アフリカを見る アフリカから見る (ちくま新書)

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アフリカについて知り、今後日本はどう変わるべきか

本書の中心は「PKO原則の見直しの必要性」です。読み応えのある本で、特に、後半の東京外国語大学の篠田氏との対談「アフリカに潜む日本の国益とチャンス」がおすすめです。この本をきっかけに視野を広げてみてはいかがでしょうか。

白戸 圭一 (著)
出版社: 筑摩書房 (2019/8/6)、出典:出版社HP

目次

はじめに

I アフリカを見る アフリカから見る

第1章 発展するアフリカ
1 援助ではなく投資を!」
2 激変する世界――躍進と変革のエチオピア
3 「危険なアフリカ」の固定観念
【コラム】黒人女性が造る南アフリカワイン

第2章 アフリカはどこへ行くのか
1 アフリカ農業−アジアで見た発展のヒント
2 「愛国」と「排外」の果てに
3 「隣の友人」が暴力の担い手になる時
4 若き革命家大統領は何を成し遂げたか
【コラム】匿名の言葉、実名の言葉

第3章 世界政治/経済の舞台として
1 中国はアフリカで本当に嫌われているのか
2 中国がアフリカに軍事拠点を建設する理由
3 北朝鮮は本当に孤立しているのか
4 アフリカに阻まれた日本政府の「夢」
5 アフリカの現実が迫る「発想の転換」
【コラム】英語礼賛は何をもたらすから

第4章 アフリカから見える日本
1 武力紛争からテロへ−変わる安全保障上の脅威
2 南アフリカのゼノフォビア−日本への教訓中
3 アフリカの小国をロールプレイする
4 忘れられた南スーダン自衛隊派遣
【コラム】日本人の「まじめさ」の裏にあるもの

Ⅱ アフリカに潜む日本の国益とチャンス
あとがき
初出一覧

白戸 圭一 (著)
出版社: 筑摩書房 (2019/8/6)、出典:出版社HP

はじめに

本書は朝日新聞社のウェブメディア「朝日新聞GLOBE+」に、二〇一七年四月から二〇一九年四月までの二年間、月一回のペースで書き続けた連載エッセイからいくつかを抜き出し、加筆修正したものである。アフリカについての入門書ではなく、特定の問題を論じた専門書でもない。現代アフリカ社会の諸相に焦点を当てつつ、時にアフリカ側に自らの視座を定めて日本を観察したエッセイ集である。各項の内容は独立しているので、最初から順に読み進める必要はなく、気が向いたところから読んでいただければ幸いである。

私が初めてアフリカに足を踏み入れたのは一九九一年二月のことだった。大学の探検部員だった私は仲間と六人で、サハラ砂漠の南側に位置するニジェールという国を訪れ、首都ニアメから遠く離れた半砂漠の村にテントを張って住み込んだ。井戸水をすすり、下痢やマラリアに悩まされながら、農作業や祭りの様子を映像に収めてテレビ番組を制作したり、紀行文を執筆したりした。その時の体験が契機となって、以来三〇年近くにわたって断続的ながらもアフリカに関わり続けている。
当時の日本は世界第二の経済大国であり、バブル経済に沸いていた。
一方、アフリカ諸 国の多くは世界の最貧国であった。バブルが弾けた後も日本の政府開発援助(ODA)の総額(ドルベース)は一九九〇年代を通じて世界最大であり、多額の援助がアフリカに供与された。少なくとも一九九〇年代までの日本・アフリカ関係の基調は「援助する豊かな日本」と「援助される貧しいアフリカ」であった。多くの日本人にとって、アフリカは「援助し、何かを教えてあげる対象」として認識されていた、といっても過言ではないだろう。しかし、日本とアフリカを取り巻く状況は大きく変わった。日本の経済成長はほとんど停止し、一九九〇年には世界第六位だった一人当たり国内総生産(GDP、名目値、ドルベース)は、二〇一八年には世界二四位にまで低下した。いまや国内には、「アンダークラス」と呼ばれる平均年収一八六万円の人々が九三〇万人存在すると言われている。人口減少社会が到来し、少子高齢化の流れが止まらないにもかかわらず、女性が働きながら子供を育てやすい社会に向けた改革は遅々として進まない。阪神淡路、東日本と二度の大震災を経験し、原発事故が起きた。閉塞感と不寛容な空気が社会に横溢し、インターネット空間には他人を罵倒、冷笑する言葉が溢れている。経済同友会の小林喜光・代表幹事(二〇一九年四月に退任)が平成の時代を「敗北と挫折の三〇年」と総括したのも、あながち誇張ではないかもしれない。

一方のアフリカは、一部の国・地域では武力紛争が続いているものの、平和と民主主義の定着が各地でみられ、多くの国々で経済成長が長期にわたって持続し、初等就学率が上がり、乳幼児死亡率の顕著な低下が観察される。一人当たりGDPは今なお日本には遠く及ばないが、日本社会の停滞とは対照的に、アフリカ諸国は総じて上り調子にあると言えるだろう。ビジネスフロンティアとしてのアフリカの存在感は急上昇し、アフリカは貧困削減支援を一方的に受け入れるだけの大陸から、各国の企業が鎬を削る大陸に急速に変貌した。「自分たちの方が進んでいる」と信じて疑わなかった日本人が気づかぬ間に、両者の差は急速に縮まり、ケニアにおけるキャッシュレス決済の普及のように日本の先を行くビジネスモデルも出現している。

本書を上梓しようと思い立った理由の一つは、こうした状況の変化を受け、「日本はアフリカの発展にどのように貢献すべきか」という従来の発想に基づいた関係ではなく、日本とアフリカの双方に利益をもたらす関係を構想してみたいと考えたからである。
新しい関係を構築するためには、アフリカを知るだけではなく、アフリカという鏡に映し出されている日本の姿を観察し、自画像を適切に再認識する必要があるだろう。
本書において「アフリカを見る」だけでなく「アフリカから日本を見る」ことにもこだわった理由はそこにある。一人の日本人としては、アフリカという鏡を用いて日本社会の病巣をあぶり出し、日本の再生に向けた手がかりを得たいとの思いもある。
私一人では手に余るこの作業に力を貸して下さったのが、東京外国語大学教授の篠田英朗さんである。篠田さんは国際政治学から平和構築研究までを幅広く手掛け、アフリカ諸国の政治事情にも精通している碩学である。

二〇一八年秋、その篠田さんと新潮社の国際情報ウェブサイト「Foresight」で、『「アフリカ」から見える「日本」「世界」のいま』と題して長時間対談する機会に恵まれた。
本書の山には、その対談の記録が掲載されているので、こちらも読んでいただければ嬉しい。掲載を快諾して下さった篠田さんと新潮社 Foresight 編集長の内木場正人さんに、この場を借りてお礼申し上げたい。

白戸 圭一 (著)
出版社: 筑摩書房 (2019/8/6)、出典:出版社HP