暗記しないで化学入門―電子を見れば化学はわかる (ブルーバックス)

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化学の見方が変わる、高校生必読の入門書

原理をていねいにコツコツ積み重ねるように書いてあるため、しっかり読み進めることで理解が深められます。化学を「理解したい」方にお勧めしたい一冊です。既にある程度学習した方でも、より化学を理解するために役立ちます。

はじめに

化学が嫌いだと言う人にその理由を聞いてみると、返ってくる答えはたいがい似ている。「細かい化学式や化合物名をたくさん覚えなくてはならないから」。また化学というと環境問題、薬害などの暗いイメージがあるので嫌だという人も少なくない。化学はどうも暗いイメージで、かつ細々としたことを覚えなくてはならないとおおかたには映っているようである。公害問題が騒がれた一時期、化学が非常に不人気だったことは確かにあった。

化学の暗いイメージは化学自身のイメージではなく、それを利用する人間の暗い部分の反映である。確かに実験室はあまりきれいとは言えないことが多いし臭いもあるが、 化学自体はそれほど暗くもなく、むしろ創造に対するチャレンジに満ちたものである。化学は実に広い範囲の物質とそれに関わるいろいろな現象を含んでいる学問であり、生命科学でも究極的に解くべき課題は化学的な問題が多いと言える。私たちの物質生活には化学によって創出されたものが溢れ、それらなしでは生活できない。むろんそこから派生する暗い問題もある。しかしそれを解決するのも化学 である。さらに私たちの生命活動は化学反応によって支えられており、多くの森羅万象も化学反応の結果である。私たちは化学的な環境の中で化学的な営みをしているとさえ言える。また化学的に世界を理解することは、私たち自身を理解することにつながり、化学を有効に活用することは人類の未来を開くことにもつながる。ただ現在では以前にも増して、それを利用する人間の品性と意識が問われていることは確かである。

「化学式をたくさん覚えないといけないから化学は嫌だ」という人は少なからず化学を勉強した人であろう。高等学校の教科書を読めば、たぶんそういう印象を持ってしまうだろう。小さな本の中であまりに多くの知識を盛ってしまっているために、そうならざるを得ない。この本を書いた目的の1つは、そういう不満を持っている人、それで化学嫌いになってしまった人に、化学の面白さを知っていただくことである。化学は決して「暗記物」ではなく、理屈を納得して、それを応用するものである。その点では物理などと違うところはまったくない。しかしこの小さい本で化学の教科書に書いてある分野すべてについて、解説をすることはできない。この本では、原子同士を結ぶ化学結合に焦点を絞った。しかし、化学結合は化学の中で最も本質的なことであり、ここで解説する基本的なことは化学全分野について、もちろん成り立つものである。

化学の教科書にはたくさんの有名な科学者の名前があり、また歴史的に見ると重要な物の考え方がたくさん説明されている。しかしその多くは、現代的な化学の概念を知 るためにはあまり重要でないことが少なくない。例えばドルトンの原子説はほとんどの教科書に載っているが、極論を言ってしまえば、このような名前を知っている必要はないし、それでも化学の面白さは充分に味わえる。現代的な化学の概念がきちんと理解できたあとで、時間があれば過去に遡ればよい。ということで、本書ではほとんど人名も “なんとかの説”も取り上げない。むろんここで述べるこ とは過去の偉い科学者が発見したことに基づいているのだ が、今現在どう考えればよいかということにフォーカスを絞る。教科書でないからできる業であろう。

この本での主役は電子である。最も重要な登場人物 (?)である電子が、この本の大切なキーワードである。 電子というものの性質や挙動が理解できれば、化学のかな りの部分が理解できるからである。分子中や分子間の電子 の動きが予測できれば、化学が理解できたと言ってよい。もう1つのキーワードは立体構造である。分子は原子が立 体的に組み立てられた三次元構築物であり、立体構造によってその分子の働きが大きく左右される。電子の挙動と立体的な条件、これらが化学反応を決定する上で非常に重要である。これら2つのキーワードを軸にして物語を展開していきたい。むろんこれらだけで化学全般が分かるようになるわけではないが、とりあえずこの2つのキーワードで 化学を理解すれば、残りの部分を理解する準備は充分でき たと考えてよい。高校生の諸君は、本書を通読した後、化学の教科書にぜひ戻って欲しい。教科書の内容がだいぶ違って見えてくるに違いない。

この本では、高等学校程度の化学のエッセンスとその面白さを知っていただくことを目的にしているが、高等学校の教科書では教えていない概念も説明の中に入れている。 ただし、これらの概念を理解することはそれほどたいへんではなく、理解すれば他の多くの概念が一挙に理解しやすくなる。ちょうど鶴亀算をまともにやるより、方程式で解く方が簡単でかつ計算している内容が理解し易いのに似ている。第7章と第8章は少し挑戦的な内容である。化学は暗記物ではなく、そこには生き生きしたストーリーがあることに気がつかれたら幸いである。

人類の有力な知的財産の1つである化学を有効に駆使すれば、暗いイメージどころか、明るく輝く21世紀は化学 の力で開かれるとも言える。環境問題、病気など 21 世紀への申し送り事項の大部分について、化学は有望な解答を 出してくれるだろう。また、私たちはそのようにしなくてはならない。

本書をまとめるにあたり、講談社の梓沢修氏にはたいへん有益かつ多くの助言をいただいた。ここに記して深く感謝申し上げたい。

目次

はじめに

第1章 電子が原子を結びつける
1-1 グルタミン酸
1-2 メタン
1-3 エチレン
1-4 水とアンモニア
1-5 原子の構造
1-6 電子の部屋割り
1-7 電子は寂しがり屋
1-8 原子の中の電子
1-9 電子が結合する手の役目をする
1-10 2重結合や3重結合
1-11 結合に関与しない電子対
1-12 平面構造から立体構造へ
1-13 混成軌道とスピンー
1-14 さらに混成軌道について1-150やN原子も混成軌道を使う
1-16 第1章のまとめ

第2章 電子は動く
2-1 ベンゼン分子中の電子
2-2 異なる原子間の共有結合
2-3 電子を引っぱる強さ
2-4 より柔軟な電子の移動

第3章 化学結合は他にもないか
3-1 共有結合と本質的に同じ配位結合
3-2 プラスとマイナスの原子が作る結合
3-3 金属結合

第4章 原子の間に働く力
4-1 静電相互作用
4-2 ファン・デア・ワールス力
4-3 水素結合
4-4 疎水相互作用とは
4-5 結合や相互作用の強さの比較

第5章 分子の立体構造が決め手
5-1 2重結合のまわりでは回転できない
5-2 単結合まわりの自由回転はどこまで自由か
5-3 右手の分子と左手の分子
5-4 平面から立体へ

第6章 分子の形や化学結合を見る
6-1 原子を見るためには
6-2 X線を使って分子を見る
6-3 コンピュータで電子の挙動を探る

第7章 電子の動きで化学反応を理解する
7-1 非共有電子対よりラジカルな電子
7-2 エチレンの2重結合を単結合へ
7-3 アルコール
7-4 グリニャール試薬
7-5 亀の甲も怖くない
7-6 ベンゼン環では置換反応は容易に起こる
7-7 フェノールはなぜか
7-8 アスピリンを作ってみよう

第8章 素晴らしい分子の世界
8-1 分子の色
8-2 遺伝情報を蓄えるDNA
8-3 酵素の働き

さらに進んで勉強したい方のために
さくいん