コンビニ外国人

コンビニについてのトレンド・仕組みを知る5冊 -オーナーの働き方から外国人アルバイトまで
も確認する。

はじめに

本書を手に取った方は、すでにコンビニエンスストアのここ数年の変化にお気づきだろう。いまや全国に五万五〇〇〇店舗以上を数えるコンビニは、どこへ行っても当たり前の存在”である。
二十四時間オープンの売り場には弁当や飲み物がぎっしり陳列されているだけでなく、USBメモリから冠婚葬祭のネクタイに至るまで、突然の「しまった、アレがない!」という状況にもかなりの確率で対応してくれる。

もちろん買う。以外のサービスも充実している。ATMがあれば真夜中でも現金を下ろすことができるし、公共料金の支払いや宅配便の受付は当然のこととして、最近はマルチコピー機で名刺を作ったり、住民票の写しや印鑑登録証明書をプリントアウトすることも可能だ。近くにコンビニがあれば、わざわざ遠くの印刷所や役所まで行く必要もない。コンビニはまさに現代日本人の生活に密着した。近くて便利”な社会インフラである。コンパクトで高機能という点も、ある意味で日本を象徴するスタイルだろう。

同じ小売業でも、百貨店やスーパーなどは売り上げや事業所数が減っているのに対し、コンビニ業界はこの数年でさらに勢いを増して拡大、成長を続けている。業界全体では一〇兆円を超える巨大なマーケットを誇る。

そんなコンビニにいま異変”が起きている。とくに都心のコンビニではその変化が顕著だ。四国に住む友人は、東京のコンビニの劇的な変化を見て「最初はビックリした」と言う。「だってインド人みたいな人がレジにいて、『お箸は何膳にしますか?』とか日本語もペラペラだし、外国人のスタッフ同士の会話も日本語でしょう。出張で上京するたびに外国人スタッフの数が増えてる気がするけど、彼らを見ると『東京に来た!』って実感するんだよね。でも、最近になって、地元(徳島)のコンビニでもちらほら増えてきた気がする」彼が言うインド人みたいな人、というのは、おそらくネパール人かスリランカ人のことだ。

東京二十三区内の深夜帯に限って言えば、実感としては六~七割程度の店舗で外国人が働いている。昼間の時間帯でもスタッフが全員外国人というケースも珍しくない。名札を見るだけでも、国際色豊かなことがわかる。

しかも、この傾向はいま急速に全国に広がりつつある。大阪、神戸、名古屋の栄、福岡の中洲・天神といった繁華街のコンビニでは、すでに外国人スタッフは珍しい存在ではなくなっているし、今回取材で巡った沖縄でも実に多くの外国人がアルバイトとして働いていた。
全国のコンビニで働く外国人は大手三社だけで二〇一七年に四万人を超えた。全国平均で見るとスタッフ二十人のうち一人は外国人という数字である。
こうした状況が広がる背景には、コンビニ業界が抱える深刻な問題がある。人手不足である。

現実として全時間帯で常に人手が足りない店舗もあり、業界内では「二十四時間営業を見直すべき」という声も出始めている。しかし、いまのところ大手各社が拡大路線を取り下げる気配はない。
業界最大手のセブン-イレブン・ジャパンの古屋一樹社長は、雑誌の取材に対して「二十四時間営業は絶対に続けるべきだ」と明言し、「加盟店からも見直すべきという要望は上がってきていない」としている。

業界第二位のファミリーマートと第三位のローソンは、深夜帯に一定時間店を閉めたり、無人営業をするといった実証実験をはじめているが、業界トップのセブンーイレブンが「絶対に続ける」と言っている限り、深夜営業を取りやめることは難しいだろう。店舗もこれからまだまだ増えていくはずだ。ローソンは、二〇一一年までには現在より四〇〇〇店舗多い一万八00店舗まで規模拡大する意向を示している。

しかし、そうした拡大路線が続く一方で、人手不足にあえぐ現場では疲弊感が広がっているのも事実だ。
東京・世田谷区でコンビニを経営するオーナーは、「店の前にバイト募集の貼り紙を出して一年以上になるけど、まったく反応がない」と嘆く。「平日の昼間なら時給で九六〇円、深夜なら一二〇〇円以上提示しても日本人はなかなか来ない。そもそも日本人の若い子の数が減っているし、(アルバイト情報サイトに)求人広告を出しても反応は鈍い」

どうしてもシフトに穴が空いてしまう場合は、深夜でもオーナー自身が対応しているそうだ。「これまで外国人を雇ったことはないが、今後は考えていかないと店が回っていかない。自分の身体も心配だ」
ちなみに東京都の最低賃金は時給九五八円(二〇一七年十月)である。コンビニの新人アルバイトの時給は限りなく最低賃金に近い。このあたりのことを大学生の甥に聞くと、「コンビニは安いからあまり働きたくない」「同じ時給だったらカラオケボックスのほうがラクでしょ」という答えが返ってくる。正直な答えだろう。まわりでもコンビニで働いている友人はいないらしい。

一方、外国人スタッフは「コンビニのバイトは、対面でお客さんと話す機会が多いので日本語の勉強にもなる」「日本の文化を勉強するにもいい。だから工場で働くより楽しいし、効率的」「お店によっては廃棄のお弁当を食べていいから食費も浮く」という。
日本人が敬遠するコンビニのアルバイトを外国人が引き受けているようにも感じる。言い換えれば、現代の日本人は、外国人の労働力によって便利な生活を享受しているということになる。

今回、コンビニで働く外国人や周辺の日本人を取材して、数多くのインタビューを試みた。日本各地をまわり、ベトナムにも足を運んだ。
とりわけ印象深く耳に残っているのは、現在、東京大学の大学院で経済を学んでいるベトナム人留学生、レー・タイ・アイン君(1)の言葉だ。五年近くコンビニで働いた経験がある。正直なところ、彼と会うまでは、東大の大学院に進むようなエリートがコンビニで働いているとは思わなかった。

芹澤 健介 (著)
新潮社 (2018/5/16)、出典:出版社HP

 

アイン君は「日本のことは好きですし、これからもずっと日本と関わっていきたい」と言うが、言葉はまっすぐで辛辣だ。
「いま日本には外国人が増えて困るという人もいますが、東京オリンピックが終わったらどんどん減っていくと思います」

そう考える理由を教えてくれた。「ソウルオリンピック(一九八八年)以降の八大会(夏季)で、開催国の成長率が前年と比べて上昇したのはアトランタオリンピック(一九九六年)だけです。アトランタ大会を開催したアメリカは、大会後にIT革命が起こって経済成長を牽引したと言われています。

しかし、いまの日本にそのような起爆剤は見込めません。ですから、おそらく東京オリンピックの後は、日本は不況になります。しかも、日銀の超低金利もオリンピック後には上昇する見込みで、企業の資金調達も困難になると思います。同時に日本はすでに労働人口も減り続けているので、本来は外国人の労働力をうまく使わないと経済成長できませんが、外国人はきっと増えません。

なぜなら日本は外国人労働者の受け入れ制度が整っていませんし、多くの外国人が「日本は不況だから稼ぐのは難しい」「人手不足で残業が多くなるのはイヤだ」と考えるからです。そうなるとより多くの労働力が減って、日本の経済はますます傾いていくでしょう」
もし、アイン君の予見通りならー、オリンピックだ、おもてなしだ、と言って浮かれている場合ではなさそうだ。早急に祭りの後のことを考えなければならない。

だが、本書では、「外国人労働者(=移民)の受け入れに賛成か、それとも反対か」という単純な議論を煽るつもりは
ない。
答えはきっと、その先にあるからだ。いま、コンビニだけでなく日本の至る所で外国人が働いている。スーパーや居酒屋、深夜の牛丼チェーン店で働く外国人もいる。一般の日本人の目には触れない農場や工場、介護施設などで働いている外国人も大勢いる。好むと好まざるとにかかわらず、現実としてわたしたちの生活は彼らの労働力に依存している。

コンビニで働く外国人”は、おそらく、もっとも身近な外国人労働者であり、雇う側からすると便利”な労働力だ。彼らをさまざまな角度から見ていくことで、彼らが暮らしている社会、すなわち日本という国の実相や課題が自ずと浮かび上がってくるに違いない。
世界に先駆けて本格的な人口減社会に突入し、あらゆる方面で縮小をはじめた国の、今後の可能性について考える一助にしてもらえれば幸いである。

芹澤 健介 (著)
新潮社 (2018/5/16)、出典:出版社HP

 

目次 – コンビニ外国人

はじめに
第一章彼らがそこで働く理由
「日本に来たかったから、がんばりました」
アルバイトは週に二十八時間まで
外国人留学生がコンビニで働く理由
100万人の外国人労働力に依存する日本
さらに増え続ける「在留外国人」
急増するベトナム人・ネパール人
ベトナムの日本語ブーム

第二章留学生と移民と難民
五人に二人が外国人という状況
「その他」の在留外国人たち
政府の外国人受け入れ制度
「移民」とはどんな人たちか
日本の先を行く韓国の「雇用許可制度」
ドイツの「ガスト・アルバイター」

第三章東大院生からカラオケ留学生まで
コンビニ奨学生として日本へ留学
八人で共同生活
沖縄で急増するネパール人
「辞めないでほしい」と毎月一万円
「日本に来てから成長しました」
沖縄とネパールの関係
留学生の間にはびこる人種差別
ミャンマー人留学生が集まる街
日本で働きたくても働けない

第四章技能実習生の光と影
コンビニも技能実習制度の対象に?
技能実習生の労働環境
技能実習生の人権を守るために
留学生が実習生をトレーニングする?
沖縄ファミリーマートの「留学生インターンシップ」

第五章日本語学校の闇
九割が留学生という大学
中国人専用の予備校に通う留学生
全国に六〇〇校以上、乱立する語学学校
年収100万円の日本語教師
教師一人で留学生100人という現場も
日本語学校の管理ははじまったばかり
日本語学校が留学生の書類を偽造
人材派遣業化する日本語学校
出稼ぎ留学生”が訴えた日本語学校
日本を目指す外国人留学生のルート
「犯罪はよくないが……」地方の経営者の本音
ネパールの日本語教育事情
日本語学校のこれから

第六章ジャパニーズ・ドリーム
ベトナム人の元留学生が兄弟で起業
外国人起業家に向けた「スタートアップビザ」
外食産業の風雲児はネパール人の元留学生
犯罪組織に加担してしまう留学生
「またコンビニで働きたいよ」
風俗店で働く現役留学生たち
増加する不法残留者と難民申請者
「日本人ですけど、日本語を話せません」
第七章町を支えるピンチヒッター
人口が減り続ける日本
そして労働力の奪い合いがはじまる
“国際都市”新宿の取り組み
多文化共生を推進する広島県・安芸高田市
日本初の公立日本語学校を開設した北海道・東川町
十一カ国の外国人が暮らす「いちょう団地」
学生たちが自治に参加する「芝園団地」
おわりに――取材を終えて

芹澤 健介 (著)
新潮社 (2018/5/16)、出典:出版社HP