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入門後の本格ゲーム理論
本書は、ゲーム理論の本格的なテキスト的な位置づけにあります。レベルとしては、学部の後半〜院の前半くらいでしょうか。ゲーム理論の基本的な内容から始め、戦略形ゲーム、展開形ゲーム、均衡、情報不完備ゲーム、繰り返しゲーム、期待効用理論、交渉ゲームなどといった、伝統的ないくつかの条件を設けた状況での理論について、例を示しながら説明しています。
新版である本書では、比較的新しいトピックも記載されており、行動ゲーム理論や学習の理論なども解説されています。ゲーム理論のトピックを網羅的に整理して解説しているため、ゲーム理論の概観を学ぶ目的に有用でしょう。ミクロ経済学を学んでいる学部上級、大学院生にとっては、研究対象を選ぶきっかけにもなります。

新版へのはしがき
本書の初版が出版されてから15年の歳月が経過した。この間のゲーム理論の発展は著しく,初版でゲーム理論のフロンティアとして解説したいくつかのトピックスは,すでにゲーム理論の標準的な内容に定着した。そして現在も,経済学を中心にさまざまな学問分野でゲーム理論の新しい研究が進められている。この度,初版の内容を増補して,新版を出版することにした。
新しく改訂された内容は、主に次のとおりである。まず,第11章として「進化ゲーム」の章を追加した。進化ゲームの理論は、1970年代に進化生物学の分野で誕生した後,人文・社会科学の分野でも行動の進化,慣習,規範など限定合理性に基づく経済行動のダイナミックスを分析するための基礎になっている。また,各章の応用例を増やした。その主なものは,戦略的な情報伝達,評判と不完全情報,グローバル・ゲーム,金融政策の時間非整合性,不完備契約とホールド・アップ問題,ネットワーク形成,協力の進化,などである。「ゲーム理論のフロンティア」の第12章では,最近の研究動向として、社会心理学の知見を取り入れた行動ゲーム理論と確率安定性や学習の理論などを解説した。
初版と同様に,新版も読者の方々のゲーム理論の学習の手助けとなり,多くの方々がゲーム理論に興味をもたれるようになれば,著者にとってこれ以上の喜びはない。
新版の執筆にあたっても,多くの方々から多大のご支援を頂いた。とくに,本書の原稿に関して有益なコメントをくださった筑波大学の福住多一講師,および一橋大学大学院の白田康洋君と西村健君にお礼を申し上げたい。
最後に,有斐閣の尾崎大輔氏には,初版の原稿をTEX原稿に再入力して頂き,新版の企画,編集に関して大変にお世話になりました。深く謝意を表します。
2011年9月
岡田章
初版はしがき
1994年,ハルサニ,ナッシュ,ゼルテンが非協力ゲーム理論への画期的な貢献に対してノーベル経済学賞を受賞した。また,この年はフォン・ノイマンとモルゲンシュテルンの大著『ゲームの理論と経済行動』の出版50周年でもあり,ゲーム理論にとって記念すべき年となった。
ノーベル経済学賞が初めてゲーム理論の分野に授与されたことが端的に示すように,現在,ゲーム理論はミクロ経済学,マクロ経済学を問わず経済学のほとんどの分野に応用されていて,経済分析のための基本道具の1つとなっている。さらに,経済学の分野を超えて政治学などの他の社会科学の分野や生物学などの自然科学の分野でもその有用性が認められていて,ゲーム理論は学際的理論として大きく発展している。
本書はこのようなゲーム理論の新しい展開を基礎に書かれたゲーム理論の中級レベルの教科書である。対象とする主な読者は、学部上級生,大学院初級生やゲーム理論に関心をもつ他の分野の研究者や実務家の方々である。「ゲーム理論は経済や社会におけるさまざまな意思決定と行動の相互依存状況(ゲーム的状況)を数理的なモデルと論理を用いて研究する学問である。このために、ゲーム理論を学習するにあたって第1に大切なことは,ゲーム理論特有の「ものの見方や考え方」を修得することである。さらに,ゲーム理論をより専門的に学習するためには、さまざまな概念の定義や定理の数学的内容をよく理解することが必要である。このような理由から,本書ではできるだけ多くの例を用いてゲーム理論の中心的概念の説明を行うとともに,ほとんどの定理には証明を加えている。また,研究者や実務家の方々の便宜を考慮して,ゲーム理論の発展の経過と現在の研究動向についても教科書としてはやや詳しく述べている。教科書としての性格上、すべての内容についてオリジナルな文献を引用しているとは限らず、この点について,これまでゲーム理論の発展に貢献されてきた多くの研究者の方々に感謝するとともにご容赦をお願いしたい。本書が少しでも読者の方々のゲーム理論の学習の手助けとなり、多くの方々がゲーム理論に興味をもたれるようになれば、著者にとってこれ以上の喜びはない。
本書を執筆するにあたって,これまでに多くの方々から計りしれない学恩を受けている。東京工業大学でご指導くださった恩師,鈴木光男先生(東京工業大学名誉教授,現東京理科大学教授),大学院生時代から研究の討論相手になってくださっている同じ研究室出身の法政大学中山幹夫教授,筑波大学金子守教授,東京都立大学武藤滋夫教授,アメリカとドイツでの研究滞在中大変にお世話になったノースウェスタン大学エフド・カライ(EhudKalai)教授とボン大学ラインハルト・ゼルテン(ReinhardSelten)教授,ならびに日頃,研究上の有益な助言をくださっている京都大学経済研究所の今井晴雄教授と西村和雄教授の諸先生方に心より感謝の意を表します。
本書は,東京工業大学理学部情報科学科,埼玉大学政策科学研究科,京都大学経済学研究科および経済学部,東京都立大学経済学部,ウィーン高等研究所での講義ノートに基づいている。これまでゲーム理論を講義する機会を与えてくださった諸先生方,とくに,過去3年間,京都大学経済学部での授業「経営数学」でゲーム理論を講義することを励ましてくださった故浅沼萬里教授(本年3月逝去)に心より感謝申し上げます。ここですべての方々の名前は挙げられないが,講義に出席し質問やコメントをしてくださった多くの学生の皆さんに感謝致します。
本書の原稿に関して有益なコメントをくださった京都大学大学院の渡邊直樹君,丸山徹也君,中嶋亮君にお礼を申し上げたい。とくに,渡邊直樹君は原稿を丁寧に読んで多くの誤りを指摘してくれるとともに表現上の助言をくださった。京都大学経済研究所の永田敦子さんには本書の原稿のワープロ入力と索引の作成に多大のご協力を頂いた。
最後に,本書の執筆の機会を作ってくださった筑波大学酒井泰弘教授と本書の編集,出版に関して大変にお世話になった有斐閣の石塚務氏に深く謝意を表します。
1996年10月
岡田章
目次
新版へのはしがき
初版はしがき
本書で用いる記号表
本書で登場するゲームの一覧表
第1章 ゲーム理論とは何か
1.1ゲーム的状況
1.2ゲームの基礎概念
1.3非協力ゲームの理論と協力ゲームの理論
1.4ゲーム理論の歴史
第2章 戦略形ゲーム
2.1戦略形ゲームの定義
2.2ナッシュ均衡点
2.3混合戦略と期待利得
2.4均衡点の存在
2.5均衡点の計算方法
2.6利得支配とリスク支配
2.7応用例
2.7.1クールノー複占市場
2.7.2寄付金ゲーム
2.7.3公共財の供給ゲーム
2.7.4電力消費ゲーム
2.7.5湖水の汚染
2.7.6査察ゲーム
第3章 展開形ゲーム
3.1展開形ゲームの定義
3.2戦略の概念と均衡点
3.3ゲームの分解と合成
3.4完全情報ゲーム
3.5完全記憶ゲーム
3.6情報のインフレーション
3.7応用例
3.7.1シュタッケルベルク複占市場
3.7.2政策のアナウンスメント効果
3.7.3金融政策における裁量とルール
3.7.4ドルオークション
3.7.5シナリオ・バンドル法
第4章 完全均衡点。
4.1ナッシュ均衡点の意味
4.2部分ゲーム完全均衡点
4.3完全均衡点の定義
4.4最適化原理と逐次均衡点
4.5存在定理
4.6完全均衡点と逐次均衡点の計算例
4.6.1完全均衡点の計算方法
4.6.2逐次均衡点の計算方法は
4.7戦略の支配と安定性
4.8応用例
4.8.1最終提案ゲーム
4.8.2組織参加のジレンマ
4.8.3チェーンストア・パラドックス
4.8.4戦略的な情報伝達
4.8.5評判と不完全情報
第5章 情報不完備ゲーム
5.1情報不完備ゲームの定式化
5.2ベイジアン均衡点
5.3ベイジアン・ゲームの例
5.4情報構造と知識
5.5相関均衡点
5.6メカニズムの顕示原理
5.7応用例
5.7.1非分割財の取引
5.7.2中古車市場の逆選択
5.7.3労働市場のシグナリング
5.7.4情報不完備なクールノー複占市場
5.7.5電子メール・ゲーム
5.7.6グローバル・ゲーム
第6章 繰り返しゲーム
6.1繰り返し囚人のジレンマ
6.2繰り返しゲームの定式化
6.3フォーク定理
6.4完全フォーク定理
6.5有限回繰り返しゲーム
6.6応用例
6.6.1クールノー複占市場
6.6.2ベルトラン複占市場
6.6.3贈り物ゲーム
6.6.4政策の信用性
6.6.5繰り返し囚人のジレンマと評判
第7章 期待効用理論
7.1サンクトペテルブルクのパラドックス
7.2期待効用の公理系
7.3期待効用の表現定理と一意性
7.4リスク回避度
第8章交渉ゲーム
8.1交渉問題の定式化
8.2ナッシュ交渉解の公理
8.3交渉の非協力ゲーム分析
8.4交渉の非協力ゲーム分析(II)
8.5交渉ゲームの実験
8.6応用例
8.6.1 100万円の分配交渉
8.6.2経営者と労働組合の団体交渉
8.6.3環境汚染と補償交渉
8.6.4不完備契約とホールドアップ問題
8.6.5収穫分配契約の交渉
第9章 コアの理論
9.1協力ゲームの定式化
9.2特性関数の性質
9.3協力ゲームのコア
9.4コアの存在条件
9.5市場ゲーム
9.6投票ゲーム
9.7安定集合
9.8応用例
9.8.1 1人の売り手と2人の買い手の非分割財市場
9.8.2手袋ゲーム
9.8.3ゴミ処理ゲーム
9.8.4ルームメイト問題
9.8.5結婚問題
9.8.6ネットワークの形成
第10章 他の協力ゲーム解
10.1シャープレイ値
10.2シャープレイ値の公理系
10.3投票力指数
10.4分配の公正としての仁
10.5応用例
10.5.1手袋ゲームのシャープレイ値
10.5.2滑走路の使用料金
10.5.3費用逓減産業の価格決定
第11章 進化ゲーム
11.1進化ゲームの基礎
11.2進化的に安定な戦略
11.3レプリケータ動学
11.4社会進化の動学ゲーム
11.5応用例
11.5.1協力の進化:共通利害ゲーム
11.5.2協力の進化:囚人のジレンマ
11.5.3コミュニケーションの進化
11.5.4参入阻止行動:チェーンストア・ゲーム
11.5.5社会規範の生成
付録
第12章 ゲーム理論のフロンティア
12.1限定合理性の研究:進化ゲームと学習理論
12.2ゲーム実験と行動ゲーム理論
12.3合理的行動の探究とゲーム理論のフロンティア
参考文献
索引
本書で用いる記号表
本書で登場するゲームの一覧表
市場シェア・ゲーム
囚人のジレンマ
男女の争い
硬貨合わせゲーム
クールノー複占市場
寄付金ゲーム
公共財の供給ゲーム
電力消費ゲーム
湖水の汚染
査察ゲーム
レディー・ファーストのルール
シュタックルベルク複占市場
政策のアナウンスメント効果
金融政策における裁量とルール
ドル・オークション
シナリオ・バンドル法
チェーンストア・ゲーム
最終提案ゲーム
組織参加のジレンマ
チェーンストア・パラドックス
戦略的な情報伝達
評判と不完全情報
非分割財の取引
中古車市場の逆選択
労働市場のシグナリング
電子メール・ゲーム
グローバルゲーム
繰り返し囚人のジレンマ
ベルトラン複占市場
贈り物ゲーム
政策の信用性
100万円の分配交渉
経営者と労働者の団体交渉
環境汚染と補償交渉
不完備契約とホールドアップ問題
収穫分配契約の交渉
アルバイト・ゲーム
エッジワース市場ゲーム
3人多数決ゲーム
重みつき投票ゲーム
投票のパラドックス
多数決ゲーム
1人の売り手と2人の買い手の非分割財市場
手袋ゲーム
ゴミ処理ゲーム!
ルームメイト問題
結婚問題
ネットワークの形成
拒否権プレイヤーのパワー
株主総会の投票力分布
滑走路の使用料金
費用逓減産業の価格決定(電力料金決定のゲーム)
技術標準の選択
タカーハト・ゲーム
じゃんけんゲーム
共通利害ゲーム
鹿狩りゲーム