地球学入門 第2版: 惑星地球と大気・海洋のシステム

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地球科学の総合テキスト

地球全体を総合的に概説し、最新の地学知見をもとにした地球科学テキストの改訂版となっています。私たちの住む地球について、地球科学の基本や歴史、地球規模の現象における考え方まで丁寧に解説されています。中高生から大学生の教養レベルに役立つ参考書です。

酒井 治孝 (著)
出版社 : 東海大学出版部; 第2版 (2016/3/29)、出典:出版社HP

地球学入門 第2版: 惑星地球と大気・海洋のシステム

Introduction to Studies on the Earth
Second Edition
Harutaka SAKAI Tokai University Press, 2016 ISBN978-4-486-02099-8

地球学のすすめ

21世紀,私たちの前に立ちはだかっている人類の存続に関わる大きな問題が3つある.それは,(1)地球環境問題,(2)人口(食糧)問題,(3)エネルギー問題である.この三者は独立して解決できる問題ではなく,相互に深く関係しあっている.現在の人口増加率が続くと,2050年には世界の人口は85億人に達し,食糧生産は開発途上国における人口爆発に追いつけなくなることが予測されている.また人口が増加し,生活が豊かになることにより,石油・天然ガスの生産量は需要に追いつかなくなると予測されている.そして化石燃料の使用がこのまま続くと,2050年には大気中の二酸化炭素濃度が産業革命前の280ppmの2倍,560ppmになり,地球温暖化が加速することが推定されている.つまり人間活動は地球規模で環境に変化をおよぼす最大の要因となり,21世紀前半には食糧,エネルギー,地球環境の危機を迎えることになる.

これらの問題に人類が立ち向かう時,不可欠なことが2つある。1つは私たちの住む地球,「宇宙船地球号」とそのシステムについての地球科学的な理解と基礎知識である.もう1つは人間と地球をミクロにみると同時に,マクロにグローバルにとらえる広い視点と総合的な判断力である.コンピュータやインターネットが急速に普及した現代社会では、日常生活の中に地球科学的情報があふれている.気象衛星やアメダスによる気象予報や農作物・漁業情報,地震・火山観測網に基づく噴火予知情報,活断層分布や土砂災害危険地帯の情報など数限りない.これらを的確にとらえ判断することは,個人生活にとっても,国土開発や防災のためにも重要であり,現代人のリテラシー(基礎教養)として,地球科学の基礎を理解し,その知識をもっておく必要性は増している。
このように21世紀に生きる私たちにとって必修ともいえる地球科学であるが,日本の高校理科教育で「地学」を履修する機会はきわめて限られている。平成13年度の全国の高校での「地学」履修率は1%,私の大学の地球惑星科学科に入学してきた学生のうち,高校で「地学」を履修したものは0%であった.つまり中学校の理科で石ころや天気の話を習ったら,それ以降,高校で地学を学ぶ機会はほとんどないのが現状である.したがって大学の一般教養教育のカリキュラムにおける地球科学は、一生に一度の地学を学ぶチャンスだということになる.私の「一般地球科学」の講義を履修した文系の学生のひとりから,私はこんなことをいわれたことがある.

「私は朝一時間目の先生の講義を聴くために,朝5時すぎに起きて大学に来ています.私の高校では地学という科目がなかったんで,地学は習っていません.私は将来,法律関係の仕事につきたいと思っていますので,大学を卒業して社会人になったら,一生地学の講義を聴くことはないでしょう。だから,先生の講義は私にとって一生に一度だけまとまって聴く“一生ものの地学”なんですと。
一方,多くの学生から毎年繰り返しいわれてきたことがある.それは,「地球科学のまとまった教科書,あるいは参考書を教えて下さい」ということである.ところが地球科学の基礎知識が過不足なく網羅され,1冊にまとまっている教科書は見当たらない.地球科学は物理学や化学と違って体系だっておらず,発展途上にある地球物理学,地質学,気象学,海洋学など様々な学問分野の総合科学である.したがって多分野にまたがって分担執筆された日本語のテキストはあるが,各分野の有機的つながりが明確でない。各分野の良い参考書やテキストを推薦することはできるが,これこそお奨めといえる1冊にまとまった一般地球科学のテキストがない.
そこで「一生ものの地学」を学ぶ学生のために,地球を総合的にとらえた1冊にまとまった教科書を目指して執筆したのが本書である。もとより地質学の一介の研究者にすぎない私が,大気・海洋を含む地球全体を総合的に概説したテキストを執筆することは無謀であることは承知しているが,現状を考えあえて筆をとった次第である。
高校の「地学」の教科書を見ればわかるように,「地学」は地球に関する様々な現象から宇宙に至るまで、実に多岐にわたる学問分野をカバーしている.しかし本書ではそれらをすべて網羅することはせず,地球とそのシステムの基本的な事柄を扱うことにした.本書は,将来社会にでても役に立つ地球科学の基礎知識と,地球規模の現象のとらえ方や考え方を概説することを目指した.そこで本書の題名は、『地球学入門」とした。
もちろん,地球科学の学問としてのおもしろさもわかってもらいたいと願って執筆した。地球科学は科学の諸分野の知識と方法を駆使して,私たちの住む地球の謎を解く学問である。地球と生命の起源や進化を探ろうとすると,必然的に物理学や化学,生物学などの知識が必要になってくる、地質学,地球物理学,地球化学,古生物学などの知識と油田開発や海洋開発の技術が結集して,プレートテクトニクスという新しいパラダイムが生まれ,今再びCTスキャンの原理を使って地球深部の三次元立体構造が明らかになりつつある.また,従来ほとんど相互に関係がないかのように取り扱われていた固体地球と水圏・大気圏および生物圏が,密接に関係し合っていることがわかってきた.エルニーニョやモンスーンなどの気候システムの成立と変動には、大陸の位置や海陸分布,巨大山脈や深海底の深層水の誕生など様々な要素が複雑に絡み合っているのである.一見何の脈絡もないように見える個々の自然現象が,どこかで相互に関係し合って地球という1つのシステムをつくっているのである.その謎解きのおもしろさを読者と共有することができれば幸いである.

酒井 治孝 (著)
出版社 : 東海大学出版部; 第2版 (2016/3/29)、出典:出版社HP

第2版の発刊に際し

本書は2003年の初版発刊以来印刷を重ね,2015年で第15刷となった.その間に読者の皆さんから頂いたご意見や誤りの指摘を踏まえて,新たに印刷するたびに改訂を行なってきた。また2004年のスマトラ沖巨大地震とインド洋の大津波,および2011年の東北地方太平洋沖地震と津波という、未曾有の巨大自然災害については,新たなコラムを書き加えることで対応してきた.しかし最近の人類の営為による地球環境の変化は激しく,それに伴う自然災害も発生するようになってきた.またエネルギーや人口の問題についても、技術開発や国際情勢の変化により新たな局面を迎えつつある。
そこで本書の内容と構成を修正し,第2版を出版した。まず従来から要望の多かった「堆積作用と堆積環境」についての第10章を新たに書き加えた.また「第3章水と二酸化炭素の循環」と「第16章人類による地球環境の変化」の一部を、最新の資料に基づき修正した.さらにカラー口絵「V堆積作用と堆積環境」,「VI地震・津波・土砂災害」を新たに付け加えた.
2015年3月には世界中のCO,平均濃度が観測史上初めて400ppmを超え,同年6~7月は1880年以来最も暑い月となった。世界の平均気温は,過去15年の内13年までもが記録を更新し,上昇を続けている。日本国内でも、毎年夏には40°Cに近い気温を記録するようになった。本書がこのような地球規模の変動と自然災害の理解に,少しでも役に立つことを願っている。

2016年1月31日著者

酒井 治孝 (著)
出版社 : 東海大学出版部; 第2版 (2016/3/29)、出典:出版社HP

目次

はじめに
第I部 惑星地球の環境
第1章 人類と地球の環境
1. 水はなぜ必要か?/ 2. 大気はなぜ必要か?/3.適当な温度はなぜ必要か? /・地球・火星の環境比較/5.地球表層の特徴

第2章 地球表層の温度
全星,地球, 火星の表面温度/2. 地球が金星のようにならなかった理由/3. 地球が火星のようにならなかった理由/ 4. 地球表層の温度と液体の水
コラム 太陽の質量を求める19
コラム 科学の進歩の道筋:観察・観測,実験→解析→普遍化 21

第3章 水と二酸化炭素の循環
1. 水の分布と循環/2.二酸化炭素の循環と温度調節機構
コラム干上がった地中海31

第II部 生きている固体地球
第4章 地球表層の構成と組成
1. 地球の成層構造/ 2.地殻の構成と化学組成 / 3.造岩鉱物の組成と構造/4. 火成岩の組成と組織・構造
コラム 地球内部の物質と圧力54

第5章 プレートテクトニクス
1. プレートテクトニクス/2. 大陸移動説と海洋底拡大説/3.海洋のライフサ イクル/4. プリュームテクトニクス
コラム 地磁気は生きている71
コラム 岩石の年齢と人骨の年代 81

第6章 火山と噴火
1. マグマと火山噴火/2.火山噴出物と運搬・堆積プロセス/3.火山噴火と マグマ溜まり/4.日本列島の火山/5. 地球上の火山/6.月の岩石
コラム 南九州の大規模火砕流101

第7章 地震と断層
岩石の破壊と流動/2.地殻の歪みと地震の発生/3.地震の発震機構と断層 14.地震の震度と規模/5.日本とその周辺の地震と活断層/6.地震と災害 トムトンネル工事中に動いた断層一丹那断層と北伊豆地震118
コラム スマトラ沖大地震とインド洋の大津波124
コラム 東北地方太平洋沖地震と津波130

第8章 日本列島の成り立ち
1. 島弧としての日本列島/ 2. 付加体の形成プロセス/3.日本列島の地質構 造/4.日本列島の大陸からの分離/ 5. 第四紀海水準変動と海岸平野
コラム 地滑りと土石流 162

第9章 岩石の風化と土壌の形成
1.堆積岩/2.土壌の形成
コラム 粘土とその利用

第10章 堆積作用と堆積環境
1. 陸から海へ/ 2. 河川と湖の堆積作用と堆積物/3.氷河による堆積作用と 堆積物/4.風による堆積作用と堆積物/ 5. 海洋の堆積作用と堆積物/6.堆 積物の付加と沈み込み

第III部 大気・海洋の循環と気候変動
第11章 地球の熱収支と大気の大循環
1.太陽放射と太陽定数 / 2. 地球大気の熱収支 / 3. 熱エネルギーの輸送/4. 大気の流れを起こすカ/5. 気圧配置と風系/6. 大陸・海洋の分布と気圧配置 17.偏西風波動とジェット気流/8. ハードレー循環とロスビー循環(フルッ の実験)
コラム 太陽の核融合とその寿命 214

第12章 海洋の構造と循環
1. 海水の化学的性質/2.海洋の物理的性質と構造/3.海洋の循環
コラム 潮の満ち干230

第13章 エルニーニョとモンスーン
1. エルニーニョ/2. モンスーン/3. エルニーニョとモンスーン
コラム 人類の発生と東アフリカ地溝帯 248

第14章 気候変動
1. 気候変動の原因/2. ミランコヴィッチサイクルと気候変動
コラム 南極大陸の分裂と氷河期256
コラム 古環境を解く鍵,安定同位体264

第IV部 地球環境の変化と生物の進化
第15章 酸素の起源と生物の進化
1.酸素の起源/2. 酸素の増加と生物の進化/3. 陸上植物の出現/ 4. P-T 境界とスーパープリューム/5. K-T境界と隕石の衝突
コラム ストロマトライトの栄枯盛衰

第16章 人類による地球環境の変化
1. 人類と地球環境/ 2. フロンガスによるオゾン層の破壊 / 3. 砂漠化/4. 合成化学物質による汚染と環境ホルモン/5.地球環境問題への取り組み

あとがき
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索引

酒井 治孝 (著)
出版社 : 東海大学出版部; 第2版 (2016/3/29)、出典:出版社HP