茶の湯と日本人と

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新しい日常を生き抜くヒント

江戸時代初期の大名茶人・小堀遠州を流祖とする遠州流茶道の13世宗家が、「日本」と「日本人」について各界の第一人者と語り尽くします。茶道に対する固定概念が変わるような一冊となっています。

小堀 宗実 (著)
出版社 : 幻冬舎 (2020/12/17) 、出典:出版社HP

はじめに

「茶の湯を通して心を豊かに」
これは、二〇〇一年元旦に私が、遠州茶道宗家十三世家元を継承したときのモットーである。以来、茶道宗家として伝統文化の発展・普及に日々を過ごして来た。
家元という仕事は、茶道指導はもとより、出張稽古、講演や著述、建築や造園、茶道具のデザインなど、けっこうすることが多い。父から受け継いだこれらに加えて、幼稚園・ 保育園を訪ねてのこども茶会や海外文化交流を自分のオリジナルのものとして行っている。
最近は、アスリートを対象とした茶道体験にも取り組んでいる。よくよく考えると、こういったことは、私の先祖である小堀遠州が原点である。
小堀遠州は一五七九(天正七)年に近江の国小堀村(現・長浜市小堀町)に生まれた。 戦国時代、主君が浅井、豊臣、徳川と、めまぐるしく替わる戦乱を生きぬき、最後は将軍 家茶道指南役となり、幕閣の一員として政治・経済を担い寛永文化の中心人物となった。 遠州の関係していた人脈は、天皇、公家、将軍、大名、僧侶、神職、文化人、芸術家、商 人、職人とあらゆる分野にわたっている。それはまさしく茶の湯を中心としたネットワー クであった。ここまでのスケールには及ばないが、その流れを汲む私も、さまざまな人と の出逢いは必然となってくる。
前述のごとく私の人との出逢いは、茶の湯を通ずる形で行われてきた。茶会でいえば、 亭主役と客の関係ということになる。当然、私は亭主役であり、その日の茶会の取り合わせなど、すべてを仕切る形である。そういうなか、私の思いに、対談という形式を経験したいという気持ちが強くなった。機関誌『遠州』でとなれば、私は聞き役である。ホストであっても受け身の立場であり、話の中心はお客さまのほうにある。多くの内容は、茶の湯を離れて、私にとって初めて耳にする話も多く、たいへん意義深いものになった。
詳しくは本編でお楽しみいただきたいが、磯田道史さんとは、和歌を通しての茶の湯へ の考え方を話しながら、歴史を俯瞰する姿を感じた。加えて弾丸のような話は楽しかった。 漆紫穂子さんには教育一家で育った環境で既存の価値観を大切にしながら、かつ新たな試 みに向かう姿勢にアスリート魂があり、私と同じものを感じた。井上康生さんには、指導 者としての矜持とともに、物事にオープンマインドで謙虚な人間性に触れさせていただい た。石井リーサ明理さんとは、世界と日本の光の陰影についての話題から、私の好きな映 画の話にもつながった。モーリー・ロバートソンさんは、日本と外国の教育制度の違いを うかがいながら、反骨精神をもちつつ、日本の奥深さを理解する懐の深さを感じた。千田
さんとは、城郭建築を通してみる人間関係、人と人とをつなぐ方法の話をおもしろく
せていただいた。葉室麟さんは、利休でも織部でもなく、遠州自身の人間性に興味をもたれたということで、親近感をより強くしつつ、文章を書くことは「心の声を出すこと」とおっしゃったその一言に大いに共感したものであった。あらためてみなさまに感謝申し上げたい。
さて、二一世紀の始まりに家を継承して二〇年経過した本年、まさか世界中にコロナ禍という、大いなる危機が訪れるとは夢にも思わなかった。いま私たちの日々の生活は変化をしていくことになる。しかしながら、たとえそうであっても、人間が生きていくという ことには変わりはない。抗うよりも、受け止めて、なにをしていくかと考えていくべきで ある。
私は「教えることは学ぶこと」と常々申し上げている。学ぶということは、自分が謙虚 になるということと同じであると思っている。その学びは、多くの人との出逢い、語り合 いで得ることができると信じている。この本がその一助になれば幸いである。

令和二年臘月
遠州茶道宗家十三世家元 小堀宗実

小堀 宗実 (著)
出版社 : 幻冬舎 (2020/12/17) 、出典:出版社HP

目次

はじめに 遠州流茶道と小堀遠州のこと―
対談1・歴史学者 磯田道史さんと 茶道と和歌と「定家様」との、切っても切れない関係のことなど。
Column お点前だけではない茶道/そこに息づく日本文化1 書
対談2・品川女子学院理事長 漆 紫穂子さんと日本のすばらしさを世界に発信できる女性を育てたい。
Column お点前だけではない茶道/そこに息づく日本文化 2 和歌
対談3・柔道全日本男子監督 井上康生さんと 柔道と茶道と、それぞれの「道」を求めて。
Column お点前だけではない茶道/そこに息づく日本文化 3 お菓子
対談4・照明デザイナー 石井リーサ明理さんと 世界の都市の夜を、光でデザインするということ。
Column お点前だけではない茶道/そこに息づく日本文化 4 香
対談5・国際ジャーナリスト モーリー・ロバートソンさんと 外から見た日本。内から見た日本。
Column お点前だけではない茶道/そこに息づく日本文化 5 花
対談6・城郭考古学者 千田嘉博さんと 今宵は築城家としての遠州の話を、たっぷりと。
Column お点前だけではない茶道/そこに息づく日本文化の会席
対談7・直木賞作家 故・葉室 麟さんと小說と茶の湯はそれぞれ、人の心に何を見せてくれるのか。
Column お点前だけではない茶道/そこに息づく日本文化の茶道具

遠州流茶道と小堀遠州のこと
遠州流茶道は、江戸時代初期の大名茶人、小堀遠州(一五七九~一六四七)を流祖とす る代表的な武家茶道です。流祖以来約四○○年の歴史をもつ格式ある茶道として、今日ま で受け継がれています。その真髄は「綺麗さび」と称され、「わび・さび」の精神に、美 しさ、明るさ、豊かさを加え、誰からも美しいといわれる客観性の美、調和の美を創り上 げています。
小堀遠州は、近江国小室藩初代藩主でした。千利休、古田織部と続いた茶道の本流を受 け継ぎ、徳川将軍家茶道指南役となります。一六○八年駿府城作事奉行を務め、その功に より諸大夫従五位下遠江守に叙せられ、「遠州」と呼ばれるようになりました。書画、和 歌に優れ、また、作事奉行として仙洞御所、二条城、名古屋城などの建築、造園に才能を 発揮しました。豊臣から徳川へという激動の時代を生き抜き、日本の美の系譜を再構築し、 平和な時代に向けて、新たに明るい息吹と瀟洒を極める美意識を生み出しました。

小堀 宗実 (著)
出版社 : 幻冬舎 (2020/12/17) 、出典:出版社HP