産業廃棄物革命 ~IoT化でさらに進む産業廃棄物の世界

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IoTを使った廃棄物処理についてわかる

繰り返されるミスや不正を、人が介在しないIoTを活用したトレーサビリティシステムによって改善している著者の思いのこもった内容です。廃棄物とIoTの相性の良さを取り上げたところがおもしろく、廃棄物の理解を深める本としてもおすすめです。

石井 美也紀 (著)
出版社: ダイヤモンド社 (2019/12/5)、出典:出版社HP

はじめに

人はミスやごまかしをする生き物である
近年、廃棄物を巡る事件が注目されています。一九九九(平成一一)年の青森・岩手県境不法投棄事件、二〇一二(平成二四)年の利根川水系ホルムアルデヒド水質事故、二〇一六(平成二八)年のCoCo壱番屋が廃棄処分したビーフカツの不正転売事件、二〇一七(平成二九)年の森友学園問題などが記憶に新しいところです。
また、データの改竄問題も増えています。自動車メーカーや素材メーカー、建築会社、揚げ句の果ては厚生労働省までが勤労統計のデータに細工を施していました。
つくづく人間とは嘘をつく生き物だ、との思いを強くされた方も多いでしょう。これらの法的にも倫理的にも問題となる行為を防ぐことは、果たして不可能なのでしょうか?
それを考察することが、本書執筆の動機です。
私はコンピューターの仕事に長く携わってきましたが、その主題は、現場で働く人たちが
コンピューターを意識しなくても、コンピューターによってミスを防ぐことができるようにすることでした。
その背景として、コンピューターのダウンサイジング(小型化)が進みターネットが普及し、誰もがスマートフォンを使って時と場所に縛られずにネットワークに繋がることができる時代が到来したことが挙げられます。
また、日本は長いデフレからの脱却の目処が立たず、世界経済も行き詰まりを見せる中、様々な産業がAI(Artificial Intelligence : 人工知能)やIoT(Internet of Things :モノのインターネット)などのテクノロジーに活路を見いだそうとしています。しかし、これらのテクノロジー、特にIoTについてその可能性を正しく理解できている人はまだ多くありません。
そこで僭越ながら、IoTによるトレーサビリティ(追跡能力)によって人的ミスや不正を防ぐ仕組みの開発に携わってきた私には、IoTの可能性をお伝えすることができるのではないかと考えたのです。
ちなみにトレーサビリティとは、トレース(Trace:追跡)とアビリティ(Ability:能力)を組み合わせた造語です。

本書は産業廃棄物に関係していない人にも読んでほしい
本書は、産業廃棄物のトレーサビリティがテーマなので、第一の読者としては排出事業者の廃棄物処理ご担当者、あるいは廃棄物処理業の現場の方々、そして環境問題に取り組んでいる方々などを想定しています。しかし、産業廃棄物のトレーサビリティはIoTの性質を最も活かした活用例でもあるため、関係者以外でも、IoTに興味のある方であれば、本書を読まれることで必ず何かしらのヒントを得ることができるのではないかと考えています。
また、AIも含めてシステム開発に関わっている方々が本書を読まれれば、コンピューターを意識せずにシステムを利用するとはどのようなことかを考えるきっかけとなるはずです。
さらに、モバイルコンピューティングの開発や利用に関わっている方々にとっても、何かしらのアイデアを得ていただけるに違いありません。
なぜならば、産業廃棄物こそ、最もアウトドアでシステムを利用する現場であるからです。

グローバルスタンダードとは自立すること
さらに、本書をお読みいただくことで、何事も人任せという姿勢ではいけない、ということに気付かれることでしょう。つまり、自立することの大切さへの気付きです。
日本人は、自立が苦手な国民性と指摘されてきました。しかしながら、グローバル化が進む中で、世界に通用する考え方を身に付けるためには、まずは自立しなければなりません。と同時に、欧米のような博愛的な考え方も必要になってきます。

私は世間でグローバルスタンダードという言葉が流行りだしたときに、「ああ、日本人が苦手な考え方だな」と感じたものです。なぜなら、自立がままならないのは古来、時の為政者や政府など、何事も「お上」に頼る癖を持ち続けてきたからです。戦争ですら、最終的には神頼みでした。神風が吹かないだろうかと。
そのような国民性なので、悪いことをしても「皆がやっている」となれば自分だけじゃない、と自分を正当化してしまいがちです。
ごみ問題も同様です。自立していれば、誰もが「他人はどうであれ、自分はちゃんとするぞ」と考えることができます。一方、自立していない人々は、「皆やっているから、構わないだろう」という行動を取ってしまいます。
確かに日本は、廃棄物を処理する技術は進んでいます。しかし、廃棄物に対する考え方は幼いと言わざるを得ません。
その点、対照的なのはドイツです。技術的には日本より遅れている面もありますが、廃棄物に対する考え方は遥かに進んでいます。彼らは、別に環境のためにといった綺麗事を考えているのではなく、そもそも無駄なことをしたくない、という合理的な行動基準なのです。
例えば自動販売機で売っているコカ・コーラは三ユーロするので、彼らは買いません。買うのは観光客ばかりです。ペットボトルも、四つ回収すれば一ユーロを得られるため、無駄に捨てることがありません(購入時にデポジットを支払っていて、容器を返品すればデポジット代が戻るシステム。対象外のペットボトルもある)。ドイツのベルリンでは、観光客が捨てたペットボトルを移民が集めてお金に換えている光景をよく目にします。
また、彼らは電車の中でも昼間から瓶ビールを飲んでいますが、誰もが瓶しか手にしていません。缶よりも瓶のほうがリユース(再使用)できるからです。環境がどうのといったことではなく、無駄が嫌いなのです。
彼らの無駄嫌いは、コンビニエンスストアがないことにも象徴されます。日本人は今や、コンビニエンスストアがなければ、生活が成り立たないほど「コンビニ依存」が進んでいます。
合理的に物事を考えて行動するドイツの人々からすれば、日本人は自立していないということになるでしょう。

ごみ問題はIoTとSDGsを考えるきっかけになる
本書で産業廃棄物のトレーサビリティについて知ることは、IoTと共に注目されているSDGs、サーキュラーエコノミーについて知ることにも繋がります。
サーキュラーエコノミーについては本文で取り上げますが、SDGsについてはご存知ない方もおられるかと思うので、ここで簡単に説明しておきます。
SDGsは「エスディージーズ」と読み、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略です。
二〇一五年九月に国連サミットで採択され、加盟国一九三カ国が二〇一六年から二〇三〇年までの一五年間で達成すべき一七の目標と、それらを達成するための一六九のターゲットで構成されています。一七の目標とは次の通りです。
①貧困をなくそう
②飢餓をゼロに
③すべての人に健康と福祉を
④質の高い教育をみんなに
⑤ジェンダー平等を実現しよう
⑥安全な水とトイレを世界中に
⑦エネルギーをみんなにそしてクリーンに
⑧働きがいも経済成長も
⑨産業と技術革新の基盤をつくろう
⑩人や国の不平等をなくそう
⑪住み続けられるまちづくりを
⑫つくる責任つかう責任
⑬気候変動に具体的な対策を
⑭海の豊かさを守ろう
⑮陸の豊かさも守ろう
⑯平和と公正をすべての人に
⑰パートナーシップで目標を達成しよう
SDGsを理解できるということは、社会性を理解できるということです。
そして、社会性の理解とはキリスト教やユダヤ教の博愛主義を意味します。
しかし、日本にはそうした博愛主義の伝統がないため、自分さえよければいいという考えに走りやすいのです。そのようなことはないという方もおられるでしょうけれども、日本人が気にするのは他人の目ではないでしょうか?一方、博愛主義は唯一絶対神との契約に基づいています。『旧約聖書』や『新約聖書』の“約”は神との契約ということです。
その根底には、人は愚かで過ちを犯すものだという前提があり、契約を破った信者は神に見捨てられて永遠に救いはないとされるのです。
ところが、伝統的に多神教の日本では「捨てる神あれば、拾う神あり」とのことわざがあるように、神との関係性は厳格どころか、おおらかで曖昧です。その結果、日本人の社会性への理解は他人の目を気にするというレベルにとどまっていると言うべきでしょう。
ここに、日本人がグローバルスタンダードを理解しにくい原因があるように思えてなりません。このことは、コーポレートガバナンスへの取り組みにも当てはまると思われます。言い換えれば、他人が見えていなければ平気でごまかしをし、発覚すると嘘をついて平然としていられるということです。つまり、罪悪感が希薄なのです。
ここに、博愛主義に基づくグローバルスタンダードを、日本人が真に理解しにくい原因があるように思えてなりません。
では、どうすべきか?
それは、見えないものを可視化することに尽きます。ごまかしも嘘も、見えない(証拠がない)ことで生まれるからです。
そのように考えると、産業廃棄物のトレーサビリティをテーマにした本書は、ごみ問題に止まらず社会性に関わる問題解決への糸口になるであろうという予感がします。
読者諸氏のご賢察を期するところです。

二〇一九年一一月 石井美也紀

石井 美也紀 (著)
出版社: ダイヤモンド社 (2019/12/5)、出典:出版社HP

目次

はじめに
人はミスやごまかしをする生き物である
本書は産業廃棄物に関係していない人にも読んでほしい
グローバルスタンダードとは自立すること
ごみ問題はIoTとSDGsを考えるきっかけになる

第一章 適切な処理を行なったはず?!なのに、なぜ?
~直近の事件から何が問題だったのかを考える

政治がらみのごみ事件
平成の大騒動、ごみを巡って国会が荒れた~森友学園ごみ問題~
森友問題をごみ問題として捉えてみる
豊かな時代に育った心の貧しさ
ごみのエビデンスとは?
廃棄物処理にトレーサビリティを取り入れる

CoCo壱番屋の廃棄物処理に関しての事件
電子マニフェストの安全神話が揺らいだ~CoCo壱番屋の廃棄事件~
CoCo壱番屋には排出事業者の監視責任がある
マニフェストでは不正を防げない
人が確認している限り不正はなくならない
ルール破りは人の常

事業者は、産廃についての意識が低い
ごみは法律までをも動かす日本最大の不法投棄事件~青森・岩手県境不法投棄事件~
廃棄物処理に対する考え方の転機になった
青森・岩手県境不法投棄事件が社会に与えた影響
ごみ問題への姿勢で企業が評価される時代
廃棄物処理に対する意識が低い日本の排出事業者
廃棄ビジネスの問題点を探る

廃プラスチック問題とは何か
海洋に蓄積されるマイクロプラスチック
外国で広がる廃プラの輸入規制
廃プラが一般廃棄物と産業廃棄物の垣根を崩す?

第二章 産業廃棄物のコストパフォーマンスを上げるにはシステムが鍵
電子マニフェストとマニフェストの違い
「マニフェスト=完璧な廃棄処理ができる」は間違い
紙マニフェストがなくならない理由

多くの企業がマニフェストに頼っている現状
トレーサビリティの重要性と危険性~医療廃棄物の観点から考える~

排出事業者になぜトレーサビリティを強調するのか
どうやってコスト削減を行なう?~動脈と静脈の流れが効率化とコスト削減を生み出す~

ごみの量を減らすことがコスト削減ではない
なぜ不法投棄は減らないのか?意識の低さが招く問題

一般社団法人医療廃棄物適正処理推進機構(ADAMOS)とは
コーポレートガバナンスは透明性を高めることから始まる

第三章 ソリューションとしてのIoT
エビデンスを残す仕組みとは
タイムラインによる記録
廃棄物処理の本音と建前
スマートフォンの登場は、トレーサビリティシステムの利便性にも一役買った
IoTがあぶり出す行政の縦割り
震災がきっかけで、どこにいても何をしているかわかる監視の仕組みが出来上がった
低コストでビッグデータやIoTが利用できることで何が変わるのか
IoT革命は見えないけれども進んでいる
廃棄物処理を適正に行なっても情報セキュリティは守られない機密文書の安心・安全な溶解処理を実現する「SMARTISLNET」

第四章 トレーサビリティシステムを利用した各業種の事例
トレーサビリティシステムが構築する未来社会のあり方
一般社団法人医療廃棄物適正処理推進機構 理事長田島知行 氏
コストよりも不法投棄をなくしたい
トレーサビリティシステムで得られる安心感
廃棄物処理を値切ってはいけない
トレーサビリティの先にあるもの

トレーサビリティシステムが廃棄物処理業界の明日を拓く
公益社団法人神奈川県産業資源循環協会 常任理事 伊丹重貴 氏、専務理事 朝日富士子 氏
神奈川方式にトレーサビリティシステムを採用した経緯
AIとIoTの可能性
廃棄物処理業界の社会的評価を高める

トレーサビリティシステムが医療廃棄物の現場を変える
帝京大学医学部附属溝口病院 管財課課長 北村睦夫 氏、管財課 梁瀬英明 氏、総務課課長韮塚克巳 氏
医療機関がトレーサビリティシステムを導入した背景
トレーサビリティシステムがコストを下げる
医療機関の廃棄物には個人情報が含まれている
医療廃棄物を削減するためにできること

建設系廃棄物こそトレーサビリティシステムの導入が不可欠
合同会社リバースシステム研究所 代表 上川路宏 氏
多くの割合を占める建廃の現状
廃棄物処理の法律の変遷
現場視点で開発されたシンプルなシステム
現場に事務処理をさせないQRコード
差し迫る太陽光パネルの廃棄処理問題
建廃は排出事業者側の意識の差が問題
善良な人たちを守るシステム

持続可能な循環型社会の枠組みをどうつくっていくのか –
早稲田大学大学院 環境・エネルギー研究科 教授 小野田弘士 氏
オープン化が難しい日本の風土
廃プラから考える循環型社会の枠組み
循環型社会の枠組みをどのように持続可能にしていくのかが問われている

第五章 今後どうなるのか、どうするのか
IoTの業務改革
トレーサビリティを保証するのは誰か
トレーサビリティはコストアップなのかダウンなのか
正しい廃棄物処理にはお金がかかると認識する
AIとIoTなどのテクノロジーが社会にもたらすこと
在宅医療で生じるごみは感染性廃棄物ではないのか
WCM (Work Chain Management)という考え方
AIやロボット化が日本人の自立を促す
AIとロボット化が進む時代にこそ求められる能力とは
テクノロジーの進化とグローバル社会におけるリスクへの「心構え」
AIやロボットを脅威と感じるか、便利と感じるか
イーシスの取り組み

おわりに
年齢相応の社会貢献を
廃棄物処理を通して社会を見る
AIとIoT、ロボット化がより人間らしい仕事をもたらす

石井 美也紀 (著)
出版社: ダイヤモンド社 (2019/12/5)、出典:出版社HP