【レビュー】eスポーツ論 – ゲームが体育競技になる日

最前線 – eスポーツを知るこの5冊の目次も確認する

目次

第1章 eスポーツとはなにか 005
“eスポーツ”と”ゲーム”の違いとは 006
eスポーツにはどんなゲームがあるのか 011
5 近年海外での人気のスポーツタイトル 023
日本のスポーツ界は世界から7年取り残されている!! 024

第2章 eスポーツの歴史 3
「競技」から「競技 + 観戦」のスポーツへ 032
eスポーツ以前、そして誕生 035
インターネット普及と韓国での発展の理由 042
プロゲーマーの誕生 048
賞金制大会の高額化とプロゲーマーの増加 050
2017年の主な賞金高額eスポーツ大会 055
一般社会と交わっていくeスポーツ 056
eスポーツの教育の場への広がり 059

第3章 日本におけるeスポーツの流れ 065
ゲームセンター文化からeスポーツ文化へ 066
なぜ日本はeスポーツ普及が遅れたのか 070
日本のeスポーツ界の今後の課題 079

第4章 プロゲーマーの可能性 087
日本にいるプロゲーマーは約300人 088
プロゲーマーの生活とは 092
世界的プロゲーマーの先駆・ウメハラ 101
今後日本を盛り上げるプロゲーマーが必要 105

第5章 eスポーツに関わる組織・大会 111
増加する関連団体 112
日本の主要な大会やリーグについて 123
日本におけるeスポーツ組織・大会の歴史 127
日本eスポーツリーグについて 131
今後日本においてどんなeスポーツ組織・大会が必要か? 137

第6章 eスポーツの未来 141
eスポーツが五輪正式種目になる可能性 142
正式競技化は2028年? 147
五輪に向けてeスポーツをはじめよう日本 152
参考資料・web 158

筧 誠一郎 (著)
出版社: ゴマブックス (2018/8/1)、出典:出版社HP

 

第1章 eスポーツとはなにか

eスポーツと、ゲーム、の違いとは

eスポーツを語る前に、まず「スポーツ」という言葉の定義をとらえ直してみましょう。
「スポーツ」という言葉は、日本の場合「運動・体育」という意味で語られることが多いと思います。しかし、「スポーツ」という言葉自体はそもそもルールの上でおこなわれる勝敗を決める「競技」という意味、それに加えて「娯楽・楽しむ」、といった意味合いがとても強いのです。その上で、大きな概念としての「スポーツ」の元で「フィジカルスポーツ」と「マインドスポーツ」という2つの概念のジャンルにわけることができます。

フィジカルスポーツとは、日本人がスポーツといわれて最初に思いつくであろう身体を使った競技。たとえば野球であるとかサッカーといった球技、陸上競技や水泳競技といったものがあげられます。

それに対してマインドスポーツとはなにかというと、囲碁とか将棋、チェス、ビリヤードといった主に頭脳を使った競技です。肉体ではなく思考によって勝敗を決め、楽しむスポーツ、それがマインドスポーツです。海外では囲碁やチェスといった競技もスポーツとする考え方があり、実際に国際オリンピック委員会ではチェスやブリッジ(トランプを使った競技)といった種目の国際競技団体も加盟・承認しています。

こうした競技をマインドスポーツと呼び、広めていこうという運動は21世紀に入り、より広まっています。「マインドスポーツのオリンピック」ともいうべき「ワールドマインドスポーツゲームス」も2008年北京五輪直後に第1回が開かれています。その際の競技種目はブリッジ・チェス・チェッカー(ドラフツ)・囲碁・シャンチーの5つでした。

eスポーツもまた、こうしたマインドスポーツのひとつとして扱うことができます。「そういわれても、なぜテレビゲームがスポーツなんだ?」とおっしゃる方も多いと思います。日本ではテレビゲームは長らく遊びのひとつとして扱われてきただけに違和感があるのは仕方ありません。

eスポーツというのは「エレクトロニック・スポーツ」の略です。電子上でおこなわれる競技、テレビゲームやPCゲームを用いた競技性のあるもの、という意味になります。この「競技性のあるもの」という部分がeスポーツのスポーツたる部分、といえるでしょう。ですから最初から順位づけがないようなゲーム、運の要素が強いゲームはeスポーツのジャンルに入れられることは少ないです。
eスポーツのわかりづらいところとして、野球やサッカーのように「ひとつのルールのひとつの種目」を指すわけではない、という部分もあるでしょう。

私はよく「eスポーツは 陸上競技という言葉とニアリーイコール」だといっています。陸上競技というのは土の上でおこなうさまざまな競技を総括して陸上競技と呼んでいます。たとえば100m走やハードル走、マラソン、棒高跳びに槍投げ・砲丸投げといった、土の上でおこなわれる競技を総称して陸上競技と呼んでいます。

そんな陸上競技と同様に、電子上でおこなわれるさまざまなジャンルの競技を総称してエレクトロニック・スポーツ=eスポーツと呼んでいると理解してもらうとわかりやすいと思います。サッカーや野球みたいにひとつのルールの競技ではないわけです。ではどんなゲームがeスポーツの競技として採用されているのかは次の項で紹介したいと思います。

筧 誠一郎 (著)
出版社: ゴマブックス (2018/8/1)、出典:出版社HP

 

eスポーツにはどんなゲームがあるのか

eスポーツの中にはどんなジャンルがあるのでしょうか。eスポーツというものの始まりのジャンルといえるのが「First Person Shooter」、略して「FPS」と呼ばれるジャンルです。画面の中はあたかも自分の視線かのような、一人称視点です。ゲームの中では、主にプレイヤーは一兵士として戦場を駆け抜け、銃をはじめとした武器を使って敵を倒していくガンシューティングゲームです。1対1であったり、5対5のチーム戦であったりといろいろな形式があり、相手を殲滅する、もしくはミッションをクリアするという形で勝敗が決まります。

ジャンルとしてはeスポーツの登場以前、90年代『Wolfenstein 3D』『DOOM』登場と共に広まりました。その後オンラインによるマルチプレイが主流となり、『Unreal Tournament』、『Quake』『Counter Strike』『CALL OF DUTY』『Battlefield』などeスポーツ黎明期から現在に至るまで多くのゲームが大会で使われています。

その中でも近年盛り上がっているのが『OVERWATCH』というタイトルです。これはアメリカの Blizzard Entertainment が出している6対6でおこなうFPSゲームなのですが、世界で約3500万人を超えるプレイヤーがいるといわれています。従来のFPSは割と現代戦を舞台としたガンシューティングものが多く、リアルな戦闘シーンを売りにしていたのですが、この『OVERWATCH』は割とファンタジックの要素が強く、ロボットや忍者なども戦ったりします。

これまでリアル路線が苦手だった人にも受け入れられたタイトルです。盛り上がった理由にプロリーグ「OVER WATCH LEAGUE」をはじめとした大会が人気となったことがあります。かつてはFPSジャンルを中心に競技大会がおこなわれ、その大会やリーグが大規模化し、その中からプロゲーマーが誕生し……という形でeスポーツは発展していきました。

現在も人気作は続々とシリーズ化されており、根強い人気のジャンルです。さらに近年では、このジャンルの派生として「バトルロイヤル」系のゲームも大いに盛り上がっています。

続いてのゲームジャンルは「RTS」=「Real-Time Strategy」。ゲームの中で自分が一軍、もしくは一国を率いて自分の陣地の資源を内政で豊富にし、そこから兵士や武器を作ってそれをもって相手の陣地に攻め込んで攻め落とす戦略ゲームジャンルです。シミュレーションゲームの一種ですが、一人でおこなうシミュレーションゲームのようにじっくりと時間をかけて考えることができるターン制ではなく、文字どおりリアルタイムで操作し対戦相手とのかけひきをおこない、なおかつアクションゲーム要素もあるところが特徴です。RTSで代表的なタイトルというと、こちらも Blizzard Entertainment製の『StarCraft II』です。

人類や宇宙人といった種族を選び、マップ上でユニットを扱って対戦種族と戦争を繰り広げる1対1のRTSです。第1作が登場したのが1998年で第2作の『StarCraft II』が2010年に誕生。1作目2作目通してプロリーグが1年続くなど、寿命も長く楽しまれています。
こちらは特に韓国で大変盛り上がっていて、eスポーツが盛んな韓国の中でも「韓国の国技」ともいわれていたほどのゲームです。世界大会をやるとベスト8全員が韓国人選手、のような結果になるくらいです。『StarCraft II』は非常に操作が難しく、トッププロになると刻々と変化する広いマップの戦況を把握しながらキーボードを1分間150以上タップするのが当たり前みたいな操作風景となり、脇から見るとピアノの速弾きを30分やり続けているようなゲームです。

そんなゲームだけに、韓国ではこのゲームのプロになると国民的スターになるなんてことも珍しくありません。それ以外のRTSジャンルで有名なソフトといえば『Age of Empires』『Warcraft』などが人気です。続いて現在のeスポーツ界ではもっとも主流といえる「MOBA」 =「Multi Online Battle Arena」というジャンルがあります。複数人でチームを組んで、相手の陣地を攻め落とすというチーム戦によるバトルです。HALHO [League of Legends) [DOTA 2] THEROES OF THE STORM]などがあります。

その中でもいま世界を席巻している2つのタイトルがあります。そのひとつがeスポーツに関わる者なら知らないものはいないビッグタイトル『League of Legends』。Riot Games という会社が運営しているこのタイトルは、月間アクティブユーザーが1億人という数字を弾きだしており、「世界で1番プレイヤー数が多いPCゲーム」と呼ばれています。
これは5対5のチーム戦で相手の陣地を攻め落とすという内容で2009年にローンチされて以来、eスポーツゲーム界で世界トップを突っ走っているという状態です。2017年には中国の国家体育運動場、あの北京オリンピックの開閉会式をおこなった通称「鳥の巣」で5万人以上の観客を集めて世界大会の決勝がおこなわれました。プレイヤーだけでなく、観客の動員や支持率でも頭ひとつ抜けているゲームタイトルです。

それからもう1つの代表的ゲームは「DOTA 2」。『League of Legends』と同じく5対5で相手の陣地を攻め落とすゲームで、こちらの方は賞金総額で話題になっています。発売元の Valve Corporation による大会「The International」が賞金額世界一の大会として知られており、2017年の賞金総額は約四億円で、優勝チームには約1億円が授与されるということで、ギネスレコードとして認定されている大きな大会です。そんな話題性もあって、『DOTA 2』は現在プレイヤーも増加しているゲームタイトルです。

続いてのジャンルは「デジタルカードゲーム」。昔から『Magic: TheGathering』など、実際のカードを持って出し合うことでバトルをおこない、どちらのライフが残っているかで勝負を決めるゲームがありましたが、それをデジタル化したものです。デジタル以前から歴史あるゲームですが、近年では『Hearthstone』『Shadowverse』などが海外・日本でも注目を集めています。

特にBlizzard Entertainment の『Hearthstone』はプレイヤー人口約3千万人といわれていて、かなりの盛り上がりを見せています。もともとは『Warcraft』というRTSゲームのキャラクターや世界観を使ったバリエーションだったのですが、デジタルカードゲーム界ではたちまちトップの人気を取るゲームになりました。キャラクターを選んでプレイヤーが組んだカードデッキを使って相手の体力を減らしていくゲームで、簡単でありながら奥深いところが魅力です。

また日本発で大人気のサイゲームスによる『Shadowverse』。こちらも元は同社のRPG『撃のバハムート』の世界観にあるものですが、よりeスポーツとして競えるシステムを取り入れており、今年2018年末には優勝賞金1億円の世界大会大会もおこなわれるということで日本のみならず世界でも盛り上がりを広げていこうというゲームです。

「スポーツゲーム」もeスポーツの代表的ジャンルです。サッカーや野球、アメリカンフットボール、バスケットボールといったスポーツをデジタルゲーム化したもので、最近では実際のスポーツチームを巻き込んだ形でより広がりを見せているジャンルです。『FIFA』シリーズ 『NBA 2K』シリーズ『ウイニングイレブン』シリーズなどがあります。2017年1月には「パワプロフェスティバル 2016」で『実況パワフルプロ野球』の日本一を決めるeスポーツ決勝大会が東京でおこなわれました。

日本で大きな位置を占めるジャンルといえば「格闘ゲーム」です。日本のお家芸といわれていますけれども、歴史も長く日本製のゲームが非 常に多いこともあって、日本から世界チャンピオンも多く生まれています。『STREET FIGHTER』シリーズ『Mortal Kombat 』シリーズ『鉄拳』シリーズ『BLAZBLUE』シリーズ『Guilty Gear』シリーズ『大乱闘スマッ シュブラザーズ』シリーズなどがeスポーツ大会で使われており、特に アメリカや韓国そして日本といった地域で使われています。

それ以外にもパズルゲームや音楽ゲームなどのジャンルもeスポーツとして親しまれています。ただ大きくいえば、これまでに紹介した6ジャンルが今世界でeスポーツのジャンルとして競われているジャンルです。

eスポーツというと、プロシーンを指すと思われる方もいるかと思いますが、野球にもプロ野球から草野球まで様々な楽しみ方があるように、個人や仲間で楽しむものも当然 eスポーツですので、それぞれの楽しみ方でeスポーツはおこなわれるものだと思います。

筧 誠一郎 (著)
出版社: ゴマブックス (2018/8/1)、出典:出版社HP