました。
時あたかも、安倍総理が日朝交渉に前向きな姿勢を示した時でしたから、「安倍総理は日本テレビの取材に、無条件で日朝交渉に応じる考えだと語ったそうだ。では、ひとつアドバイスしたい。まず、北朝鮮との呼称をやめるべきだ。そうした小さな取り組みもできないようでは、相手側に対話の機運は生まれない」と指摘しました。
前記のツイートをされた方は、その内容が気に入らなかったのでしょう。もちろん、私の意見を批判するのは自由ですし、批判は歓迎します。しかし、「国連の登録名が「北朝鮮」「南朝鮮」」というのは事実ではありません。
これは、国連のウエブサイトを確認すればすぐにわかることです。国連の加盟国のところには、「Democratic People’s Republic of Korea」と書かれています。これが登録名です。
ちなみに、自由奔放な発言で知られるアメリカのトランプ大統領は時折、DPRKを使います。これが正しい略だからです。もちろん、North Koreaとも言いますが、これは西ドイツ、東ドイツのケースと同じで、英語では、普通に朝鮮半島の南北を、South KoreaとNorth Koreaと言い分けているので、自然なことです。
ツイートの話に戻りましょう。
私は、「国連の登録名は「北朝鮮」」と書いた方に、「国連のホームページを確認してください。登録名は「北朝鮮」ではありませんよ」と書いて送りました。さらに、「会って話しませんか?」とも送りました。もちろん、どこに住んでいる方か全くわかりません。
今後その方から返事が来るかどうかはわかりませんが、どういう意図で簡単にわかる嘘を流すのか知りたいところです。
さて、今私たちが住む社会は情報が氾濫する社会と言われます。「氾濫」という言葉が意味するように、それは好意的な受け止めではありません。そこには、多くの情報が飛び交うということ以上に、前記のように情報の中に真偽不明なもの、事実と異なるものが含まれているという問題があるからです。
その典型的なケースが、「フェイクニュース」と呼ばれる虚偽の情報です。
フェイクニュースとは虚偽の情報を意図的に流す行為ですが、単に誤解に基づくものや事実誤認による間違った情報もあるでしょう。冒頭の、「国連の登録名は「北朝鮮」「南朝鮮」」はこれに該当するかもしれません。加えて、一つひとつの情報は事実ではあるものの、その組み合わせを意図的に変えることで事実と異なる内容を伝えるミスリードなものもあります。当然、半分は事実ですが、半分は事実ではないというものもあるでしょう。
いろいろな情報が錯綜していて、何が正しくて何が間違いなのか判然としない社会。それを我々は「情報が氾濫する社会」と見て、危機感を抱いているわけです。
こうしたなかで、注目を集めているのがファクトチェックです。事実を確認する取り組みです。-世界の多くの国や地域で活発におこなわれるようになっています。それは難しい作業ではありません。この本はそれを説明するものです。
例えば、悪質なフェイクニュースを法律で規制する動きもあります。社会に混乱を招き、人々を不幸にするような虚偽の情報を流す人を法律によって罰するというものです。それは一定の成果は得られるでしょうが、同時に、極めて強い副作用を社会にもたらします。規制の範囲は自然と広がってしまい、憲法の保障する表現の自由が不当に制限される事態を招く恐れがあるからです。「これを言ったらフェイクニュースだろうか?逮捕されてしまわないだろうか?」
そう思って疑心暗鬼になるような社会は健全とは言えません。できれば、法規制ではなく、人々がその都度、事実関係を確認していくことが望ましいと思います。そうすれば、フェイクニュースは発されても、少なくとも拡散を防止することは可能です。
つまり、フェイクニュースや事実誤認の情報が発信された時、それを規制するのではなく、私たちが自ら事実関係を確認して、間違いだとわかればそれを指摘するのです。
「国連の登録名は「北朝鮮」」かどうか、国連のウエブサイトを確認すればすぐにわかることです。そうした作業を常におこなって、指摘するのです。
繰り返しになりますが、それは難しい作業ではありません。
この本の狙いは、皆さんにファクトチェックを知ってもらい、それに取り組んでもらうことにあります。
さあ、皆さん、一緒にファクトチェックに取り組みましょう。
2019年5月8日
立岩陽一郎
もくじ
まえがき
1章ファクトチェックとは何か
ファクトチェックの定義
フェイクニュースとファクトチェック
ネットのフェイクニュース
筆者のネットギーク取材体験
誰でもできるファクトチェック
2章ファクトチェックをリードするFIJの取り組み
ファクトチェック・イニシアティブ(Fi)の設立
FIJ設立の趣旨
ファクトチェックのガイドライン
ファクトチェックへのメディアの参加
「問題ある情報」を幅広く収集するために
3章総選挙でのファクトチェック
スマホでの問い合わせ
総選挙をファクトチェック
消費稅2%の増税でなぜ5兆円強の税収なのか
正社員になりたい人がいれば、
必ずひとつ以上の正社員の仕事はある?
野党党首の発言のファクトチェック
内部留保300兆円は事実か
ネットやメディアの情報もファクトチェック
4章沖縄県知事選挙でのファクトチェック
普天間基地をめぐる痛恨の記憶
「沖縄にアメリカ軍基地は集中しているのか?」をチェック
ファクトチェックは地味、されど大切な作業です
NHK記者として沖縄赴任していた時のこと
沖縄一括交付金の創設をめぐるファクトチェック
調査報道から見える沖縄のファクト
本土米軍の沖縄移転のファクト
5章大阪ダブル選挙でのファクトチェック
善悪を議論するのは止めましょう
吉村候補「マニフェスト9割達成」発言のファクトチェック
二重行政と都構想
都構想をファクトチェック
東京都創立の歴史的経緯
ファクトチェック記事への反応
飛び交うネットでの偽情報
巧みなフェイクニュース
6章ファクトチェックの国際的な潮流
国際ファクトチェックネットワークと世界ファクトチェック大会
ヨーロッパのファクトチェック
世界がモデルとするアメリカのファクトチェック
活発化するアジアのファクトチェック
そのほかの地域
あとがき