【レビュー】富裕層のバレない脱税―「タックスヘイブン」から「脱税支援業者」まで

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目次

序章 なぜ人は脱税するのか?
ある「税金教室」から
国税局資料調査課とは?
税務調査はドブさらい脱税する4つの理由
「バレない脱税」は存在する
本書の構成

第一章 税金から逃れる「庶民」たち
1なぜ水商売や飲食店に脱税が多いのか?――現金商売
サラリーマンと自営業では大違い
政治資金の監査は甘い所得調査は「収入」と「経費」のチェックが必要
最も捕捉困難な「現金商売」
不正業種のトップはバー・クラブ
圧倒的に多い「売上除外」
売上除外の巧妙な手口脱税協力者は外側にも潜む飲食店のPOSデータで不正できるか?「両落とし」を見破る内観調査反面調査と推計課税突出する風俗業の脱税額当局はデリヘルにどう立ち向かうのか?
原始記録をめぐる駆け引き
相手を出し抜く仕掛け

2「坊主丸儲け」は本当か?――宗教法人
宗教法人も課税される
住職や宮司の社宅はやむを得ない
お守りやおみくじに課税できるのか?
1個2000万円の仏舎利はお布施
信者に事業をさせて資金源に
信者の労働力を搾取宗教家の裏金づく
ラブホテルを経営する宗教法人?
DNAの置物で10億円を稼ぐ
なぜ宗教法人は売買されるのか?
「坊主丸儲け」の不条理
うちの社長はなぜ脱税したのか?―中小企業なぜ脱税は中小企業に多いのか?
行政手続と刑事手続
「会社の相続」という大問題
「名義株」という脱税手法
精密機器メーカーA社の場合
節税税理士の提案
税金逃れで小遣いを捻出
リョウチョウの調査は突然始まる
反面調査の優先順序社員のモラル崩壊に直面
なぜ中小企業に税金逃れが多いのか?
第一章のまとめ

第二章「富裕層」のバレない脱税
1なぜ小金持ちはずる賢いのか?――個人投資家
キャピタルフライト元年
なぜ日本人は海外投資へと走ったのか?
海外投資における税金の仕組み
ファンドを使った手口
私募を悪用した隠蔽スキーム
無分配型ファンドの隠蔽スキーム
匿名組合を悪用したスキーム
F国の「つなぎ融資」の悪用
N国の「プライベートバンク」
V国の「不動産投資」
C国での「借地権売買」
C国での「オーバーバリュー」
金塊はなぜ日本に持ち込まれるのか?
国税を搾取する悪党たちインゴットにリスクはあるか?
「黒いダイヤモンド」不正還付事件

2金に糸目をつけないウルトラCでカネを逃がす―富裕層
富裕層とは誰か?
富裕層への課税が強化される理由
富裕層をターゲットにした時代の幕開け
当局は富裕層にどう対処しているのか?
「生命保険」を活用したスキーム
「相続税節税」のウソ
解約返戻金重視の外国生命保険
PBからの借り入れによるレバレッジ
タックスヘイブンを利用した保険スキーム
保険の受取人を特殊関係人にする方法
外国生命保険のリスクとは?
起業家の資産移転スキーム
「富裕務」は導入すべきか?

3法の抜け穴を悪用する輩――ループホールvs国税局
各国で異なる「税制」と「税法」
ループホールとは何か?
完全合法の租税回避スキーム
租税回避にはカネがかかる
「パナマ文書」の大騒動
「タックスヘイブン=悪」は本当か?
ノミニー制度の悪用
知られざるタックスヘイブン「ラブアン島」
「ラブアン法人はクサい」
当局は国際的な租税回避を見破れるか?
国際戦略トータルプラン:1情報リソースの充実
国際戦略トータルプラン:2調査マンパワーの充実
国際戦略トータルプラン:3『グローバルネットワークの強化
国際戦略トータルプラン:4租税回避スキーム案件の把握
第二章のまとめ

第三章 暗躍する「脱税支援ブローカー」たち
1脱税を堂々と支援する輩――B勘屋
B勘屋とは?
タクシー運転手の架空領収書
バー・クラブの水増しや白紙領収書
「反社」をタテにする方法
赤字会社を介在させた脱税

2癒着で暗躍する悪いヤツら – 国税OB税理士
射程距離を熟知国税OBの二つのタイプ
なぜ「癒着」が起こるのか?
マルサ出身OBは「事件屋」になりやすい

3世界をまたにかけて脱税を支援する悪いヤツら――プロモーター
ファンドハウス(資産運用会社)プライベートバンク
投資銀行
海外不動産ブローカー
コンサルタントと名乗る人々
第三章のまとめ
本当に悪いヤツらは誰か?

あとがき―脱税はなくならない

 

序章なぜ人は脱税するのか?

ある「税金教室」から
私の子供が通う小学校では、6年生の3学期になると社会学習の一環として、子供たちの親の職業紹介を、実際に親自身がプレゼンするという形式で、授業を行っている。長男が6年生のときに私もその授業に参加することになり、職業が税理士ということで「税金教室」というプレゼンをすることになった。ちなみに「納税義務」という言葉は小学生でも知っている。みなさんもご存じのとおり、憲法には次のような条文がある。

「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ」(日本国憲法第3条)
とはいえ、小学生に難解な「納税義務の意義」を教えるわけにはいかない。授業では難しい話をしてもしようがないので、身近な話題を用いて、イラストを多く使うことにより、興味を持ってしっかり聞いてもらうことに配意した。事前に授業で使う説明資料を作成しながら、気づいたことが一つある。当たり前のことながら税金の大切さだ。大変お恥ずかしい話だが、今さらながら「へぇ、こんな使われ方しているんだな」と税金の重要性を再認識した。

ところで、みなさんはご存じないかもしれないが、税務署や税理士会でも「租税教室」と称して、税金の大切さを伝えるイベントを定期的に開催している。なぜ租税教室をしているのか?それはほかならぬ「未来の納税者」となる学生のみなさんに、税の意義や役割を正しく理解してもらい、税に対する理解が広がっていくことを期待しているからだ。つまり「正しい申告・納税をする人」になってくださいという趣旨である。小学校での私の「税金教室」プレゼンも、その点を踏まえながら作ることにした。

国税局資料調査課とは?
具体的には、次のような内容で小学校での税金教室の授業を進めた。

・税金はなぜ必要なの?
・どうやって公平に税金を集めるの?
・税金を公平に使うってどういうこと?
・税金から見た民主主義とは?
・日本の財政と課題

税金教室で小学生に向かって話をしながら、私はハッと我に返り考えた。今ここで私が行っている税金教室や、税務署や税理士会が行っている租税教室は、果たして本当に将来の善良な納税者育成の役に立っているのだろうか、と。
こうした税金に関する解説は、いつだって正論で埋め尽くされている。税金が国家を支えており、不可欠なのはたしかにそうだろう。

しかし、言葉を尽くして税金の大切さを説明したところで、「正しい申告・納税をする人」は増えないのではないか。その理由を説明するのに、少し長くなるが自己紹介をさせていただきたい。過去、私は東京国税局課税部資料調査課に所属し、さまざまな事案に従事してきた。国税局資料調査課は通称「リョウチョウ」と呼ばれており、税務の分野では良くも悪くも恐れられる存在だ。

国税局でいちばん有名なのは国税局査察部、通称「マルサ」だろう。昭和2年(1987年)に公開された伊丹十三監督の映画『マルサの女」でその名が広く知られるようになった。マルサは国税犯則取締法に基づく調査で、裁判所の令状をもって強制調査を行う部署である。その意義は、できるだけ多くの脱税者を捕捉し、調査して検察庁に告発することにある。つまり「一罰百戒」を大義としているのだ。そのためマルサの調査は、徹底した内偵により脱税した所得の証拠(隠語でこれを「タマリ」と呼ぶ)を把握できた事案が対象となる。

一方で私が所属したリョウチョウは、タマリがなくても調査を実行する。国税局に蓄積された各種マスコミのデータ、納税の申告データや会社データなど、あらゆる情報を基に調査対象者を選定し、令状なしで(むろん納税者による「明示の承諾」は必要だが)隅から隅まで調べ上げる部隊である。「これはクサい」と思う案件を探し出し、事前通告なしにターゲットに踏み込むのだ。大型事案では100人超が投入されることもある。

ゆえにリョウチョウのターゲットには、「大口」「悪質」「宗教」「政治家」「国際取引」「富裕層」など必然的に調査するのが困難な案件が並ぶ。つまり、税務署では調査することができない案件を担当するとも言い換えられる。マルサが手を出せない案件まで扱うという点において、リョウチョウは税務調査の「最後の砦」なのだ。

税務調査はドブさらい。
世間ではマルサが税務当局における最強部隊のように認識されているが、徴税に関してはリョウチョウのほうが圧倒的に怖い存在である。

そのことは数字からも裏づけられる。東京国税局を例にすると、マルサが2016年度に告発した脱税金額(本税及び加算税)は億円であり、マルサ職員が約300人とすると一人あたりの調査によって把握した脱税金額はおよそ1600万円だ。一方でリョウチョウの具体的な数字は統計発表されないのでベールに包まれているが、一人あたりの年間追徴本税は、かつて所属した私の実感としてマルサの数倍以上になるのは間違いない。もちろん、マルサの場合は公判維持に耐えられる材料で勝負するという制約があり、「安易な課税」がなかなかできないという事情があることを付記しておこう。

さて、そのリョウチョウに所属していた私は、ほかの職員に比べても実に多種多様な事案に従事してきたと思う。しかし、いくら脱税を暴き課税処分しても、次から次へと大口の不正事案が湧いて出てくる感じがしてならなかった。

誤解を恐れずに言えば、税務調査という職業は「税務申告のドブさらい」に似ているかもしれない。どんなにキレイにしたつもりでも、自然とドブの底にはヘドロがたまっている。もしかしたらこのドブさらいは、当局が気にしている「税務申告の水準」を維持するための作業にすぎないのではないか?

これから本書で取り上げる「脱税できる人たち」は、もちろん「租税正義」という観点ではまったくいただけない車だ。しかし、ビジネスで稼ぐという観点から見れば、それなりの能力を持った人たちであり(日本の会社の7割近くは赤字である)、上から目線で恐縮ではあるが、社会の平均点以上の人たちである。つまり脱税をするのはこうした能力の高い人たちで、きちんとした教育を受け、納税が国民の義務であることぐらいは当然知っているだろう。ところが、いざ目の前にカネが積み上がると、簡単に一歩踏み外してしまうのである。元国税局の人間として、そうした光景は嫌というほど見てきた。

いくら税金教室や租税教室に力を入れたところで「正しい申告・納税をする人」が増えないだろうという直感は、きっとこのリョウチョウにいたころの感覚とつながっているのだろう。自らが小学校の税金教室を取り仕切ることで、あらためて無力感を抱いたのだ。ドブを放っておけば、底にヘドロが自然とたまる。ドブさらいは永遠に終わることがない。

脱税する4つの理由
とはいえ、ドブさらいをしなければ水は濁っていくだけだ。だからこそ国税局・税務署は、納税者から申告された所得が正しいかを確認するために税務調査を行っている。正直者が馬鹿を見るような風潮になってはいけないし、納税者に適宜接触することにより、一定の「税務申告の水準」の維持を図っている。

当局が平成8年(2015年)に全国で調査した法人数は約9万4000件、このうち非違(申告もれなどの誤り)があったものが約6万9000件(3%)、不正があったものが約1万8000件(9%)となっている。調査した法人の約2割に不正申告があったことになる(図表序-1)。個人にあっては、調査した約4万8000人のうち、非違があったのは約4万1500人(86%)となっている(図表示-2)。

調査では、単純な計算間違いだけでなく、悪質な不正計算(=脱税)が把握されることもある。そしてもちろん、脱税でも悪質度、脱税額の多寡によっては刑務所に入ることがある。小学生でも納税義務は「知っている」のに、なぜ人は脱税してしまうのだろうか?元国税局である私の経験上、彼らには次の4つの主な動機があると考えられる。

1. 個人的理由で消費するため
・個人資産の蓄財、恋人・愛人への支出、趣味への浪費など
要は自分勝手なタイプの典型である。脱税したカネを預貯金、有価証券投資、不動産購入などに充てたりする。愛人を囲うための手当やマンション貸料を脱税資金から捻出するケースもあるが、せこい脱税者になると愛人資金を経費に仮装(業員名目での給与)したりもする。こういう事案は大体が善良な社員や別れた愛人からのタレコミで発覚する。

2. 事業に必要な金を作る
・将来の経済不況に備える、または受注工作資金(裏リベート、交際費捻出)など
どちらかというと、会社事業に真面目なタイプといえる。好況が続くことは稀なので、景気がいいときに裏金を捻出してプールし、不況になったときの軍資金に活用しようとするものである。または仕事をとるために、キレイごとばかりは言っていられないので、ときには「まんじゅう」「こんにゃく」(ともに賄賂を意味する隠語)などで仕掛けることもある。

3.バランスシート改善
・社長に対する貸付金を脱税資金で回収
中小企業では、社長が何らかの理由で会社から金銭借入をすることが少なくない。短期的なものであれば問題にならないが、長期で多額なものになると、融資をしている銀行から問題視されることがある。会社の資産が社長に流出することになり、きちんと返済されるのかどうかと返済原資が心配になるからだ。

つまりは、融資などをしている銀行から見ると、会社と社長間での貸借取引は評価が下がることになる。そうした理由から、たいていは早期返済を考える。しかし社長個人に返済資金がない場合、脱税した金をあたかも「会社に返済した」ように見せて、貸借関係を償却する手法を使うことがある。ちなみに当局はこうした手口をもちろん把握しており、税務調査では返済原資に注目した調査が行われることになる。

4.イデオロギー・日本が嫌い、保守政党が嫌い
当局から見て、ある特定のイデオロギーに染まった納税者がいちばんクセが悪く扱いづらい。「税制」は政治家の駆け引きで決まることがあり、いわば「税=政治」ではあるが、一方で「税法」は「数字と理論のみ」で構築されるものだ。その間には常に乖離が生じやすい。

イデオロギーに染まった納税者は、自分の信じる「税制」のあるべき姿と、現実の「税法」の執行の間に隔たりがあった場合、当局にまったく耳を貸さなくなる。一昔前に比べたらこうした納税者は減ったものの、税務調査の現場では彼らとのトラブルが絶えない。

「バレない脱税」は存在する
このように、脱税の理由はいくつかの動機に分類できる。ところが近年になり少し困った状況が起こりつつある。私的な理由で行われる「バレない脱税」とも呼ぶべき、きわめて巧妙かつ周到な租税回避術が爆発的な勢いで増殖をしているのだ。

平成9年(2016年)4月に国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が公表して世界に衝撃を与えたのが「パナマ文書」だ。同文書はモサック・フォンセカ(パナマの法律事務所)によって業務上作成されたもので、1970年代から総数で約1150万件の公的機関、企業及び個人富裕層の情報が書かれていた。そのなかに政治家や著名人などの名前があり、この流出事件により租税回避などの「犯人探し」が世界中で行われることになり大ニュースとなった。

しかしながら、パナマ文書をきっかけに注目を集めた、税金が著しく軽減されたもしくは免除された地域である「タックスヘイブン(租税回避地)」の存在は、それ以前から広く知られていた問題だ。国税時代にリョウチョウとしてさまざまな税務調査に従事し、税理士になってからもアジア諸国への数十回の渡航でいくつもの租税回避案件を目にしてきた私からすれば、タックスヘイブンはたくさんある租税回避術の一つにすぎない。つまり「ワンオブゼム(one of them)」である。

パナマ文書の騒動を経て同時に気づかされたのは、国際化が著しい脱税の現状や、私が知るような租税回避スキームを、多くの人が知らないという事実だ。よくテレビのバラエティ番組などで見るような「床下の隠し金庫に現金を隠す」などという古典的な脱税手口など、もはや過去のものである。

私はこの脱税を取り巻くイメージのあまりの古さに、何よりも危機感を覚えた。税金は国家のインフラを支える大切な資金源である。にもかかわらず、日本人の多くが「バレない脱税」が存在することを知らない。ならば元国税局の人間として、リョウチョウ出身者として、みなさんに伝えるべきことがあるのではないだろうか。私が本書を執筆する動機はここにある。

 

本書の構成

本書のタイトルにもあるとおり、この「バレない脱税」を最もうまく行っているのは、いわゆる「富裕層」である。要するに金持ちこそ、カネに糸目をつけず、あらゆる脱税を試みている。
とはいえ、いきなり富裕層の脱税手口を紹介すると、あまりに手口が巧妙で複雑であるため、読者のみなさんには理解が難しくなる。

そこで、本書では第一章に、これまでの古典的な脱税手法とも呼ぶべき、比較的イメージしやすい題材を用意した。ご紹介するのは「現金商売」「宗教法人」「中小企業」の3つだ。

「現金商売」は飲食店や水商売をはじめ、不正が行われやすい業種である。みなさんは人間の欲深さを目にするだろう。「宗教法人」も同様だ。「坊主丸儲け」とはよくいったもので、住職など聖職者の不正は思いのほか多い。私が大規模宗教法人の税務調査も所管するリョウチョウ出身ということもあり、類書にはない面白いケースをご紹介できるだろう。そして3つ目に「中小企業」だ。

みなさんの身近にいる社長がなぜ脱税に手を染めやすいのか、典型的な家族経営の相続という問題に焦点を絞った。あえて大企業ではなく中小企業を扱う意図を本文から感じていただけると幸いだ。

第二章は、国内から舞台を移し、海外を絡めて行われるいわゆる「キャピタルフライト(資金逃避)」の脱税のケースを取り上げる。「個人投資家」「富裕層」「ループホールvs国税局」と大きくパートを分けているが、要するに金持ちによる大がかりかつ複雑な脱税を紹介する。

第二章の脱税手法を知ることで、タックスヘイブンがあくまで「ワンオブゼム」であり、氷山の一角にすぎないことをざっくりとご理解いただけるだろう。元リョウチョウの私自身が、もっとたくさんの人に知ってもらうべきだと感じていることをきちんと記述したいと思う。

「個人投資家」のパートでは、特に最近よくニュースで見かけるようになった「金塊の密輸」がなぜ行われているのか、またファンドや不動産投資を利用したスキームなどについて、詳細に解説を加えたい。また「富裕層」パートではカネに糸目をつけない大金持ちならではの大胆な脱税手法を紹介する。「ループホールvs国税局」パートでは、法の抜け穴を活用しようとする革に対して、当局がどのように対応してきたのか、また対処しようとしているのかについて、元国税局の立場から意見を述べたい。

第三章は、脱税する人たちをカモにする「脱税支援ブローカー」の存在を白日のもとにさらす。悪さをそそのかすという観点からいえば、最も悪い輩なのかもしれない。いわば税金に取りつく魅魅題髄である。「B勘屋」は古くからよく知られた存在である。本書の構成でいえば、第一章の古典的な脱税手法を支援するのが彼らだ。このパートで領収書の偽造、赤字会社の介在など、昔ながらの手口をみなさんにも確認してほしい。「国税OB税理士」はもっとやっかいな存在である。私も国税OB税理士には違いないが、ごく一部ではあるが悪さに手を染める心ない者がいる。

内部にいた人間として、なぜ彼らが脱税支援に手を染めるのかの理由をこのパートで明らかにしたい。最後の「プロモーター」こそ、富裕層が最も頼りにする存在である。本書の構成でいえば、第二章で紹介するような国際的かつ複雑な脱税スキームを編み出すのが彼らだ。日進月歩で新たな脱税スキームが生み出される現在、プロモーターの存在を知ることで脱税を防ぐことの困難さを感じていただけるだろう。

すべてのケースについて、国家公務員法、税法及び税理士法で定める守秘義務に配意しながらも、具体的に書くことを心がけた。

とりわけ税に関しては、「都市伝説」がいまだに堂々と闊歩している感がある。脱税まがいの節税スキームが「バレない」から大丈夫だとされる誤解、あるいは海外取引・海外決済のいわゆる「ソトソト」ならセーフだといった話、国税局主要ポストで退官したいわゆる「国税OB税理士」を顧問に迎えれば税務調査で追徴が安く済むといったウワサまで、あまりにも虚実が混じって世間に伝わっている。私はそうした都市伝説が好きではない。本書を通じて、みなさんにはこうした虚実の区別がつくようになってほしいと願っている。

最後に、本書の内容はみなさんが「これならバレない」と思っているような最新の脱税手法であっても、実は「国税当局はすでに把握している」という警鐘でもある。たとえ永遠のいたちごっこだったとしても、常に当局は脱税に目を光らせていることを忘れないでほしい。

これは本書の最大のメッセージでもある。なお、専門書などでは「脱税」「租税回避(必ずしも違法ではないが脱法ではある)」のそれぞれを定義することがあるが、読み物としての本書の性格上、特に区別していない。脱税も租税回避もともに「意図的に納税額を減らす」という点において、その経済的効果に違いがないからだ。また、根拠条文の挿入も一部割愛しているが、あらかじめご了承のうえで読み進めていただければ幸いである。