空間デザイン事典

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写真でわかるデザイン手法

空間をデザインする上で必要な概念や手法を整理・分類して、実空間を例示しながら解説していきます。多くの写真や図面が用いられているので、視覚的に難なく理解することができます。空間デザインに興味がある方や建築を学んでいる方におすすめの1冊です。

日本建築学会 (編集)
出版社 : 井上書院 (2006/7/20)、出典:出版社HP

まえがき

日本建築学会・空間研究小委員会では,これまでに『空間体験―世界の建築・都市デザイン(1998年)」,『空間演出一世界の建築・都市デザイン(2000年)」,『空間要素―世界の建築・都市デザイン(2003年)』を刊行してきた(いずれも井上書院刊)。これらは,「空間の魅力とは何か」というプリミティブな視点から建築・都市空間を吟味し,豊富な実例を多数引用しながらその魅力や面白さについて解説したものである。
本書は,これら3部作の根底に流れる編集意図を引き継ぎながら,2005年に刊行した『建築・都市計画のための空間学事典[改訂版]』(日本建築学会編,井上書院刊)の姉妹編として企画された。『空間学事典』が,建築・都市空間研究の分野で用いられる用語について解説した事典であるのに対し,本書『空間デザイン事典』は、空間を計画・設計(デザイン)する際に用いられるさまざまな概念や手法を整理・分類し,実空間を例示しながら解説した事典である。建築や都市について学んでいる初学者をはじめ、空間に興味をもつ一般の読者にとっての啓蒙書となるよう,多数の写真や図面を用いてわかりやすく解説している。
計画や設計のイメージを喚起させ,また,豊かにするための手掛かりとして,あるいは,研究対象を発掘する際の建築・都市空間の事例集として,さらには,実際に空間を見学し体験するためのガイドブックとして活用していただければ幸いである。建築学を学ぶ学生諸子にとって,これら2冊の姉妹図書が,それぞれ卒業研究と卒業設計のための恰好の参考図書とならんことを期待してやまない。
本書の編集にあたっては,空間研究小委員会のメンバー以外にも多くの方々から貴重な原稿や写真の提供を賜わった。また,井上書院の石川泰章氏,山中玲子氏には、企画から校正に至るまで丹念に対応していただいた。さらに,編集にご尽力いただいた出版ワーキング・グループのメンバーの方々,特に,積田洋氏(同主査),金子友美氏(同幹事)の熱心な取組みがなければ本書の完成はなかった。記して謝意を表したい。
2006年7月空間研究小委員会主査大佛俊泰

本書の特徴と構成

建築空間や都市空間の「魅力」は,さまざまな観点から読み取ることがですでに空間研究小委員会では,実際の建築や都市での空間体験を通じてその空間の魅力を紐解いた「空間体験―世界の建築・都市デザイン(1998年)」,また建築や都市空間を構築していくうえで,さまざまな手法を用いてより魅力的な空間を創出するための演出手法に着目して「空間演出一世界の建築・都市デザイン(2000年)』を、さらに空間を構成していくための基本的な構成要素である柱や窓,壁や天井といった要素に注目して、空間の魅力を要素の側面から綴った「空間要素―世界の建築・都市デザイン(2003年)」の3部作を刊行している(いずれも井上書院刊)。

本書は,これら3部作の成果を踏まえて、建築や都市をデザインするでの概念や手法を用語として整理し,その用語について事例を中心に解説した事典として編纂したものである。
いわゆる事典が用語の解説に当たって活字のみで記述されがちであるのと対照的に、本書では解説文は極力簡潔なものにすることを前提に,ページ構成の紙面の中で2割程度の分量として、解説文は550字程度にとどめることにした。したがって、紙面の多くは実例を掲載している。この構成が最も特徴的な点であり,多数の建築や都市空間の事例をカラー写真でビジュアルに示すことにより,その中に読み取れるデザイン手法を実証的に理解することを目論んでいる。

まず,デザイン手法として多数の概念や手法を出版ワーキング・グループのメンバーで整理・分類した。次に,用語を目次に示すようにデザイン行為を操作的・能動的に表現する言葉で「章」を構成することとし,「立てる。覆う,囲う,積む、組む,掘る・刻む,並べる,整える,区切る,混ぜる,つなぐ,対比させる,変形させる,浮かす,透かす・抜く,動きを与える,飾る,象徴させる、自然を取り込む,時間を語る」の20の概念に整理した。さらに、これらの概念を具体的に示すデザイン手法として,概念ごとに4~6つの用語に整理した結果,計98の用語について見開き2ページで解説している。一つの用語については、10数個の事例を挙げており、最もその用語についてデザイン手法を代表する事例の写真を大きく扱い、さらに用語ごとに写真のみならず平面図や断面図なども併せて掲載し、理解を促すようにレイアウト・構成している。

本書で例示した建築・都市空間の事例数は,重複も含め総計700近くにも上っている。これらの事例は,巻末に事例索引として世界の地域別に名称をまとめて示している。

当然のことながら,建築や都市空間をデザインする方法は多様である。本書では,その用語の代表的な事例を掲載することに努めているものの,写真は原則的に執筆者や協力者である学生の撮影したものを採用しているため、用語によってはおのずと限界があり例示できないものもあった。さらに、建築や都市空間のデザインの手法が一つの手法で創出されていることは、むしろ稀なものであり,複数の手法が複合的に用いられていることは言うまでもなく、事例の採用に当たっては,編集委員会で幾度も検討を行った。その結果として,本書で扱った事例を代表例として掲載していることをご理解いただければ幸いである。
本書の解説文で用いられた空間について語られる用語については,本書の姉妹編である当委員会編纂の『建築・都市計画のための空間学事典(2005年)』(井上書院刊)を参照していただきたい。

本書の編集に際しては,本書の特徴であるデザイン手法を示す多数の建築・都市空間の例示が中心となっていることから,目次にも示されているようにそれぞれの章について担当者を決め,概ねその章の担当者の研究室に所属する学生を中心に,編集段階から多数の写真を収集し掲載している。
改めて幹事の金子友美氏をはじめ,編集委員の方々ならびに章の担当者,さらに多数の写真を提供していただいた方々に深く感謝申し上げる。

本書が,建築や都市を学ぶ学生諸子,さらに実際に計画・設計に携わっている方にデザインを考えるうえでの一助になれば望外の幸いである。

2006年7月空間研究小委員会出版ワーキング・グループ主査積田洋

[編集委員] 積田洋東京電機大学工学部建築学科教授空間研究小委員会·出版WG主香
金子友美昭和女子大学生活科学部生活環境学科講師同小委員会・出版WG幹事
土肥博至神戸芸術工科大学大学院芸術工学研究科教授
福井通神奈川大学工学部建築学科助手
安原治機工学院大学工学部建築都市学科教授
山家京子神奈川大学工学部建築学科教授

[執筆者] 赤木徹也 工学院大学工学部建築学科助教授
石井清已 神戸芸術工科大学大学院土肥研究室
伊藤真貴 神戸芸術工科大学大学院土肥研究室
井上猛 東京工業大学大学院大佛研究室
大佛俊泰 東京工業大学大学院情報理工学研究科情報環境学専攻助教授
金子友美 前出
鎌田詩織 東京工業大学大学院大佛研究室
木下芳郎 東京工業大学大学院理工学研究科建築学専攻助手
黒川茜 神戸芸術工科大学大学院土肥研究室
腰越耕太 KOA Architects建築設計室主宰
斉藤理 東京大学客員研究員,東京理科大学非常勤講師
佐々木一晋 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士後期課程,慶應義塾大学環境情
報学部非常勤講師
佐野奈緒子 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻助手
島田廉 東京工業大学大学院大佛研究室
鈴木信弘 鈴木アトリエ一級建築士事務所代表,神奈川大学工学部建築学科非常勤講師
鈴木弘樹 栗生総合計画事務所,東京電機大学工学部建築学科非常勤講師
関戸洋子 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻客員研究員
高柳英明 高柳英明建築研究所顧問,千葉大学工学部开工学科助手
津田良樹 神奈川大学工学部建築学科助手
積田洋 前出
土肥博至 前出
富井正憲 神奈川大学工学部建築学科專任講師,東京大学生產技術研究所協力研究員
中田由美 東京工業大学大学院大佛研究室
林田和人 早稻田大学理工学術院講師
日色真帆 愛知淑德大学现代社会学部現代社会学科教授
福井通 前出
星野雄 東京工業大学大学院大佛研究室
本間義章 本間義章建築設計事務所(associate with S.C.S)
安原治機 前出
柳田武 日本大学理工学部建築学科講師
山家京子 前出
山岸千夏 神戸芸術工科大学大学院土肥研究室
横山勝樹 女子美術大学芸術学部デザイン学科教授
横山ゆりか 東京大学大学院総合文化研究科広域システム科学系助手

[2006年度空間研究小委員会・出版WG] 主査 積田洋
幹事 金子友美 佐野奈緒子 鈴木信弘 鈴木弘樹 高柳英明
委員 大佛俊泰* 林田和人** 福井通 安原治機 柳田武
土肥博至 横山勝樹 恒松良純 山家京子

*:空間研究小委員会主查
**:2005年度空間研究小委員会,出版WG委員
(主查・幹事以外は五十音順)

日本建築学会 (編集)
出版社 : 井上書院 (2006/7/20)、出典:出版社HP

CONTENTS

1立てる 福井通
中心・要に立てる
高々と立てる
周域に立てる
林立させる
連続して立てる

2覆う 安原治機
自然で覆う
光とともに覆う
柔らかく覆う
街路・広場を覆う
軽く覆う

3囲う 土肥博至
全体を囲う
緩やかに囲う
仮に囲う
領域を表す
中央空間をつくる
囲わない

4積む 積田洋
同じ要素を積む
異なる要素を積む
層を重ねる。
基壇に載せる
ずらしながら積む
ランダムに積む

5組む 鈴木信弘
格子で組む
トラス・スペースフレームでつくる
面でつくる
ボリュームでつくる
組み立てる

6掘る・刻む 積田洋
掘り下げる横に掘る
刻む・切り取る
地下空間をつくる

7並べる 金子友美
均等に並べる
リズムをつくる
集中させて並べる・分散して並べる
秩序をつくる

8整える 大佛俊泰
幾何学で整える
比例・比率で整える
軸線を通す
シンメトリーにする
グリッドでつくる

9区切る 福井通
壁で区切る
幅で区切る
レベル差で区切る
装置・記号で区切る
曖昧に区切る

10混ぜる 横山勝樹
カオスを表現する
まだらにする
複数のコードを使う
コラージュする
スタイルを混ぜる

11つなぐ 山家京子
動線でつなぐ
空中をつなぐ
分節してつなぐ
上下をつなぐ
緩やかにつなぐ

12対比させる 金子友美
形態を対比させる
明暗をつける
開閉で対比をつくる
色彩で対比させる
新旧を対比させる

13変形させる 大佛俊泰
曲げる
ずらす
崩す
うねらせる
軸をふる

14浮かす 林田和人
全体を浮かす
一部を浮かす
水に浮かす
吊って浮かす
突き出す

15透かす・抜く 安原治機
物を通して透かす
間を透かす
水平に抜く
垂直に抜く

16動きを与える 横山勝樹
ボリュームで動きをつくる
景を転換する
面で動きをつくる
人の流れをつくる.

17飾る 柳田武
象徴性を与える
内部空間を飾る
文様で飾る
過剰に飾りたてる
レイヤーをまとう

18象徴させる 鈴木信弘
場を象徴させる
思想・主張を象徴させる
メタファーを使う
技術を象徴させる

19自然を取り込む 積田洋
地形を生かす
風土になじませる
風景をつくる
風景を切り取る
光を取り込む
水を取り込む

20時間を語る 土肥博至
物語を表現する
宗教を形に表す
引用する
歴史を取り込む
記憶を引き継ぐ

執筆/写真・図版提供/協力
引用文献
索引
事例索引

日本建築学会 (編集)
出版社 : 井上書院 (2006/7/20)、出典:出版社HP