ホントは安いエコハウス

【最新 エコハウスについて学ぶためのおすすめ本 – 基本知識から建築事例まで】も確認する

詳細なデータに基づくエコハウスの考え方

本当のエコハウスは素材や設備云々ではなく、優れた住環境から生み出される健康・経済性をもたらせてくれる家であり、その為の事例やデータ解説が分かりやすく書かれています。住宅業界関係者だけでなく、施主側も知っておくべき事実が溢れています。

松尾 和也 (著), 日経ホームビルダー (編集)
出版社 : 日経BP (2017/7/21)、出典:出版社HP

 

まえがき

断熱性能に見向きもしなかった意匠系の建築設計者が断熱に取り組むようになり、高断熱を大きな売りにしてきた工務店は、設計力も向上させなければ住宅が売れない時代になりつつあります。
住宅メーカーでも、環境性能の高い住宅をつくる会社が競争力をつけています。大手住宅メーカーで圧倒的に高い断熱性能を売りにする一条工務店が、着工棟数でトップを走ってきた積水ハウスと肩を並べつつあるのです。
一条工務店は建材の8割以上をフィリピンの自社工場で製造しており、非常に高い性能を安いコストで実現しています。つまり、費用対効果が高いのです。売れるのは至極当たり前でしょう。高い断熱性能を持つ住宅は、燃費の良い車のようなものです。
一口に燃費の良い車と言っても、燃料1リットル当たり17kmといったレベルのものから、40km程度のプリウスまでさまざまです。「一条工務店の家は、住宅業界におけるプリウス」と表現すれば、分かりやすいかと思います。
2020年に、これまで住宅業界で「次世代省エネ基準」(平成11年基準)と呼ばれてきた基準が義務化されます。この基準は、車に例えれば、燃費が1リットル当たり17kmの水準です。特別に自慢できるような水準とは言い難いのです。
ちなみに、プリウスで年間1万kmを走った際の一次エネルギー消費量を実燃費である1リットル当たり26kmで計算すると、年間で13.5GJ程度を消費することになります。1リットル当たり13kmの一般的な燃費の車なら、年間で27GJに相当します。
一方、一般的な住宅で消費する一次エネルギーは大体、平均で年間75GJとなります。平均的なケースでは、住宅が車の3倍のエネルギーを消費すると言えるのです。車は約10年ごとに乗り替えますし、燃費はそのたびに大幅に向上しています。
ところが、その3倍のエネルギーを消費する住宅は、30年以上使われるにもかかわらず、断熱性能のような基本的な構成要素は完成時の性能が続きます。住む期間全体に要する光熱費と工事費の合計を安くしなければ、いくら工事費が安くても「安物買いの銭失い」になりかねません。
平均世帯年収が410万円程度にまで落ち込んだ日本。限られたお金の使い方を指南するファイナンシャルプランナーが活躍しています。住宅ローンと保険、教育費は、ファイナンシャルプランナーがよく取り上げる項目です。最近では、携帯電話代も助言の対象となっています。
半面、光熱費についての詳しい言及はあまりありません。指摘しても「できるだけ冷暖房は使わないようにしましょう」という助言で終わるケースが多いようです。
しかし高齢者の場合、温熱環境で我慢を強いれば、脳血管疾患、心疾患のリスクを高めます。若い人であっても、さまざまな病気の疾患リスクは上がります。健康は、経済性だけでは測れない生きるうえでの重要な目標です。健康リスクを犯してまで冷暖房コストを節約するという選択肢はあり得ないと考えます。
エアコンは光熱費や快適性などの面から嫌われ者の代名詞となっているきらいがあります。しかし、それは住宅の性能が低いことで生じる問題をエアコンのせいにしているからです。エアコンほど高性能かつ費用対効果が高い機器は存在しません。
ただし、機器の選択、設置場所、利用方法によってエアコンの実際の効率は大きく異なります。車に例えるなら、たとえプリウスでも、ベテランドライバーのような丁寧な運転と、アクセルとブレーキをベタ踏みするような雑な運転とでは、実燃費に大きな差が生じることと似ています。
日本には家電評論家というような肩書きの人も存在します。ところが、こうした専門家を自負する人たちが発信する情報を見ても、エアコンについては「お掃除機能がついているか」「人を感知するセンサーがついているか」「カタログ上の性能値」といった程度のことしか評価されていません。
評論家だけでなく、家電量販店の営業マン、一級建築士のほとんどが「その部屋または住宅にどの程度の容量のエアコンを設置すれば理想的か」という問いに対して、明確に回答できないのが実情です。その結果、ほぼ100%の新築住宅において、部屋に必要な容量の何倍もの容量を持つ過剰仕様のエアコンが設置されています。
結果として、イニシャルコストや冷暖房費、交換のたびに必要な費用が高くつく事態を招いています。喜ぶのはエアコンメーカーだけという状況なのです。ようやく最近になって、部屋に合った適切なエアコンを選定するための情報を提供するウェブサイト(http://criepi.denken.or.jp/asst/)が表れました。一度参考にしてみていただければと思います。
最後になりましたが、1人でも多くの方がこの本を読んで住宅会社の選定に役立てたり、住宅設計や建設に関する思い込みを正したりして、本当に良い家をつくってほしいと考えています。そのような住宅が当たり前となることで、そうした住宅を建てられない会社が淘汰されることも望んでいます。「家は3回建てないと満足できるものにならない」という悲しい日本の現実から、一刻も早く脱却することに本書を役立てていただければ幸いです。
松尾和也

松尾 和也 (著), 日経ホームビルダー (編集)
出版社 : 日経BP (2017/7/21)、出典:出版社HP

 

ホントは安い エコハウス contents

Part.1 エコハウスを知る
勘違い01 自然素材≠エコ
自然素材住宅はエコハウスにあらず
勘違い02 工事費減≠経済性
「住宅貧乏」から脱する6項目
勘違い03 省エネ改修≠大変
すぐできる!既存住宅の省エネ策
勘違い04 暖かさ≠プロは皆知っている
暖かい住宅を知る人が少ない理由
勘違い05 インフラ≠頼れる
災害時にシェルターになる家

Part.2 エアコンの実力を知る
勘違い06 エアコン≠高い
断熱性能が低いとエアコン嫌いに
勘違い07 ドライ運転≠高い
激減するエアコンの「再熱除湿」
勘違い08 空調運転は間欠≠連続
エアコンの連続運転vs間欠運転
勘違い09 エアコン選び≠畳数
畳数だけでは駄目なエアコン選び
勘違い10 エアコンの容量種別≠多すぎる
4社のエアコンから選び方を知る
勘違い11 湿度≠年中40~60%
大阪は東京よりも蒸し暑いって本当?

Part.3 窓の強みと弱みを知る
勘違い12 日本の窓≠高性能
世界に劣る「窓」後進国ニッポン
勘違い13 ビル用窓≠戸建て用窓
住宅用サッシは費用対効果が大
勘違い14 パッシブデザイン≠風
パッシブは風より太陽を旨とすべし

Part.4 改修に効く断熱と住宅設備を知る
勘違い15 リフォーム≠見栄え優先
断熱リフォームが高齢者を救う
勘違い16 電気温水器≠省エネ
電気温水器をなくして節電しよう
勘違い17 24時間換気≠レンジフード選び
レンジフードで月4000円の損失
勘違い18 家事≠住人にお任せ
家事の時間を短縮して豊かな生活を

Part.5 設計の本質を知る
勘違い19 工務店≠省エネのプロ
断熱~気密~パッシブへのステップ
勘違い20 次世代省エネ基準≠万全
断熱はコスパと快適性から考える
勘違い21 プレゼン≠数勝負
受注増につながるパッシブ手法
勘違い22 熱損失≠日射取得
ローコスト住宅ほど「太陽に素直な設計」
勘違い23 設計≠変更が当たり前
パッシブで無駄な仕事を減らす
勘違い24 寒冷地≠暖かい設計は無理
コストを抑え冬に暖かい家をつくる
勘違い25 高断熱≠オーバーヒート
洞窟みたいにオーバーヒートしない

Part.6 対策の効果を確かめる
最新のソフトで有効性を確認

著者紹介

松尾 和也 (著), 日経ホームビルダー (編集)
出版社 : 日経BP (2017/7/21)、出典:出版社HP