シェアリング・エコノミー--Uber、Airbnbが変えた世界

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次世代ビジネスの実態がわかる

シェアリングエコノミーをざっくり見渡すのには、全体と個別企業の取り上げ方のバランスがよく、理解しやすい解説となっています。新しいビジネスチャンスというだけでなく、シェア経済が私たちの社会にいかに大きなインパクトを与えるか、その輪郭が理解できます。

宮崎 康二 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2015/7/23) 、出典:出版社HP

シェアリング・エコノミー--Uber、Airbnbが変えた世界

はじめに

「シェア」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。いま、さまざまなものをシェアするという動きが全世界的に広がっている。「シェアリング・エコノミー」と呼ばれるこの現象は何を意味しているのか。人々が大量生産・大量消費社会に嫌気が差して、モノを買わなくなっているのだろうか。そうではない。近年、急速に広がるシェアリング・エコノミーの潮流の背景には、テクノロジーの進歩がある。
そもそも、私たちは、多くの資産を有効に活用できていない。自家用車は1日のうちのほとんどの時間、駐車場に置かれているだろうし、自分が不在のとき、空いている部屋を使う人もいない。これまでは、そうした資産をうまく活用する方法も考えもなかった。しかし、近年、インターネットやスマートフォン(スマホ)の急速な普及によって、それが可能になってきている。
たとえば、Airbnb(エアビーアンドビー)やUber(ウーバー)といったシェアリング・サービスを提供している企業がある。消費者は、旅先でAirbnbを使えば、不在中で使い手を探している家や空いている部屋を探すことができるし、Uberを使えば、クルマに乗せてくれる人やタクシーをスマホで探すこともできる。
シェアリング・エコノミーとは、2000年代後半以降、スマホの普及と同時に急速に発展した、モノやサービスを共有したり融通し合ったりする仕組みである。その取引は、個人間(Peer to Peer)で行われることが多い。シェアリング・エコノミーが発展した背景には、インターネットによってモノやサービスを取引する際のコストが下がったことや、ソーシャルメディア上の評価システムによって、見知らぬ者同士でも信頼し合うことができるようになったことがある。
シェアリング・エコノミーには、世の中にあるモノや人といったリソースの稼働率を上げることで、社会全体の生産力を上げるという効果が期待される。2016年にはシェアリング・エコノミーの経済規模が10兆円を超えるという試算もある。
実際、シェアリング・エコノミーの潮流は、巨大なビジネスチャンスを生み出している。Uberは未上場ながら企業価値評価額は5兆円弱(400億ドル)、Airbnbは1兆円強(100億ドル)となっている。両社とも2000年代後半に創業された企業であることを考えれば、その急激な成長ぶりがわかるだろう。
このビジネスチャンスをつかもうと多くのスタートアップが登場しており、グーグルやアリババ集団、百度(バイドゥ)、ソフトバンク、楽天といった世界中のIT企業が投資を行っている。また、それはIT企業にとどまらない。フィデリティ・インベストメンツやブラックロック、サード・ポイントなどといった機関投資家の投資も呼び込んでいる。
しかし、その一方で、個人間で取引をするということは、規制の対象にもなりやすい。ホテル業界やタクシー業界といった規制が厳しい業界で提供されるサービスと類似したサービスの場合は、特にそうである。シェアリング・エコノミーを促進し、社会全体の生産性を上げるためには、そうした規制についても見直していく必要がある。
本書では、シェアリング・エコノミーの流れを促進する背景や、それが社会に与える影響、そして、私たちの社会が直面する問題について考えていく。本書は、大きく2つに分けられる。
まず、第1章と第2章では、シェアリング・エコノミーとは何かといった概観をとらえ、それに付随して起こっている数々の問題規制や労働の問題について考察する。
そして、第3章以降では、シェアリング・エコノミーが起きているさまざまな業界を取り上げ、より詳細に説明していく。
本書の執筆にあたっては、慶應義塾大学商学部の深尾光洋教授から数多くのアドバイスをいただいた。長年にわたり金融や経済について調査・研究されてきた深尾教授による的確な指導がなければ、本書の分析はなかった。また、出版にあたっては、日本経済新聞出版社の伊藤公一氏にお世話になった。この場を借りてお礼を申しあげたい。
なお、本書の誤りは当然のことながら筆者に帰属し、その内容は、筆者が所属する、あるいは所属していた組織とは一切関係のないことを明らかにしておく。

2015年7月
宮寄康二

宮崎 康二 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2015/7/23) 、出典:出版社HP

目次

第1章台頭するシェアリング・エコノミー
シェアリング・エコノミーとは
P2Pでのモノのやりとり/古くからあったものか
取引の仕組みと3つの主体
代表的な仕組み/プラットフォーム運営企業/スモールビジネス/消費者
何がシェアリングを可能にしたのか
取引を可能にした3つの要因/追い風となった社会現象
シェアリングのインパクト
既存産業の需要を奪うか/大手企業の参入/経済全体にもたらす影響
5兆円企業の登場――経済効果と市場規模
多額の投資を呼び込む急成長市場/市場規模はどのくらいか/利用している人たちは
シェアリングが引き起こす問題
需要は減るか/規制や税金から逃れていないか/労働者を搾取していないか

第2輩求められる新たな枠組み――規制と労働
外部不経済をどう解決するか
問題となる規制のあり方/最適分配の3条件/競争は存在している/情報の非対称性は少ない/外部不経済は存在する
既存産業の規制は当てはまらない
Airbnbにホテルの規制が適用されると/UberXにタクシーの規制が適用されると/現実に即した規制を
規制づくりの4つのポイント
既存業界との違いを認護する/大枠は運営企業に任せる/試行錯誤が不可欠/業界で意見を出す
見えにくい労働問題
働き手は個人事業主/Uberで起きたストライキーライドシェアサービスの例/Homejoyで起きた問題―クラウドソーシングの例
企業側と個人事業主である働き手のメリット
従業日と個人事業主の違い/労働力を流動的に活用できる――企業側のメリット/働き手のメリット
均衡点はどこか料金と手数料率
ドライバーの収入と給与の比較/どの程度の売り上げを渡すべきか/収入は均衡へ向かう

第3準 P2P宿泊サービス|Airbnbが変えた世界
Airbnbのアイデア
P2P宿泊サービスの原型/3つの特徴
急成長の背景に何があったか
インターネットの普及と都市部の地価の上昇/追い風となった3つの理由
P2P宿泊サービスがもたらすもの
不動産の有効活用/新たな需要をつくる/外部不経済をなくすには/大企業の参入
求められる規制とサンフランシスコ市での合法化
ニューヨークでの法廷闘争/日本国内での逮捕事例/カリフォルニア州の場合―規制以外の弊害/サンフランシスコ市での合法化

第4章 ライドシェアサービス|Uberが変えた世界
ライドシェアサービスとは
2つの特徴/Uberのサービスラインアップ/期待されるカープールサービス/他社との連携で生まれる新サービス
ライドシェアサービスがもたらすもの
価格変動による効率的な資源分配/新車需要は減るか/新たな投資を呼び込むライドシェアサービス
IT大手の出資、既存企業の動き
フェイスブック、グーグルの狙いは何か―IT大手の出資と連携/配車アプリで対抗するタクシー業界
求められる規制とカリフォルニア州での合法化
各地で営業停止に/タクシー免許は必要か/営業許可は必要か/保険加入は義務化すべき/料金体系は自由化すべき/カリフォルニア州での合法化/Uberで行われている取り組み
進化するライドシェアサービス物流と自動運転
物流のプラットフォームに/自動運転がもたらす可能性/グーグルと競合するか

第5章広がるオンデマンド型サービス
「いますぐ欲しい」に応える
典型例はUber―いつでもスマホからリクエスト
どんなサービスがあるか
ライドシェアサービス/カーシェアリング・サービス/スペースの予約サービス/家事代行サービス/オンデマンド配送サービス/食品・生活必需品配送サービス/料理・弁当宅配サービス/モノのレンタルサービス/医療・美容サービス
オンデマンド型サービスの今後
安さと速さが最大の特徴/IT大手も手掛ける即日配送サービス

第6準カーシェアリング・サービス
カーシェアリングとは――2つのビジネスモデル
レンタル型とP2P型/手軽な日常の移動手段―レンタル型/レンタカーと競合するP2P型 カーシェアリングがもたらすもの クルマやスペースの有効活用/新車需要は減るか/稼働率向上による環境への好影響
レンタカー会社と自動車メーカーの参入
エイビスの狙いーレンタカー会社による買収/自動車メーカーの参入/テクノロジーで進化するサービス
普及に向けた2つの課題――営業許可と保険
営業許可のトラブルーサンフランシスコ国際空港/乗り捨てが可能に――日本の法規制と改正/保険の適用範囲―営業停止命令を受けたRelay Rides

第7章 広がるシェアリング・サービス
進化するモノのシェア
eBay|シェアリング・エコノミーの起源/安全な決済サービスの存在/2つの流れ|進化するモノのシェア/「フリ マアプリ」に代表されるスマホのマーケットプレイス/ファッションアイテムのレンタルサービス
クラウドソーシング――個人の時間やスキルをシェアする P2PとP2B/クラウドソーシング企業の役割/膨らむ市場/P2P型の急拡大
クラウドファンディング|個人間でおカネをシェアする
不特定多数の個人から資金を集める/資金需要者と投資家のマッチング/融資や投資の一部が行われる可能性も
コンテンツ配信
ストリーミング配信の急拡大/レンタルも行われるようになった電子書籍
日本経済へのインパクト
2020年に向けて/高齢化や人手不足といった問題の処方蜜に

コラム
2-1 政府と市場
2-2 評価システムの限界
2-3 ロビー活動の重要性
2-4 最低賃金とシェアリング・エコノミー
4-1 Uberの料金変動システムは合理的か
4-2 日本におけるUberXの可能性
5-1家事は2万円で外注できるか
7-1 B2Bのシェアリング・エコノミー
7-2 決済手段としてのビットコイン

解説 技術革新が急速なビジネス分野のダイナミズムを取り込むには 深尾光洋
装新 松田行正

宮崎 康二 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2015/7/23) 、出典:出版社HP