DXの真髄 日本企業が変革すべき21の習慣病

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DXの第一ステップ

デジタル・トランスフォーメーションがデジタルツールの導入のみに終始し、企業変革が進まないケースが多い中、本書は真に変革を成し遂げるために必要なアプローチがわかりやすく、かつリアリティを持って書かれています。具体的な実務の場面で参考になりそうな一冊です。

安部 慶喜(アビームコンサルティング株式会社) (著), 柳 剛洋(アビームコンサルティング株式会社) (著)
出版社 : 日経BP (2020/10/15) 、出典:出版社HP

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DXとは、デジタル・トランスフォーメーション(Digital Transformation) の略語である。 新聞や雑誌、インターネットのニュースでも、最近はこの注釈がほとんど見られなくなった。いまやビジネスの世界では最頻出用語の1つとなり、日本企業のほとんどが経営課題として掲げているといっても過言ではない。

しかし、日本企業は先進諸外国と比べて、デジタル活用が圧倒的に遅れている。いや、新興国にさえ、後れを取っている。情報収集力、資金力、人財力、その全てにおいて世界に引けを取らない日本企業が、これまで何度となくDXの取り組みに失敗してきた。

なぜ日本企業ではDXがうまくいかないのか?

その原因は、戦後の高度経済成長期以降、長きにわたって安定成長を続けた日本企業独特の「成功体験」にある。その成功体験を通して培われてきた組織、制度、ルール、業務プロセス、システムは高成長時代における「成

功の方程式」ともいえるものであったが、バブル崩壊やリーマンショックなどにより経済・市場環境が変わってからも、見直されることはなかった。そして、近年のデジタル技術の進歩を伴う劇的な環境変化に対応できず、もはや悪しき「習慣病」となってDXを阻害するようになったのである。

本書では、「業務」、「組織・人」、「IT・新技術」の3分野にわたる「心の習慣病」とその対応策を一つひとつ解説している。また、これらの習慣病に抜本的なメスを入れながら、DXに真っ向から取り組み、大きな成果を挙げている日本企業6社の生々しい苦労とそれを乗り越えてきた成功ストーリーを、CxOの皆様に余すことなく語っていただいた。

日本企業独特の習慣病にしっかり向き合って取り組めば、DXは必ず成功する。本書にその全てを記した。これこそが日本企業における「DXの真髄」である。
安部慶喜

はじめに

本書は、『RPAの威力』、『RPAの真髄』に続く第3弾である。『RPAの威力』では、当時、新技術であったRPAが働き方に与えるインパクトを考察し、人とロボットが共生する未来図を提示した。
『RPAの真髄』では、RPAの活用を、部分的な自動化ツール導入ではなく、「全社改革の契機」として捉えて多大な成果を上げている企業を分析し、共通する成功の秘訣=真髄を明らかにした。
本書では、DX(デジタル・トランスフォーメーション)にフォーカスしている。DXとは、「RPAをはじめとしたデジタル技術を活用して、全社的に業務プロセス、組織のあり方、人の行動を変革し、新たな価値を創造できるようにすること」を意味する。DXはともすると、新しい技術やサービス(DXの「D」)に目を奪われがちだが、その本質は「x」=変革の方にこそある。

-なぜ日本企業のDXは進まないのか?

2019年2月。筆者は、ベトナム・ホーチミン市に滞在していた。YKKベトナムに「YKKVietnam RPA Contest 2019」の審査員として招かれたのだ(第5章参照)。一つひとつのソリューションも素晴
らしかったが、最も印象に残ったのは、発表した社員たちの姿である。自らアイデアを出して変革していく高揚感、手ごたえにあふれていた。そこで目にしたのは、まさに「組織全体が変革された」状態だった
のだ。
しかもその変革は一過性のものではない。今後も、新たな技術が生まれるたびに彼らは軽やかにそれら
を使いこなしていくだろう。自らも変革していくだろう。そして変革の文化を次世代に受け継いでいける
だろう――、そんなことを予感させるに十分だった。これこそDXの本質ではないだろうか。
筆者は、この5年間で、少なくとも300社以上でRPAを活用した改革を支援し、クライアントの皆さまと一緒に成功させてきた。しかしながら、組織全体に改革を波及させ、一人ひとりの行動や意識まで変革したケース、つまりDXを成し遂げた企業は、そのうち1割程度にとどまる。多くの企業は、「DXに取り組んでいるが思うような成果が出ない」、「推進力が弱い」、「抵抗感が強すぎる」といった悩みを抱え、改革の途上にある。
なぜ日本企業のDXは進まないのか。その原因は日本企業の内部構造にあるのではないだろうか。

-組織に染みついた「習慣病」を克服せよ

内部構造とは、日本企業の業務プロセスや仕事のやり方、組織形態と運営方法、意思決定法、新技術やITへの取り組み姿勢などと、それらの根底にある思考法や文化を指す。これらは戦後の日本経済と個々の企業の成長とともに形成され、その成功体験により強化されてきたもので、無意識のレベルで組織内に浸透している。かつては成長を支えてきた「勝ちパターン」でもあるこの内部構造が、いまでは、業務の目的や意味を問わない形式主義や、新しいことへのチャレンジ精神を損なう減点主義につながり、様々な局面で変革の障害となっている。本書では、こうした事例を体系化し、克服すべき「分の習慣病」と名づけている。
DXとは、単にデジタル技術を使うことを意味するのではない。次々と生まれてくる新しい技術を取り入れ、ビジネスや業務を変革していく力、すなわち「変革力」を組織内に形成することを意味する。そのためには、内なる「4の習慣病」を理解し、克服することがどうしても必要なのだ。今回取り上げた6社の事例では、DXを、いま、まさに牽引しているCxOの方々に取材し、意見交換させていただいている。それぞれ、業種、状況、表現に違いはあるものの、「変革力を形成すること」を重視する点は共通であり、読者も多くの示唆を得られることと思う。

-いまこそ「X(変革)」に踏み出そう

コロナ禍が日本社会のデジタル化の遅れを白日の下に晒した。そしていま、官民ともにDXを日本再生のカギと捉え、取り組もうとしている。このことについては筆者も全く同感であり、この危機がもたらした貴重な気づきであると考えている。しかしながら、このDXの機運が、「新技術の導入」の域を出ないのであれば、残念ながら、私たちは最後のチャンスを逸することになるだろう。逆に、内なる習慣病を認識し、抜本的な改革に取り組むことができれば、欧米の追随ではない、日本型のDXを実現できるはずだ。
課題は私たち自身、私たちが形成してきた組織のうちにある。いまこそDXの真髄である「X(変革)」へと踏み出していただきたい。本書がその一助となれば、これに過ぎる幸いはない。

安部 慶喜(アビームコンサルティング株式会社) (著), 柳 剛洋(アビームコンサルティング株式会社) (著)
出版社 : 日経BP (2020/10/15) 、出典:出版社HP

目次

この本を手にしたあなたへ
はじめに

第1章 「変われない日本企業」のDXの実態
変革を阻む根本原因は、人・組織に染みついた「習慣病」
DXを推進する素地はそろっているが…
1-1 日本企業の発展の歴史に「変われない原因」がある
熟練と前例踏襲をよしとする
「お手本通りに実行できる人財」を大量に囲い込み
情報システムを「モノ」と捉える
1-2 第4次産業革命によりデジタルと共創の時代が始まる
成功条件が一変、かつての強みが変革の足かせに

第2章 「業務」の習慣病
業務本来の目的に立ち戻り、最適な形への再構築を 思考停止したままでは、DXは絶対に進まない
習慣病1 不明瞭な観点で何度も承認
承認観点の見直しで、最大2回の承認をわずか3回に
習慣病2 おもてなし精神で過剰サービス
サービス水準を定義し、コストに見合わない個別対応を一掃
習慣病3 些細なことまで完璧主義
目的に照らし、重要取引だけを優先処理
習慣病4 やめられない紙文化
業務プロセスの上流で「紙」をデジタル化
習慣病5 長い・決まらない会議だらけ
会議時間を半分にしても、8割は「問題なし」
習慣病6 組織に合わせた縦割り業務
プロセスオーナーが業務を標準化
習慣病7 職位と業務内容のミスマッチ
業務の担い手を最適化し、単純作業はロボットに任せる

第3章 「組織・人」の習慣病
全社戦略と連動した組織・人事制度改革が急務
習慣病8 人財戦略なき人事制度
経営戦略に基づき、思い切った人事施策を断行
習慣病9 パッチワークの人事制度
人財マネジメント方針のもとで一貫した人事制度を設計
習慣病10 全社視点なき足し算経営
全社戦略に沿って各事業部門の目標と資源配分を最適化
習慣病11 組織間の壁を生むピラミッド構造
組織をフラット化し、若手の活躍を促進
習慣病12 世間知らずの職人集団
ローテーションを活用し、事業に対する視野を広げる
習慣病13 事なかれ人事評価
成長とチャレンジを促す評価制度へ
習慣病14 自分で考えない指示待ち人財
人事評価と連動する「考える機会」を提供
Column 海外現地法人こそ、成長のためにDXを

第4章 「IT・新技術」の習慣病
思い切って転換すべきは「技術との向き合い方」
習慣病15 IT戦略なきIT投資
経営戦略と一体でIT戦略を策定すべき
習慣病16 責任・検証なき投資プロセス
投資対効果重視の実行体制と検証プロセスを整備
習慣病17 「つくる」ことが目的化
「使わせて効果を出す」までをプロジェクトがコミットする
習慣病18 過剰な完璧主義・安全志向
アジャイル型でまず推進、「試してダメなら戻せばよい」
習慣病19 同業他社との横並び
現場に目を向け、独自開発のアプリでファーストムーバーに
習慣病20 ベンダー依存体質
発注方針を定め、ベンダーとの役割分担を明確化
習慣病21 低いIT・デジタルリテラシー
「まずは全役員から」、リテラシー向上策を全社で推進

第5章 変革を遂げた先進6社の取り組み
CxOが語る企業変革の軌跡
5-1 あいおいニッセイ同和損害保険
従来の常識を超える発想転換で変革を推進
DX推進担当を起点に業務効率3割アップへ
デジタルで業務の効率化を図り、経営資源を新ビジネスの創造に 現場型から直下型にアプローチを変更、RPA導入前にまずBPRを
各事業部門にDX推進担当を、やる気をそがない人事評価へ
コロナ禍で見直しの好機到来、営業部門も改革を加速
5-2 ブラザー工業
縦割り業務や会議のムダを徹底排除
業務の「見える化」で社員の改革意識も促す
部分最適となる「縦割り業務」のムダを削減
効率化を阻む「業務ルール」をトップダウンで排除
問題を「どう気づかせるか」が最大の勝負所
旗振り役に部門長経験者を起用し、現場を動かす
社員のITスキルアップで長期的な成長も
5-3アコム
非常事態下の守りの経営から反転攻勢へ
人材育成・活性化を軸に変化対応力を強化
経営とシステム部門の意思疎通を促す「IT戦略会議」
現場から抵抗を受けながらもジョブローテーション断行
システム部門のスキルを磨き、ベンダー依存を解消へ
目標達成に自ら乗り出せ、若手・中堅に中計の策定を任せる
情報や経験を社員にインプットすることが大切
5-4 千葉銀行
「紙」と「印鑑」の使用 “ゼロ” その先に目指す新たな銀行の姿
コロナ禍の勤務制限下でも、急増する資金需要に応える
「紙」と「印鑑」の使用~ゼロ”に
事務集中部門のデジタル改革
営業店の改革に向け、新たな挑戦
「DXのその先へ」、目指す銀行の新たな姿
5-5 ユニバーサル ミュージック
音楽市場のデジタル化に備える3つの構造改革
BPRを通じ「変革への気づき」を促す
構造改革で目指す「型」づくり、社員の変革でそこに「魂」を
プロセスイノベーターを置き、「改革は当たり前」の文化を
過去の成功体験にとらわれず、危機や弱みの認識と共有へ
スモール・ハピネスを積み重ね、社員のマインドを切り替える
5-6 YKKベトナム
現地採用人材の潜在能力が一気に開花
業務改革の意識が行動変容をもたらす
「仕事のやり方自体を変える」意識が行動変容の契機に
現地採用の高学歴人材に、働く喜びを感じさせたい
RPAを導入したものの成果は限定的
業務改革とセットでRPAに再挑戦
現場自立型へ転換、ロボットコンテストを企画
普段は倉庫で働く若手社員が見事なアイデアを披露

第6章 DXを成功に導くカギとは
「新しい成功体験」を積み重ね、変革し続けられる企業へ
6-1 DXとはデジタル技術を活用することなのか
DXで「人の役割」が大きく変わる
情報システムの操作は、人ではなくデジタルレイバーに
6-2 DXを成功に導く3つのカギとは
まず社内のDXで社員一人ひとりが変革力を身につけるべき

6-3 DXで日本企業復活へ

おわりに
著者紹介

安部 慶喜(アビームコンサルティング株式会社) (著), 柳 剛洋(アビームコンサルティング株式会社) (著)
出版社 : 日経BP (2020/10/15) 、出典:出版社HP