中国経済はどこまで崩壊するのか PHP新書

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中国経済を様々な角度から分析

本書は、感覚的な話ではなく統計に基づいて話が展開されており、中国経済のこれまでとこれからについて論理的に述べられています。中国経済の行方を考えるための「枠組み」を提供してくれる、タイムリーな一冊となっています。

安達 誠司 (著)
出版社 : PHP研究所 (2016/3/16)、出典:出版社HP

 

はじめに

筆者はいわゆる中国経済の専門家ではない。為替市場や株式市場といったマーケットの動きを、マクロ経済の観点から調査・分析するエコノミスト業務を生業としている。したがって出版界の「常識」では、中国経済を語るにふさわしくない存在なのかもしれない。中国経済の現状および制度やその仕組みを解説するのは、中国経済の専門家に任せたほうがよい、という点はたしかに一理あると思う。
もちろん中国経済に関する本は、主に中国の専門家として自他ともに認める論客の方々により、これまで数知れないほどに出版されてきた。筆者もそのうちの何冊かを実際に手にとってみたが、その多くはヒステリックなほどの「中国崩壊論」か、無条件に中国経済を賞賛した内容になっている(もしくは独自に入手した「ここだけの話」的な情報)。
そこで本書はエコノミスト的な「枠組み」を用い、データや歴史的な事実との比較から客観的な考察を試みた。筆者の顧客にはいわゆる投資家といわれる人が多いが、彼らは毎日新しい「知識」を得るためにかなりの勉強をしている。だが投資やビジネスは、受験勉強でも、クイズ番組でもない。そこで必要なのは「知識」ではなく、考え方の「枠組み」ではないか、と常日頃から考えてきた。なぜなら投資やビジネスには、あらかじめ確定した答えがないからだ。知識や情報を得ただけでは、どうにもならない。これは中国経済とて、例外ではない。
だからこそ本書では、中国経済の行方を読者の方々が考えるための「枠組み」を紹介することに主眼をおいたつもりだ。そして、その「枠組み」とは近代経済学の教えである。本書では今後の中国経済について、主に「経済成長論」「国際金融論」の道具立てを用いて考察を加えた。中国関連本の多くが知識や情報を伝えるものであることを考えれば、それこそが他の中国経済本と本書が異なる特色である。学術書以外で、しかも高成長一辺倒の時代から「どこまで悪化していくのか」という段階に中国経済が移って以降、本書のような試みはまだ、ほかにないのではなかろうか。
筆者が中国経済に関する本を出版しようと思った動機は、じつは二〇〇九年にまでさかのぼる。当時は二〇〇八年九月に発生したリーマンショックの影響により、一九三〇年代の大恐慌以来、世界経済は約七十年ぶりの大不況に陥りつつあった。そうした状況下、筆者は『恐慌脱出』(東洋経済新報社)という本を上梓させていただいた。この『恐慌脱出』のなかで、リーマンショック後の世界経済について、危機の震源地であるアメリカが最も早く立ち直るであろうこと、の一方で、リーマンショックの影響が軽微といわれているユーロ圏と中国を中心とした新興国は、今後、大きな経済危機に見舞われる可能性が高いこと、を指摘した。
多少自分に甘めだが、その見通しは的中したのではないかと思っている。しかし当時は、筆者の新興国(とくに中国)経済に対する見方には根拠がなく、悲観的すぎるのではないかという批判を多く頂戴した。もちろん筆者は自分なりに客観的考察をした結果、このような結果を導き出したつもりであり、正直、そうした批判を受けるたびに世悦たる思いを抱いてきたのである。だからこそ、中国経済に関する考察をアップデートしたい、とつねに考えてきた。
あえて中国の専門家に意見を求めることなく、自らの考えの「枠組み」に従った本書はある意味で、読者の方々と同じ目線の議論を展開しているといってもよいだろう。この試みが中国経済の今後に対して新しい見通しをもたらすことはもちろん、読者の方々が自らの頭で物事を考える際の「枠組み」としても機能することを、筆者は期待している。

目次

中国経済はどこまで崩壊するのか
はじめに
第1章 「バブルリレー」のバトンは中国が握っている?
二〇〇九年に論じた「新興国ブームの終焉」への反応
リレーに譬えられる「バブルの発生と崩壊」のサイクル
中国当局は「正しい」政策運営を実行できていない
ウォーレン・バフェットによるバブルの定義
すべてのバブルの根本には「過剰な成長期待」がある
中国はいま「中所得国の罠」にはまるかどうかの瀬戸際
中国経済はすでに「バブル崩壊」を終えた状態?
個人投資家が株価を先導することは不可能だ
中国はアンカーか、次の走者にバトンを渡すのか

第2章 中国経済ハードランディング論の真実
金融緩和を講じつつ、人民元買い支えを行なう矛盾
人民元の買い介入は米政策当局へのアピール?
「ゴーストタウン」のような不良債権はどれだけあるのか不動産バブル崩壊の影響がそれほど大きくない理由
「マーケット・エコノミスト」的な見方に潜む問題点
場合によってはマイナス成長に陥る可能性も
財政出動は機能しないどころか、無駄に終わる

第3章 崩壊サイクルに入った人民元の固定相場制
通貨危機に陥る前提条件は満たされつつある
変動相場制回避のための資本取引規制は逆効果
通貨アタックから再び世界的な金融危機へ
通貨アタックに備えて「参加者」を募るソロス氏
中国の外貨準備高は決して盤石ではない
いまだに中国の金融財政政策に期待する市場関係者たち
「資本ストック-調整がどう進行するかに注目せよ

第4章 中国人の経済思想から未来を読み解く
日本にデフレをもたらした為政者の「清貧の思想」
故小室直樹氏の著作が教えてくれたこと中国共産党のテーゼと鄧小平改革の危うい均衡
不正を抑え込めれば中国社会主義は次の段階に進む?
「儒教的な道徳観」と「法家の思想」からなる二重の体系
地方政府の官僚にとって「所有と占有の混同」は当然
あらためて、中国経済の行方を見通す論点を整理する

第5章 これから十年、中国経済・三つのシナリオ
「経済予測の的中度」を競うことの無意味さ
最も楽観的なシナリオは名目五%成長の実現
「対外開放」のあとにもう一度バブルが来る可能性
「中所得国の罠」による長期停滞のプロセス
通貨当局はどのように資本取引規制をかけるのかインフレの定着からスタグフレーションへ?
中国経済にとっての「ブラックスワン」とは
中国の対外強硬路線が世界経済を脅かす日

終章 AIIBから日本への影響まで――残された論点
扱いきれなかった三つの論点
DAIIB設立の謎
日本経済への影響は?
危機が収束する「ウルトラC」はあるのか
おわりに
主要参考文献
中国経済はどこまで崩壊するのかPHP新書
装幀者芦澤泰偉+児崎雅淑

安達 誠司 (著)
出版社 : PHP研究所 (2016/3/16)、出典:出版社HP