起業大全――スタートアップを科学する9つのフレームワーク

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スタートアップのための実践知

起業だけでなく、セールスの仕方など、ビジネスの基本なところまで幅広くカバーされています。これから起業する人は、これから起きる落とし穴の対策とロードマップ作成に,もう起業して事業をしている人は、答え合わせと足りないことの確認に使うことをお勧めします。

田所 雅之 (著)
出版社 : ダイヤモンド社; 第1版 (2020/7/29) 、出典:出版社HP

はじめに

起業家が事業家へと進化するために必要な実践知をまとめた書

おかげさまで前著『起業の科学』(日経BP)は、起業家や大手企業の新規事業部門立ち上げ担当者など多くの方にお読みいただいた。同書は、起業家が市場で顧客から支持される製品やサービスを作る(PMF)までに必要な知識をまとめたものだ。

PMF Product Market Fit:市場で顧客から支持される製品やサービスを作ること

書籍発売から2年以上が経過し、その間スタートアップ、社内起業家、自治体関係者など数千名以上に直接会う機会があった。また、数千に及ぶ事業やあらゆるスタートアップ経営者のメンタリングやアドバイス、評価等を行ってきた。
現在、国内のスタートアップの資金調達額を見ると、2019年に4462億円となっている(図表0-01)。2010年に705億円だったことを考えると、実に約6.3倍に増えているのだ。スタートアップを目指す人はかつてない勢いで急増していることを肌で感じている。

図表0-01スタートアップの資金調達額は2010年と比べて約6.3倍に

出典:INITIAL「Japan Startup Finance 2019年国内スタートアップ資金調達動向」より

しかし、市場に資金が潤沢になり、資金調達できるスタートアップが増えた一方で、IPO(株式公開)までブレイクスルーできる企業は「ほんの一握りである」のが現状だ。日本では、評価額が10億ドル以上ある未上場企業、いわゆるユニコーン企業は、プリファードネットワークス/スマートニュース/TBM/リキッドグループ等の5社程度しかない1。

1)https://media.startup-db.com/research/marketcap-ranking-2019122019年12月時点

アメリカは100社以上、隣の中国は50社以上もあることを考えると、その差は歴然としている。GDPでは中国に抜かれてしまって、世界3位になったが、それでも日本は経済大国であることには変わりない。また、私は、ユニコーンというのは、ただ単なる「時価総額が高い」未上場スタートアップとは考えていない。ユニコーンとは、「産業を生み出し、明日の世界を創造する担い手」として考えている。
2000年代にGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)が勃興した。4社足して、300兆円に迫る時価総額は凄まじいが、本質は、彼ら4社がもし、この瞬間世の中からいなくなると、世界全体が大きく後退するということだろう。スマホもなく、検索エンジンがない、人々は簡単につながることができない、簡単に買い物することもできない、好きな動画を観ることもできない世界がどれほど不便かを想像してみてほしい。

なぜ、日本ではなかなかユニコーン企業が出ないのか?

なぜ、日本ではユニコーン企業がなかなか出てこないのか?この疑問こそが、今回、本書の執筆に至った動機だ。結論から先に言えば、0から1を作る「起業家」は増えた。しかし、1を100にする(事業を成長軌道に乗せ大きくする)「事業家」が日本には圧倒的に少ないということだ(図表0-02)。

図表0-02日本には事業家が圧倒的に不足している

アメリカは一度売却や上場を果たした起業家がシリアルアントレプレナーとしてもう一度起業するケースが多い。つまり、「ドラゴンクエストのようなロールプレイングゲーム」に起業をたとえると、一回クリアした人たちがたくさんいる。その人たちは、起業してからスケールしてEXIT(IPOもしくは事業売却)するまでの「攻略本」を持ってプレイをしているようなものだ。日本だと典型的な例はメルカリだろう。創業メンバーである山田進太郎氏は、ウノウをZynga(ジンガ)に売却する経験を持ち、取締役会長の小泉文明氏は、ミクシィのCFOとして、上場企業の経営を経験している。
この「一回ドラクエをクリアした感の経験」がメルカリの別格の成長を支えたと言える。会社を売却して新たにスタートアップを始める「2周目」「3周目」の起業家も徐々には増えてきたが、まだその数は圧倒的に少ない。

「起業家」が「事業家」になるためには、自らを進化させる必要がある

本書『起業大全』を書いたのは、PMFを達成した起業家が、その先大きく事業をスケール(成長)させるために必要になる知見をまとめたかったからだ(拙著『起業の科学』を書いた理由は、スタートアップ起業家として最も重要なマイルストーンである「PMF」を達成するためのプロセスを体系化するためだった)。
経営に必要なノウハウを学ぶための従来型の知識体系に「MBA」や「中小企業診断士」がある。しかし、これらはスタートアップ型事業や2020年代の文脈において最適化されているとは言えない。つまり、内容が古いのだ。ハッキリ言ってそこで得た知識が、そのまま実務で役立つとは考えにくい(私自身、現在、関西学院大学大学院MBA課程の客員教授をやっているが、他の教員の方々と話していても、皆さん同じ実感を持っている)。
ならば、最新のアップデートした内容のテキストを自分で作ってしまおうと思い立ち、4年前から少しずつ書き進めた。数千というスタートアップや企業内の新規事業への実践的事業のアドバイスや上場企業の経営陣何百人もとの交流や対話を通して、1000冊以上の書籍を読破して、1万枚以上のスライドを作った。その1万枚のスライドのエッセンスの部分をこの書籍に集約した。

事業家(CXO)に必要なのは俯瞰力、大局観、ストーリー設計力、横断的知識「スタートアップの成功は、経営陣が全ての鍵を握っている」というのが本書で伝えたい結論だ。
さらにこの本の目的になぞらえて言うと、
「経営陣が起業家から事業家(CXO)になれるかが成功のキーになる」
ということだ(本書では、事業家をCXOという言葉で以下同義語で使用する)。
ここで言っている事業家/CXOの定義について説明しよう。
CXOのCはChief(長やリーダー)、OはOfficer(役員)を表す。真ん中のXは、それぞれの専門性に応じた職能を指す。例えば、代表的なものにCEO(Chief Executive Officer:最高経営責任者)やCOO(Chief Operating Officer:最高執行責任者)、CFO(Chief Financial Officer:最高財務責任者)やCTO(Chief Technical Officer:最高技術責任者)などがある。

図表0-03 CXO人材とは何か

従来なら、CTO(最高技術責任者)は「製品開発」だけ、CFO(最高財務責任者)は「ファイナンス」だけを見て部分最適化ができれば、自らの職務を果たしたことになるだろう。
しかし、私が本書で提唱する「スタートアップCXO」になる人材は、この「専門性」だけでは不十分だ(各自の専門性は必要条件だが、十分条件ではないからだ)。
外部環境や内部環境が激しく変わるスタートアップにおいては、各機能に「部分最適化」された意思決定やディレクションしかできないのは「エセCXO」でしかない。
「エセCXO」は組織を間違った方向に導いてしまう。本書で明らかにしていく「スタートアップCXO」は部署やファンクションをまたいで、俯瞰的かつ大局的に事業を把握し、必要なリソースを配分し、かつディレクションする力を持つ人材だ。
さらに各要素を理解するだけでなく、それぞれを有機的に結合し、「自社の唯一無二のストーリー」を描けることが理想だ。これを私は「ストーリー設計力」と呼んでいる。
そして、俯瞰力、大局観、ストーリー設計力に加えて、経営に関する重要な要因の本質を理解し、アクションに落とし込むことができる「横断的知識」も重要になる。この「俯瞰力」「大局観」「ストーリー設計力」「横断的知識」の4つを持つことが、スタートアップを成長させるCXOには、必要不可欠なケイパビリティ(能力)と考えている。
本書では、その能力を体系的に構造化して解説していく。留意点としては、本書で紹介・解説する視点や知識体系は従来型企業で活躍するCXOのそれと大きく異なるということだ。
すでにある程度できあがった組織や企業において事業を再生させたり、もう一度成長軸に乗せたりする従来型のCXOの価値は希少なものである。しかし、スタートアップを成長させる文脈においては、従来型のCXOは、必ずしもフィットしないのが事実だ。
本書は、現在スタートアップで経営幹部にいるメンバーだけのものではない。読者として想定しているのは、以下のような人たちだ。

・広い知見や最新のビジネス知識を身につけてレベルアップしたいビジネスパーソン
・今後、起業を考えている人
・すでに起業している人、さらには、今後スケールして、ユニコーン企業になることにチャレンジしたい人
・スタートアップで働いているメンバー

特にスタートアップで働いているメンバーには、ぜひ、読んでいただきたい。優れた組織に共通する特徴として、メンバーが一つないし二つ上の役職の目線を持っているということが言える(つまり、担当者ならマネジャー、マネジャーなら役員、役員なら代表取締役)。
現時点で、経営からは遠いポジションにいたとしても、本書を通じて、「経営陣もしくは代表取締役だったら、自分はどう意思決定をするか」という問いを自らに投げかけていただきたい。

0→1の起業家に必要なのは「戦略的泥臭さ」

前著『起業の科学』で目指したのは、「PMFの達成」だった。
「スタートアップの生死を分けるのは、PMFを達成できるかできないかだ」と、アメリカの有力ベンチャー・キャピタリストのマーク・アンドリーセンも指摘している。
どんなに優れた製品やサービスを生み出しても、市場に受け入れられなければ成長はできない。私の感覚では、日本のスタートアップでPMFを達成した企業は10%にも満たないのではないだろうか。
PMFを目指す起業家に必要な資質は何かを一言で表現すると、「戦略的泥臭さ」だと考えている。つまり、市場を選択し、PMFできるビジネスモデルを選択し、ソリューションを絞り込んで展開するという高い戦略性が求められる。『起業の科学』では「何をやるか」と同時に「何をやらないか」、まず「無駄な戦を略す」ための戦略性についても解説した(本書の「戦略」でもこの点については改めて説明する)。
一方で、戦略が決まれば、何がなんでもPMFを目指していく「泥臭さ」が求められる。顧客の下に出向いて、何が本当に欲しいものかを徹底的にヒアリングしたり、自らセールスを行うこと。またセールスだけではなく、顧客に価値を提供するために、自ら製品やサービスを届けることもある。戦略性と泥臭さを両方持ち合わせた「戦略的泥臭さ」が、PMFに不可欠な起業家の態度でありスタンスだ。
「戦略的泥臭さ」で成功したシリコンバレーの事例を紹介しよう。2019年時点で、時価総額が350億ドルを超えた世界最大手のフィンテック企業であるStripe(ストライプ)をご存じだろうか。インターネットビジネス向けにオンライン決済サービスを提供する彼らは、2009年に立ち上がったときに、ユーザーを営業して獲得することに非常に熱心に動いた。ストライプの創業者であるコリソン兄弟は、その事業ポテンシャルを見出されて、シリコンバレー最強のアクセラレータであるYcombinator(Yコンビネータ:YC)に採択された。
コリソン兄弟は、まさに、「戦略的泥臭さ」を発揮してPMFを達成した。ストライプのようなフィンテックサービスにとって、YC卒業生は、アーリーアダプター(初期採用者)探しに最適なコミュニティだった(YCの卒業生は、起業家であり、彼らは常に最適な決済処理サービスを探していた)。
共同創業者のパトリック・コリソンとジョン・コリソンは、そうしたYC卒業のユーザー一人ひとりに対して丁寧に仕事を行った。電話をかけて、ストライプを試してみることを了承した人がいたら、リンクを含んだメールを送るのではなく、その顧客の下に自ら出向きストライプのソフトを自分たちでインストールしたのだ。このテクニックは、彼らの名にちなんで「コリソン・インストール」と呼ばれている。
・YC卒業生というアーリーアダプターをターゲットにする「戦略性」
・自ら現場に出向きソフトをインストールする「泥臭さ」
ストライプは「戦略的泥臭さ」を体現してPMFを達成した。「自分たちにとっての、コリソン・インストールは何か?」、これが、PMF前のスタートアップにとって、最も重要な問いの一つである。

会社が成長するにつれて、組織には様々な問題が発生する

PMFを達成した後のゲーム(あえてゲームとここでは表現する)は、PMF達成前のゲームとは大きく異なる。PMFを達成するまでは、関わるステークホルダーは、顧客、経営メンバー、投資家と範囲が限定されている。なので、業務請負に関して明文化したり、方針を明確にしなくても、少数の経営陣とメンバーだけでどうにか仕事は回っていく。
PMF達成前のステージにおいては、そもそもリソース(ヒト・モノ・カネ)は限られているので、それをどのように配分して活用するのかという観点はあまり必要ない。なぜなら、経営チームの時間やスキルこそが最大のリソースなので、寝る間も惜しんで働き自己研鑽して、ひたすらPMFを目指すという方針が支配的になるからだ。
しかし、PMFを達成し、会社が成長して大きくなるにつれ、組織のメンバーも増えてくる。そうすると、組織のルール不足やマネジメント不足など、様々な問題(リスク)が発生してくる。会社に勢いがついて成長期に入ると、息つく間もなく、やるべきことが次から次へと出てくるのだ。
したがってPMF達成のタイミングで、起業家は自らを自己分析して事業家(CXO)に変身・進化するよう努力する必要がある。なぜなら、起業家から事業家(CXO)に変身できないことによって、起業家自身が事業にとって最大のボトルネックになってしまうからだ。
あなたは、下記の問いに答えることができるだろうか?

・PMF後にミッション・ビジョン・バリューをどう磨いていくのか?
・PMF後の事業をスケールさせる戦略やロードマップは、どのように立てるのか?
・成長に寄与する人材を、どう採用し、定着させるか?
・全体の戦略から、各個別の戦術に落とし込み、戦術を実行するための行動マネジメントをどうするか?
・顧客獲得のプロセスをどう最適化するのか?
・顧客獲得後、継続させるためのカスタマーサクセスの考え方は?
・ユーザー・エクスペリエンス(UX=ユーザー体験)ベースの製品開発をどう実装するのか?
・ディフェンシビリティ・アセット(Defensibility Asset=持続的競合優位性資産)の蓄積をいかに考えるか?
・上場するまでのファイナンスについて、そのエクイティストーリーをどう作るのか?
・それぞれの資金調達のフェーズで、どうやって有利に投資家と交渉を進めていくのか?
・人員増加に伴う、オペレーションの属人化/陳腐化、見えないところのボトルネック発生解消にどう対応するか?
・どのような事業ポートフォリオを組めば、全体最適が図れるか?
・バリューチェーンの上流/下流もしくは横にいて、市場シェアを取っている競合企業を買収/出資/業務提携して、さらなる成長軌道を描けないか?

PMFするまでは、顧客と対話をして、良いプロダクトを作ることだけに没頭すればよかった。しかし、PMF後は、ステークホルダーが一気に増えて、カバーすることや意思決定することがとても多くなる。
また、様々な意思決定をするだけではなく、「なぜ、その意思決定をしたのか?」と、意思決定に対する説明責任も果たす必要が出てくるのだ。
当然、CXOとて、一人の人間なので、経営に関するあらゆる領域の専門家になるのは不可能に近い。しかし、ユニコーンを目指すスタートアップCXOならば、最低限、専門家と対話/対峙ができるまでレベルアップする必要がある。
さらに欲を言えば、そうした専門家にディレクションできるまでに自分のレベルを上げてほしい。本書の目的は、まさにそこにある。スタートアップ人材が身につけるべき知見や知識体系を包括的に解説していく。

「経営者はリソースフルであるべきだ」

Amazon(アマゾン)の創業者であるジェフ・ベゾスは、こう述べている。私も全く同感で、経営者は経営に関するあらゆる側面に対して、熟達(マスタリー)が求められるということだ。かりに現時点で、熟達できていなくても、経営者自身は常に自己研鑽し「経営者として常にレベルアップしていく」という姿勢が重要になる。
本書では経営を要素に分けて各章で解説していく。
ただ、留意点として、本書で紹介するフレームワークや知識体系は、それぞれ独立したものでなく有機的に結合する、ということだ。一見するとバラバラに見える経営の要素は、図表0-04のように結合できる。
図の右側は、バランス・スコアカードを参考に私がオリジナルで作成したスタートアップ・バランス・スコアカード(StartupBSC)というフレームワークである。
バランス・スコアカードというフレームワークを聞いたことはあるだろうか?ハーバード・ビジネス・スクール教授のロバート・S・キャプランと著名なコンサルタントであるデビッド・ノートンが1992年に発表した経営システムのフレームワークである。
バランス・スコアカードは、戦略経営のためのマネジメントシステムで財務数値に表される業績だけではなく、財務以外の経営状況や経営品質から経営を評価し、バランスのとれた業績評価を行うための手法である。従来のバランス・スコアカード(図表0-04の左側)は、財務の視点、顧客の視点、内部プロセスの視点、学習と成長の視点で成り立っており、事業をまさに“バランス良く”マネジメントするために用いられるフレームワークである。

図表0-04スタートアップ・バランス・スコアカードのフレームワーク

本書を執筆するに当たって、従来のバランス・スコアカードに私なりの新たな視点を加えて拡張したのがスタートアップ・バランス・スコアカードだ。新しい産業を創造していくスタートアップにとって特に重要になる要素は、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)、戦略(Strategy)、人的資源(Human Re-sources)、オペレーショナル・エクセレンス(Operational Excellence)、顧客体験(User Experience: UX)、マーケティング(Marketing)、セールス(Sales)、カスタマーサクセス(Customer Success)、ファイナンス(Finance)の9つがあげられる。
本書では、それぞれの章ごとで、これらの要素について解説をしていく(当然、一冊の本では、カバーしきれない部分もあるので、それぞれの要素の深掘りについては、稿を改めたい)。

田所 雅之 (著)
出版社 : ダイヤモンド社; 第1版 (2020/7/29) 、出典:出版社HP

この本の実践的な使い方

本書は、『起業の科学』と同様に実務書だ。経営や業務執行の際、そのかたわらに起き、必要な場面に応じて、読み返していただきたい。
例えば、マーケティングの課題にぶつかったときは「マーケティング」の章、人事の課題に直面したときは「人的資源」の章を開くという具合だ。
スタートアップ・バランス・スコアカードはアカデミックなフレームワークでなく、実践で活用するものと認識いただきたい。その特徴としては、
・これらの要素は、全て自分たちで手直しできるものであること
・また論点を要素分解することにより、CSFとKPIの設定ができること
・一枚で、全体を見渡せること
・因果関係になっているので、どういうレバレッジをかければよいか、そのベンチマーキングになること

CSF Critical Success Factor:重要成功要因
KPI Key Performance Indicat-or:重要業績評価指標

各要素の具体的な実装方法として、詳細は、それぞれの章に委ねていくが、大まかにここで説明しよう。
1 各章で、要素ごとの説明やフレームワークや事例を説明する(各章でそれぞれの要素におけるフェーズごとのCSF/KPIの提示を行う)
2 「MVV」の章を読んで、MVVを立ててみる(KPIを作る)
3 CXOは自社のフェーズを鑑みて、CSF/KPIは何かの仮説を立てる
4 要素を組み合わせてみたスタートアップ・バランス・スコアカード全体を俯瞰してみる
5 1年後、2年後、3年後、N年後(上場時)にそれぞれがどういう状態であるべきか状態ゴールを立てる
6 状態ゴールに向けて課題をあぶり出して、実行/運用をする
7 定期的に計測をして、どれくらい達成できたのか改善案などを検証する(3に戻る)
現在の自社の状態を、スタートアップ・バランス・スコアカードに当てはめて、プロットしてみて、「課題のあぶり出し」やあるべき「状態ゴール」を可視化・言語化するのに使っていただきたい。
また、成長するためのリソース配分や資金用途を明確にし、説明責任を果たしたり、ステークホルダーの納得度を高めたり、エクイティストーリー/ビジネスロードマップを構築するときに活用いただきたい(図表0-05を参照)。

図表0-05スタートアップ・バランス・スコアカードを経営に活かす

スタートアップの使命は、絶え間なく変化する外部環境の中で、売上と利益を上げて継続的に企業価値を高めていくことである。
だが、それはあくまで結果指標であり、その先行指標やキードライバーになる要素を理解し、ディレクションすることが「スタートアップCXO」に求められる。
本書を通じて、CXO同士だけでなくCXOとそのステークホルダー(投資家やチームメンバー)が共通言語を持ち、自分たちの事業の成長を志してほしい。
本書の読み方としては、順を追って読んでいただいてもよいし、自社の中で経営課題があると思う要素をピックアップして、読んでいただいてもよい。『起業の科学』は、多くの起業家から「デスクの上に置いて、毎日開いて読んだ」というフィードバックをいただいた。本書も、ぜひ、そのように使い倒していただきたい。

2020年夏
田所雅之

本書の提供する価値

1 スタートアップ経営に必要な要素の理解を理論と事例を通じて深めることができる。
2 理解を深めるだけでなく、実践で使えるフレームワーク、コンセプト、ツールを各要素で提供する。
3 各章の最後のCSFチェックリスト、本書の最後にあるステージごとに問うべき質問リストを活用することで、自社の現在のフェーズにおいて、何に注力するべきかを確認できる。
4 経営者だけでなく、経営メンバー(チームメンバー)の間で本書の内容を共有し、活用することで、社内の共通言語を作り、共通理解を深めることができる。結果として意思決定の質とスピードが高まるだけでなく、メンバー/ステークホルダーの納得性を高めることができる。

田所 雅之 (著)
出版社 : ダイヤモンド社; 第1版 (2020/7/29) 、出典:出版社HP

目次

起業大全

はじめに 起業家が事業家へと進化するために必要な実践知をまとめた書
なぜ、日本ではなかなかユニコーン企業が出ないのか?
「起業家」が「事業家」になるためには、自らを進化させる必要がある
事業家(CXO)に必要なのは俯瞰力、大局観、ストーリー設計力、横断的知識
0→1の起業家に必要なのは「戦略的泥臭さ」
会社が成長するにつれて、組織には様々な問題が発生する
「経営者はリソースフルであるべきだ」
この本の実践的な使い方

CHAPTER1 ミッション・ビジョン・バリュー MISSION, VISION, VALUE
1 ミッション・ビジョン・バリューが、なぜ大事なのか
MVV は顧客に対する独自の価値 提 案 (Unique Value Proposition)からなる
WHY から始めよ
WHY を起点にする
WHY を起点とした WHY-HOW-WHAT の対話とシナジーが重要
MVV を全体感で捉える
2 ミッション・ビジョン・バリューは、実務において最強の武器に なる
1. 意思決定の質とスピードが高まる
2. 持続的競合優位性(ディフェンシビリティ)が高まる
3. 人材採用力が高まる
4. 組織を一枚岩にする
5. プロダクトの訴求力が高まる
秀逸なミッション、ビジョンは継承される
ミッション、ビジョンは「進化」する
3 ミッション・ビジョン・バリューを策定する
良いミッションの5つの切り口
ビジョン
理想の未来から逆算してビジョンを策定する
良いビジョンの5つの基準
バリュー
地球上で最も顧客中心の会社
グーグルが掲げる 10 の事実
フェイスブックのコアバリュー
アマゾンがザッポスを 12 億ドルで買収した理由
自分たちの MVV を体現/言語化した「クレド」を考える
CHAPTER1 のまとめ

CHAPTER2 戦略 STRATEGY
1 事業の実現可能性、成長性、競合優位性を築けるか?
フィージビリティ(PMF の実現可能性)
2 自社事業の「センターピン」を見つける
なぜ、アマゾンは書籍をインターネットで売るビジネスから始め たのか?
資本主義で勝つために必要なことは「競争をしない」「競争を避 ける」
3 どの市場にどう向かうかを論理的/俯瞰的に整理するフレーム ワーク
多くのスタートアップが初期市場の選択で躓いてしまう
市場規模を考える
スタートアップの本質は PFMF を追求すること
PEST 分析
4 Platform Technology Fit を考えているか?
5~10 年後を想像しながら1~2年後の市場についても考える
代替ソリューションが存在しないかを検証する
戦略のない意思決定がスタートアップをダメにする
5 どのビジネスモデルから始めると PMF しやすいか?
プラットフォーム型事業はスケーラビリティは高いが PMF の難 度が高い
スケーラビリティ(Scalability: スケールできるか)
ハイタッチから始めて徐々にシステム化、標準化する
プラットフォームは限定した市場から獲得する
6 持続的競合優位性を築けるか?
スタートアップの価値を決める要素とは
7 持続的競合優位性資産がスタートアップの運命を決める
なぜ、テスラは時価総額で世界第1位になれたのか
CHAPTER2 のまとめ
COLUMN 持続的競合優位性としてのテクノロジーの秀逸性とイノ ベーションモデル

CHAPTER3 人的資源 HUMAN RESOURCES
1 優秀な人材を採用し、定着させる仕組みを作る
起業家から事業家 (CXO)になるために必要な「人材マネジメ ント力」
スタートアップのフェーズ感と人的資源の関係
サイドプロジェクトで始める
2 初期に必要な人材を見極める
機能によって組織を厳密に分断しない
人材の4タイプ
経営陣ストーリーの言語化/自己マスタリー
自己認識力を高める方法
経営チームの組成
自社の魅力/課題を言語化
起業家から事業家 (CXO)に自己変革する
3 「自己認識力」「オープンネス」を高めるストーリーブック
必要な人材の解像度が高まり採用力が高まる
ストーリーブックの具体例
4 採用力を高める方法
人材戦略方針シートを作る
優秀な人材、自社にフィットした人材を採用できるか
現状のバリューチェーンの可視化と採るべき人材のペルソナ構築
採用ファネルの設計と運用
採用ファネル設計により採用候補者体験が向上できるか
ダイレクトリクルーティングのメリットとデメリット
エージェント活用のメリットとデメリット
エージェント活用の効率性/採用率を高めるコツ
5 採用の勝ち筋を見つけていく
常に改善する
面接は「見極め」と「魅力づけ」の場である
面接質問のキラークエスチョン事例
内定の極意
6 人事施策を実装する
エンプロイーサクセスをカスタマーサクセスにする
エンプロイーエクスペリエンスを考慮する
エンプロイージャーニーマップの作り方
7 4ループ学習システムで PDCA を回していく
Evaluation / Laugh / Respect / Learn を意識する
週単位で PDCA を回す
1 on 1 ミーティングを実施する
1 on 1 ミーティングを業務でやることのメリット
8 会社の戦略ビジョンと OKR を連携させる
OKR の設定
MIV/戦略と個人のベクトルを合わせる
CHAPTER3 のまとめ

CHAPTER4 オペレーショナル・エクセレンス OPERATIONAL EXCELLENCE
1 標準化されたプロセスで競合に差をつける
勝ち続ける仕組みをいかに作るか?
OE が求められるのは、PMF 後
標準化やオペレーションの秀逸性は大きな持続的競合優位性になる
細かい PDCA を回して業務を見直していく
全社的/横断的な業務改善を行う
業務改善のステップを理解する
業務を見える化する
業務の課題を明らかにする
ECRS + SK を実行する
3 標準化/マニュアル化の進め方
マニュアルは WHAT、WHY、WHEN、WHO、HOW の切り口 でまとめる
しばらくは業務の負荷をかけてから施策を考える
人材採用
外注化のメリット
業務のツール化/自動化を行う
CHAPTER4 のまとめ

CHAPTER5 ユーザーエクスペリエンス USER EXPERIENCE
1 なぜ、高いユーザーエクスペリエンスが求められるようになった のか
プロダクトは UX の一部に組み込まれた
モノからコトへ人生に寄り添い/顧客の成功へ
良い UX のキーワードは「コト」「トキ」
顧客一人ひとりの人生に寄り添う
エアビーアンドビーが行った UX の思考実験 11 – スター・エクス ペリエンス
顧客が欲しいのは、ドリルではなく穴である
ユーザーサイドがプロダクトの価値を決める時代へ
UX デザインを企業活動の中心に置く
2 UX エンゲージメントモデルとは
利用前 UX プロダクトと出会い興味を抱かせる
利用中 UX ユーザーの期待に応え、負担を減らし、目的を達成す
利用後 UX ユーザーをおもてなしし、再利用のきっかけを作る
利用全体 UX ユーザーが熟達し、なりたい自分になる
パーソナライゼーションとエンターテインメントの融合
3 2020 年代に求められる UX とは
ストレスのない UX を提供するアマゾンゴー
UX 主導の開発を回す
CHAPTER5 のまとめ

CHAPTER6 マーケティング MARKETING
1 優れたマーケティングはセールスを不要にする
そもそもマーケティングとは
マーケティングの目的を知る
2 N1 分析を通じて PCF (Product Channel Fit) を目指す
インタビュー相手をよく知る
インタビュー相手の弟子になる
インタビュー相手の非言語コミュニケーションに注目する
インタビューオーナーになる
インタビュー相手の話を分析する
3 マーケティング施策オプションを理解する
ペイドメディア
オウンドメディア
コミュニティマーケティングを活用する
うまく運用する4つのポイント
起業家はその業界のオーソリティになる覚悟をもつ
アーンドメディア
Love me vs. Buy me
4 アーンドメディア戦略、PR 戦略を考える
「報道連鎖」を仕掛ける
IMPAKT でネタを探す
自社のメディアリストを作る
シェアドメディア
5 インフルエンサーマーケティングを活用する
プレマーケティング
検索エンジン
SNS 等でシェアされるコンテンツを打ち出していく
LP(ランディングページ)を設計する
インタビューの際に顧客に聞いておくべき質問リスト
6 マーケティングファネルを設計し、PDCA を回していく
ファネルを設計し、マーケティングのストーリーを作る
マーケティングは 4P から 4E の時代へ
7 データ・ドリブンでマーケティングを運用する
1. 認知度/ニーズの顕在度/緊急性を分析して現状を把握する
2. 単価の安い商材の「常連」になるかを考える RFM 分析
データ・ドリブンマーケティング
CHAPTER6 のまとめ

CHAPTER7 セールス SALES
1 なぜ、セールスが必要なのか?
初期のスタートアップはトップセールスが当たり前
B2B の商談は5つのステージに分けられる
商談ステージごとの状態を明らかにする
「詰める」マネジメントから「読み」のマネジメントへ
2 インサイドセールスの仕組みを立ち上げる
インサイドセールスとは
インサイドセールスを立ち上げるときの留意点
リードのナーチャリングを理解する
インサイドセールスは全体のスループットの調整弁になる
インサイドセールスを実装するには
マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールスは分 業体制で
CHAPTER7 のまとめ

CHAPTER8 カスタマーサクセス CUSTOMER SUCCESS
1 「顧客の成功」「顧客の成果」が会社の成長を後押しする
初回の購入は単なる「関係の始まり」に過ぎない
旧来型の定期購買とサブスクリプションの違いとは
2 カスタマーサクセスを実装する
「顧客の成功」を会社の共通言語にする
カスタマーサクセスマップを作る
カスタマーサクセスのプロセスを理解する
ハイタッチ/ロータッチオンボーディング
テックタッチオンボーディングを実装する
注目されている Product Led Growth
アダプション
サクセス/エクスパンション
3 究極のカスタマーサクセス「チェンジマネジメント」
データ・ドリブンでカスタマーサクセスを運用する
解約した理由(継続しない理由)を明らかにする
4 カスタマーサクセスを標準化する
カスタマーサクセスは会社のハブを目指す
カスタマーサクセスチームとセールスチームは密に連携する
カスタマーサクセスチームを進化させる
CHAPTER8のまとめ

CHAPTER9 ファイナンス FINANCE
1 資本政策を設計し、出口戦略に至るエクイティストーリーを作れ るか?
スタートアップのフェーズを理解する
キャッシュエンジンを確保するところから始める
2 初期の資本政策に細心の注意を払う
Pre-Seed 期の株についての考え方
安易に外部に株を渡さない
会社設立時の留意点
EXIT(IPO と M&A)について理解する
上場企業の創業者は公人になることを覚悟しよう
「悪魔との契約」に注意
M&A のメリットと留意点
3 資本政策を検討する
資本政策表(Cap-table)を作る
持ち株のバランスを考慮する
経営権を維持する
資金調達を理解する
プレマネー (Pre-money)とポストマネー (Post-money)
バリュエーションは高いほどいいのか?
4 お金を集める方法を知る
資金調達の方法―普通株
資金調達の方法―コンバーチブルノート
資金調達の方法―種類株式(優先株式)
優先的残余財産請求権の設定
優先的残余財産の意味
優先的剰余金配当請求権について
希薄化防止条項を検討する
資金調達の方法―新株予約権
資金調達を開始する
5 資金調達する相手を知る
エンジェル投資家とは?
VC の活動内容は?
投資家を見極める
避けるべき投資家とは
投資家と交渉するポイントを押さえる
投資契約を締結する
CHAPTER9 のまとめ

FINAL CHAPTER 自分たちだけのストーリーが究極の競合優位性になる
アマゾンのストーリーの進化を検証する
自分たちの唯一無二のストーリーを作ることができるか
唯一無二のストーリーを言語化/更新していく

おわりに

起業家から事業家へとレベルアップするための 300 の質問

田所 雅之 (著)
出版社 : ダイヤモンド社; 第1版 (2020/7/29) 、出典:出版社HP