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はじめに
“eスポーツ”という言葉がメディアを躍っている。テレビや新聞、雑誌でも特集が組まれ、この言葉を見かける機会は激増した。記事に登場する文章は、「大企業がeスポーツの大会とスポンサー契約を交わした」、「二〇二〇年の東京オ リンピックに合わせてeスポーツの大会が開催されることが決定した」、「eスポーツの市場規模が急激な成長を見せて いる」といったものだ。
誰もが言葉に夢中になっている。AI(人工知能)、ブロックチェーン、IoT(モノのインターネット)といった言葉と 同様に、eスポーツが“新しさ”、“成長”、“革新性”といった可能性を想像させるからだ。言葉に惹かれた企業は投資や事業参入を狙い、行政や政治はeスポーツとの接点を模索し始めた。
本書を手に取っているあなたも、この言葉に惹かれて夢中になっている1人に違いない。eスポーツという言葉を知っ たあなたは、さらに深く理解したいと思うだろう。書店で本を探し、ウェブで情報を収集し始める。職場の同僚に話を聞 いてみる。そこであなたは途方に暮れるのではないだろうか。eスポーツに関する書籍は数えるほどしかなく、ウェブに は断片的な情報しか存在しないからである。
まずはスタート地点を確認しよう。eスポーツという言葉の定義からだ。 PCゲーム、家庭用ゲーム、モバイルゲームといったゲームを用いて競技を行うことをeスポーツという。世界中のビー デオゲームファンがこの競技に熱狂している。
eスポーツの世界は、この言葉を知った人が最初にイメージするスケールを遥かに超えて複雑であり、広大だ。例え ば、多くの人がeスポーツの競技タイトルとして思い浮かべるであろう『ストリートファイター」は何百と存在する競技 タイトルの一つに過ぎない。日本には野球・サッカーのようなeスポーツのプロリーグが既に存在している。そして、世 界には賞金総額が二〇億円を超える大会もある。
eスポーツはウェブを中心に栄えてきた。eスポーツの大会コンテンツはユーチューブやツイッチ (Twitch)といった ウェブ動画配信サービスを通じて発信され、ウェブのメディアがこぞってコンテンツを取り上げてきた。発信する側もそれを観る側もウェブで活動し、そのなかで業界が成長してきた。
eスポーツの渦中にいる人たちは、ウェブに溢れかえる情報を取捨選択し、それらをつなぎ合わせることで実態を理解 していく。深く長い時間ウェブに潜り、獲物を狙うサメのように情報をかき集めている。情報が取れる“狩場”はどこか といった前提知識も重要だ。
言葉を知り、深く理解しようとしたあなたは、ウェブに潜った時に息切れしてしまったのである。ウェブという情報の 海は中に入ろうとする者を手荒くもてなす。目的地へと導く道標も存在しない。
そんなあなたが息切れしないよう、本書では前提知識として知っておいてほしいことを4部構成でまとめている。本書 の内容を頭の片隅に置いておけば、ウェブで見つかる断片的な情報をつなぎあわせ、eスポーツを深く理解することができるだろう。
本書には様々なバックグラウンドをもった執筆者が寄稿している。ゲームコンサルタント、ウェブメディア運営者、プ ロゲーマー、チームのオーナー、TVプロデューサー、弁護士。彼らがeスポーツの世界の水先案内人である。執筆者た ちはまったく異なる領域で活躍し、まったく異なる才能を有している。共通しているのは、彼ら全員が現在進行形で進化 を続ける業界をけん引するリーダーであることだ。
まず第1部では、eスポーツの基礎的な情報、見取り図を示す。
第1章では、私がeスポーツシーン、ビジネスを理解するための基礎となる知識を提示する。本書の下敷きとなる部分 であり、ざっくりと全体像をつかんでもらえればと思う。
第2章では、ウェブメディア「Happy esports」を運営し、業界を広く深く知る、謎部えむが、eスポーツの過去・現 在・未来を繙く。彼が描いた地図を辿っていけばあなたが必要な知識が間違いなく手に入るだろう。
第2部では、eスポーツの最前線からの声を聞く。
第3章では、ぷよぷよ世界チャンピオンのlive(りべ)がプロゲーマーの実態を描く。嫌というほど的確な描写に はたじろぐかもしれないが、ゲーマーという難しくも魅力的な人たちを知るにはliveの声に耳を傾けてほしい。
第4章では、日本有数のチームであるRUSH GAMING (ラッシュ・ゲーミング)のオーナー西谷麗が、その経営手腕を余 すことなく披露する。彼女が持つ卓越した論理と圧倒的熱量から学べることはeスポーツに留まるものではない。
第3部では、eスポーツビジネスの道を舗装する裏方に焦点をあてる。
第5章では、eスポーツTV番組『eGG』のプロデューサーである佐々木まりなが、テレビとeスポーツの新しい関 係を描く。TVメディアの限界と潜在力の両面を理解している彼女が解いてみせるテレビとeスポーツの方程式は、驚く ほど可能性に満ちている。
第6章では、弁護士の高木智宏と松本祐輝が、日本のeスポーツの健全なる発展に不可欠な法律知識をつまびらかにす る。少しでもeスポーツに関わろうという人は、たえず彼らの知識を参照し、真っ当なビジネスを築いてほしい。
第4部では、日本最大級のオンラインコミュニティ「Esportsの会」を運営する私を含めた4人が、座談会とい うかたちで、eスポーツビジネスの未来を占う。また、各部のあいだには、謎部えむによるコラムを用意した。かゆいところに手が届く、貴重な情報をコンパクトにま とめたので、参照してほしい。
eスポーツはさまざまな人たちの仕事によって猛スピードで変化を遂げている。この本を執筆している今も、新しい二 ュースがメディアを躍り、業界の地図が塗り替わっている。eスポーツは誰も予測できなかった規模とスピードで社会全 体を巻き込み、大きなムーブメントを形成しつつある。誰もが気づかないうちに“革命”が始まり、気づいたころには景 色が様変わりしていることだろう。
あなたがこの変化の始まりにいち早く気づき、複雑で広大なeスポーツの世界を知るためのきっかけを本書でつかんで もらえれば幸いである。
目次 – 1億3000万人のためのeスポーツ入門
はじめに
Part 1
eスポーツの基礎知識
Chapter 1
なぜ今eスポーツなのか?/但木一真
Chapter 2
eスポーツ今昔物語
2018年までのシーンをふりかえる/謎部えむ
Column 1
eスポーツ市場に参入する日本企業
Part 2
eスポーツシーンの最前線
Chapter 3
eスポーツプレイヤーとは誰か?/live(大島典弥)
Chapter 4
eスポーツチームを経営するということ/西谷麗
Column 2
コミュニティがeスポーツシーンを牽引する
Part 3
eスポーツシーンの裏方
Chapter 5
テレビとeスポーツ/佐々木まりな
Chapter 6
法がeスポーツを加速する/高木智宏・松本祐輝
Column 3
eスポーツ情報はどこにあるのか?
Part 4
eスポーツのこれから
座談会
eスポーツをブームで終わらせないために/ 「Esportsの会」運営人(但木一真×荒木稜介×松本祐輝x小澤侑人)
おわりに 但木一真