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アフリカ経済について知るならこの1冊
表題にあるアフリカ経済に限らず、グローバル経済の問題点に言及しており、著者の視点、分析、思考力に感銘を受けます。また、データが多く、多角的な見方・検証がなされていて、新しい視点を得られて自分で考えるきっかけにもなります。
はじめに
今世紀にはいってからアフリカは、植民地時代以来ともいえる大変動をきたしている。い まアフリカは確実に、着実に、変貌しつつある。なにせ二〇年以上経済成長していなかった ものが、一転して継続的な高成長を謳歌しているのである。そして、その新しい、アフリ カにこれまでとはちがった関心が集まっている。本書は、そういったアフリカの姿をえがき だし、アフリカに対する新しい関心にこたえようとするものである。
アフリカを大きくわけると、イスラーム圏に属しアラビア語を公用語とする北アフリカ地 域(五ヵ国、西サハラ共和国をカウントすれば六ヵ国)と、サハラ砂漠以南にひろがるサブ サ ハラ・アフリカ地域(二〇一一年に独立した南スーダンをふくめて四九ヵ国)からなるが、二〇 一○年末に政治革命がおきた北アフリカのみならず、サブサハラ・アフリカもまた前世紀と はまったく様相がことなっている。それゆえ、これまでの通念では現在のアフリカを理解す ることができなくなった。 従来のアフリカ論はアフリカのなかに閉じられた議論がほとんどだったが、現在のアフリカを理解するにはグローバルな視界のひろがりがどうしても必要である。それゆえ本書は、 アフリカにかんする既存の書物とはことなる論じ方をしていこうと思っている。どうするか というと、さまざまなグローバルイシューがはなつ照射線をこの大陸にあて、スキャンして いくつもりだ。つまり、アフリカをかたるのにアフリカ自体から説きおこすことをせず、ア フリカの外から視線をそそいでアフリカの輪郭をえがこうと思っている。
通常、アフリカ研究をふくめ地域研究は研究対象国や対象地域の歴史文脈にそって記述を 進めるものだ。だが、アフリカ経済が突然成長をはじめた理由を正確につたえるためには、 本書の手法はきっと適している。そして、今後アフリカがどうなっていくかを占ううえでも 適していると思う。文化人類学の目的が人類の普遍的な姿を知ることにあるように、そもそ も地域研究の究極の目的が特定の地域をとおして世界全体のあり方を具体的に知ることにあ るとするならば、全体から個別を観察し個別から全体をかたるという道筋において、本書も かわるところはない。
こんなことができるようになったのは、今世紀にはいってようやくアフリカがグローバラ イズされたからである。またこれを試みるのは、アフリカという鏡に映しだされているはず の現代世界の姿にせまりたいと思っているからでもある。辺境化していたアフリカを世界に くみこもうとするプロセスは現在も進行中だ。この「くみこみ」にともなう経済構造のつくりかえによって、いまアフリカ経済は急成長している。つまり、アフリカ経済の急成長はア フリカを必要とするようになった世界経済の写像なのである。世界からアフリカを読み、ア フリカから世界を読みとく――この視線がぶれないように筆先をたもっていきたいと思う。
とはいえ、これまで低開発の集積地として描出されてきたアフリカの特徴は、急成長をは じめたいまもひきつづきアフリカ大陸のなかに厳然としてある。世界中ですっかり定着した 感のある「貧困アフリカ」のイメージは根強い。それはそれで事実なのだが、しかし、その 固定観念にしばられていたのでは、新世紀アフリカへの対応をただしくとれない。アフリカ は、貧困削減支援をうけいれるだけの大陸から、各国各企業が競合して戦略展開する前線に なりつつある。よって、アフリカの情勢はもはやアフリカだけをみていてはとらえきれず、 各国の政策や企業のビジネス戦略を視野におさめておかなければ把握できないものになった のである。グローバルな視点が必要だというのはそういうことだ。
これから順次のべていくが、日本もまた新しいアフリカに対するあらたな対応をせまられ ている。新しいアフリカへの新しい関与は日本の国益にかかわっている。東日本大震災の発 生によって日本は、経済の再生にくわえ国土復興という大きな課題をせおうことになった。 この最優先課題に、国際関係をあつかう分野も当然貢献していかなくてはならない。 日本の再生にとってアフリカはどのような意味をもちうるのか、どのような国益がそこに潜在しているのかを鋭利に考えていくことが肝要だ。アフリカの開発にどう貢献するかとい う、従来対アフリカ政策を論じる際に使われてきた古い型紙ではなく、日本とアフリカ双方 に実利をもたらす関係を構想して、相互利益の実現をはかることがもとめられているのであ る。
援助によって国際社会に庇護されるアフリカではなく、国際社会における自立したパート ナーとしてのアフリカ。これはアフリカ自身が望んでいる姿だ。相互利益こそ持続的で安定 的な関係を築くためのいしずえである。中国の積極果敢なアフリカ攻勢をまのあたりにして いる現在、日本もまた東アジアの国として「アフリカは遠い」とはいえなくなった。この地 球上に「遠い」といえるところなどもうない。どのような関係を望むかという尺度しかない のである。
著者
目次
はじめに
第1章 中国のアフリカ攻勢
開発途上国にして経済大国
資源需要の拡大
資源暴食
中国の 戦略
アフリカ走出去、始動
中国の「先見の明」
元首のアフ リカ歴訪
対アフリカ政策文書
破竹の資金投入―北京宣言
援 助と投資
アフリカの対中投資
外資との提携中国版マーシャ ルプラン
シャルムエルシャイク行動計画
中国がアフリカをかえる
対アフリカ輸出
中国が問題をひきおこす
中国進出をめぐる事件
中国に対する警戒
中国のアフリカ政策は新植民地主義か
的外れな中国批判
中国との協調
ビジネス = 援助ミックス
米諸国とは異なる道自立にむかうアンゴラ
第2章 資源開発がアフリカをかえる
資源高時代の到来
レアアースショック
日本もアフリカに活路を
対アフリカ投資の拡大―メガプロジェクト時代
世界の投資はどのよ うに展開してきたか
開発なき成長―赤道ギニア
アフリカ経済と 原油価格の相関性
消費爆発が示すアフリカの姿
資源の呪い、資 源の罠
アフリカは呪われているのか
ガバナンスの改善と経済の 成長
アフリカのイスラーム武装勢力
第3章 食料安全保障をおびやかす震源地
世界の農産物貿易
穀物の特殊性
穀物輸入大国の日本
こえたアフリ カの穀物輸入
増えつづける負担、貧しいままの農民
停滞するアフリカの食糧生産
土地生産性は世界平均の三分の一以下
なぜアフリカでは生産性が停滞したか
低投入低収量農業
肥料という資源
農業の低開発は工業化を阻止する
唯一の例外モーリシャス
ランドグラブ
食糧自給への道
アフリカに農業開発は根 づくか
第4章 試行錯誤をくりかえしてきた国際開発
国際開発という理念
ODAは国際開発の手段たりえているか
ポ スト植民地政策としてのスタート
アメリカの“本音と建前”
日 本の経済協力とその変質
アメリカの援助政策論理とはなにか
経 済開発からBHNヘ
ケネディ政権からニクソン政権へ
南北問題 における援助論
ロメ協定の誕生
南北問題テーゼの挫折
NI ES研究がかえた開発論
構造調整
ネオリベラリズムとの相克
南北問題からアフリカ問題へ
開発の理念は「人間の安全保障」へ
ODAはなぜふたたび増えたのか
援助政策の“理想と現実”
ODAによって経済成長 を始動できるか
ODAは国際福祉政策たりうるか
社会政策とODAの矛盾
評価されない日本の巨額のODA
新世紀のODA
第5章 グローバル企業は国家をこえて
南アフリカの先行、牽引
サンラム・グループの挑戦
ギルバート ソンの辣腕
南アフリカ白人の起業家精神
資源分野以外のアフリカビジネス
アフリカの潜在需要にのって急成長する企業
南アフ リカ以外の企業はどうか
母国で起業するということ
先進国企業 の投資
BOPビジネス
“消費”を開発する
貧困ビジネスとCSR
「拡大CSR」という防衛策
グローバル化するなかでい かに働くか
企業が国境をこえるということ
第6章 日本とアフリカ
人口ボーナスの喪失
東アジアの問題
内向経済
アフリカは日 本を救うか
官民連携はなぜ必要か
二一世紀をいきのこる企業
相互利益の実現にむけて
あとがき
主要参考文献