自信をもてないあなたへ―自分でできる認知行動療法

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「自信をもてない理由」から理解する

自分に自信をもつために、自分の考え方や行動を変えていく方法を一般向けに丁寧に書かれた一冊です。改善策だけでなく、そもそもなぜ自己評価が低くなってしまうのか、ということから解説されているので、認知行動療法について学習している人にもおすすめです。

メラニー フェネル (著), 曽田 和子 (翻訳)
CCCメディアハウス (2004/6/26)、出典:出版社HP

自分自身をもっとやさしく見つめるために

曾田和子
世界の人口の常に一割近くがうつ病を病んでいるそうです。さらに一割以上がなんらかの不安障害を抱え、そのほか多くの人が広い意味での精神障害に悩んでいると言います。そういう人たちはもちろん、そこまでいかなくても、自信がも てずに「自分はだめだ」と落ち込んでいる人は少なくないでしょう。何をしてもうまくいかず、すっかり自信をなくして いる人にとって、「自分はだめ人間だ」というのは自明の理であって、疑問の余地のないことのように思われます。

ところが、「自分はだめだ」というのはかならず実現してしまう予言のようなもので、ある種の考え方のパターンによ って「だめな」方向に導かれ、結局は「だめな」結果となって、それがまた同じパターンの考え方を生むという、悪循環 の罠にはまってしまうのだということが解明されてきました。そういう困った考え方のパターンを日常の行動を通して変 えていくことで、たとえばうつ病や広い意味での精神障害に高い治療効果が得られることがわかったのです。

この治療法を「認知行動療法」と言います。一九六〇~七〇年代、画期的なうつ病理論をもとに、主にうつ病治療のた めに開発された「認知療法」と、それ以前から症状そのものを取り除くことを目指し、特に不安障害に有効とされていた 「行動療法」とが一体化し、理論と実践の一大体系ができあがったのです。これは非常に厳密な科学的テストにかけられ てきた信頼できる療法であり、現に高い効果をあげることが証明されています。しかも、ほかの療法に比べて、再発の可 能性が低いと言われています。適用範囲も広く、さまざまな不安障害、恐怖症、強迫性障害、ギャンブル強迫、アルコー ル依存、薬物依存、摂食障害などに対してそれぞれ特別の療法が確立されています。そしてこの療法が、自分に自信のも てない自己評価の低い人や、夫婦間の葛藤を抱えている人にも応用され、効果をあげてきているのです。

こうして、広く効果の実証された素晴らしい療法が開発されました。でも、それが専門家の手のなかだけにあっては、恩恵をこうむることのできるのはごく限られた人ということになります。しかも、専門家に相談せずに自分で手当てしよ うとすると、かえって苦痛を長引かせたり、悪化させたりすることにもなりかねません。たとえ急場の危機は乗り切って も、奧に隠された問題はそのまま残ります。そこで、認知行動療法に携わる専門家たちが立ち上がりました。個々の障害に対する認知行動療法の原則と治療方式をまとめ、それを自力治療のマニュアルにしたのです。これらのマニュアルには、問題を抱えている本人が障害を克服するために実行すべき系統だった治療プログラムが紹介されています。

イギリスのレディング大学ピーター・クーパー教授らが、この治療マニュアルを利用して、さまざまな障害を自力で乗 り越えるためのOvercomingシリーズを刊行しました。オックスフォード大学のメラニー・フェネル博士によるこの「自 信をもてないあなたへ」は、そのシリーズの一環として、自分をだめな人間だと思っている自己評価の低い人に、いかに 自己評価を高めたらいいかを、詳細に、わかりやすく説明してくれています。これを読めば、低い自己評価が人生のあら ゆる面にいかに悪影響を及ぼし、人を不幸にしているかがわかります。また、自分はだめな人間だという思い込みは、多 くが幼児体験に根ざしていて、以来ずっと養われつづけ身にしみついたものであるだけに、そこから抜け出すことは簡単 ではないことも理解できます。そういう否定的な思い込みから脱却して、困った悪循環を断ち切り、自分をもっと寛大な 目で見る見方を手に入れるための方法が、段階をおって、丁寧に紹介されているのです。深刻に悩んでいる人も、それほ ど深刻でなくてももっと自信をもちたいと願っている人も、目からうろこが落ちるように納得でき、それぞれの状況に応 じて、自己評価を高める作業に取り組むことができるようになっています。

何十年も昔のこと、中学生だった私は今から思えば「社会恐怖症」で、真剣に悩んでいました。思い余って、当時マス コミで活躍していた高名な心理学者に相談の手紙を出したものです。見ず知らずの子供から相談を受けた心理学者はいい 迷惑だったでしょうが、返事をくれました。「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」とあります。早速、辞書で調べてみる と、「身を犠牲にするだけの覚悟があって初めて物事に成功できる」という意味だとか。心理学者の言いたいことはなん となくわかりましたが、だからといって、そういう心がけだけではなかなか問題は解決しないのでした。

この本の原著Overcoming Low Self-Esteemを読んだとき、当時の記憶がよみがえりました。そして、その学者のアド バイスは、認知行動療法の見地からしても正しいものだったことを知りました。自己評価の低い人は、何かしなければならない場面で、うまくやれないのではないかと否定的な予測をし、不安になって、その場面そのものを回避しようとしま す。したがってその否定的な予測が正しかったのかどうか確かめる機会を逸してしまうことになり、いつまでも同じことを繰り返して、結局は自分で自分の生き方を狭め、ストレスにさらされつづけてしまうのです。ありがたいことに、そういうことを(ただ心がけだけでなく)どうやって克服していくかという具体的な方法が、この本には示されています。自 分はだめだという思いから解放されたい人にとって、きっと救いになることでしょう。

メラニー フェネル (著), 曽田 和子 (翻訳)
CCCメディアハウス (2004/6/26)、出典:出版社HP

もくじ

自分自身をもっとやさしく見つめるために

【第一部】 自信がないとはどういうことか
第一章◆「自信がない」=「自己評価が低い」
「自己評価が低い」とは? あなたの自己評価は?
自己評価が低いと……
低い自己評価はどこからくる?
低い自己評価がもたらす影響の度合
この本の使い方
認知行動療法を用いて
この本の概要
第一章のまとめ

【第二部】 「自己評価が低い」とは何かを知る
第二章◆低い自己評価はどのようにして生まれるか
はじめに
経験――思い込みのルーツ
過去と現在を結ぶ橋――「最終結論」
「考えのゆがみ」
「生きるためのルール」
第二章のまとめ

第三章◆何が低い自己評価を存続させるのか
はじめに
「生きるためのルール」が破られると…
脅威に対する反応―不安な予測
不安な予測が心理に及ぼす影響
不安な予測が行動に及ぼす影響
「最終結論」の確認
自己批判的考え
自己批判的考えの心理的影響
自分の悪循環を図に描く
第三章のまとめ

【第三部】「自己評価が低い」ことを乗り越える
第四章◆不安な予測を点検する
はじめに
不安をもたらすもの
不安な考えはどう働くか
予防策を講じる――不要な自己防衛
現状を変える第一歩――あなた自身の「不安な予測」と「不要な予防策」に気づく
不安な予測を見直す
代替案を見つける
不安な予測に代わるものを見つけるための質問集
実験――新しい見方を実地に試す
実験をどう進めるか
一つの例――ケイト買い物にいく
第四章のまとめ

第五章◆自己批判と闘う
はじめに
自己批判の影響
自己批判はなぜプラスではなくマイナスに働くか
自己批判的考えにどう対処するか
自己批判的考えに気づく
「自己批判的考えを見分ける 記録シート」の使い方
「自己批判的考えを見分ける 記録シート」を活用する
自己批判的考えに疑問を呈する
「自己批判的考えと闘う 記録シート」を活用する
自己批判的考えに代わる見方を見つけるための質問集
第五章のまとめ

第六章◆自分を受け入れる
はじめに
肯定的考え方をタブー視するのは不公平
自己評価を高める第一歩――肯定的な資質に目を向ける
肯定的な資質を見つけるための質問集
書いたことを実感する
あなたのいいところを日常的に自覚する――「肯定ノート」をつくる
いい人生を自分に奮発しよう
満足度を高め、楽しみを増やす――「活動日誌」をつける
第一ステップ――自己観察
「活動日誌」の活用法
第二ステップ――変えていく
プランを活用する
第六章のまとめ

第七章◆「生きるためのルール」を変える
はじめに
「生きるためのルール」はどのようにして生まれるのか
あなたの「最終結論」と「生きるためのルール」との関係
「生きるためのルール」とはどんなものか
あなたの「生きるためのルール」を突きとめる
「生きるためのルール」の影響を調べる
突きとめたことを整理する
ルールを変える
学習したことを整理し、強化する
第七章のまとめ

第八章◆「最終結論」を突き崩す
はじめに
あなたの「最終結論」を突きとめる
「最終結論」を突きとめるための情報源
より肯定的で現実的な「新しい最終結論」をつくる
あなたの「最終結論」を突き崩す
あなたの「最終結論」の「証拠」とは何か
「証拠」に別の解釈ができないか
「新しい最終結論」を裏付け、「古い最終結論」の反証となるものは?
長い目で見る
第八章のまとめ

第九章◆すべてを総合してこれからのプランをつくる
はじめに
自己評価を高める――それぞれのステップはどのように関わり合っているか
これからのプラン
完璧な行動プランに到達するためのステップ
「サ行」基準でさっそうと
第九章のまとめ

OVERCOMING LOW SELF-ESTEEM by Melanie Fennell
Copyright @ Melanie J.V.Fennell 1999
Japanese translation published by arrangement with Constable & Robinson Ltd. through The English Agency (Japan) Ltd.

メラニー フェネル (著), 曽田 和子 (翻訳)
CCCメディアハウス (2004/6/26)、出典:出版社HP