地球・惑星・生命

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地球惑星化学のフロンティア

地球惑星科学とは何か、何が面白いのかが丁寧に解説されています。著者は日本地球惑星科学連合の第一線の研究者であり、本書からは地球科学への情熱が伝わってきます。その研究をもとに、地球惑星科学の課題と今後の展望まで語られています。これからの地球とともに生きるための入門書として最適の1冊です。

日本地球惑星科学連合 (編集)
出版社 : 東京大学出版会 (2020/6/10)、出典:出版社HP

地球・惑星・生命

The Earth, Planets, and Life
Japan Geoscience Union, editor
University of Tokyo Press, 2020
ISBN 978-4-13-063715-2

はじめに

公益社団法人日本地球惑星科学連合会長 川幡穂高
「私たちはどこから来たのか?」「私たち人類が変え始めた環境は、持続可能なのか?」という素朴な疑問を皆様もお持ちのことと思います。もう少し具体的には、「私たちが生存する地球はどのように形成されたのか?」「地球で生命はどのように誕生したのか?」「地球のような惑星は他にもあるのか?」「私たち以外にも、高度な知力を有する生命体はいるのか?」など、人類が抱くこのような質問にひとつひとつ答えていくのが、「地球惑星科学」です。

地球や惑星は複雑で、そこで起こる現象は多様です。そこで、多面的な研究が必要とされます。しかし、地球の現在の姿を理解し、過去の歴史を解明し、未来の変動を予測するには、専門分野で展開されている詳細な研究を、分野横断的に拡大し、より高い次元の理解へと発展させることが要請されます。「地球惑星科学」は、とても広い範囲を対象とするので、伝統的にたくさんの専門分野に細分化されてきましたが、それらは「宇宙惑星科学」「地球生命科学」「固体地球科学」「大気水圏科学」「地球人間圏科学」および「関連の学際分野」に大きく分類できます。
「宇宙惑星科学」は、小惑星探査機の「はやぶさ」で知られるように、地球外の惑星・小惑星・衛星・惑星間空間などを対象に、太陽系外惑星の発見も契機となって、「ハビタブル(生命が存在し得る)」というキーワードで、地球を取り巻く宇宙環境や生命の存在する星の条件、太陽系および太陽系外惑星系の成立などを探求しています。

「地球生命科学」は、「生命誕生以前にどのように生命材料有機物が生成し、そこからどこでどのようにして生命が誕生したのか?」「単細胞生物から、どのように複雑な生命体に進化していったのか?」「地球環境の変化と生命の進化にはどのような関係があったのか?」「生命は、圧力、塩分などに関し、どのような極限環境まで生存できるのか?」などの課題を有し、地球や惑星というキーワードとの関連から、生物学とは一味異なるアプローチで、生命の本質に迫っています。「固体地球科学」では、火山噴火や東日本大震災で体験した地震や津波といった課題が、純粋な科学的見地から関心を集めるとともに、その研究の進展は自然災害の観点で社会からも期待されています。地球の質量はほとんど地殻・マントル・核という岩石や金属で占められ、その動態は、本書でも紹介されているプレートテクトニクス、プリュームテクトニクス、コアダイナミクスなどにより支配されます。地球内部は高圧の領域です。実験室で創り出される超高圧の世界と理論解析により、直接見ることができない地球深部の深い理解が進行しています。「大気水圏科学」では、地球という星を特徴づける海洋と大気を対象に、その循環の仕組みと相互作用に関心がもたれています。これらのプロセスは、台風や集中豪雨、地球温暖化など、将来の異常気象や気候変化と密接に結びついているので、社会のニーズも高くなっています。近年、現在のみならず過去の環境も定量的に復元できるようになりました。「地球惑星科学」は、物理学・化学と異なり、室内で実験が簡単にできない、ということが悩みとされてきましたが、近年ではモデリング研究により、コンピューターの中で地球の営みの精密な再現と深いプロセス解析が行えるようになりました。
最後になりますが、「地球」の最大の特徴は、人間が存在し、生活していることです。「地球人間圏科学」では、災害と減災、地球環境問題、水問題など、純粋な学問とともに人類にとって喫緊の課題が目白押しで、日々新しい知見が得られています。地球表層環境を駆動する太陽からのエネルギーが多量にふりそそぐ赤道域は気候駆動のエンジンに、そのスイッチは高緯度域というように、地球は全体としてひとつのシステムになっています。一見無関係に見える熱帯のサンゴ礁と南極の氷床も、地球表層システムとして密接に結びついていますし、氷床の融解と海面上昇は緊急の課題となっています。

本書は、公益社団法人日本地球惑星科学連合(Japan Geoscience Union、以下、JPGUと省略します)の30周年を記念し、刊行が企画されました。JpGUは、「地球惑星科学」を、さまざまな専門の手法を活かしながらも、分野横断的に研究を行い、最終的に統一的な概念を生み出すべく設立されました。2020年4月現在、地球惑星科学関連]学協会が参加し、個人会員1万3000人を有し、年会は毎年5月に開催され8000人以上の参加者があります。年会では、初日(休日)に、中高生や大学学部生を含む一般の方々を対象とした「パブリックセッション」が入場無料で組まれてきました。ここでは、どなたでも、地球惑星科学の最先端の話題や、社会にも役立つ研究成果にふれることができます。大学生以下の方々は、大会の参加自体が無料となっています。インターネットで「日本地球惑星科学連合大会」と検索すると、大会のプログラムなどの情報が入手できます。しかしながら残念なことに、本年度(2020年度)の年会は、新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、インターネット上での開催となりました。来年以降は、お近くの方もお誘い合わせの上、ぜひご来場いただければと思います。本書は、このような地球惑星科学の最先端と今後の展望がわかりやすくまとめられている、地球惑星科学への最適な入門書となっています。本書や大会パブリックセッションを通じて、「地球惑星科学」の課題を、皆様とともに考えられれば嬉しく思います。

日本地球惑星科学連合 (編集)
出版社 : 東京大学出版会 (2020/6/10)、出典:出版社HP

目次

はじめに
川幡穂高
序章 地球・惑星・生命の成り立ちを理解すること
田近英橘 省吾・東宮昭彦
I 宇宙のなかの地球
1 銀河のなかの惑星たち 井田茂
系外惑星研究の急進展 / 1995年の衝撃的なホットジュピターの発見 ゴールドラッシュ / 太陽系中心主義からの解放 / 遍在する地球型惑星 ハビタブルゾーンの地球型惑星 / 赤色矮星のハビタブルゾーンの地球型惑星 私たちは地球外生命を認識できるのか? / 生命が住んでいる兆候とは? 系外惑星の発見が切り拓いたもの、そしてこれから

2 太陽系小天体探査と「はやぶさ2」 渡邊誠一郎
小天体が握る太陽系形成の鍵 / 小天体探査と日本 「はやぶさ2」のリュウグウ到着 / 見えてきたリュウグウの特徴 ローバーと着陸機による表面その場観測 / タッチダウンに向けた取り組み 2回のタッチダウンと人工クレーター生成 /「はやぶさ2」の初期科学成果

3 地球型惑星からの大気流出とハビタブル環境 開華奈子
金星、地球、火星はどこで道を違えたのか / ハビタブル惑星と大気進化 地球型惑星からの大気流出メカニズム / 太古火星の気候変動――2つの謎 ハビタブル惑星の普遍性と多様性の理解に向けて

4 宇宙天気予報とは何か 草野完也
太陽フレアの発見とオーロラ / 宇宙天気とその社会影響 長期的な宇宙天気変動 / 宇宙天気予報の現状 より正確な宇宙天気予報のために / 宇宙天気予報研究のための国際協力
column-01 地球の超高層大気で起こっていること 坂野井健
column-02 アストロバイオロジー―地球人として未来を解くための鍵 薮田ひかる

I 生命を生んだ惑星地球
5 なぜ地球に生命が生まれたのか 小林憲正
生命の起源研究の始まり / 原始大気からの生体関連分子の生成 地球外の生体関連有機物 / 有機物から生命へのシナリオ(1)RNAワールド 有機物から生命へのシナリオ(2)がらくたワールド 太陽系天体に化学進化の化石と第2の生命を探る / アストロバイオロジーの役割

6 深海の極限環境に生命の起源を探る 高井研
生命の起源に関する最新シナリオ / 2つの深海熱水起源説 LUCAはどのような代謝で生きていたのか? LUCA誕生の場から生命誕生の場へ

7 最古の生命の痕跡を探る 小宮剛
冥王代という時代 / 冥王代の生命の証拠? / 原太古代のストロマトライト 最古の生物構造化石の発見 / 炭質物の同位体から見る最古の生命 地質試料に基づく初期生命研究の展望

8 恐竜研究の今、そして未来
恐竜研究の意義 / 日本で発見された恐竜化石 恐竜研究を飛躍的に進歩させた発見と技術 / 恐竜研究新時代
column-03 微化石から探る天体衝突と大量絶滅 尾上哲治

3 岩石惑星地球の営み
9 大きい地震と小さい地震、速い地震と遅い地震 井出哲
地震の大きさと発生頻度の関係 / 繰り返し地震 / 地震断層の階層構造 スロー地震の発見 / スロー地震と潮汐の関係 / GR則の直線の傾きb値 進化する観測システムと将来の地震発生確率予測

10 破局噴火 高橋正樹
日本埋没 / 破局噴火がもたらす「火山の冬」 / 量の問題 時間の問題 / マグマ溜りはひとつか / 人類社会に突きつけられた課題

11 まだ謎だらけのプレートテクトニクス 是永淳
プレートテクトニクスの「歴史」 / いまだに謎だらけ 表層環境とのつながり / 今後の課題

12 地球の中心はどこまでわかったか 廣瀬敬
地球の深部を再現する / ポストペロフスカイトの発見と最下部マントル コアから地球の起源を語る

13 「ちきゅう」で地球を掘る南海トラフ地震発生帯掘削 木下正高
南海トラフ地震発生帯―なぜ掘るのか?
「ちきゅう」による南海トラフ地震発生帯掘削 / 南海掘削の成果と達成 地層に働く応力 / 浅部断層の特性 / 浅部スロースリップの発見 ライザー掘削 / 南海掘削と「ちきゅう」の今後
column-04 計算機で地球や惑星の内部を探る 土屋久

Ⅳ 地球環境の現在、過去、そして未来
14地球温暖化を正しく理解するには 江守正多
地球温暖化とは / 本当に人間活動が主な原因か 二酸化炭素の収支と濃度増加 / 異常気象の増加は地球温暖化のせいか 将来の気候の変化とリスクの見通し / 地球温暖化に適応する 地球温暖化を止める / 社会の大転換が必要とされている

15 気候変化が海洋生態系にもたらすもの 原田尚美
円石藻と珪藻――その大きな違い / 海洋地球研究船「みらい」による観測
石藻ブルーム出現の原因 / 珪藻から円石藻の海へ 変わりゆく北極圏の海と海洋生態系 / 私たちに求められていること

16 過去の気候変動を解明する 横山祐典
古気候研究 / プロキシと古気候アーカイブ / 年代測定 古気候研究のターゲットとなる時代と今後の研究

17 激しく変化してきた地球環境の進化史 田近英一
大気中の二酸化炭素と酸素 / 暗い太陽のパラドックスと初期地球環境 酸素環境の変動史 / 全球凍結イベントがもたらしたもの 地球環境変動史という視点
column-05 気象・気候・地球システムの数値シミュレーション 渡部雅浩
column-06 日本初の地質時代名称「チバニアン」 岡田誠

V 人間が住む地球 佐竹健治
18 「想定外」の巨大地震・津波とその災害
巨大地震と津波 / 2004年スマトラ・アンダマン地震とインド洋津波
2011年東日本大震災 / 古地震調査による地震発生履歴 津波の観測と予報 / 今後の展望

19 環境汚染と地球人間圏科学―福島の原発事故を通して 近藤昭彦
なぜ研究者が福島に向かったのか / 何がわかっていたか、何を知るべきか 空間線量率の分布の意味するもの / なぜ人は山村に戻ったか 文明社会のなかの地球惑星科学

20 防災社会をデザインする地球科学の伝え方 大木聖子
4枚カード問題 / 地球科学と人間科学 / 防災教育するほど防災意識が下がる? 文脈をもたせて情報を届ける / 地球科学の研究成果の伝え方の研究

21 地球をめぐる水と水をめぐる人々 沖大幹
忘れられた地球科学水文学 / 気候システムと陸域水循環 地球上の水循環の実態は? / 人間活動を考慮した水循環研究 人間活動がグローバルな水循環に及ぼす影響 バーチャルウォーター貿易 / 水文学のこれから
column-07 深層崩壊と防災 千木良雅弘
column-08 地球惑星科学とブラタモリ 尾方隆幸
シームレスなストーリー/一般化されたストーリー

あとがき これからの地球惑星科学に向けて 田近英橘 省吾・東宮昭彦
編集委員紹介 *執筆者紹介は各部の末尾に掲載した。
索引
部中扉解説・出典

日本地球惑星科学連合 (編集)
出版社 : 東京大学出版会 (2020/6/10)、出典:出版社HP